題「二人のお泊り会」
とある休日の午後
一人の女の子が机の上の紙にペンを走らせ
もう一人の女の子がそれを見守っていた。
「ああ、ここはこうじゃなくて…こうやって解くのよ」
「えっと…あ、そうかごめんねヒナさん」
―――ふう…ここら辺で
そろそろ休憩しちゃおうかな? かれこれ2時間近くは経っているし…
というか、私が休憩したいのもあるけど
私はゆっくりと立ち上がり
目の前でペンを走らせている女の子に向かって口を開いた
「歩、そろそろ疲れたでしょ? コーヒー入れてくるから」
そう言うと、さっきから熱心にペンを走らせていた手を止めると同時に
机に向けていた顔をゆっくりと私の方に向け笑顔で
「あっ! 私も手伝います!」
「いっ…いいのよ! 歩はお客さんなんだしっ!それに…」
「それに…?」
頭にクエスチョンマークを浮かべながら
立ち上がろうとする歩を私は手で制した。
「―――なっ何でも無いんだから!」
そういうと私は歩に背を向け
ドアの方にそそくさと早歩きで出て行った。
「変なヒナさん……」
歩は呟いた。
―――それは、昨日のこと
月は11月
そろそろ寒さにも拍車がかかって、お日様の光に長さを感じなくなってきた今日
学校帰りにお母さんから頼まれていた買い物をしていた途中
歩と偶然にも再会した。
―――西沢歩。
私が他校の生徒と最も親しくしている生徒だ
一応、一年生で生徒会長という立場にいる私は学校内でも
それなりに顔と名前+お姉ちゃんのおかげで有名人だったりする
しかし、そういった知名度はあるものの、深くプライベートで付き合っている人は長年の付き合いがある人たちだけだ
そういった面では友達は実は少なかったりする。
そんな中でも、歩はすんなりと私の心に入り
とても仲良しになれた、他校の生徒というのも含めてとても貴重な存在…そして恋心に似た気持ちを
少しずつ抱きつつあった
それからというもの
歩の事を四六時中考えている私がいた
もちろん……異性の中で思慕の情を抱いている男の子…ハヤテくんは好きだけど
歩はそれ以上に私の大切な人……好きな人を比べるなんておかしな事だけど
歩は唯一、私を甘えさせてくれる人だったのだ。
そして、買い物を終え帰路の途中の出来事…
「ここの焼き芋屋さんがとてもおいしいですよ―って…ヒナさん?」
「うひゃう!!?」
突然、隣から私の目の前に現れたから思わず変な声がでてしまった
私からすると瞬間移動したような動きにもみえた
まぁ、私がボケッとしていたのもあるけど。
「もーしっかりしてくださいよヒナさん」
歩はそういうと鞄を持ち直し
そっと私の前髪を掻き分け、おでこに手を当てて数秒間静止した。
「うーん…熱はないみたいですね…」
歩の手……ひんやりと冷たくて気持ちがいい…ってそうじゃなくて!
「だっ大丈夫よ! 風邪なんて引いてないから!」
「そうですかーよかった」
ニッコリと可愛らしい笑顔を私の方にむける
……ああ…もうそんな顔で見つめないでよ…
「それじゃあ、途中まで帰り道一緒だから帰りましょうか?」
そう言うと私の手を掴み
ゆっくりと歩き始めた……そういえば手を繋いで歩くのは何年ぶりだろう…
中等部に在住していた頃、遠足であったような、ないような……違う違う!
暢気に考えている場合じゃなかった!
さっきから胸の鼓動が止まらない、もう…歩ったら、私の気もしらないで…
歩は先導するように私の手を掴みながら、前へ前へと歩く
日の光もいつのまにか沈んでいた。
「あっそういえば、明日の2連休は親がいないんですよねー」
歩は振り向きざまに私に向かって言った
「えっどうしてなの?」
「いやー親戚の方に用事があるらしくて、私と弟の二人っきりなんですよー」
「そっそうなんだ…」
―――そういえば、お母さんも留守だっけ?
