少年が半ばヤケの告白をやらかした一時間ぐらい後に話は飛ぶ。  
 
 咲夜は非常に困惑していた。  
 それはそれはもう十四年の人生幕あけて以来初めて盛大に困惑していた。  
   
 鷺ノ宮家には蔵がある。九巻で咲夜が呪いのヒナ人形の首をヘシ折った所といえばお分かり  
になるだろう。  
 さて、平素あまり使わぬタンスやつづらや具足を満載したその蔵は二階建てだ。  
 咲夜はその二階へ通じる階段の半ばに腰掛けたまま、「えーと」と引きつった笑いを浮かべ  
ていた。  
   
 階段は壁際にある。咲夜が頬を掻くと制服の右肘が壁に擦れ、ろくに掃除されていない黒板  
のように白く煤(すす)けたが、あいにく咲夜にそれを振り払うだけの余裕はない。  
 首をすくりと上に伸ばす。二階の床が細長くくり抜かれているのが目に入った。その周縁の  
うち、咲夜の正面と左側に木製の柵が設置されているのも見えた。  
 いずれも階段への転落防止の物である。  
 そして最後に咲夜が正面遥か先で繰り広げられる光景を目の当たりにできたのは、柵がハ  
シゴを横にしたような形だからだ。  
 幅の広い格子ともいえる柵が咲夜にスカスカと見せつけているのは……  
 愛欲に浸る少年少女の姿である。  
 少年はまだ着衣を纏っているが、少女の方は辺りに着物を脱ぎすてて藤色の長襦袢に桔梗  
色の帯一つという態だ。既に肩がはだけており、薄い胸へぎこちない愛撫を受けている。  
 むろんいうまでもなくワタルと伊澄だ。  
 それを初めて見た瞬間、咲夜は頭をぐわんと殴られたような衝撃に囚われ、取りあえず階段  
に腰掛けて事の成り行きを見守るほかなくなった。そしていまに到る。  
 で、好奇心と混乱に揺らめく大きな瞳の先では──…  
 伊澄が横たえられ、辛うじて半衿(はんえり)に隠れた童女がごとき平坦な胸をワタルに揉  
みしだかれるたび軽く身をよじっている。  
 咲夜はごくりと生唾を飲むとお尻を浮かし、もう一段上に腰掛けた。すると目の高さが横たわ  
る伊澄の体とほぼ平行になった。  
 おかげで伊澄の肘の下で愛用のストールがくしゃくしゃと皺まみれになっているのが見え、  
どうやら五分十分の行為ではなさそうだと察するコトができた。  
 ワタルはそんな彼女の前に粛然と正座し、腕だけをもぞもぞと運動させている。柔らかさに  
感動しているというより、そこから進めていいか逡巡している様子が薄暗さの中で見て取れた。  
 そう、薄暗い。まだ昼とはいえ窓が閉められているから薄暗い。  
 灯りといえば窓際に置かれた一張(はり)の小さな行灯のみ。それが愛欲にまみれる少年少  
女を茫洋と照らし出し、あたかも幻夢に引きずり込まれたような錯覚を咲夜に与えていく──…  
 
 彼女は学校帰りに寄ったVIDEOタチバナ(この日は定休日)でワタルが鷺ノ宮家を尋ねた  
と聞き、ならばからかいの一つでも降らしてやろうと後を追ったのだ。  
 然るに顔パスで入った邸内にはまるで二人の姿が見当たらぬ。すわデートにでも二人して  
出かけたかとSPに聞いてもどうも釈然とせず、家人たる初穂や九重(伊澄の祖母)に聞いて  
も普段通りのおっとりで要領を得ない。  
 どうせ方向音痴とヘタレの組み合わせだから、広大な鷺ノ宮家の庭で迷子にでもなったの  
だろうと高をくくってあちこち散策してたら、ふだん人気のない蔵の近くで人気を感じ……  
 入ってみればこうである。  
 
 ワタルの手が突起に触れたらしい。伊澄が控え目だがこらえられないような喘ぎを立てた。  
 駆け抜ける甘いそれが銃弾のように思えて、咲夜は慌てて首を亀のように縮めた。  
(えーと。まさかあのヘタレが伊澄さん襲っとるんか?)  
 どぎまぎと顔を真赤にしながら咲夜は考えたが、すぐ首を振った。  
(いやいやいや。そんな根性あるんならとっくの昔に告白しとるって。だから違う……多分)  
 もしかすると追い詰められたヘタレゆえの暴走で性犯罪に及んでいるかも知れない。  
 とは神ならざる咲夜ゆえの思考だ。よもやワタルと伊澄が何やら怪しげな儀式を契機にこう  
しているとは思いもよらぬ──… ちなみにあの地下にあるアレな感じの大穴とやらにはライ  
ブカメラでこの光景を送っている。余談になるが奴はこの光景をパソコンで見ている。なぜなら  
生で見るよりそっちの方が楽だし保存できるからだ。後で自分好みに編集できる利点もある  
──とはかつて「秘湯め○り」の錯綜する構成に業を煮やしDVDをリッピングし、Windows  
ムービーメーカーで自分好みに再構築した者ゆえの弁である。  
 
 とまれそういった事情を知らぬ咲夜は恐る恐るとまた首を伸ばした。もし伊澄が本気で嫌が  
る素振りを見せたら速攻で階段駆け上ってワタルをしばき倒そうと思っている。咲夜はワタル  
を応援したが、あくまでそれは正常な恋愛の後押しにすぎない。彼が欲望にかられ異常な行  
為を伊澄に働くのであれば幼馴染として止めねばならぬ……。  
 と信じる咲夜の義憤や使命感を無視する出来事が起こった。  
 ふよふよと胸を揉みしだかれていた伊澄がゆっくりと首をもたげると、唇を自らワタルに重ね  
たのだ。  
 唇が触れ合う程度の軽い軽いキスだ。  
 なのにワタルときたら露骨に動揺し、目を見開きながらゆでダコのように真赤になった。  
 その態度一つとっても襲ってないのは明白だ。  
(あはは。やっぱヘタレはヘタレか)  
 と平素の咲夜なら指さして笑うところだが、しかしこの時はなぜか巻き起こる激しい心痛に  
軽く胸を押さえた。  
(おかしいなぁ……)  
 伊澄は自発的に口づけをした。ならワタルは好かれている。咲夜はそうなるよう後押しした。  
(ぜーんぶ丸く収まっとる筈やのに、なんでこんな感じになるんやろか)  
 わななく華奢な肢体をきゅっと抱きしめながら、咲夜は力なく俯いた。  
 
