ハヤテが歩と付き合う事になってから2週間後、ハヤテは休暇を貰い二人はようやく初デートをする事となった。
しかし張り切りすぎた歩は、待ち合わせ場所に30分も早く到着してしまう。
「ちょっと早く来すぎちゃったかな?…えっと、待ち合わせ場所は……って、ハヤテ君?!」
「あっ、西沢さん。おはようございます。」
そう言ってにっこり笑って挨拶するハヤテ。…話によると、ハヤテは2時間前からこの場所にいたらしい。
「い…いくらなんでも2時間も前なんて早すぎじゃないかな?」
「えっと……実は昨日の夜から緊張してあまり眠れなくて…つい早く来すぎちゃいました。」
「そうなんだ……あのね、私も昨日はあんまり眠れなかったんだよ?…エヘヘッ…一緒だね。」
二人は2週間ぶりの再会に、なんだかギクシャクしながら街へと歩き出した。
最初にやってきた所は、歩おススメのアイスクリーム屋さん。
普通サイズのアイスを食べるハヤテの横で、歩は3段にも積み重ねられたアイスクリームを美味しそうに食べている。
「ここのアイスはね、バニラとイチゴとチョコミントがすーっごくおススメなの!」
「…それで3つ重ねちゃったんですね。」
「うん。私ここのアイスなら5段でも6段でも食べれちゃうんだ♪」
そう言いながら歩は、あっという間に積み重ねられたアイスをすべて食べてしまった。
「…ん?西沢さん、ほっぺたにクリームがついてますよ?」
「え?……んー…と、…ハヤテ君が取ってくれるかな…。」
周りに人がいない事を確かめると、歩は目をつむってほっぺたをハヤテの方へ向ける。
するとハヤテはポケットからハンカチを出すと、歩のほっぺについたクリームを綺麗に拭きとった。
「はい、綺麗になりましたよ。」
「うぅ……もぉー、ハヤテ君ってば本当に空気がよめないんだから…っ!」
歩に言われた通りクリームを拭きとったにも関わらず、何故か怒られてしまうハヤテは、
いったいどうして自分が怒られたか理解できない表情をしている。
「あの…僕何か悪い事しましたか…?」
「それは…その、……こう言う時は普通、ハヤテ君がペロッ…って舐めてくれたりするんじゃないのかな…?」
「そ…そうなんですか?!すみません、気がつかなくて…。」
ハヤテが真面目に謝ると、今度は逆に歩が慌て始めた。
「え?あの、そんなに気にしなくていいよ。…じょ、冗談みたいな物なんだから!それより次のお店に行こッ!ねっ?」
そう言って二人は次のお店へと向かった。
「次はここだよ!ここの肉まんもすっごく美味しいのっ!ハヤテ君はちょっとここで待っててくれるかな?」
歩はハヤテの返事を待たずに肉まんの売っている店へと走り出した。
「ここで食べ物屋は5件目だけど…西沢さん良く食べるなぁ……。」
ハヤテが歩の姿をそう思いながら見ていると、歩は両手に持った肉まんを嬉しそうに上にあげ、ハヤテの方へ急いで戻ってきた。
「ハヤテ君、おまたせ!これがあの店の肉まんだよー。」
「そんなに急いで…車に気を付けないと危ないですよー!」
「アハハッ、平気だよ、ハヤテ君じゃあるまいし。」
そう言って笑う歩…しかし、突然曲がってきた車が、歩の方へすごいスピードでやってきた。
「西沢さん!危ない!」
「…え?……うわぁ!!」
いきなりの事に思わず目を閉じてしまう歩。
しばらくして恐る恐るゆっくりと目を開くと、歩はハヤテの腕に抱かれていた。
「大丈夫ですか?西沢さん。……まったく、車の運転手は何を考えているんでしょう。」
「あっ…えっと、あの……人も見てるし…そろそろ降ろしてくれるかな…。」
「え?…あっ、すみません!」
気がつくと、二人は周りの人の注目の的。
ハヤテの腕から降ろされた歩は、恥ずかしくて顔を真っ赤にしている。
「あ…ありがとう。」
「いえ、…でも道を横切るときはちゃんと車に気を付けないとダメですよ?」
「うぅ…っ、ハヤテ君にそんな事言われるなんて思っても無かったかな…。
あっ、そうだ!肉まん買ってきたよ!一緒に食べよっ……って、あれ?…肉まんは……」
歩の両手には、持っていたはずの肉まんは無くなっており、道には車に轢かれて変わり果てた姿の肉まんが転がっていた。
「あぁー!!…私の肉まんがぁ……」
「すみません、そっちまで気が回らなくて……そうだ、今度は僕が何か御馳走しますよ!」
それを聞いた途端に歩の目がランランとし始めた。
「ホントかな?!…私この近くに美味しいケーキのある喫茶店知ってるんだ!」
「ではそこでケーキを食べましょう。」
「うん!」
こうして二人は近くの喫茶店へと向かった。
「すみません。ここに書いているケーキ全部下さい。」
歩のこの注文にハヤテはギョッとする。
「そ…そんなに食べれるんですか?」
「え?…普通は全部頼まないのかな?」
この言葉を聞いて、ハヤテは歩が普通の女の子ではない事に気づいた。
「んー、おいしぃ〜♪…ハヤテ君もどんどん食べてねっ!」
「はい……それにしても西沢さん、本当によくお食べになりますね。」
「あむっ…もぐもぐ……それって、どう言う事かな?」
「その…よくそれだけ食べてあの体型を意地出来てるなー…と感心してたんですよ。」
ハヤテがそう言うと、歩はケーキを口に運ぶ作業をピタッと止める。
「…あの体型……?」
「だから…その、この前西沢さんの裸を見た時に……すごく綺麗な体だったものだから何かスポーツでもしてるのかなぁ…と、」
すると歩の顔はみるみる赤くなって、思わずフォークを机に落としてしまった。
「ななな…なんでそんな恥ずかしい事言っちゃうかなぁ!…あの時の事は忘れてって言ったのに…っ!
