「でっ、ハヤテくんはどうして真冬にもかかわらず、深夜の公園。それもこんなにわかりづら  
い場所で膝を抱えて震えているのかしら?」  
 ヒナギクさんの声が聞こえた。三途の川行きの快速電車に乗りかけていた僕の魂がきわ  
どい所で連れ戻された。  
「ひっ、ひやぎくさん」  
 呂律が回らない。ついでに頭も。流石に、頑丈がとり得の僕でも氷点下に突入した気温+  
雪のオプション付きの中、二時間も座り込んでいたら、おかしくなる。  
 人生の先輩に勧められ、苦労して建てたマイホーム(ダンボール製)はほとんど意味をなさず完全に体の感覚は無くなっていた。  
「ちょっと、本当に大丈夫?」  
 責めるような声が一転して、こちらを気遣うような声色になる。  
「だ、大丈夫です。ほら……」  
 立ち上がろうと力を入れるが、体が反応しない。ああ、駄目だ。本格的にヤバイ。走馬灯が  
見える。くそぅ、ろくな思い出がない。  
「ハヤテくん! ハヤテくん!」  
 声が遠くなる。ヒナギクさん、なにも泣かなくてもいいのに  
「まぶしいなぁ」  
 眼を開けると、カーテンの隙間から来た直射日光さんとご対面。痛い。普通こういうのって  
の爽やかさをイメージするよね? でも、何。完璧に網膜がやばいことになってる。  
「ひゃっう」  
 痛みにのた打ち回っていると、なにか冷たいものが背中にあたった。そこにあったのはタオ  
ルを握り締めた女性の手。  
 その手の先を辿っていくと、なんと、わが校の生徒会長様が椅子に座ったまま僕のいるベ  
ッドに突っ伏している。  
 
「えっと、これどういう状況ですか?」  
 1.ヒナギクさんが僕に夜這いをかける途中で眠気に負けた  
 
 2.僕がヒナギクさんの部屋に忍び込み、ベッドを占領。  
  ヒナギクさんは最後まで濡れタオルを持って抵抗していた。  
 
 3.これは全部夢である。  
 
「まず、1はないですね。ヒナギクさんのキャラ的に。で、2。これもない。僕はそこまで変態  
じゃないですし。3は一番有力そうに見えますが、こんな序盤で夢落ちはありえない」  
 いや、冷静になれ、ハヤテ。昨日の記憶を辿って行けば今に結びつくはずさ。  
 そう、昨日は確か、屋敷を追い出されて、それから公園で……。ああ、ヒナギクさんに会っ  
て意識を失ったんだ!!  
「えっと、つまりヒナギクさんが自分の部屋に僕を運び込んで、徹夜で看病して疲れて眠っ  
てしまった。うん、間違いない。って、え〜〜!!」  
 
 確か公園からヒナギクさんの家まで20分ぐらい普通にかかるはず。それをあの雪の中  
肩に担いで?  
 
