――ああ、まったくなんで朝はこんなに眩しいんだ。
夜が暗いのはイヤだが、朝が明るすぎるのも考えものだな。
うつらうつらと考えていると、ハヤテが慌てた様子で私の肩に触れる。
どうやらよろけて歩いていたらしい。やれやれ、別邸だけあって狭い廊下だ。
「いやいや、こんな広い廊下そうそうないですよ」
うる、ふぁぁぅ……ふにゅ、あれかな。動く歩道の設置でも依頼するかな。
「あー……なんか怖いのでやめましょう。モビルスーツのカタパルトデッキみたいになりそうですし」
それはそれでロマンがあるじゃ……ああ、だめだな。本格的に目が覚めん。
これは二度寝しろとの身体からの要求、いや陳情、いや懇願めいたものすら感じるな。
そこまで言われたらこの三千院ナギ、眠ることにいささかの躊躇もないのだが……。
「やれやれ……仕方ありませんね。では、手を繋いで参りましょう。僭越ながら、先導させて頂きます」
そう言って、ハヤテが私の手に自分の手を重ねてきた。
温かなハヤテの手の表面がぴたっとくっつくように手の甲に触れてくすぐったい。
しかし、大きくて頼もしいとは思っているのだが、相変わらず武骨さのカケラもない手だな。
これでSP連中が束になっても太刀打ちできないのだから、いやはや、ヒーローとは違うものだ。
「お嬢様の手、少し冷たいですね。少し血行がよろしくないのかもしれません」
ぼーっと考えていると、ハヤテが私の手を両手で包み込んでくる。
じんわりと温かさがしみこんできて、指先から手の平から、とにかくぽかぽか温かい。
……というか、その。朝から大胆なんだな、ハヤテ。さり気ないスキンシップとは、ポイント高いぞ。
「どうですか? 温まりましたか?」
む? あ、ああ、まぁな!? ああ、そんな近くで笑顔で見つめるな! は、恥ずかし
「目も覚まされたようですね。では改めて……」
ちょっ、待てーー!! このタイミングで手を離す奴があるかーー!!
寸止めか! 焦らしプレイか!! ドキドキさせておいて放置プレイかーー!!
あ! いや、待て、確かにいま私からお前の手を取ったが、これはそういうあれではなくてだな
「……もう少し、手を繋ぎましょうか」
う、あー、いや、…………うん。
「朝の陽射しがとても清々しいですね、お嬢様…………それにしても、お嬢様の手って、小さくて柔らかいですよね」
ふぇ!? ちょ、なにを言いだすいきなり! 手がぴくってなってしまったではないか!
わ、待て待て改めて手を見つめるな! 手触りを確かめるな! 指で手の平をくすぐるように撫でるなぁぁ!!
んっ……くぅ……やめ、ろ、肌がざわざわって……そんな、優し……声が、出て、しまう、ではないか……っ
「すべすべの肌触り、シルクみたいです。とっても可愛らしくて、僕は好きですよ」
ふぁ……ば、ばかものっ
ひ、人にこんなことをしておいて、そんな笑顔で誤魔化されると……誤魔化されると……
「さて、到着ですね。さぁ、朝ごはんをきちんと召し上がって、今日も一日頑張りましょう!」
……うるさい、ばか。ハヤテの、ばか。