(やわらかい……)  
 少年は初めて触れた少女の唇の感触に心臓をバクバクさせた。  
 しかも眼前には長年恋焦がれた少女の顔がある。  
 口を放すと、いつものように恥ずかしそうに眉根を寄せて、大きな瞳を心もち外に垂らして、  
自分のした行為が良かったかどうかとオロオロしている。  
「えぇと、その……私もワタル君の事が好きですから……」  
 袂で口を覆ったのは拭くためではなく平素の癖が出ただけなのだろう。頬には朱の線がさあ  
っと走り、声と来たら今にも消え入りそうである。  
「決めたコトは必ず最後まで一生懸命やるし……なんだかんだいっても女のコには優しいから……」  
 好き。ただその一言が少年にとって蜜のように甘く嬉しい。  
 しかし言葉にできるほど器用でもない。かといって深奥に生じた喜びの衝動を全て叩きつけ  
るほど乱暴でありたくない。  
 だから漆を塗り込めたような短冊形の横髪にそっと手を伸ばした。そこは一連の行為によっ  
てぱさぱさと乱れている。伊澄は不意のワタルの挙措に少し身を固くしたが、指が髪の一筋一  
筋を丹念に撫でつけるのを感じると、気恥ずかしそうに微笑した。  
 ワタルはそういう反応が嬉しくて、ますますありったけの優しさと愛しさを込めて丹念に髪を  
直した。一方が終わるともう一方もそうして、それから伊澄の顔を覗きこむと、彼女が頷いた  
のを合図に勇気をもって口づけした。  
 ワタル自信、その行為を大胆な物として心中揺らいでいるが、同時にいまはずっとずっと秘  
めていた想いを伝えられる時だと、少ない勇気を総動員し、動け動けと自分を鼓舞している。  
 身をかがめたまま、襟に潜り込ませた右手を再び動かし始めたのもその一例か。  
「あ……」  
 襟に潜り込ませた、というが既にそこは絶間ない愛撫によって白い肌をほとんど露にしてい  
る。首にかかるべき襟元はもう二の腕の半ばまでズリ落ち、行燈の光の中でぼうと描かれる  
幼い鎖骨の陰影はえもいわれぬ艶めかしさだ。  
「な、なんていったらいいか分からないけどさ」  
 ワタルはしどろもどろとした弁解ともいえる口調で告げた。  
「き!! 綺麗だと思う。伊澄の肩」  
 対する伊澄はそういう褒められ方がよく分かっていないらしく、「?」と唇を結んで困ったよう  
に疑問符を浮かべた。  
 ワタルは一瞬「変なコトいったか?」と思ったが、あまり黙っていても埒が開かない。  
 ので、彼は瞳孔を猫科動物の如く拡大して一生懸命叫んだ。(テンパったともいう)  
「その! うなじから首にかけての滑らかなラインがさぁ! 肩に『ストン!』って落ちて細い腕  
に流れていく感じ? そこが綺麗! 綺麗だと思う。うん」  
 ひとしきり言葉を聞くと、伊澄は濡れた瞳で見上げながらぽつねんと呟いた。  
「そんな所ばかり見てるなんて、ワタル君はやっぱりマニアックなのね」  
(ああ分かっていたともさ!! そういう返しが来るって!!)  
 ワタルは泣いた。泣きながらもなお思った。  
(け、けど、ここで褒めねーでどうする! 綺麗なのは事実なんだ!)  
 左拳を握って涙目で心痛に耐えるワタル。しかし悲憤の時はすぐに終わった。  
「マニアックだけど……」  
 伊澄はワタルの頬に手を当てると、顔を傾けくすりと笑った。  
 
「褒めてくれたのはなんとなく分かるわ。ありがとう」  
 少年はなんだか伊澄にペースを握られそうだと思った。同時にそれでもいいという意志薄弱  
のヘタレゆえのマゾ欲求が芽生え始めていた。  
 
 そんな様子を頬杖二本で恨めしく眺める少女が一人。  
(あー青春やなー。うらやましいなぁー)  
 半眼の咲夜である。半眼とはこの場合二つ名ではなく表情である。  
(なんかもう腹立ってきたわ。このまま一部始終ぜーんぶ目に収めて、あとで絶対あのヘタレ  
からかったる。そっちの方が面白そうやし……)  
 そこで昨夜の思考がギクリと中断した。  
 ワタルの手が伊澄の半衿にかかり、一気に胸を露出させたのだ。伊澄は何かいいかけたが  
元よりおっとりした少女なので顔を真赤にして「あの、あの……」とオロオロするばかり。  
(そそそそそそういう時は隠せや! アホ!!)  
 或いは伊澄以上に真赤になりながら、咲夜は恥ずかしそうに眼を逸らした。が、ちらりと横  
目を這わすと胸をとくとく鳴らしながらゆっくりと視線を戻した。  
(べ、別に逃げてもええけど、まあなんや、ええと……そ、そや、後でちゃあんとからかわなあ  
かんよってなあ。うん)  
 言い訳のように思う咲夜の視線はなぜかワタルの横顔に吸いつけられた。彼は頬を紅潮さ  
せながら伊澄の胸を見下ろしている。少年特有のまっすぐで純粋で、未知への怯えを孕みな  
がらもそれを打開しようという覚悟を浮かべている。  
 今まで「面白い」という理由で親しみを込めてイジり倒してきた少年がだ。  
 柄にもなく浮かべるその真剣さに、咲夜はますますいいようのない寂しさが込み上げてきた。  
 根がカラカラと陽気な咲夜であるから、そういう自分の奇妙な心情を、たとえば芸人の師匠が  
弟子に超えられたり、「おとん」が嫁ぐ娘を見送ったりといった何とも大阪人情的な解釈で理解  
しようと努めたがどうにも腑に落ちない。  
 咲夜が無意識のうちに豊かな胸を掴むのと同時に、ワタルがまた伊澄にくちづけをした。  
(…………っ)  
 再びの心痛が咲夜の全身に広がり、大きな瞳が少し湿った。  
 
