世間の人々は、良くくっつくとかくっつかないとかそんな話に熱を催しやすい  
まぁ、確かに年頃の方々――否、それは年齢も越えているのかもしれない――にとっては永遠に尽きない興味なのだろう。  
だが、こういう話題は第三者として話に参加するから面白いのであって…。  
当事者となった彼らにとって今、それは決して興味だとか、楽しみだとか、そう言う風に形容できる状況ではなかった。  
 
きっかけはふとしたこと。  
ちょっと手を握るような状況に陥った、それだけ。  
でも気付けば、彼らは自分たちの覚悟を試されている――――――。  
 
「ハ、ハヤテくん……」  
「マリアさん……」  
 
至近距離で見つめ合う二人。  
吐息が掛るか掛からないかという距離にあって、しかし二人の顔が離れることは無い。  
互いの瞳は潤み、互いが互いに釘付けになって離れない。離れられない。  
 
「こんなところ、ナギに見られたら……」  
「そうですね…。なるべく、こんなところはお嬢さまには、見られたくは――――」  
 
部屋のドアをちらりと見つつ、こぼすように呟く。  
これで二度目だが、部屋には二人きり。密室で、二人きりなのだ。  
 
「んっ、っ!」  
 
ハヤテが不器用に手を動かすと、マリアが堪えるように声を漏らす。  
それを察したハヤテはぴくっと手の動きを止める。  
しかし、マリアの声が収まったと思うと、今度はさらに激しく腕を動かし始めた。  
 
「きゃあっ! ダメ、ハヤテくんっ! そんなに強くしないで!」  
 
ピリピリとした痛みのせいで、マリアの瞳から涙が一雫。  
流石にそれで罪悪感がこみ上げたのか、ハヤテはそれで再び動きを止め、申し訳なさそうに首を垂れる。  
 
「ご、ごめんなさい、マリアさん。つい…耐え切れなくなって」  
「もう…無理にしないって、言ったじゃないですか……」  
 
半分上目遣い。  
涙目+むすくれた表情+上目遣い……。  
(どう見ても反則でしょう――)と、ハヤテの本心は中々に純粋だった。  
しかし、そんなことではいけない―――とハヤテは首を振り、強い視線でマリアの眼を見つめる。  
 
「マリアさん、僕はもう……覚悟は、出来ています。後は、マリアさん次第ですよ」  
 
強い視線で迫られ、マリアは少したじろぐ。  
少しだけ体位をずらしたためか、二人の重ねた手から白濁の液が腕をつたって床に滴り落ちる。  
マリアは、ベタベタして気持ち悪いですね――とお茶を濁そうとするも、効果なし。  
ハヤテの頑なな態度に、万事休す、と思ったのか、マリアははぁ、とため息を一つ。  
 
「わかりました―――もう、ハヤテくんの好きにしちゃってください」  
 
諦めた(陥落した?)ようだ。  
ハヤテはその返答に対し、安堵した様な、緊張が走ったような何とも言えない表情を浮かべる。  
 
「すみません、マリアさん――――行きますっ!」  
 
ハヤテの声と共に、マリアがギュッと目を瞑る。  
これから来るであろうものに耐えるために、ただひたすら強く眼を閉じて―――。  
刹那、ハヤテは思い切り手に力を込めた。  
 
 
 
 ―――― ベリッ  
 
皮膚の破ける、生々しい音が、響いた。  
 
「「つぅ〜〜〜〜!!!」」  
 
そして漏れる悲鳴。  
二つの「音」と共に、二人の体がゆっくり離れた。  
互いに自身の手を押さえ、痛みに耐えていた。  
 
「どうしたのだ、ハヤテ、マリア!?」  
 
直後、部屋のドアが勢い良く開け放たれ、ナギが部屋に入ってきた。  
各々手を押さえている二人を見て、ナギはエクスクラメーションマークを撃ちあげつつ、詰め寄ってくる。  
 
「一体今の声は何だったのだ?」  
「あ、いや……それがですね……」  
 
心配そうにハヤテに肉薄するナギ。  
一方のハヤテは、マリアに助けを乞おうと視線を投げかけるも、マリアはノーリアクションでこっちを見ているのみ。  
ふぅ〜、と深いため息をひとつ。ハヤテは至極簡潔に何があったか説明した。  
 
「マリアさんと僕の手がボンドでくっ付いちゃってたんですよ」  
 
二人の掌から血が一筋。  
 
 〜 Cheepful Finale 〜  
 

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