 プルルルルルルルルルr  
 
 あまりの申し訳なさにあまたを抱えていると、ベッドの脇に置かれてあった携帯がなった。  
ヒナギクさんを起こさないように、隣の部屋に移動する。  
 
「ああ、ハヤテくん。やっと繋がりました。心配してたんですよ? 今、どこにいるんですか?」  
「すみませんマリアさん。その、えっと、成り行きでヒナギクのお家にお邪魔しています」  
「よかった。ちゃんと会えたんですね」  
「えっ?」  
「昨日、ハヤテくんがナギに追い出されてから、その、前科もあったのでヒナギクさんに電  
話をしたんですよ。そしたら心辺りを回って会えたら保護してくれるって」  
 ああああああああああああああああああああああああああああ。  
 申し訳なさゲージが臨海を越えた。えっと、つまりヒナギクさんは偶然僕を見つけたわけ  
じゃなく、町中を探し回ってくれていたんだ。  
 人に尽くされることに対する耐性が絶望てきなまでに欠けている僕には、ちょっと刺激が  
強すぎます。  
「ちゃんと、お礼を言うんですよ」  
「ええ、それはもう」   
 その言葉を最後に電話は切れた。履歴を見ると、マリアさんとヒナギクさんの名前で埋  
まっている。相当の迷惑をかけてしまったようだ。  
「とっ、とにかく。ヒナギクさんを起こそう。もう、学校には間に合わない時間だけど」  
 半ば、やけくそになりながら、ヒナギクさんの部屋に引き返した。  
「ヒナギクさ〜ん。朝ですよ〜」  
 なんども声をかけるが反応がない。おそるおそる手を伸ばす。肩を揺すろうとして、まず  
服が濡れていることに驚き、そして、触れた体の熱さに戦慄が走った。  
「ヒナギクさん!!」  
 ヒナギクさんをベッドに移動させ、顔を覗き込む。顔が赤くなり、息が荒れている。  
 耳元で声を上げてもまったく反応がない。  
 手でおでこを触り、次に耳の後ろ触った。  
「40.1度。まずいですね」  
 体温計代を浮かすために身につけた特技が久しぶりに役に立った。急いで乾いたタオ  
ルと水桶を用意する。  
「とりあえず、濡れた服を脱がさないと」  
 どうして、濡れているんだろう? 彼女の服装を良く見る。昨日とまったく同じだった。そ  
れに対して自分自身はどうだろう? サイズが一回り大きい男物のシャツとジャージ。特  
に汗のにおいはない。  
「本当に器用に不器用な人ですね」  
 状況が見えた。たぶんここまで僕を運んで、体を拭いて、服を着替えさせて、タオルを変  
える途中に意識を失ったんだろう。  
 そして、自分自身は雪に濡れた着の身着のままで眠ってしまい。しかも疲れ果てていた。  
こんな状況なら誰だって風邪ぐらいひいてしまう  
「これくらいじゃ、恩返しにならないかも知れませんが、今日一日全力でお使えさせていた  
だきます」  
 僕の中の執事魂がかつてないほどに燃えていた。今なら、何でもできる気がする。  
 ヒナギクさんの上着に手をかける。まず、一枚。そして、瞬く間さえ与えずに二枚目を剥ぐ。ボタン式なのでお手軽だ。  
「くっ」  
 しかしそこで僕の手は止まってしまった。三枚目の白いシャツが水で濡れて、水色のブ  
ラが透けて見えていた。  
「大丈夫。落ち着け、僕は執事だ。やましい気持ちなんてない」  
 でも、やっぱりちょっと気が退けるから先に、下のほうを。  
 スカートはレベルが高すぎる。まずは、タイツを。  
「……ううん」  
 足に触れたときヒナギクさんが身をよじる。  
「頑張れ僕の理性」  
 こうして見ると、キレイな脚線だ。黒のタイツが降ろされるにつれて見えてくる足の白さ  
が眩しい。  
 ヒナギクさんを起こさないように。じっくりとずり下げる。上着とは違い肌に密着してい  
る分、難易度が高い。  
「ミッションコンプリート」  
 さて、ここからどうしよう。残っているものは、さきほどのタイツより難易度が高いものばかり。  
a)シャツ b)ブラ  c)スカート d)パンツ  
 a)かc)だ。どっちにしよう? 悩んでいる時間はない。こうなったら僕の好みでいく!!  
「やっぱり、シャツ+パンツは男の子のロマンでしょ」  
 この場の空気を信じて、一瞬で振りぬく。  
「がはっ」  
 
