「ふぅー…どうもこのパーティーってのは、偉そうな大人が多くて馴れないなぁ……」  
ハヤテはこの日、三千院帝が主催するパーティーに、ナギと共に参加していた。  
「ナギお嬢様は伊澄さんとどこかに行っちゃうし……少し外で休憩でもしとこうかな。」  
ハヤテはそう思うと、庭にある池の方へと向かう。するとそこには見慣れた女の子が一人、ボーっと座っていた。  
 
「咲夜さん?…どうしたんですかこんな所で。」  
「ん…?なんや、借金執事かいな。屋敷の中えらい人ゴミやからな、ちょっと休憩や。」  
「そうだったんですか。…あの、僕もご一緒してもよろしいでしょうか?」  
「別にかまへんけど、ナギの面倒見んでえぇんか?」  
「はい、ナギお嬢様は今伊澄さんとワタル君と何処かへ遊びに行ってしまいましたから。」  
 
そう言って咲夜の横に座るハヤテ。しかし、いつもなら止まったら死ぬと言わんばかりに話してくる咲夜は、  
今日は何もしゃべらず、ただボーっと池を見つめている。  
月の明かりのせいか…それとも少し大胆なドレスのせいか……その姿は自分より年下の少女とは思えないほど大人びていた。  
 
「どや?ちょっとは学校、馴れたんかいな?」  
「え?!あっ、はい。勉強の方は難しいですけど何とか。」  
「そーか。まぁ、ナギや伊澄さんはともかく、ワタルのアホと一緒に卒業できるように勉強頑張りや。」  
「そう言えば咲夜さんってワタル君に白皇の飛び級枠お譲りになったんですよね。咲夜さんは白皇に行けなくても良かったんですか?」  
 
何も言わずに水面からハヤテの方へ目線を写す咲夜。  
その様子にハヤテも自分が口走った事を後悔する。  
 
―――行きたくもない所の試験なんて受ける訳がないやろ!このアホ!!  
 
そんなツッコミの覚悟するハヤテ。しかし咲夜は再び目線を落とすと、ボソボソとしゃべりだした。  
「ウチは別にえぇねん。…年かて一つ上なんやから、ウチが我慢すれば。」  
やはりいつもと様子が違う。…何か悩み事でもあるんだろうか?  
 
どうにも元気がない様子の咲夜の様子を見て、ハヤテは余計な事と思いながらも、つい口を出してしまう。  
「でも、一つ年上ってだけでそんな我慢しなくても…。咲夜さんだって行きたかったんじゃないんですか?」  
ハヤテがそう言うと、咲夜は先程と違いキッとした目つきで睨みつける。  
 
「じゃあどないしたら良かったねん!ウチがそのまま入ってたらあのアホはどうなる?!  
 …そりゃウチかてナギや皆と一緒の学校が良かった……せやから白皇の試験受けたんや。  
 でも3人しか飛び級枠が無かった。…せやから一番年上のウチが我慢した。それだけや。」  
 
咲夜にそう言われ、返す言葉もなく思わず黙り込んでしまうハヤテ。  
しかしこのまま放っておく事は出来ない。…そう思ったハヤテは、咲夜の頭にそっと手をのせ撫で始めた。  
 
「?!なな…、何すんねんいきなり!」  
「咲夜さんがそんなに色々な事を考えてたなんて知らずに、失礼な事言って申し訳ありませんでした。」  
「ふんッ、…分かったらえぇねん。……って、早よ手どけんかい!」  
恥ずかしそうに頭の上の手を払おうとする咲夜、しかしハヤテはその手を頭から離さない。  
 
「でも、あまり我慢ばかりしてたら疲れちゃいますよ?」  
「う…うるさいわ!一番年上のウチが気張っとかんと、あいつらが困るやろ!」  
「それですよソレ!さっきからその『一番年上だから頑張らないと』…って言うのがどうも引っかかるんです。  
 僕はこれでも咲夜さんより2つ年上なんですから、僕の前ではもっと甘えてもらっても構わないんですよ?」  
 
いままで、長女として妹たちの面倒を見ながら、ナギやワタルの面倒も見てきた咲夜。  
思えば誰かに甘えるなんて、した事が無かったかも知れない。  
だからハヤテに甘えても良いと言われても、いったいどうすればいいのか分からなかった。  
何も言わずに笑顔で自分の頭を撫で続けるハヤテ。そういえば頭を撫でられるなんて何年ぶりだろう。  
悪い気はしない。頭を撫でられる事がこんなに幸せで嬉しい事なんて知らなかった。  
 
「ま…まぁ、なんや。…どうしてもって言うんやったら、…しゃーないから、ちょっとだけ甘えたるわ。  
 …で、甘えるってどうしたらえぇんや?」  
「そうですね……適当にしたい事をすればいいんじゃないでしょうか?」  
「そーか……。」  
 
そう言われ、ハヤテに寄り添い肩に頭をのせる咲夜。ハヤテは突然の事に、思わず手を止めてしまう。  
「こらっ!なに手とめとんねん。しっかり頭撫でんかい!」  
「えっ?!あっ、…すみません!」  
咲夜に言われ、再び頭を撫で始めるハヤテ。しかし、こうも密着されるとドキドキしてしまい、  
更に、胸の開いたドレスと言う事もあってか胸の鼓動は高まるばかり。  
 
「な…なぁ、借金執事……。」  
「は、はい。」  
「キス…してみぃひんか?」  
「えぇぇ?!!」  
 
慌てるハヤテをよそに、咲夜は頭を離しハヤテと向かい合うように座った。  
「確かにさっき、我慢するなっ……とか、自分には甘えろって言うたやろ?」  
「それは言いましたけど…そんな急にキスなんて……」  
「やっぱり我慢せなあかんのか…?ウチは借金執……うぅん、ハヤテとキスがしたい。甘えさせてくれるんちゃうんか?」  
 
真剣な目で咲夜にそう言われ、ハヤテはついに決心した。  
「…それでは目を瞑ってください。」  
 

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