『炎の孕ませ借金執事』  
   その一 〜なぎきす〜  
 
 
 人間の三大欲求とは、当然生きていれば出くわす欲求の中で最もメジャーなものである。  
 おなかがすいたとき。  
 ねむくなったとき。  
 では、最後の一つは、どんなときに生まれるのでしょう?  
 そして、その欲求に対する気持ちがもし急激に高ぶってきたら……  
 しかも、無意識にその欲望に素直になってしまったら  
 ありえないことかもしれない。  
 それでも、在り得ないことが起こる、ということは実はよくある話で――  
 
 
 
 ゆらりゆらりと思考が歪む。  
 何かをしたような気がする。  
 何もしなかった気がする。  
 分からないけど、でも、何か、何かあったような、そんな気がする。  
 何だろう。  
 とても、大事なことのような……  
 忘れちゃいけないような……  
 忘れられないような……  
 あったはずなのに。それなのに、記憶にはモヤがかかっている。  
 それは確か――  
 
「――ん」  
 目をパチリと開く。視界に広がる、いつものお屋敷の、僕の部屋の天井。  
 枕もとに置いた時計を見ると、いつもの起床時間。  
「……古臭い設定のラノベみたいな夢を見ていたような……」  
 うーん、と一瞬考えてみるものの、夢は夢ですよね、と頭の中で整理した。  
 悪夢ではなかった気がしますし。  
 
 そんなことよりも、いつものようにしないと。  
 今日もがんばろう。  
 いつものように身形を整えて、執事服を着込んでいく。  
 着慣れた、執事服。  
 毎日の日課。仕事を頭の中で確認しつつ、脳を活性化させる。  
 今日はまず――  
 と。  
「――ぁ……」  
 ぐらり、と視界が揺らぐ。  
 ドクン、と体内で何かが鼓動する。  
 見えない何かが、体中を伝染していくように、びりびりと痺れる。  
「う……」  
 頭痛にも似た感覚。  
 突然の異変に、対処できない。ただ、頭に手を添えるだけ。そんなことしかできない。  
 苦しい? いや違う。  
 なにかが、なにかが変わる。  
「う……ん?」  
 しばらくの間、変な現象があったものの、戻る。  
 いつもの僕に。  
「あれ?」  
 手をグーとパーを交互にし、首を左右に振って、異常がないのを確認。  
 一気にいつもの自分に戻っていることに気付く。  
 何も変わりはない。  
「おかしいな……」  
 何だったんだろう、今の。  
 こんなこと、今の今までなかった……の……に?  
 あれ?  
 
「そうだ、僕にはやらないといけないことがあるんだった!」  
 そうだ、そうだ。ボヤボヤしている暇なんてないじゃないか。  
 僕は、しないといけないんだった。  
 そう思ったら、急激にしたくなってきた。  
 すごく、都合がいい。  
「それじゃあ、今から始めましょうか」  
 『綾崎メリーランド計画』こと、僕の大作戦!  
 人間の本能に従って、みんなを、妊娠させよう!  
   
 
――  
 
「ん……ぅ……」  
 ドリルを持った男が活躍する、という夢が薄れていき、思考が鮮明になっていく。  
 あー、もう朝か……。  
 だるいなー。今日も一日モンハンして過ごそう……。  
「――さま」  
 耳に届いてくる少年の声。当然、その声の主はハヤテに決まっている。  
 いつものように起こしに来てくれたのだろう。  
 だが、起きたくはない。  
 うむ、太陽ももう少し遅く登ってくればいいのに。  
「――うさま」  
 もう少し人の気持ちを察せ、と言いたい。  
 眠るという行為は人間にとってとても大切な時間なのだぞ?  
 それを邪魔することなど、許されるわけがないというのに……  
「――じょうさま」  
 んー……ん?  
「お嬢さま」  
 声がだんだんと近づいてくる?  
 しかも、もう、今の声は顔の前ほどでは――  
「んっ――――!」  
 唇に触れる、生暖かい感触。間違いなく。唇が、私の唇と重なって――  
「ハ、ハヤっ、んーっ!」  
 目を見開いて、目の前にいるハヤテの姿を確認、  
それで肩を押して距離を置こうとしたものの、  
ぐい、とベッドに押し付けられるようにされて、身動きが取れない。  
 さらに。  
「んぅっ!」  
 