だいたい…私は記憶の戻ったハヤテ君とはキスどころか手もつないでないんだから…そんなエッチな事考えちゃダメじゃないかな!」
「に…西沢さん、少し声が大き……」
「…?」
興奮して席を立っていた歩が周りに目をやると、肉まんの時よりも多くの突き刺さる様な視線を浴びている。
慌てて残されたケーキを口に詰め込む歩。そしてすべて食べると慌てて喫茶店を後にした。
「もう、ハヤテ君が変な事言うからケーキがどんな味だったか良く分からなかったよ。」
「すみません…。」
ハヤテが謝ると、二人の間をなんとも言えない重い空気が覆っている。
このままではいけないと思ったハヤテは、様子をうかがいながら口を開いた。
「あの…西沢さん?」
「……なにかな?」
「手……つないでもよろしいでしょうか?」
「え?……えっと、…うん。いいよ。」
そう言って歩が手を差し出すとハヤテは軽く手を握り、すると歩の機嫌も急に良くなっていった。
「ハヤテ君のタイプの女性って、普通の女の子なんだよね?」
上機嫌になった歩の口からでた突然の言葉に、ハヤテは少し考えて答えた。
「そうですねぇ…少し前まではそうでしたけど、今は少し違いますね。」
すると今度は歩がその言葉を聞いて慌て始める。
「え?!変わっちゃったのかな?」
「えっと…基本的には同じなんですが、追加要素として、顔が可愛くて・性格がよくて…あと少しくいしんぼうな子…ですね。」
「えぇー、…顔が可愛くて性格が良くて……うぅぅ…ちょっとハードルが高すぎるんじゃないかなぁ…?」
何も気づかない歩の姿を見て、ハヤテはおかしくてつい笑ってしまう。
その様子を見た歩は、意味がよく分からないと言った困惑した様子でハヤテの顔を覗き込む。
「え?…なにかな?なにが可笑しいのかな?」
「いえ、そんなに困らなくても、西沢さんはそのままでも十分すぎるくらい条件を満たしていますよ?」
「それってどう言う事…かな?」
「可愛くて・性格も良くて、くいしんぼうで…でもどこか普通で落ち着けて……そんな西沢さんが大好き…って事ですよ。」
ハヤテにそう言われ、顔が真っ赤どころか、歩の頭からは湯気がでている。
歩は慌ててその湯気を払うように頭をバッバッと払い、ハヤテに反撃を試みる。
「ハ…ハヤテ君こそ、いきなり手をつなぐなんて…どう言うつもりかな!」
慌てて口に出したが、いまいち繋がっていない会話にハヤテは首をかしげている。
「手…ですか?」
「そ、そうだよ。…喫茶店であんな話をしてすぐに手をつなぐなんて…
ハヤテ君は手をつないで、早くキスをして……それで私とエッチな事したいと思ってるんじゃないかな?」
突然のこの発言に、ハヤテどころか歩まで更に顔を赤くしてしまう。
「そ…そんな、僕はそんなつもりは……」
「…つもりは無いの?……私とエッチな事したくないのかな?」
「それは……一応男ですから、無いと言えば嘘になるって言うか……と、とにかく今はそんなつもりで手を握ったわけでは…っ」
そんな慌てるハヤテを見て、今度は歩が笑ってしまう。
「あははっ、ハヤテ君は本当に正直なんだから。……でもハヤテ君のそう言うところ…好きだよ。
その、…私は……いつでも…心の準備はできてるから。」
「?それってどう言う意……」
「ほ…ほら、早く次のお店行くよ!緊張したらお腹すいちゃったよ。」
「えぇ?!まだ食べるんですか?」
こうして二人は次の店を求め、人ごみの中へ消えていった。
おしまい。