休日出勤と言っていたような気がしないでもない、お姉ちゃんは学校の宿直室に住み込んでいるし…
だから、意に反して思わず言ってしまった。
「実はね、私も一人なの…だったら泊りにまた来ない?」
実はこの時だけ少し後悔してしまった
今でさえ、こんなにドキドキしているのに
もし…家に来てしまったら……どうなってしまうのだろう?
「え、本当に良いんですか? ヒナさんの家なら喜んで行きますよ!」
目の前にいる彼女はまるで明日の遠足が楽しみで仕方が無い
小学生みたいに顔を光らせた。
「でっでも! 弟さんはいいの?」
家に来てほしくないわけじゃないけど…でもっ!
しかし、当の本人は無邪気な顔で
返事を返してきた。
「もう中学生だし一人でも大丈夫ですよ」
結局、自分から誘っておいて断る事もできず
今に至るわけである。
先ほどまでは勉強で分からない所があると言って教えていた
歩にとってはなんてことも無いかもしれないけど
私にとっては苦痛とは違うある種の苦悩に耐えに耐え抜いた2時間であった
正直、休憩というのも私が精神的に限界がきたのだ。
「はぁ…これから明日まで
こんな気持ちでいるなんて…どうすればいいのよ」
私は先ほど出て行った自分の部屋の前でドアに背を向けながら
ポツリと呟いていた。
――胸の動悸が納まることを知らないままで。
「ヒナさんの作ったカレーとても美味しいですね!」
歩はそういうと、次から次へと口にスプーンに運んでいく
こちらからすると、恥ずかしいくらいの食べっぷりなのだが
美味しいって言ってくれるのは素直にうれしい、しかしそれよりも…
「あっ歩? おなか大丈夫?」
私は思わず口をこぼした、だって
あまりにも幸せそうに食べ、何回もおかわりするものだから
少々、心配になってきた、健啖な子なのかしら…?
時計は夜の6時を指し、辺りは薄暗くなりつつあった
窓から降り注いでいた日の光も次第に消え
私と歩の二人っきりの会話だけが家に響く
食事をする時はテレビを見ないわけではないけど、せっかく歩が泊まりに来ているから
二人っきりの時間を大切にしたいのが本音だった。
自分が作ったカレーはいつもより美味しい気がした
歩の為と意識したおかげだろうか? それとも――――
そう考えつつ、歩のより少し遅れたスピードで口に運ぶ、うん……自分で言うのもなんだけど美味しい
好きな人に気持ちをこめて料理したものはこんなにも味が違うのか。
「ねえ、ヒナさんヒナさん」
「んー? 何?」
私はけだるさの混じった感じな声をだし返事をする
先ほどの疲れがまだ残っているのだろうか?
「あっ動かないでくださいね」
「へっ…?」
歩はグラスに入っていた水を飲みほし
徐にイスから立ち上がり、ぺたぺたとスリッパ音を鳴らしながら
私の座っている場所に近づく、いったい何を――?
「カレーが口端に付いていますよ」
「ふえっ?」
ボーっとしていたので
ふ抜けた返事しかできず
私の両肩をそっと掴むと顔をゆっくりと近づけてきた、そして――――
「んっ…」
ちゅっと―――理解するのに少し時間がかかった、それと同時にほっぺにやわらかい感触が感じられた。
歩は……私の右口端にキスをしていたのだ
それと同時に、れろっ…と生暖かい何かが感じられ、私をある種の形容させ難い
妙な気持ちを抱かせる導火線に火をつけるきっかけとなった。
歩に舐め―――って……ええぇえ!!?
「ちょっとまって!!」
とっさの出来事に驚き
私は歩の両肩をやや乱暴に掴み
その勢いで歩との距離を一気に離した。
―――そこで、先ほどの疲れも忘れ
冷静な思考力を取り戻す。
――――歩はいったい…どういうつもりなのか?
いや、そもそもおかしい、口端にカレーが付いていたのならティッシュで拭けばいいし
それに口端にカレーがついていたのなら、指摘するだけで良いし、歩がそのように行動する理由なんてない。
私は歩を辛辣な目で見つめなおすと
そこにはやや閉口気味に立っている歩がいた。
「あの…いけませんでしたか…?」
しゅん、と落ち込んでいるようにみえる
そんな目で見つめられると何やら自分が悪いことをしたように思えた
それよりも意図がわからないけど…とにかくっ!