 にゅる、と自分の舌でない舌が口内に侵入してくる。  
「んっんぅ……は……ちゅ……」  
 唾液がたっぷり付着した舌が、口内を這っていく。  
 歯を、歯茎を、舌を、まるでマーキングするかのように、ねちっこく撫でていく。  
「ちゅ……んん……ちゅぅ…んちゅ…ぅっ」  
 最初はパンパンとハヤテの背中を叩いていたが、だんだんとそれも弱くなっていく。  
 とても、気持ちがいい。  
 ハヤテ――。  
 思えば、こうなることは私が望んでいたことではないか。  
 ハヤテはいつまでたっても、キスの一つもしてくれなかった。  
 かといって、自分からするのも恥ずかしいのだ。  
 それに……、ハヤテからしてほしかった。  
 だから、悶々とした日々が続いた。  
 だから、これは喜ぶべきことなのだ。  
「んっ……ちゅぅぅ、…んっ……ん」  
 私からも、舌を絡める。  
 やり方はしらない。  
 なにしろ、こういうことには慣れてないのだ。  
 でも、ハヤテは上手。  
 気持ちが良くなってくる。  
 キスがこんなにも気持ちが良いものだとは知らなかった。  
 だから、あんなにもアニメや漫画ではキスをするのか?  
 と、そういうことは考えている場合では――  
「はんっ――ちゅ、ん、ん、んちゅ、んぅ…」  
 舌が吸われる。  
 今度はハヤテの口の中に私の舌が入っていく。  
 ハヤテの体温に包まれた舌が、とても心地よい。  
 ハヤテの味が、染みてくる。  
 
「んっん……ちゅぅ……ん……んちゅ…んっ…んゅ……」  
 気が狂ってしまいそう……だ。  
 舌だけが包まれているというのに、まるで全身がハヤテに包まれたような  
 そんな感覚が、体中に満たされる。  
「ん……ちゅぅ……んん」  
 熱い。  
 体の奥底から湧き出てくるような熱を感じる。  
 頬はもう真っ赤なのだろう、な。  
 そう思った瞬間、  
「ん……」  
 ハヤテの唇が、離れた。  
「あっ……」  
 少し身を前に乗り出して、その唇を追うも、逃げられる。  
 視線を、ハヤテにあてる。  
「お嬢さま……」  
 ハヤテが私の手を握り、その手を――  
「ハ、ハヤテっ!?」  
 股間へと押しつける。何をする――と言おうと思ったが、  
 その言葉は出てこなかった。  
 あつくて、おおきくて、かたい  
 手に当てられたものの感触は、それだった。  
 これは、その、つまりだな……  
「お嬢さまにキスしていたら、こんなにもなってしまいました」  
「あ、ああ……」  
 その、いわゆる、なんだ、ボッキというものではないか。  
 つまり、私とキスをして、興奮して……。  
「お嬢さま――」  
 私の手を解放させ、ぐい、と押し倒してくる。  
 す、するのか?  
 その……セックスとかいうやつを……。  
 ここで『えっちするのか?』と聞くのは雰囲気ぶち壊しだ。  
 よく分からないが、そういう、流れなのだろう。  
 う、ううむ……。  
 私はまだ処女だ。  
 でも、ハヤテになら……。  
 
「……優しく、してくれ」  
 といっても、怖いものは、怖い。  
 ハヤテと繋がりたい。  
 でも、その、破瓜というものは痛いと聞く。  
 それが少しばかり、躊躇いのもとになる。  
 でも、我慢しなければ、と自分に言い聞かせる。  
 ハヤテとの愛を育むためには、避けられない道なのだ。  
「では――」  
 気づいたら、いつの間にか下半身は露出させられていた。  
 は、早――と思った刹那、  
 くちゅ、と私の秘部にハヤテの指先が触れる。  
「んっ……」  
 意識せずとも、声が出てしまう。  
 自然と、体が震えてしまう。  
「だいぶ濡れてますね…」  
 では、とハヤテがジッパーを下ろし、中から大きい棒状のものを取り出す。  
「う、うおぉ……」  
 お、大きい……!  
 な、何なのだ、あれは……。  
 赤くもないのに、想像の三倍以上もあるぞ……!  
「いきますね」  
「ちょ、ちょっとま――」  
 ずん! と体が揺れると同時に股が引き裂かれるような痛みが全身を駆け巡る!  
「ったぁっ!」  
「お嬢さま! 力を抜いて!」  
 抉られる! 抉られてる!  
 そんな風に思った痛みも、ハヤテの言葉でだんだんとおさまっていった。  
「はぁ……はぁ…っ」  
 入っている。  
 ハヤテのモノが、私の中に……。  
 熱い。  
 大きい。  
 でも、体も心も満たされている。  
「お嬢さま、もう我慢できません」  
「え?」  
 痛みも引いてきた、と思った瞬間に、ハヤテが私の耳元で囁く。  
 我慢、ということは。  
 確か、この行為は――  
 