「さわってもいいか」  
「え……?」  
 伊澄は道に迷った時よりオロオロと自分の胸とワタルを見比べていたが、やがて袂で口を覆  
うと気恥ずかしそうに頷いた。  
「あ、あまりありませんけど……それで良かったら…………どうぞ」  
 というか既にワタルは何度もふれているのだから、この問答ほど滑稽なものはないだろう。  
 もっとも彼は行燈の光の中ですら青白く浮かぶ裸身に理性を奪われていたので仕方ないと  
いえば仕方ないが。  
 とにもかくにも華奢な肢体だ。小学生といっても通じるほどに細く未発達で、胸はお腹との区  
別がつかぬほどぺたりとしている。ただ、先ほど揉まれていた左胸だけはうっすらと血色を帯び  
て心持ちふわふわと膨らんでいるようだった。  
 そして鮮やかな突起も硬くしこっており、肌には見事な黒髪が数条ぱらぱらと流れ、肘まで剥  
かれた長襦袢との相乗効果でひどくしどけた雰囲気を醸し出している。  
 ワタルは半ばのしかかるような態勢を取ると、息を呑みながら薄紅色の乳首を摘んだ。  
「ん……っ」  
 伊澄は可愛らしい声を立てるときゅっと目をつぶって軽く震えた。  
 その反応と指に走るコリコリした艶めかしい感触に、少年はおっかなびっくりながらに指を  
二度、三度と動かしていく。すると伊澄は低く抑えた可憐な声を立てながら闇の中で緩やかに  
黒髪振り乱しつつ身をよじる。  
 そのたび上着を辛うじて覆っている長襦袢が徐々に徐々に崩れていき、ついには胸のみな  
らず白い腹やへそまで露にした。もはや袂は伊澄の一の腕の半ばまで蛇腹の形で押しやられ  
着衣の態を成してはいない。  
 足も同じで、裾は乱れに乱れて割り開かれ、新雪を童が丸めたと見まごうばかりに儚げなく  
るぶしや脛や膝小僧はあらわもなく剥きだしで、肉づき薄く日の光も知らぬ真っ白な太ももも  
は既に半ばまでを長襦袢から覗かせている。  
 しかもそれが薄闇立ち込める蔵の中で行燈の仄かな光に照らされているのだ。茫洋とし果  
たしてこの世の物かと疑うほど、愛撫に震える伊澄は可愛く、そして美しい。  
 ワタルの男性自身はすでに痛いほど血が集まり、今すぐにでもズボンのファスナーを下して  
開放してやりたいほどだ。  
 だが少年はその衝動になんとか耐え、耐える代わりに伊澄の乳首にむしゃぶりついた。  
「ふぁ!」  
 
 瞳孔を見開いた伊澄から舌ッ足らずな嬌声が漏れた。珍しく大きな声だ。  
 一方ワタルは技巧も何もなく、ただただ赤ん坊が母へすがるようがごとく一心不乱に伊澄の  
乳首を口に含んでいる。  
 伊澄はその未知なる生暖かい感触に反射的に袂で口を覆おうとしたが、乱れとワタルの存  
在のせいでできない。  
 にも関わらず、ワタルが乳首に粗雑で荒々しいキスをしながら口を離したから耐えがたい。  
「その、強っ…………ああん!」  
 ワタルの手が少しきつくなった。生八つ橋のように甘ったるくトロトロに柔らかい乳肉をこね出  
したかと思うと、伊澄の口にまたキスをした。今度は触れるだけというより、上唇を両方の唇で  
挟んで吸うといった感じだ。  
 彼の口が離れると、伊澄の平素からぼうっとしている瞳は快美によってますます蕩け、胸か  
らの刺激にビクビクとリズミカルに細い肩を震わせた。  
 やがて、ワタルの手が伊澄の太ももにかかる長襦袢の裾を遠慮がちにめくり上げた。  
 もはや崩れに崩れ帯一つで肢体にからみついているだけの長襦袢だ。胸はおろかくびれの  
ない未発達な腹部さえほとんど露であり、腰部に纏う少し野暮ったい白い下着すらワタルの目  
にさらしている。  
 着物の下着といえば腰から膝のやや上までタオルのように巻きつける湯文字(ゆもじ)が一  
般的だが、世の中は便利なもので和服用のショーツというものがある。もっともワタルはそうい  
う知識がないので、「小学生みたいな下着……」と初めて間近にする想い人のそれに生唾を  
飲み込み、しかしその幼い感じが伊澄に似合っているので「グッ」ときた。  
「あまり……見ないでください」  
 視線を感じた伊澄は困惑の顔を少し泣きそうにゆがめながら懇願した。  
 後はもう眉をひそめてオロオロするお馴染みの仕草だ。  
 見られたくないなら隠せばいいだけなのだが、どうもこの少女に「当たり前」の発想を求める  
のは酷なようだとワタルはため息をついた。  
 
 ……もしそこで咲夜が傍観をやめ、立ち去っていればもうちょっと違った運命が到来していた  
かも知れない。  
 
 彼女は学校帰りにここへ来たため制服姿である。バックステージで変更が示唆されている制  
服だが本作では七巻第八話準拠のブレザーである。  
 階段に腰掛ける咲夜の右手はいつしかそのミニスカートの隙間に潜り込み、もぞもぞと妖しく  
動き始めていた。  
 ふだんの明るさは表情から消え、暗いやるせない光に染まる瞳がただただワタルと伊澄の  
愛欲を眺めている。  
 少年は少女の下着を遠慮がちになで始めている。  
 咲夜の指はなまめかしくその動きを再現するかごとく柔らかい太ももの奥でくねる。、。  
(あかん……あかん……)  
 内なる声が制止をするが、ワタルの愛撫の一つ一つに、伊澄の反応の一つ一つに甘い疼き  
が襲ってきて、指の動きは止まるどころかますます強く早くなっていく。  
 白いショーツは既にしっとりと湿り、筋に沿って上下させるたび静かな水音が立ち上ってくる。  
「んくっ!」  
 秘所から全身に立ち上る甘い痺れに咲夜はか細い身を震わせ、目をぎゅっとつぶった。  
(こんな……コト)  
 思考とは裏腹に開いた瞳は幼馴染二人の変化を明確にとらえた。  
 二言三言何かを交わしたかと思うと、おもむろに伊澄が起き上がりワタルのズボンに手をか  
けたのだ。  
 咲夜の面頬は一段と朱に染まった。若く雄々しいペニスが勢いよくファスナーから飛び出し、  
剣のように伊澄の眼前でそそり立っている。あまり大きくはないが衝撃的な光景だ。  
 ワタルは膝立ちの中腰だ。そんな彼の股間から初々しく張りつめた肉棒は咲夜の注視を嫌  
がおうにも集めてしまう。一瞬目を覆いたくなったが、伊澄が片手でそっと掴みぎこちなく上下  
にこすり出した瞬間、そんな考えは吹き飛んだ。  
 咲夜は熱を帯びた気だるさで再び右手を活動させながら、左手でブレザーのリボン(紐がつ  
いておりそれを襟に回して固定するタイプ)を外すと口に咥えた。  
 くすんだ味のするそれは声を殺すのにぴったりだ。  
 咲夜は白魚のような指がもたらす快美に息を荒げながら必死にリボンを噛み、まなじりに涙  
すら浮かべてますます指を加速させていく。  
 一方視線の先ではしとやかな伊澄が紅葉のような手をゆるゆると上下させ、ワタルの分身を  
びくびくと震わせている。表情はかつてミニスカメイド服を着せられた時よりも羞恥に赤く染まり、  
羞恥と困惑の汗を垂らしながら、なお手の動きを緩めない。  
 