「いけない訳じゃないけど…そのっ…いきなり…きっキスは……」
うろたえてて、二の句が接げない
そうこうしている内に歩が私の方に近づいてきた。
「クスッ もうっ…ヒナさんって本当に可愛いんだから………」
「えっ?」
歩は私の背中に手を回し
両腕の輪の中にスッポリ入るように私が入った
そして、大きなぬいぐるみを抱きしめるように
ぎゅっと抱きしめられる。
「えっえっ歩っ!?」
私はますます混乱して歩を引き離すことができなかった
そしてやや時間を置いて、後頭部に自分の意思ではない少し圧力のかかった何かが
もぞもぞとしていた――――
―――撫でられている……上から下へと歩の手が
ゆっくりと私の髪を櫛でとくように撫でていた。
「ふふっ サラサラしていて柔らかい」
「歩…」
首筋にやわらかい吐息を感じながら
何か得体の知れない背徳感がゾクゾクと膨れ上がっているのを感じた。
このまま…歩を……
ボーン
その音は壁時計から発せられる7時の時刻を知らせる音だった
規則正しい低い古典風な音が静けさを保っていた家中に鳴り響く
それをきっかけに私は正気を取り戻す。
「私っ! お風呂沸かしてくるから!」
私を抱きしめていた歩を引き離し、背を向けると胸を押さえつつ
お風呂場のほうへ逃げ込むように向かっていった。
「ヒナさーん、食器を片付けておきますねー!」
歩の声が後から聞こえてきたが
先ほどの出来事のおかげで私には歩の声が届かなかった。
「痛くないですか?」
歩の声が風呂場の中でわっしゃわっしゃという音と同時に響く
お風呂の壁に備え付けられている
自分の背丈を半分にしたぐらいの大きさの鏡が水滴によって
私の姿を曇らせていた
それは今や私の心境を端的に表していると言って良い。
そう、歩と私は一緒に風呂に入っている
他人の家の風呂場なんて比べたことはないけれでも
(いや、例外が一人いる美希の家は自分の部屋に風呂があった、しかも自分の家の倍くらいの大きさだった。)
それでも二人でも窮屈は感じられなかった、それなりに広いほうだと思う
だが…今はそんな事を冷静に考えている場合じゃない
「いやー、下田でもそうでしたけど髪サラサラしていますね、本当に何も手入れしていないんですか?」
歩が喋る。
もちろん、この場合
歩は独り言を言っている訳じゃないので、返答しなければならない
目に泡が入るといけないから、目を瞑りながら答えた。
「いえ…特に何も……あの…それと1つ聞きたいんだけど?」
「なんですかー?」
なんですかー?とあっけらかんに歩は答える
意図があると勘ぐってしまったが、それはひとまず置いておこう。
「どうして、一緒にお風呂に入ろうと言ったの?」
私は胸の前で隠すように両腕を覆い
そのまま背後にいる歩の返事を待つ
そう…それが知りたかった。
「だって、せっかくお泊りに来ているんだし…それに」
「それに?」
私の後ろで髪を洗っている人の言葉が途切れる
手の動作も止まっていた。
「ヒナさんと一緒にお風呂入りたかったから、二人っきりなんだし」
ドクン…と心臓が音を立てた。
『二人っきりなんだし』
私は心の中で反芻した。
「そっそう…」
リビングと違って、風呂場はいくらか狭いので
何か私は追い詰められたような、圧迫感をひしひしと感じていた。
別にそれは恐ろしくもないが、例えようのない窮屈さを私は感じていた。
『二人っきりなんだし』
もう一度リピートする。
そう、今この家の中には私と歩だけ
その中の狭い空間の二人っきりだけだ
なんだか、考えれば考えるほどその空間は狭くなってきているような気がする
そして…胸の鼓動も……
「水流しますね、あとで背中を流しあいこもしましょうね」
「うっうん…」
頭にあった歩の手の感触が離れたと思うと
すぐにお湯がゆっくりと頭に降り注いできた
髪が長いせいか、丁寧に水をかけてくれているらしい
私はそのまま気恥ずかしさも流れないものかと考えた。
「じゃあ、次は私の番ですね」
目にかかった水を手で払いながら
私は、体を180度回転させながら歩の方向を向く
既に歩は背を向けスタンバイしていた
私は歩の髪に水をかけながらシャンプーで泡立てる
「いっ痛くない?」
歩と同じセリフを言う
普段、自分の髪を洗うときの強さなのだが…
「もう少し強くしてもいいですよ…あっ気持ち良いです」
わしゃわしゃと音が泡立つと同時に風呂場に響く。
そして、先ほどまで見れなかった歩の背中を食い入るように見つめる
白いうなじ…細い腰…脚、そして歩のほうにより身体を近づけると
そこからみえる弾力のありそうな形の良い乳房…ピンク色の突起物
腹部を下のほうへと辿り、そこから脚の間から覗く…
「ヒナさーん手が止まっていますよ、それと私の体そんなにジロジロ見ないでくださいよ、恥ずかしいじゃないですか」
え…どうしてわかって…?