 やはり、ヒナギクさん侮れません。お色気アニメやその他のメディアでは、おなじみの光景。  
しかし、これだけの美少女がシャツ+パンツルックになると破壊力が違う。青白ストライプと  
いうところがミソだ。  
「あと、三ミリ深く太ももに触れていたら危なかった」  
 あの感触は反則だ。  
「はぁ、はぁ、はぁ、」  
 疲れと性的興奮のせいで息が荒い。だが、僕は立ち止まるわけには行かない。  
「では、失礼して」  
 左手で背中の辺りを支えてヒナギクさんの体を浮かす。そして右手はシャツを掴んで。  
汗で張り付いているせいでなかなか捲れない。無理矢理手をバンザイの格好にさせる。  
ボタン式ではない分、難しい。必然的にヒナギクさんとの密着度が上がる。ああ、いい匂いだ。  
やっとの思いで、脱がし終わる。  
 今まで僕は、ヒナギクさんを甘く見ていた。というのも胸がないのを発育が悪いと捉えてい  
たのだ。だが、実際はどうだ? 腰のくびれ、脚線、肩のラインどれも高水準でまとめられて  
いる。  
「本当に窮屈そうですね」  
 下着姿になった彼女を見て自然に口にでた。  
 いや、実際は違うことぐらいわかっている。Aカップのブラにきっちり、いやちょっと余裕を  
持って納まっている。だが、僕はそう思ってしまう。窮屈で可愛そう。早く脱がしてあげない  
と。  
「っっごく」  
 幸いなことにフロントホック式だから、脱がしやすい。  
 本当に一瞬だった。カチッと音が鳴ったと思ったらブラは機能をなくし、軽く抓むとベッド  
の脇に滑り落ちていった。  
 ほんのわずかな膨らみ。その頂点に桜色の乳首がのっている。本当に無意識にその  
先に手が伸びる。  
「ぁぁ」  
 ほんの僅かだがヒナギクさんが反応した。やっぱり男のものより敏感なんだろうか?  
 今度は胸を手のひらで軽く抑えてみた。確かに柔らかい。擦るとキモチいい。  
「って、僕は何をしているんだ」  
 軽くトリップしていた。今の僕は間違いなく獣だった。うん危ない。後少しで、サンデー  
から、ペンギンクラブに移籍するところだった。   
 さきほど、用意しておいた桶にタオルを入れて固く絞る。  
 素数を数えながらやさしく、丁寧に拭いていく。  
 ときおり、聞こえるヒナギクさんの声は、艶かしく、僕の男の子は激しく反応している。  
しかし、あくまで執事としての使命を果たした。  
「燃えた、燃え尽きたぜ、真っ白にな」  
 ふう、終った。 やっと終った。後は服を着せるだけだ。  
「っごほ、ごほ」  
「ひッ、ヒナギクさん」  
 急にヒナギクさんが咳き込み始めた。まずい、体を拭くのに時間を使いすぎた。熱を測  
るために額に手を伸ばす。  
「あつっ」  
 予想以上に熱くて思わず、手を引っ込めてしまう。その手は、桶に直撃し、宙に浮いた  
桶は、僕に向かってお湯をぶちまけた。  
「なにをやってるんだ僕は」  
 濡れた服は後回しでいい。ヒナギクさんが明らかに悪化している。早く服を着せて体をあ  
っためないと。  
「うわぁぁ、代えの服を用意するの忘れてた!!」  
 馬鹿だ。なんていうミスをしていたんだ。早く服を用意しないと、でっ、服はどこにおいて  
いあるのだろう?  
「……行かないで」  
 やみくもに駆け出そうとしたとき、袖が引っ張られた。反射的に振り向く。  
「ヒナギクさん……」  
 ヒナギクさんの目には光はなかった。おそらく意識がないのだろう。それなのに、彼女は  
震えていた。僕はこんなにも弱い彼女を見るのは初めてだ。僕は、彼女の手を振り払えなく  
なっていた。  
「どこにも行きませんよ」  
 たぶん、今ヒナギクさんに必要なのは、そば居る誰かなんだ。病気のときに、一人取り残  
される辛さは知っている。  
 
ただ、このままでは、明らかに病状は悪化する。  
「考えろ。考えるんだハヤテ」  
 いっそのこと僕の服を着せる? いや、さっきビショビショになったばっかりだ。 だったら  
僕が抱きついてあっためる? 同様の理由で却下。  
「いや、待て、それはまずい」  
 天啓。圧倒的な閃き。が、某ナレーション付で頭の中に浮かぶ。  
 そう、雪山で男女が遭難したときによくやるあれだ。だが、それは人として……  
「っごほ、ごほ」  
 こうして僕が悩んでいる間にもヒナギクさんは……、  
「ヒナギクさん、ごめんなさい。非常時なんです」  
 聞こえていないと知りながら、それでも僕は謝罪をして、僕は服を脱ぎ、ヒナギクさんを抱  
きしめた。  
「おやすみなさい」  
 不思議と、煩悩はわかなかった。さっきまでの燃え尽きたのかもしれない。ただ安らかで、  
暖かいそういった何かが僕の心の中に溢れてきた。  
 意識が落ちる。いい夢が見れそうだ。なぜか、そんな確信があった。  
 
 
ヒナギク視点  
 
 
 眼が覚めた。見慣れた天井。まだ、部屋の中が暗い。今、何時だろう。手探りで目覚まし  
時計を探す。  
「きゃっ」  
 なんだろう、生暖かい何かに手が当たった。  
 恐る恐る振り返る。  
「ハヤテくん?」  
 そう、そこにはハヤテくんの顔があった。  
 慌てて跳ね起きる。その拍子に掛け布団がずれ落ち、何故か全裸の彼の肢体が目に入  
った。  
「っっっっっ」  
 叫ぼうとしたがあまりの驚きに声が出ない。おそるおそる自分の体を見る。うん、全裸だっ  
た。  
 必死に昨日の記憶を探る。まったく覚えていない。記憶を探るのはあきらめ、状況から推  
測する。ベッド周辺に脱ぎ散らかされたお互いの服。だるい体。全裸で寝ていた私たち。  
「えっと、どう考えても結論が一つしかないじゃない」  
 ああ、全部夢だ。きっとそうだ。シャワーを浴びてこよう。そしたらきっと醒める。部屋着に  
着替えて浴室に向かった。  
 