 ワタルは耐えているようだが息は乱れに乱れ、中腰の姿勢すら今にも崩れていきそうだ。  
「待て伊澄。やめ……」  
 切羽詰ったワタルの抗議に伊澄は手を休めた。  
 そして咲夜は痴態に甘い息をつきながら見抜いた。  
 ワタルの分身に片手を添えたままじっと止まる伊澄の思考を。  
 
 一応両想いなのにどうして中断しないといけないのか考えている。  
 そういえばワタル君はヘタレだなぁと考えている。  
 
 覚g……思考完了。  
 やがて伊澄は我が意を得たりとばかりに袂で口を覆い、「キラーン」を浮かべた。  
「駄目よワタル君。辛くてもちゃんと最後まで我慢しないと」  
 おとなしげに見えて案外頑固のため、厳しい駄目出しのような物が飛び出した。同時に伊澄  
は握ったそれの脈動がやや増したのに気づき頬の赤みを増量したが、黒髪揺らめかしつつ手  
の動きを早めた。  
 たまらぬのはワタルだ。限界であれど初めての快感は拒絶できぬと見え、すべすべとした  
掌の愛撫にますます痙攣し声にならない声を立てていく。  
 咲夜の潤む瞳がそんな甘くゆがんで真赤に燃えるヘタレを捉えるたび、快美かはたまた別の  
要因か、秘所はとめどもなく蜜を溢れさせ、そこをなぞる指をふやけさせる。  
 食いしばった口元からは一筋の唾液が流れだし、やや桜色に染まった太ももは刺激に耐え  
かねたようにもじもじとすり合わさり、それが却って秘所に潜り込む指に微細なくねりをもたら  
していく。スカートは階段の上で乱れに乱れ、白い太ももも露に咲夜は痴態を重ねる。  
 そして階段のくすんだ板に半透明の液体がツツーと伝い始めるのと時をほぼ同じくして、ワタ  
ルのくぐもった声が響いた。  
 そして屹立する幼い分身の鈴口からびゅるびゅると白濁が飛び出し、伊澄の顔や黒髪に降  
り注ぐ……。  
 ヘタレであれ若さだけは持っている少年だ。伊澄の愛撫に限界を迎えたペニスはどくどく脈  
打ちながら熱ぼったい精液を二回、三回と勢いよく吐き出して、つど伊澄の清廉な面持ちを白  
くどろどろと汚していく。  
 咲夜はその光景に思わずおののき──…  
「んん……っ!」  
 期せずしてぷっくりと尖った肉芽に触れてしまい、姿勢のいい肢体をびくりと痙攣させた。  
 甘い波濤が緩やかに体を突き抜けていき、閉じた目の端から甘露のような涙が浮かんだ。  
 
 一方伊澄は、顔に白い粘液まみれにしながらも平然としていた。もとより彼女は嫌悪に対す  
る騒がしさを持ち合わせていない。だからぼんやり瞳を潤ませて頬に垂れる精液を拭う訳でも  
なくじーっとワタルを眺めている。  
「何か出ましたけどどうすれば」  
「ゴ、ゴメン、伊澄!」  
 むしろワタルの方が慌てたが、  
「はぁ」  
 栗の花の匂いを漂わせながら、おっとりとした表情で首を傾げるのみである。  
 その無心っぷりが却ってワタルの罪悪感を引き立てるのだ。彼はハンカチを取り出すとこし  
こしと一生懸命に伊澄の頬や髪を丹念にぬぐってほぼ綺麗にした。ほぼ、というのは髪に絡  
まった精液が取れなかったせいだ。  
 一方伊澄はまるで子猫か何かのようにハンカチを受け入れて、頬をふにふにと窪まされたり  
髪を梳かれる感触を瞑目して受け入れている。大人しすぎて少年少女の痴態の後始末という  
よりは童女の風呂上がりに体を拭くという感じだ。  
 やがてそれが終わると伊澄はふわっと微笑を浮かべた。  
「ありがとう」  
「い!! いやその、もともとオレがかけちまったワケだしさ!」  
 少年はまったくもって恥じていた。少女のほっそりした指の感触に耐え切れず、あっけなく放  
出したのは男として情けない。まったくもって情けない。そんなんだからサキの微妙に淫猥な  
写真を撮ろうとした所を発見されるのだ。ヘタレめ。生ゴミめ。  
 さて、どうしたものかとワタルが少し思案に暮れていると……  
 伊澄が緩慢な動きを見せた。汗を浮かべて困りきった様子で手を伸ばしたかと思うと、服越し  
にワタルの胸をちょんとつついたのだ。  
「?」  
 すると彼が怪訝な表情をしたから怯えた。  
 
 伊澄は伊澄なりに愛撫を返したかったようなのだが、ワタル相手だとさっぱりわからぬといっ  
たところか。途方に暮れた伊澄は、彼女にしては比較的素早い動作で手を引っ込めてあとは  
もう袂で覆ってぼそぼそと呟くのみだ。  
「その、その、お礼に……」  
 伊澄は横たわった。  
 そしてそっとワタルの手を当てると、もじもじと頬を赤らめながらショーツに導いた。  
「触って……下さい」  
 もはや伊澄は羞恥あり余るあまり、赤い斜線も満面に眉しか見えぬ戯画的表情だ。小さな  
頭から湯気すら立ち上らせているのが何とも可愛らしい。  
 少年はしっとりと濡れたショーツの感触にすんでのところで頭を爆発させそうになった  
 かああっと目を開いたが流されてはならぬと首を振り、素数を数える。2、3、5……401……。  
(落ち着け。落ち着け。無駄弾を使うな、無駄弾を使うな)  
 生涯最大の緊張だ。頭のてっぺんからつま先まで一種冷やかにも思える激しい熱が満ち満  
ちていく。生唾を飲み込みつつワタルはそっと手を上下させた。すると布越しに生暖かい肉びら  
の感触が指先に伝わってくるからたまらない。ワタルは意を決して少し早く手を動かした。  
「んん……っ!」  
 すると伊澄は身をくねらす。自分の愛撫でそういう反応をされるのは男性にとっては嬉しい物  
だ。ワタルはさらにちゅくちゅくと水音を立てながら指を上下させた。するとショーツに愛液がじ  
んわりと滲み出てくる。少年は戸惑った。一瞬そこに吸いつきたくなったが  
(ば!! そんなんしたら変態じゃねーか!)  
 自制する。それはもう本当は吸いたいが自制する。ヘタレにはヘタレなりの仁義があるのだ。  
果たして濡場で左様な仁義を描くコトにいかほどの意味があるかは不明だが、彼は伊澄に対  
しそういう粗暴を働きたくはない。彼女は触ってとは頼んだが吸ってとはいっていないのだ。  
 とはいえ少年は伊澄に触りたい。十代前半のいろいろ有り余っている時期だからいろいろし  
たくてたまらない。実際乳首は許可なく吸った訳だし。  
「あ、あのさぁ伊澄。……直接、さわっていいか? だ! 駄目なら諦めるけど!」  
 まったくここで無理やり触って、なし崩し的に主導権を奪えばいいのにいちいちワタルはそう  
聞くのだ。咲夜は気だるく手を動かしながら意識の片隅で溜息をついた。  
「は、はい」  
 一方、伊澄はコクコクと頷くからたまらない。少年は矢も楯もたまらずに濡れそぼったショー  
ツの中に手を入れて、ちゅくちゅくと撫でまわし始めた。  
 そこは濡れそぼっていながらもひどく手触りがいい。体毛は生えていないらしく、撫でれば指  
がすべり落ちて行きそうな心地よさすらある。  
 ワタルはその感触に見入られる思いで秘裂を上下した。濡れて半透明になったショーツは  
突っ張りながらも彼の手の動きをうっすらと映し、伊澄の表情をますます甘く蕩かせていく。  
「んん……」  
 相も変わらず控え目な嬌声だ。袂で口を覆った伊澄は赤い顔の中できゅっと目をつぶり、肩  
を震わせその刺激に耐えている。  
 そんな彼女の表情を見ているうちにワタルはいよいよ男性的な我慢の限界を迎えた。  
 