「ちっ違うんだから! ただっ! 考え事をしていただけよっ!」
恥ずかしさのため思わずムキになってしまう
うーーなんだか歩のペースに引っ張られているような
その場がいたたまれなくなって、私は歩に気づかれないようにそっと深呼吸をし
別の話題を振る。
「そういえば、私の目から見て歩は髪を下ろした方が可愛いわよ?新鮮だし」
しまった、話題の選択ミスと私は思った
それじゃあ、髪を結んでいる時はあまり可愛くないと言っているようなものだ
もちろん、私はそんなことは一切思っていないけれど変に誤解を与えたかもしれない
歩はふっと息をついて口を開いた。
「あはは…私が髪を結んでいるのには理由があるんですよ、容姿に関係なく」
「理由…?」
理由ってなんだろうと思いながらそのまま歩の返事を待つ
とりあえず、誤解は与えていなくて良かった。
「昔…誕生日にハヤテ君からプレゼントされたんですよ、だからあのリボンは私の大切な…宝物です」
「え…?」
「だって、好きだった人から貰った物っていつまでも身につけていたいじゃないですか?」
この時、私は妙な違和感を感じた
好きだった……? 聞き間違えたのか?
まさか歩がハヤテくんの事を諦めたなんて…いやいやそれは絶対にない。
その事は、ハヤテくん自身もよく知っているし、私自身も観覧車の出来事で歩の姿をキチンと確認した
恋敵に譲るような子ではない。
それにしても、もう1つ引っかかったのが
「いつまでも身につけていたい……か」
私はうつむき加減に言う
小さいころ、誕生日に貰ったちっぽけなプレゼント
また会えると信じているたった1つの思い出
何故なら、私のヘアピンには昔の苗字が刻まれているから。
それが消えない内には、きっと…
今時の女の子にしては第六感なんて信じない珍しい女の子だけど
本当の両親が刻んでくれた文字には不思議な力が籠められているような気がした。
第三者からすると、借金を子に押し付けたどうしようもない親だが
それでも、借金を押し付けられる前は貧しいながらも私は幸せだった
お父さんとお母さんとお姉ちゃん、狭いマンションだったけど
家族がいた日々は今思えば最高に幸せな毎日だった気がする
今の両親も好きだけれども昔の両親も好きだった。
けれども…お姉ちゃんは捨てた両親の事をどう思っているかは知らない
普段は底抜けに明るいけど、本当は……
「ヒナさん…?」
何を考えているんだ…私は
もうそれは過去の事だ、考えないようにしていたじゃないか…
それよりも今は歩との二人っきりの時間を……
「ヒナさん!」
「え…あっ! はいっ なんですか!?」
歩に呼び止められて、思考を中断する
ある意味助かったのだが、そのおかげで声が上擦ってしまった。
「……さっきのカレー口端についていたなんて…嘘ですよ?」
「えっ…?」
「じゃあ、お部屋で待っていますね」
ガチャッ
浴槽のドアが開く音がした
振り返ると、そこには既に歩はいなかった
「どういう…意味よ…?」
お風呂場の中でただ一人取り残された私は
生まれたての姿でポツリと呟いた。
目の前にある鏡に付着していた水滴はいつの間にかすっかりと消えていた。
「ちょっと待ってて、今から布団と枕をだすから」
そういうと、私は自分の部屋の物置から
歩の為に寝具を引っ張り出そうとする
時刻はもう11時過ぎ
私はこの時間帯ぐらいに睡眠をとっているのだが
今日は好きな人が泊まりに来ているし
いっぱいお話して夜更かしでもしようと思っていたのだが
歩が既に眠そうな顔をしていた