「っ!」  
 目の前で火花が散るような気がした。  
 一番奥を、亀頭の先端で突かれたのだ。  
 子宮をずんずんと突かれ、全身にその衝撃が伝えられる。  
 最初は痺れるようなもの。しかし、  
「は、ぁっ……んっ、あ、あっ、んんっ!」  
 だんだんと、その感触は気持ちいいものへと変わっていく。  
 なんだ、これ……!  
 気持ち、いいでは、ないかっ。  
 未経験の快感が、私の体に響いていく。  
 初体験だというのに、女としての気持ちよさを覚えていく。  
「ぁっ! ひっ! お、おおきぃっ!」  
 自分の膣内を出入りするモノの大きさを改めて実感する。  
 カリによって膣肉が抉られているのがわかる。  
「んっ! あっ! んぅ!」  
 容赦なくピストン運動が激しくなっていく。  
 それに、身悶えしてしまう。  
 気持ちが良い。それと同時に、心地よい。  
 自分がハヤテによって気持ち良くされているのが。  
 自分によってハヤテが気持ち良くなっているのが。  
 見れば、分かる。ハヤテの息はだんだん荒くなってきている。  
 これは、つまりハヤテも気持ちよいのだ。  
 試しに、下腹部に力をいれてみる。  
「くっ……!」  
「ど、どうだハヤテ? わ、わたしのなかはどうだっ?」  
「き、きもちいいです、お嬢さま。キツくて、熱くて、最高です!」  
 悦び。その感情がさらに気分を昂ぶらせる。  
 自らもハヤテの動きに合わせて、腰を動かす。  
 腰と腰がぶつかりいやらしい水音がする。  
「ぁっ、ふっ! んっ! ああっ!」  
 子宮口と亀頭の先端がぶつかる度に、ダイレクトな快感が訪れる。  
 その快楽に溺れてしまいそうになる。  
 頭の中がぐちゃぐちゃになる。  
「ひゃっ、ふっ、あぁっ!」  
 
 こんなにもセックスが気持ちいいものだとは思わなかった。  
 こんなにも甘美で、こんなにも癖になってしまいそうなものだとは。  
 毎日でもしたくなる。  
 毎日、こうやって犯されたい。  
 そうされたい。  
「ぁぁん! んっ! ん! ひゃっ!」  
 快楽の波は止まることを知らず、私を揺らし続ける。  
 もう、何も考えられないではないかっ!  
「ん! ぅ! あ! ふぁ!」  
 腰をくねらせては、突く。テンポが遅くなったかと思えば、さらに速めてくる。  
 もたらされる快感は、言葉では表せない。  
「んぁ! いっ! ん! ん! いい! いいよぉ……!」   
 キュウキュウとハヤテのモノを締め付けると、ハヤテが、  
「そろそろ、イきます……」  
 と言ってきた。  
 イク。つまり、射精!  
 このままだと、膣内で射精され、たっぷりと精液を子宮に流し込まれる。  
 そうしたら、妊娠してしまうではないか…!  
 でも。  
 今はもう、射精して欲しかった。  
 ハヤテの精液を注いで欲しかった。  
「だ、出すのだ、ハヤテッ! は、ぁぁっ!」  
 奥をかつてないほど強く突かれ、身震いした瞬間!  
 ドクン!  
「は……ふ……あ…、出て、る……っ」  
 
 ドクドクとハヤテのモノが脈動し、熱い精液が子宮に注がれているのが分かる。  
 一番奥にたっぷりと。  
 妊娠してしまうかもしれない。  
 でも、嬉しい。  
 すごく、嬉しいのだ。  
「はぁ……んっ……ちゅ」  
 ハヤテが私に軽くキスをする。  
 幸せ。  
 じんわりと広がってくる幸福感。  
 あたたかい。  
 こういったものを、私は感じたかったのだ。  
 好きな人のぬくもり。  
 これほど、嬉しいものはない。  
「ハヤテ……」  
 性行為を終え、私は確かな気持ちを感じていた。  
 ハヤテと出会い、ハヤテを執事にし、今まで暮らしてきた間。  
 ずっと、心の中にあった気持ち。  
 誰よりも、強いと思っている、大切な想い。  
「大好きだぞ、ハヤテ」  
 
 
――  
 
「まずは、お嬢さま、と」  
 僕は身なりを整えて、お嬢さまの部屋を退出する。  
 もう、用は済んだから。  
 お嬢さまの子宮に子種をどぷどぷと。  
 だから、もう次にいかないと。  
 次の女の子を、妊娠させないと。  
 時間が限られているってワケじゃないけど、のんびりしているのもよくないわけで。  
 それに、僕ならできる。  
 できることは、やらないと。  
「それじゃあ、次は――」  
 僕は、ワクワクドキドキする心を抱えて、走り出した。  
 次は、お屋敷の中にいる――マリアさん。  
 
 
『炎の孕ませ借金執事』 その二 〜メイドさんと大きなアレ〜に続く。  
 
 
 

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