「そろそろ……いいか?」  
 切羽詰ったように神妙に呟く幼馴染の声に、咲夜はハッと顔を上げ白い面頬を絶望的なまで  
に赤くした。  
 心臓がキリキリと痛み、嫌な動悸が鳴り響くのは、ワタルの呟きの意味を理解したからだ。  
理解したからこそ伊澄がそっと頷き腰を上げ、ショーツをゆるゆると下げ始めたのが、細い足を  
すべり落ちていく白い布きれを見るのが、ひたすらに辛い。理由を説明するコトなどできないが、  
ただただ一人の多感な少女として身を裂かれるような思いだ。おっとりした伊澄が「いいか?」  
の一言で全てを察して動いているのを疑問に思わぬほどに心痛はひどい(ちなみに伊澄は銀  
華からある程度の説明を受けているので上記の行動に移れた)  
 とにかく眼だけは光景を捉えて離さない。鮮烈な印象が脳髄に来たるたび、何かをすり替え  
るように快美への追求をもたらし、咲夜の手を動かすのだ。  
 やがて白魚のような指はワタルが伊澄にそうしたかのごとく、ショーツの内側へと潜り込む。  
 ひどく生々しい感触が指先に伝播した。動かせばそれまで以上の刺激が立ち上るだろう。そ  
う思い流石に躊躇していた咲夜だが──…  
 
 伊澄の足を割り開きつつ、ワタルはそっと自らの分身を熱くぬめる秘裂へと押し当てた。  
 
 蜜に濡れ光るそこは童女のような外見に似つかわしく無毛であり、未成熟な一本筋の割れ  
目しか存在していない。  
 そんな場所へ怒張する肉の棒を押し当てるのは何とも倒錯的な光景で、ワタルは生唾飲み  
つつまたも優柔不断な様子で「いいか?」と聞いた。  
 果たして伊澄は羞恥いっぱいの表情でまなじりを下げつつ、しかし確かにコクリと頷いた。  
 
 伊澄の太ももに隠され見えなかったが、ワタルは確かに腰を突き入れたようだった。  
 一瞬、咲夜の全身をおぞましいまでの衝撃が駆け抜けて、瞳をいっそう暗く湿らした。もっと  
もそれがあらゆる刺激への躊躇を振り払う起爆剤となったらしく、咲夜は何かを吹っ切るように  
目を閉じると口のリボンをぎゅっと噛みしめ、秘裂をかき混ぜるように撫で始めた。  
 最初は筋に沿って指を上下させていたが、ワタルが伊澄に緩やかだが力強く突き入れ始め  
たのを見ると指を一本潜り込ませ、熱い肉襞を撫で始めた。果たしてそこは突如侵入した異物  
をやわやわと受け入れた。咲夜はまとわりつくそれらを跳ね除けるようにちゅくちゅくと水音立  
てつつ指を動かし、立ち上る快美に頬と瞳を悩ましい桃色に染めた。鼻からはくぐもった甘い  
息が漏れ噛みしめたリボンには涎がひっきりなしに染みて果汁をこぼしたような黒い染みと  
芳しい香りが広がっていく。  
 いつしか咲夜は我を忘れて両足を露もなく広げに広げ、二本目の指を秘裂を突き入れ……  
 
 初めての時は位置が分からず苦労するというが、ワタルはビギナーズラックに恵まれたらし  
く挿入そのものは恐ろしくすんなりと済んだ。  
 そうして熱く尖った肉の槍をずぶずぶと処女地に埋没させていくうち、硬い感触に突き当たっ  
た。健全な青少年たるワタルだからそれが純潔の証であるコトはすぐに分かった。果たして伊  
澄を見る。彼女はもはや頷くコトさえできぬほど初めての刺激に甘く悶えていたが、視線を感  
じるとワタルを見返して潤んだ瞳で懸命に何かを訴えかけた。平素何を考えているか分から  
ぬ少女だが、まとわりつく生暖かい伊澄自身の感触に自制心が溶かされつつあるワタルだ。  
欲望も手伝って伊澄の眼光を肯定的な物と解釈するとそっと腰を進めた。果たして伊澄の瞳  
に拒絶の光はない。幼い頬をやや苦痛に引きつらせ息を激しくしているが、しかしもとより頑  
固な部分もあるから決めた事柄はこのような痴態であっても貫こうとしているのだろう。  
 なればとワタル、伊澄のそういう姿勢を順守するかのごとく一層深く強く腰を突き入れた。す  
ると清らかなる証をみっちりとせめぎ合わせていた肉の隘路(あいろ)が徐々に徐々に広がり  
を見せ、あまり大きくはないが猛々しさはなんとか持ち合わせているペニスを伊澄の中へと埋  
めていく。純潔を示す赤い流れが何本も何本も肉棒へとまとわりついたのはしばらく後のコト。  
「んくっ!」  
 流石にその感触は辛いのか、伊澄は閉じたまなじりから真珠に似た奇麗な涙をぽろぽろと  
こぼした。  
 ワタルはここでやめようかと思ったが、伊澄の性格を考えると断固として継続を促されるよう  
な気がしたし、後でどんな手厳しい指摘が飛ぶかも分からない。彼自身、伊澄の瑞々しい内  
部の感覚に限界を感じているが、しかしぎこちなくも腰を動かし伊澄の求めているであろう「結  
末」を少しでもちゃんと呼べるよう努めている。  
 白い膝小僧に手を当て、顔は伊澄のそれの前に浮かせたまま、ますます深く早く突き入れた。  
 
