過去を思い出して涙を流したハヤテは、ふわりと頭を抱かれるのを感じた。
驚いたのも束の間、軽く引き寄せられた顔が肌色の柔らかな何かに触れて――。
気がつけば、綾崎ハヤテは、ドレスを着た瀬川泉に抱きしめられていた。
普段の天真爛漫な笑顔とは違い、どこか子供をあやすような優しい微笑を浮かべる泉。
顔は見えずとも触れ合う肌からそれを感じることが出来るのか、ハヤテは安らいだ表情を浮かべる。
心の奥底に疼く傷にまで届くように、優しく温められるような癒しの時間。
だがそれは、ふとした気付きによって中断を余儀なくされた。
(あれ……、この吸い付くような感じ……わ、瀬川さん、胸元が素肌なんだ……)
(あ、ハヤ太くんの顔が胸についちゃってる! ど、どーしよ、でもいまどいたら可哀相だよね……)
ハヤテの頭が小さくと動くのと、泉のハヤテの頭に回した腕が小さく動くのは同時だった。
そしてこんな時だけ敏感に、お互いにその反応に気付いてしまう。
(あ、いま、瀬川さん気付いたっぽい……)
(やーん、ハヤ太くんに気付かれちゃったっぽいよー)
まがりなりにも慰めている/慰められている最中なので、二人ともうかつに行動できない。
感覚的にはすっかり優しい慰めからドキドキのボディタッチに変化した状態で、二人は硬直していた。
(やばい、ドキドキしてきた……。ダメだ! しっかりしろ綾崎ハヤテ! 瀬川さんは善意でしてくれてるのに!)
(やん、ハヤ太くん、お顔がどんどん熱くなってきてる……もしかして、私女の子として意識されちゃってるのかな?)
赤面するハヤテから熱が伝わり、泉が相手の状態を察して緊張してくる。
そうすると、今度は着慣れないドレスを着ている泉の平常心が崩れていった。
(あ、泉さんの肌が少し汗ばんできた。熱くなってきたし……ひょっとして、恥ずかしいのかな)
(うううーやだよー恥ずかしいよーでも今更どくタイミングなんてわかんないよー!!)
露出した胸元に異性を意識されてしまった泉が恥ずかしさに心の中だけで身悶えする。
ハヤテからは見ることはできなかったが、ハヤテの頭を抱く泉の顔は耳まで真っ赤になっていた。
さらに胸の鼓動がハヤテに伝わりそうな気がして、どんどん恥ずかしさが増していく。
(うわ……なんだか、香水と汗の匂いがふわって……クラクラしてきた……)
(……やだ、汗が……ううう……匂いとか嗅がれちゃったらお嫁にいけないよぉ……)
二人っきりの部屋に、思春期の男女が二人。
素肌を密着させた状態で、どんどん思考が麻痺していき、おかしな雰囲気になっていく……