「それじゃいいんちょさん、僕はこのへんで失礼しますね」
しばらく泉の家で雑談していたハヤテだが、そろそろ帰らなければ夕食の支度に間にあわなくなってしまう。
「あ、ハヤ太くん、ちょっと待って。うちって出口までの道が複雑だから私が案内してあげるね」
「そうなんですか…それじゃよろしくお願いしますね」
そういってハヤテは立ち上がり、泉の後をついて廊下に出て行った。
「ええとね、まずはこの廊下をまっすぐ進んで…」
泉がハヤテの前を先導して廊下を歩いていたときのことである。
ぶわっ!
突然、下から風が吹き上げて、泉の穿いていたスカートを大きくめくりあげる。
「ふぇっ…きゃぁぁっ!?」
真っ赤になってスカートを抑える泉だが時既に遅し、白いパンツは完全にハヤテの目の前に晒されてしまった。
「あ、あぅぅ…見た?」
真っ赤な顔で振り返り、目に涙を浮かべる泉。
「す、すみません一瞬だけ…。…でも、なんでいきなり下から風が…?」
不思議に思ったハヤテが目の前の廊下に目をやる。
「……。
あの…つかぬ事を伺いますが、なんでエアコンの噴出し口が床に取り付けてあるんですか?」
「えっと…最近床暖房が流行ってるらしいから、うちでも真似しようと思って…」
「床暖房ってこういうのじゃないと思いますけど…。」
「あ、あはは…そうなんだ。ごめんねつまらないもの見せちゃって…
気を取り直して…」
泉が立ち上がった瞬間だった。
どこからか飛んできた一匹のミツバチが、泉の胸元から服の中に潜り込む。
「きゃぁぁっ!?やだ、刺されちゃうっ!お願いハヤ太くん助けてー!」
泉は慌ててハヤテに泣きつく。
「そんな、助けてって言われてもどうすれば…」
「私の服を脱がせて追い払ってー!」
「は、はいっ!」
この際、背に腹はかえられない。ハヤテは泉の服の裾を掴んで、一気に引き上げる。
蜂は、泉の服の中から出て行ってどこかへ飛んでいってしまう。
「大丈夫ですか?もう追い払いましたよいいんちょさん」
「あ…ありがと…って、うにゃああっ!?」
泉が自分の格好に気づいて悲鳴を上げる。
服は腋の辺りまで大きく捲くれ上がり、ブラジャーが完全に露出していた。
「うわーん、ハヤ太くんのえっちー!」
「そ、そんなこと言われても脱がせろって言ったのはいいんちょさんじゃ…」
「うぅ…そうだけどさ…」
「それにしても家の中に蜂が入り込むなんて…あれ?」
ハヤテは妙な木箱が廊下に並んでいるのに気づいた。
「この箱って…蜂の巣箱ですよね?」
「え?うん…家の中で蜂蜜が取れるかなって思って置いておいたの」
「それと、その…いいんちょさんから、ほのかに蜂蜜の匂いがするような気がするんですけど…。」
「うん、お肌にいいと思って、蜂蜜入りのボディーソープ使ってるの」
「そ、そうなんですか…」
ハヤテはそれ以上深く突っ込まないことにしておいた。
「あとはこのエレベーターに乗ったら出口だよー」
泉は廊下の先にあるエレベーターに乗り込んだ。
「へえ、立派なエレベーターなんですね」
感心しながらハヤテがエレベーターに乗り込もうとすると…
ブー。重量制限オーバーのベルが鳴った。
「あ…じゃあ、僕はここで待ってますからいいんちょさんは先に…」
「ダメだよ!このエレベーターは私の指紋を照合しないと動かないんだから、ハヤ太くん一人じゃ乗れないの」
「ええっ、じゃあ僕は階段を使いますから…」
「ううん、出口はこのエレベーターじゃなきゃ行けないの…」
「そんな…じゃあどうすれば…っていいんちょさん、何脱いでるんですか!?」
突然目の前で服を脱ぎ始めた泉にハヤテは驚く。
「少しでも軽くすればギリギリ二人乗れるはずだから…って、にゃぁっ!? 見ないでよハヤ太くん!」
「は、はいっ! すみません!」
ぱさ、ぱさり。
上着とスカートをエレベーターの外に放り投げると、果たして音は鳴り止んだ。
「それじゃ出発するけど…絶対にこっち見ないでね?」
「ええ、わかってます…」
真っ赤になりながら泉に背中を向けるハヤテ。
「…あの、いいんちょさん。どうしてエレベーターの壁が全面鏡張りなんですか?」
ハヤテの目の前の鏡には、下着姿の泉の姿がばっちり映っていた。
「え?だって万華鏡みたいで綺麗だと思ったから…」
「えっと…すみません、僕目をつぶってますね」
「そ、そんなのダメだよ!このエレベーターはこの家の三大名所のうちひとつなんだから、
目をつぶったりするのは失礼なの!」
「そんなこと言われましても…その、これじゃ目のやり場が…」
「と、とにかく絶対に目をつぶっちゃダメ!」
「は…はい…」
仕方なく真っ赤になりながらどうにか泉の姿を見まいとするハヤテ。
しかし、床や天井まで鏡でできている密室のため、どちらを向いても下着姿の泉が目に入ってしまう。
「ふぇぇん…ハヤ太くんが私の下着姿見てる…もう私お嫁にいけないよぉ」
ハヤテはようやく理解した。
虎徹の言っていた泉の性癖とはこのことだったのだと。
FIN