「んん……んん」  
 全身をぎこちなくゆさゆさと揺すぶられながら喘ぐ伊澄の姿に、咲夜はとにもかくにも指の動  
きを激しくする。おっかなびっくりで指を鉤に曲げて内部の深い所を刺激するだけでは飽き足  
らず、残る片手を制服のブラウスの下から豊かな丘とブラジャーの間にまで一気に無理やり  
差し入れると、不慣れな手つきで揉みしだき始めた。  
(ウチの方が大きいのに……)  
 奇しくもワタルは身を屈みこませて伊澄に口づけし、平坦な胸を愛撫しつつある。  
 今まで比べたコトのないそこを見比べて、ワタルに名状しがたき甘苦の視線を咲夜は送った。  
 巻田や国枝曰く発育のいい彼女だ。然るに下着姿で平然と彼らの前で現れるほど自らの女  
性的成長にほとほと無頓着でもある。  
 快美の世界よりも笑いこそ重要視しているからその点幼くもある。が、その青い性は突如眼  
前に降ってわいた幼馴染二人の痴態に触発され、今まで気にも止めなかった場所をやわやわ  
と愛撫しているのだ。  
 
 手の動きにつれてブラジャーは押し上げられていき、ブラウスの下で白い膨らみが片方ぷる  
んとまろび出た。  
 自由になったそれを数秒の戸惑いの後につかみ取ると、驚くほどの質量が掌に訪れた。肉  
体の魅力など今まで気にも留めていなかった咲夜だが、くぐもった喘ぎの中で常に伊澄のそ  
こと見比べて優越感を覚えようとした。だがあくまでワタルが伊澄を好むのはその性質あらば  
こそ。薄い胸を愛撫しているのはその結果にすぎぬ……。  
 その事実を嫌というほど知っているから胸の大きさに優越感を覚えようとする自分がひどく  
惨めに思えて、半ば悲痛の中で虐めるように豊かな乳房をまさぐっている。  
 口の周りはリボンに染みわたらなかった唾液でべとべとと汚れ、潤んだ瞳の前に熱ぼったい  
鼻息が立ち上ってくる。それがますます脳髄を甘く痺れさせる。  
 視線の先ではワタルがひどくやり辛そうに腰を突き入れながら、伊澄の乳首を吸った。伊澄  
は「ふぁ」と甲高い喘ぎを上げながら、鮎のような白い腹を弓反りに跳ね上げた。もっとものし  
かかるワタルのせいで指一本入る程度浮き上がったきりだが、そこからの声はひどく甘ったる  
い物になりつつある。  
 おっとりとした彼女らしくもなくワタルの首の後ろに腕を回すとぎゅっとしがみつき、何か囁き  
ながら唇を重ね合わせた。もはや彼女の方がワタルより積極的らしい。桃色の舌がちろりと  
出でて少年の口に没するのさえ咲夜は嵐のような心痛の中で見た。そしてヘタレであれど想  
い人にそうされて引き下がらぬワタルをも。ぴちゃぴちゃと水音を立てながら伊澄の唇を吸い、  
舌の動きにつれて頬が淫らな陰影に蠢くのが暗澹たる景色といわずして何といおう。  
 しかもワタルは伊澄の小豆のような乳首をくりくりと擦り、か細い彼女の肢体をびくびくと痙攣  
させている。だが甘い吐息と水音と瑞々しくも淫猥な熱気が漂う中でもつれ合う少年少女はひ  
どく幸福そうな雰囲気を漂わせてもいる。  
(……こーいうのを望んどった筈やのに)  
 明るく後押しして演出したその光景を、咲夜自身は光の届かぬ薄暗い階段の上でただ眺め、  
一人やりきれぬ自慰に耽っている。  
 だがそれらを顧みて咲夜が退出するにはあまりに多くの刺激を浴びすぎた。もはや初めて覚  
える快美の波にたゆたうままブラウスの中で硬く尖った乳首を擦りあげ、電撃のような刺激に  
全身をびくびくと痙攣させるだけである。いつしかショーツは太ももの半ばまでずり落ち、汗と  
愛液で湿った生地が埃に汚れている。スカートもまくりあげられ、白い太ももがほぼ付け根ま  
で剥き出しだ。秘裂に潜り込んだ指はもはや三本に増え、とろとろの蜜壺を間断なく掻きまわ  
している。  
 
 そしてワタルは上体を起こすと再び伊澄の足をM字に折りたたみ、ひどく荒々しい抽送を始  
めた。瑞々しくも狭い処女孔はようやくほぐれてきたようで、血と愛液に滑りながらワタル自身  
をきゅうきゅうと締め付けてくるからたまらない。  
 着衣を乱れに乱して喘ぐ伊澄の太ももを付け根の辺りで抱え込むと、自身も快美を堪えつつ  
奥へ奥へと自身を叩きつける。激しい動きに童女のような肢体から悲鳴じみた声が漏れ、伊  
澄はべその中で涙をこぼしピストン運動を受け入れている。  
「激しい」「もっとゆっくり」という懇願が伊澄の口から洩れるたび、咲夜は伊澄の中で荒れ狂う  
ワタルを想起し、息を荒げながら指を動かす。  
「ちょ、伊澄、待て! 足、あ……う」  
 切羽詰った声を上げる彼は腰に足を回されている。その姿勢のまま何とも彼らしくも情けない  
声を上げつつガクガクと痙攣すると、伊澄の上へ崩れ落ちた。  
(あ、あかん。ウチも……)  
 咲夜はその声を聞きながら密かに昇りつめていく。体は初めて感ずる絶頂にぴくぴくと打ち  
震え、口からリボンが零れ落ちた。  
 その甘い息に重なるように伊澄も静かな息をふぅふぅとつきつつ、ようやく終焉した激しい動  
きの余韻に頬を赤らめぼうっと天井を見ていた。  
 
 その後訪れた静寂はおよそ五分だ。  
 咲夜は快美の反動で気だるくなり、居ずまいも正さぬまま焦点定まらぬ瞳をワタルや伊澄に  
投げかけていた。彼らが俄かに退出を選べば間違いなく見つかる……という想定すらできず  
ただただ暗く艶やかな火に湿った瞳で二人を見ていた。  
「待て、そーいうのは拭いた方がいいって!」  
 視線の先のワタルは両足に潜り込んだ伊澄に息を荒げつつ抗議している。  
 