ただ、依然として私は髪を下ろした歩の可愛らしいうさぎ柄のパジャマにドキドキしていて
しばらくは眠れそうもなかった
しかもパジャマに覆われた中の裸体も余すところもなく目におさめたのである。
「うわぁ…歩とってもかわいい」
思わず口に出して言ってしまう
「そんな、ヒナさんのほうこそ可愛いですよ?」
「え…?」
自分の容姿についてあまり考えたことはなかったが
そう言われると照れてしまう…そして意識する
お風呂上り…密室…目の前には……大好きな子
いつの間にか私の身体は火照っていた。
「あの…ヒナさん…私の分のお布団はださなくていいからお願いがあるんですけど…」
「お願い?」
布団は出さなくて良いって…まさか、雑魚寝をする気じゃあ…
そう考えているうちに、歩は人差し指を立てて部屋の隅のほうを指した。
「あそこで寝たいんです」
「へ? あそこって?」
あそこって言われても…私のベット?
ああ、もしかしてベットでしか寝れない子…なんて一瞬思ったが
すぐに別の考えに切り替える
まさかと思った次の瞬間、私の両腕が降参するようなポーズで歩に捕まれ
そのまま、勢いよくベットに押し倒される。
「あっ!」
思わず背中の軽い衝撃とともに軽い悲鳴を上げてしまう
そして、そこにはニヤリと妖しい笑みを浮かべた歩の顔を確認した。
「なっ…?」
突然だったためか、僅かながらの恐怖心を覚え
そして何を思ってか、身体は緊張と興奮を覚えた
歩は顔をゆっくりと近づけてきて、今にも唇にキスができそうな距離で止まった。
「ヒナさんと、一緒に寝たいな」
「えっ……」
「ダメですか…?」
やわらかい吐息が顔にかかる
私は頬を赤く染め、やや緊張した面持ちで思案する
一方、歩の方は何かを懇願するような表情で私のほうを見つめていた
私が下で歩が上で互いの体は重なり、歩の柔らかな胸も感じられ
脚も放さないように絡められている。
お互いの心臓の鼓動音もうるさいくらいにハッキリと聞き取れた。
多分、こんなチャンスって滅多に訪れることは
ないんだろうな……だから私は…
「ちょっと、手を離して」
「あ…いきなり押し倒しちゃってすいません…でも…私……ヒナさんの事が…」
途切れ途切れに、喋る歩の言葉を人差し指で遮る
ああ…これで今までの行為にようやく辻褄が合った
だから、遠慮せずに私は…思いを通じ合わせる事だって
できるんだろうなって……思う
「もう…最後まで言わなくていいわよ…私も歩の事が………好き」
そう言い終えると、私は腕を歩の背中に回し
抱きしめると同時に唇を奪った
その時にハヤテくんの顔がチラリと浮かんだが、それはすぐ消えた。
「っ…んっ…っん…はぁ…」
お互いに唇が磁石のようにピッタリとくっついて離れない
時々、お互いの顔の角度を変えながらキスに没頭する
口から漏れる吐息が艶かしい
そして突然、口端の時と同じ感覚が口内に感じた
「……ん…はぁ…ぷはあ!…ぁ…あ…あゆ…っんくっ……ん!」
舌が使われていることによって
お互いのキスは…より堕落的で…淫靡的なものへと変貌していく
私に呼吸させないかのように口内を激しく犯しながら
器用にパジャマのボタンを1つ1つ外していく
そして、ボタンを数個外した時にその作業は中断し
体に手が潜りこんでくる
「ぷぁはっ……あっ…はあっ…はぁ…あっ…あゆ…む…やめっ…!」
「ダメです…誰にも知らないヒナさんを私に……見せてください…」
すばやく口内から舌を抜き、今度は首に顔を移動させ
首筋に下を這わせながらキスを開始する