「ヒナちゃん。やるじゃない」  
「おっ、お義母さん」  
 リビングに通りかかったとき、笑顔で赤飯をよそっているお義母さんに声をかけられた。  
心臓がとまりそうだ。  
「まさか、親が留守の間に男の子連れ込んで、しかも学校サボって、ただれた関係とか。  
もう〜〜奥手に見えて、大胆なんだから」  
「ストップ。お義母さん。今何時?」  
「もう、七時よ?」  
「AM?」  
「PM」  
 心の中で大絶叫していた。そうか、記憶がないのは、そういうことなのか。  
 そういった知識は自分から収集しようとしたことはないが、いやでも耳に入ってくる。なん  
でも『意識が飛ぶ』とか、『頭が真っ白になる』とか。  
 ようするに私とハヤテくんは、熱心に昼間から、そういうことをして、挙句の果てに『真っ白  
になる』とやらで記憶を失ってしまったんだ。  
「ヒナちゃん。一つ忠告ね。あんまり流されないで。本来あなたの性格的にこういうことは絶  
対にしないの」  
「大丈夫よ。うん大丈夫だから。あっ、ご飯もうすぐよね。ハヤテくん起こしてくる」  
 この場の空気に耐え切れず、私は逃げるようにこの場を去った。  
 
 
ハヤテ視点  
 
「ハヤテくん、おはよう。といっても、もう夜だけど」  
「おはようございます。ヒナギクさん」  
「昨日は、その、あの」  
 ヒナギクさんは、頬を赤くして体を揺すっている。その普段は見れないオトメチックな態度  
にどきどきし、そしてその原因に思い当たり、全力で土下座する。  
「ごめんなさい。その、なんっていいのか、そのごめんなさい」  
 ひたすら謝り倒す。しかし、様子が変だ。僕が頭を下げるたびに、ヒナギクさんが不機嫌  
になっていくように見える。  
「謝らないで!! その、覚えてないけど、私も嫌なら嫌って言うわ。お互いの同意の上で  
やったことなのに」  
「えっ、はいそうですね」  
「ただ、そのもう少し考えないと、私たちまだ高校生だし」  
「そうですね。軽率ですね」  
「子供とか、できたら、その、まずいしね」  
 あれ? 今、照れた表情でなんとおっしゃいました?  
「えっと、ヒナギクさん?」  
「それに、学校をサボってそういうことするのも今日限りにしましょう。学生の本分は勉強よ」  
「えっと、その〜」  
「お義母さんが、お赤飯炊いたんだって、恥ずかしいけど、罰だと思って一緒に食べましょう」  
「ヒナギクさん、待ってください!!」  
 ぼくの静止の声もむなしく、ヒナギクさんは走り去っていった。  
 僕はとんでもないことをしてしまったらしい。丸っきり覚えがないが、学校をサボって(本来  
学校がある時間に)、子供が出来るかもしれなくて、お赤飯を出されるようなことをヒナギク  
さんにしてしまったらしい。  
「ぼくは最低だ」  
 冷静に考えればわかる。タオル越しに触るだけで、欲情していた男が、裸で抱き合って無  
事に済むはずがない。僕は、理性どころか、記憶を失うほどに夢中になって、子供が出来る  
ようなことをしてしまったのだ。  
 でも、ヒナギクさんは、嫌じゃなかったといってくれた。どうしてだろう、どうしようもなく胸  
が高鳴った。  
 足が重い。それでも逃げるわけには行かない。たぶん、ヒナギクさんが用意してくれた  
服に着替えて、リビングに向かった。  
 そこで僕を待っていたのは、ヒナギクさんのお母さんの苛烈なまでのからかいだった。  
 
 帰り際二人きりになる。病み上がりだから、見送りは言いといったのに  
「お互い様でしょ」  
 そう言ってヒナギクさんはついて来てくれた。  
「その、ヒナギクさん責任はとまります。今は、甲斐性なしだけど、なんとか頑張って  
……「はやてくん」  
 僕の言葉は途中で遮られた。いつもの力強い笑顔を浮かべたヒナギクさんによって。  
「私はハヤテくんに、養ってもらう必要はありません」  
「でも、その、男として」  
「何、私が誰かに頼らないといけないような女の子に見える?」  
「いえ、そんなことは」  
「私は誰かに引っ張られて生きていくなんて真っ平ごめんよ。でも、隣で歩いてくれる人が  
居ると嬉しいわ。ねえ、ハヤテくん私の隣に来てくれる」  
 遠まわしで、真剣な、彼女なりの告白だった。そこには、真っ直ぐなヒナギクさんの気持  
ちが込められていた。責任だとか、男としてとか、そんな事を考えている自分が恥ずかしく  
なる。  
 僕はそんな、煩わしいものを全て捨てて、僕自身に問いかける。『ヒナギクさんのことが  
好きですか?』  
 答えが出た。  
「もちろん。全力でお供させていただきます」  
「ええ、お願いするわ」  
 たぶん、僕は、このときの彼女の顔を一生忘れないだろう。  
 
 
END  
 

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