 見れば彼女は愛液と精液と破瓜の血でどろどろになったペニスを小さな頬いっぱいにくわえ  
込み、息を漏らしながら上下している。そうして何度か液体をすするジュルジュルという艶めか  
しい音を響かせた後、伊澄は幼くも凛々しい仕事モードのような表情で事もなげに呟いた。  
「大おばあさまからの伝言だから。行為の後はちゃんと綺麗にしないと」  
「い、いや、それでもさ、伊澄に悪いっつーか……」  
「それに」  
 伊澄は一拍置くとまたも事もなげに呟いた。  
「咲夜が階段のところに座っているもの。さっきのままじゃ咲夜に悪いでしょ」  
「ええ!?」  
 
 咲夜は自身を振り仰ぐ二人の幼馴染を見た。  
 一方のワタルは幼い瞳を見開きに見開き、咲夜を凝視している。  
 彼女の姿と来たら扇情的だ。制服を着崩し、スカートを捲りあげているため両足がむき出し  
だ。白い太ももは薄暗さの中でも幽玄に浮かび、しかもその半ばに濡れそぼったショーツが捩  
じれながら纏わりついている。そして快美に頬を染めて情欲の残り火をチロチロと灯す咲夜を  
見れば、さすがに鈍感なワタルでも何をしていたかぐらい分かる。  
 しかも伊澄との交歓を見られたのも確定しているから実に気まずい。  
 
「えーと」  
「えーと」  
 
 少年と少女は実に露もない格好のお互いを見た。どちらもどちらだから言葉がでない。  
「えーとやなぁ。その」  
 咲夜は頬をかきつつ、蔵にやってきた顛末を話した。ついでにワタルもぎこちなく経緯を話し  
た。これで大体の情報は交換できたが、しかし露もない姿を見られたエクスキューズにはなら  
ない。これが一般的な恥ならばお互い様と笑い飛ばせるのだが、性の恥とあらば話は別だ。  
(つーか二人はともかくウチがこんなんしたのって実は物凄く恥ずかしいコトちゃうんか……?)  
 やってもうた。どう言い訳すれば分からへんと混乱する咲夜に対し、  
「ねえ咲夜。ちょっとこっちに来て」  
 ただ一人、伊澄だけが落ち着いた様子で呟いた。いつの間にか彼女は正座し、口を袂でくいっ  
と拭っている。  
「い!! いやそのウチは部外者やし、さっさと帰るのが筋っちゅうもんやろ。な? な?」  
「いいからこっちに来て。話があるの」  
 凛然としているが反論反駁を許さぬ語気が伊澄の言葉に籠っている。  
(うわぁ、もうこうなったらもう話通じへんで)  
 困惑の笑みを浮かべながら咲夜は居ずまいを正して立ち上がった。もっとも途中でショーツ  
やスカートを戻す時、ワタルの視線を感じ面頬を羞恥にさっと染めたが。  
(だあもう見んなボケ)  
 
 とにかく三人は膝を突き合わせて会話できるほどの距離に集合した。  
 
「要するについつい好奇心にかられて私とワタル君の……その…………」  
 伊澄はそこまでいうとまた顔に朱を登らせた。  
「恥ずかしいところを見て、ついはしたない事をしてしまったのね」  
「〜〜〜〜ッ!」  
 図星をつかれた咲夜は唇を噛み大きな瞳を羞恥に見開く他ない。  
「大丈夫よ咲夜。気にしないで。別に三人一緒でもいいのよ。だって」  
 伊澄は袂で口を押さえると、目の横にキラリンを浮かべた  
「私、こう見えても寛容ですから」  
「いや、それいわれたらウチのポジションが非常に悪くなるんやけどなあ……」  
 具体的には咲夜がワタルを殺したあと伊澄に殺されるアニメルートまっしぐらである。  
(何の話なんだ……? っつーかオレの出る幕がない)  
「だいたい……今さら割り込んだらウチは泥棒猫みたいやないか」  
 咲夜はぐずるような表情をしながら目を逸らし、ぶつぶつ愚痴った。  
(ちょ、話が逸れてるって)  
 一方、ワタルときたらこの状況をどうするコトもできずただおろおろするばかりだ。  
「分かったわ咲夜。というコトでワタル君。咲夜をお願いします」  
「えええ!?」  
 もはや彼は場の流れに飲み込まれ、驚愕するしかできない。  
 
「えええやあるかいよっしゃ頼むでえ……って、えええ!!?」  
 咲夜もノリ良く笑顔を浮かべてから驚愕の形相で傍らの伊澄を見た。  
「さすが咲夜。こんな時でもノリツッコミを忘れないのね」  
「そりゃもうウチは坂○師匠みたいに芸と素の使い分けはせぇへんよって……ちゃうわ! な  
んでウチがこんなベタな髪型の男とせなあかんねん! ウチにだって選ぶ権利ぐらいあるわ!」  
 もはや必死の咲夜は目を三角にしながらワタルをビシィっと指さした。  
「か!! 髪型は関係ねーだろ! 髪型は!」  
「じゃあ咲夜はワタル君の事、嫌いなの?」  
「い、いや、その」  
「嫌いだったらわざわざ飛び級の枠を譲ったりしないわよね」  
 ぼそぼそと呟きながらも眼はひどく真剣で説得力を帯びた伊澄だ。  
(んな事急にいわれてもなー)  
 咲夜にとりワタルが嫌悪の対象かといえば決してそうではない。誕生日パーティで衆人環視  
から逃げ出さず(結果は別として)芸をやり抜いたのは好ましいし、その後もの凄く落ち込んで  
いたのも滑稽ではあるが侮蔑の対象にはなりえない。ただ咲夜自身はそれを友誼とか親愛と  
か、とにかくも男女の関係とは関係ないサラっとした感情として片づけていたのだが──…  
 不意に押し倒された時の光景が蘇り、心臓がとくんと跳ねた。  
 その時の情動、すぐ間近で咲夜を見下ろし赤面していたワタルの顔……  
 甘酸っぱくも切ない思春期特有の感情に転じていきそうなその情景。  
 しかし咲夜は「いやいやいや」と首を振る。ワタルは伊澄がずっと好きだったのだ。その後押  
しをした咲夜が今さら場の流れに負けてワタルに手を出すなど二人への友誼が許さない。  
 一方ワタルも同じ心情であった。さもあらん、彼はヘタレであり何かにつけサキにスカートを  
ブワーさせようとしたり中腰で屈ませて微妙にエロい写真を撮ろうとかしているが、一応それ  
は少年としてのちょっとした性的好奇心であって伊澄を裏切りたいとは思っておらぬ。まして  
直接的な性的衝動を咲夜にぶつけるなど。  
 