先ほど潜り込んだ手は、手のひら全体を使い、胸を包むかのようにゆっくりと愛撫する。
「ひぃ…んっ……はぁ…あっ……もう…あゆ…む…っ…のイジワル…!」
私は、ベッドの上でもがきながら
必死にシーツを掴んで耐えようとする
しかし、それでも押し寄せてくる快楽という波は止められない
「そんな事言って…もっとされたいんですね」
「ひゃんっ!?」
ビクンッと体がはねてしまう
歩はいつの間にか全てのボタンを外し終え
乳首を中心に口を大きく開け、むしゃぶりつくように吸う
片方の胸は人差し指と、親指を使い乳首を上によせあげるように愛撫する
同時に股に何か硬いものが擦り付けるように当たり、それは歩の膝だと
わかるのに時間はかからなかった。
「ふわぁ!?…ちょ…まって…やぁ!」
ちゅぱっ!と口から胸を開放しながら
歩は征服感に近い表情を浮かべている
「止めてほしいなら、どうして本気で抵抗しないんですか?」
「そっそれは…」
自分でも薄々感づいていた
本気で嫌なら、暴れることもできるはず…
それをしないのは、歩に…
「ふわぁ!?」
自分でも驚くぐらい艶かしい声を思わず上げてしまう
自分ではない、他人に全ての秘密をさらけ出される様に
私は人形のように好き勝手にもて遊ばれた
「じゃあ、次はここですね」
歩の手がするすると私の下半身の方に手が伸び
もう一度、唇を奪われた
「んっ!…はぁ…あ…んっ…ん…!」
歩の手が私の下着の中にゆっくりと侵入する
股を閉じようとしたが、最早それは遅かった
意思をもったそれぞれの指が活動を始める。
「んっーーーー!?」
唇を奪われているせいで
声にならない叫び声をあげる
同時にもう一度、身体が弓なりにビクンと曲がる
中指と人差し指が
それぞれ意思をもったように、中を激しく?き回す
緩急をつけながら、まるで小動物をいたぶるように行為に滾らせる。
しばらくすると、くちゅ…くちゅっ…と卑しい音を立てながら
身体は痙攣するかのように震えていた
「あんっ!…いや!…もうっ!……あっ……ひゃぁ!!?」
「良いですよその声…ヒナさんは…」
そこで一度、言葉を区切り
ベッドで我を失っていた私の耳元に口を近づけると
「私の物なんだから」
パクッ!と耳を甘噛みされ
もう一度、ビクリと震えた
「ひゃああん!!?」
歩はそう言うと、今一度
指に力を入れ、激しく?き回した
ぐちゅっ…にちゃっ…にちゅっ!と淫靡な水音が激しく音を立てる
やがて私は…
「あっ―! あっ――――――!!」
一際高い声を出し、絶頂を迎えると
そのまま、ぐったりとベッドに倒れた。
――――はぁっ はぁっ はぁっ
お互い疲労の為か息遣いがとても荒い
それでも、歩は私の脇に腕を通し、そのままベッドから抱き上げ
私の中からジュプッ!と音を立てながら指を抜き取ると
まとわり付いたソレを私に見せびらかす
「これ…全部ヒナさんのですよ…」
「うっうるさい!…そんなものを…見せないでよ!」
あまりの恥ずかしさの為に反論してしまう
「クスッ…でも、とても可愛かったですよ?」
そういうと、歩は背中に手を回し身体を引き寄せてキスをした
先ほどとは違う、淫らなキスではなく
気持ちのこもったキスだった
たっぷり3秒経ってから、唇をゆっくりと離す
「今日はもう寝ましょうか?」
「うん……私はもう…」
そう言い終えると
激しかった息遣いはやがて静まり
数分もすると穏やかな吐息が耳に届いた
「おやすみ、ヒナさん」
腕の中で眠っているヒナギクの頬にもう一度キスをし
毛布を風邪を引かないようにそっとかけてあげた。