「うむ……まいったな。どんな嘘でハヤテを騙そうかと考えていたら日が変わってしまったぞ……」
エイプリルフールも終わった4月2日の午前2時、ナギはマリアが寝ている横で一人モンモンとしていた。
「この気持ちどうしたものか……いや、待てよ。冷静に考えれば今は4月1日の26時なんじゃないのか?
そうだ!そうに決まっている!よし、そうと決まればとにかくハヤテの部屋へ行こう!嘘なんて後で考えれば良い!」
張り切ってハヤテの部屋へ向かうナギ。しかし結局いい嘘を思いつく前にハヤテの部屋へ着いてしまう。
しかしナギは別の事を考えながら、部屋の扉の前で立ち尽くしていた。
(うぅ……な、なんだか夜這いでもかけるみたいでドキドキしてきてしまったではないか……)
ナギは緊張しながらも扉を2度ノックし、ハヤテに呼びかける。
「コホンッ……お、おーい、ハヤテ。起きているかー?」
ナギの呼びかけからしばらく後、扉が開くと目をこすりながら眠たそうなハヤテが現れた。
「お嬢様?こんな時間にどうなさったんですか?」
「え?あ、あぁ……まぁ、なんだ。暇だから遊びに来てやったぞ」
「暇だからって……もう2時ですよ?」
「2時では無い!4月1日の26時だ!……とにかく立ち話もなんだし中に入るぞ!」
少し怒ったようにそう言うと、ナギはハヤテを押しのけて部屋の中へ入って行く。
中に入って辺りを見渡す。相変わらず物の少ない殺風景な部屋だ。机と固そうな椅子があるだけでソファーも無い。
とりあえず一番柔らかそうなベッドに腰をかけたナギは、ハヤテをどう騙そうか考えだす。
(さて、いったいどう言う嘘でハヤテを騙そうか……)
「あのー、お嬢様?それで本当は何の用なんですか?」
「えっと……なんだ、あれだ、アレ」
「あっ、まさか『まだ26時だからエイプリルフールだ!』とか思って嘘をつくためにわざわざ来た訳じゃないですよね?」
「なっ!そ、それは……その…………」
(え……このお嬢様のこのご様子……もしかして図星だったのかな……)
なんだかよく分からない重苦しい空気が部屋中を包みこみ、黙りこむ二人。
たまらずハヤテが先に口を開いた。
「お、お嬢様!そんな格好では風邪をひいてしまいますよ!とにかくお布団に入ってください」
「え?!そ、それもそうだな、それじゃあちょっと……べ、別にハヤテの布団に入りたいとかそう言うんじゃないからな!」
一言そう言ってナギは布団に潜り込む。
(ハヤテの良い匂いがする……こうしているとまるでハヤテに抱きしめられている様な……って、そうじゃなくて!)
危うく部屋にきた目的を忘れかけていたナギは、頭を切り替えハヤテを騙す事を考える。
(この状況をうまく利用して……おぉ!そうだ!!)
ナギは何かを思いつくと、布団の中から顔をすっぽりと出し、ハヤテに背中を向けたまま話し始めた。
「しかしあれだな、ハヤテ。こうして男女が夜に二人きりで一つの部屋にいると言うのはなんて言うか……」
「?」
「お、……おかしな事が起こっても不思議では無いな!」
「おかしな事って……な、なにおかしな事言ってるんですか?!」
(フフフッ……ハヤテの奴取り乱しておるな。よし、もうひと押しだ)
予想通りのリアクションにニヤケル表情を隠しナギは話しを続ける。
「えっと……私は別に、その……ハヤテとならおかしな事になっても……構わんと思っているぞ」
そう言ってハヤテの出方をナギはジッと待つ。これでハヤテが本気にしたらネタ明かしをする予定だった。
しかしハヤテはナギの予想を大きく上回る行為に及ぶ。
―――ゴソゴソ
「んっ?……うわぁ!ハ、ハヤテ?!ちょ、ちょ……ちょっと待て……」
突然ナギのいるベッドに入り、ナギを後ろから抱き締めるハヤテ。
「お嬢様がそうおっしゃるなら、僕は我慢しなくて良いんですね。……実はお嬢様が部屋に入ってから僕はずっと我慢していたんです……」
「な……っ!!」
突然の事に言葉が出ないナギ。しかしよくよく考えてみると、これはこれで良いんじゃないかと思い始める。
(別に私だってハヤテの事が好きで、おかしな事になっても良いと思う気持ちはウソじゃない……
それにハヤテがこう積極的に動く事なんて珍しいじゃないか。……ならいっそ……今、私の初めてをハヤテに……)
そう考え、意を決したナギは顔を真っ赤にしながらハヤテの方を振り向いた。
「その……私もずっとハヤテとこうなりたいと思っていたのだ。……は、初めてだから、優しく頼むぞ……」
ナギのその返事に笑顔を浮かべたまま固まるハヤテ。
(あれ?少し気を使ってお嬢様の嘘に乗っただけなのに、……なんだか様子がおかしいぞ?)
「あのー……お嬢様、今って4月1日の26時ですよね?」
「何を言っておる。もう4月2日の午前2時22分ではないか」
「えぇぇ?!日にちリセットされちゃったんですか?!」
「??そんな事はどうでも良いだろ?……あまりレディーを待たせるもんじゃない。……まずはキスからすればいいのか?」
そう言って目をつむり真っ赤な顔のままハヤテのキスを待つナギ。もはやハヤテの退路は完全に断たれていた。
(お嬢様のお気持ちを無碍にするわけにはいかない……それに僕だってお嬢様の事を……)
こうして二人はエイプリルフールを切っ掛けに、関係を一気に深める夜を迎えた。