「なるほど。二人の心情はよく分かったわ」  
 両者から以上のような(サキうんぬんは流石に抜きだったが)訴えを聞いた伊澄はまるで大  
岡越前のような面持で頷いた。  
「そうだ」  
「そや」  
 そこで言葉を切り「伊澄に悪い!」と幼馴染二人は異口同音に声をハモらせ強弁した。  
(二人とも頑固ね。私は別にいいのに)  
 あるいは一番頑固な伊澄ですら一瞬たじろいだが、しかしくじける彼女ではない。  
 伊澄は咲夜が好きなのだ。そして彼女が伊澄とワタルの行為をどういう気持で眺めていたか  
は、平素に見合わぬ薄暗い光を目に灯して虚脱していた彼女を見れば明らかだ。  
 ややもすると鈍さゆえにいろいろと傷つけていたとさえ伊澄は思う。思うと、「友達を傷つけた  
りしない」と誓った手前どうあっても見逃せない。ワタルも好きだが、彼を独占するコトで咲夜を  
傷つけるとあらば話は別である。  
 ズレてはいるが伊澄は伊澄で真剣なのだ。その真剣さが二人にとって有益かともかくはさて  
おき、真剣と信じれば誰が何といおうとやり抜く頑固な伊澄なのだ。  
 彼女は少し黙ると仕事モードの事務処理速度を総動員して一計を巡らした。  
 
「分かったわ。じゃあ二人とも私が肩を叩くまで目を閉じて耳を塞いでいて」  
 
 ワタルと咲夜は果たしてそれに従った。よくは分からないが、頑固な伊澄が珍しく折れる気  
配を示しているのだからヘタに逆らって怒らしても厄介だ。  
 二人は付き合いの長さからそう判断し、目を閉じて耳を塞ぎ──…  
 その様子を確認した伊澄はぼそりとぼそりと声を立て始めた。  
 
「神父さん神父さん。お願いがあるの」  
 伊澄の囁きに呼応するように神父が蔵の片隅にぬっと現れた。相変わらず西洋めいた端正  
な顔立ちで髪の短い幽霊。今さらだがそんな彼が伊澄のメイド服の一件以来、鷺ノ宮家に地  
縛っているのはどうも雰囲気にそぐわない。  
「素晴らしい光景をありがとう。でも成仏はしないよ」  
 まして蔵にいるのもそぐわない。もっとも覗き目的でずっとそこに居たのだから彼らしいとい  
えば彼らしいのだが、風景的にはそぐわない。それを打ち消そうと人魂のオプションすら浮か  
べ一応の努力をしていると思しき彼は、ひどく満足気な声音を歌のように紡いだ。  
「で、頼みというのは?」  
 
「ヘタレらしく火付きの悪いワタル君と私に気遣って動けない咲夜に軽く憑依して二人を結ぶ  
手助けをして欲しいの」  
「了解。ではまずこの少年に入り込んで関西少女とイチャイチャすればいいのだな」  
 神父は端正な面持ちを崩さずに喉首の前へ親指を立てた。  
「ただし」  
 伊澄は真剣な面持ちを崩さずに神父の胸へ人差し指を突きつけた。  
「この前の虫歯の件みたいな真似をしたら、お仕置きです」  
「りょ、了解」  
 リィンという名の幽霊の面頬に一筋の汗が流れたのは、メイド服の件で伊澄から手痛い反  
撃を受けたコトがあるからだ。  
「分かってもらえさえすればいいんです。あくまで体を軽く操る程度にしてくださいね」  
 ふふっと伊澄は微笑を浮かべ、床にある和服からお札を何枚か抜き取ると、それを咲夜の  
腰やワタルの両腕にぴとぴとと貼り出した。  
(しかし……ちょっとぐらいなら)  
 神父はその様子を見ながら考えた。わずかな時間ならどちらかの意識を乗っ取って、好きな  
ように動いてもいいのではないか? 虫歯の件は露骨に人格をむき出しにしたからバレたの  
だ。ならばそれを反省し、今回はワタルや咲夜になりきって動けば、それが少しの時間なら、  
伊澄の目を誤魔化して咲夜のそこかしこを好きなように触れるのではないか?  
(よし。ではそれで行こう。私が力を貸す以上、そういう役得があってもいい筈だ)  
 ふむと妙案にうなずく神父に「あ、そうそう」と囁く伊澄の声が届いた。  
「お札に念を込めました。人の意識を完全に支配するような悪霊がいたら即座に……」  
「即座に?」  
「『禁!』です」  
 可憐な面持ちの伊澄の背後で何やらオーラがごぉごぉと渦巻き、妻子の仇を討つべく黒い  
獣に戦いを挑む符咒士の姿へと変じた。  
「まあ、私の言葉をちゃんと守ってくれるなら大丈夫ですけど、くれぐれも気をつけて下さいね」  
「……わ!! 分かったよぉ!! まったく、少しぐらい聖職にいる私を信じてくれたっていい  
じゃないかよお!!」  
 情けない声を上げて取り乱す神父を見る伊澄はあくまで冷ややかだ。  
「この二人は大事な幼馴染だから、おかしな霊なんかに好き勝手操らせたくないの」  
(え? おかしな霊ってまさか私?)  
 うん。  
「憑依させるのはあくまで後押しをしてもらうためよ」  
 それに、と彼女は袂を口にやる例の仕草をしつつ得意げに目を瞑った。  
「エイプリルフールに嘘をついて私にメイド服を着せたり、咲夜の体を乗っ取って暴走したりす  
る方は例え聖職にいたとしても信じられませんから」  
(おとなしそうな顔してかなり根に持ってらっしゃる!)  
 ぐうの音も出なくなった神父は服従を決意した。ある意味では自業自得ともいえるが。  
「その代わり、ちゃんとお願いを聞いてくれたら……」  
 伊澄はちょっと俯くと、羞恥に頬を染めた。  
「あの、メイド以外のどんな格好でもしますから」  
「え! ならば軍服とかエレガ(エレベーターガール)とかバスガイドでも!?」  
「いちいちマニアックですけど……はい」  
「では忍道−戒−に出てくる喪巣忍者の格好は!? 壁に手を付きストレッチもして欲しい!」  
「えぇと、その、頑張りしだいでは」  
 東西戦後のひろゆきのように朧だった神父の瞳に熱い感情が迸った!  
「やぁぁぁってやるぜッ!」  
 アメとムチとは正にこの事だ。  
 

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