ナギの目の前の机の上には、ハヤテお気に入りのオカズ本が、その中でも一番頻繁に“お世話”になっているページが開かれて置かれている。  
 
「(はやく、気持ちよくなれ‥‥。)」  
とにかく、滑るショーツの上から秘花の花弁を摩る。  
とにかく、その硬化の度合いを確かめながら乳首を捏ねる。  
すぐにでもシャワーを浴びて下着を清潔なものに換えたいが、眼前の唯一無二のチャンスも逃したくない。  
『気持ちの昂り』と『身体の反応』のアンバランスさは、さながら、渋滞に巻き込まれた自動車が小刻みな発進・停止を繰り返すが如くだ。  
しかし、それでもナギはがんばった。  
 
「‥‥、ん‥‥ッ!」  
ようやく、少女の中心に火が付く。  
自室でのひとりHは主に漫画の執筆に使用している机でしていたから、今の体勢とほぼ同じであり、点火に成功しさえすれば、それを全身に広げるのは容易かった。  
少女の脳内では、ハヤテが執事服の上着を脱いだ格好でこの机に着き、目の前のこのページを獣のようにギラギラした目で見つめながら、  
ズボンの開かれたジッパーから力強くグッと突き出している、逞しく張り詰め脈打ちつつ反り返る深い赤に染まった分身を、しっかりした作りの指でリズミカルに扱き上げていた。  
キュロットの開かれたジッパーに差し込まれた細い指はくねくねと蠢き、そこから立ち昇る生々しい性の匂いが少女の性感を否応無く亢進させる。  
乳首への刺激も、リズミカルに先端を摘む、軽くピンと弾く、乳輪のみをくすぐる様になぞる等に変化し、更に乳房全体も、少女の掌によって、さわさわと撫ぜられ、ぐにぐにと揉まれ、きゅっきゅっと握られた。  
 
少年の指の動きが激しさを増す。分身は一層膨れながらひと脈ごとに反り返りの度合いを強め、亀頭の縁が赤黒く膨れ上がり、竿の表面のあちこちには黒味がかった静脈がうねりながら幾筋も浮かび上がっている。  
少年は、顔を顰め、奥歯を食い縛った。  
ハァハァと上がる息が甘く熱を帯び、心地よい緊張感がじわじわと少女の腰に蟠り始める。  
再び淫蜜を溢れさせ始めた秘所から立ち昇る性の匂いはより濃く強く香って少女に自分が雌であることを自覚させ、桜色に色付いた肌理細やかな肌はしっとりと汗に湿り、それまで以上に甘酸っぱい芳香を放った。  
少女の足首は、脛と足の甲が一直線になるほど力を込めてピンと伸ばされ、つま先のすべての指が何かを掴んで離すまいとするかのように、ぐいっと内側に強く曲げられる。  
「(‥‥もう、限界なのか‥‥?)」  
 
ここで少女は『妄想劇場』の監督兼支配人兼興行主の地位を最大限に活用して、極めて大胆な行動、いや、妄想に出た。  
少女は、もう限界間近の少年の太腿を跨ぐようにして向かい合って座り、その怒張を自らの淫蜜が滴り濃い紅に染まった秘花の中心に導き入れた。  
少年は逞しい腕を少女の背中に回して少し自由度をもたせて支えつつ、その下半身を、これでもか、これでもか、と言わぬばかりの激しさで打ち振る。  
もはや一個の独立した生物と化して猛り狂う分身が、彼の胴体を抱えるように両手両足を絡めて必死にしがみ付く少女の熱く蕩ける膣内を、遠慮も会釈もなく奔放に暴れ回る。  
「(‥‥、も‥、もう‥‥、イクぅ‥)」  
白く細い指が、緋色に燃え上がり淫蜜をトクトクと湧出させる膣の入り口の内壁を執拗に執拗にぐにぐにと揉む。  
まだまだ発展途上だがそこがチャーム・ポイントでもある小振りの乳房は、少女自身の手によって変幻自在にその形を変える。  
少女の華奢な身体がフルフルと細かく震えだす。  
心地よい緊張がぐんぐんと高まって高まってそして高まりきり、次の瞬間、意識が、ふっと途切れる。  
ややあって、淫蜜に塗れた秘芯がヒクヒクと痙攣を始め、それが先ず腰に、更に全身に伝播する。  
艶かしく濃い雌の匂いを発する身体を不規則にガクガクと振るわせながら、少女の二回目の絶頂を迎えた。  
 
少女は、すっかりくたびれてしまった。  
意識が明瞭になり、荒かった息遣いが落ち着きを取り戻してから暫くたっても、一向に強い気だるさは去らなかった。  
 
漫画の懸賞の応募となると寝食を忘れてしまうナギは、応募期限が迫っている上、昨日の夕方以降、興が乗って筆が止まらなくなり、一睡もせずに朝を迎えた。  
マリアが三千院の本家に出かける前に、夜食と朝用にとサンドウィッチとおにぎりを用意してくれていたので空腹に悩むことは無かったが、さすがに今頃の時刻ともなると睡魔がそろそろと忍び寄る気配が感じられた。  
しかし、ここで一気に描き上げてしまいたいナギは、気分転換にと緑豊かな邸内を一望できるバルコニーへと向かったが、途中で熱い紅茶を持参しようと思い立ち、  
方向を転じてティーセットをとりに厨房へと向かう途中、ハヤテの居室のドアが開けっぱになっているのを発見し、今に至るわけである。  
 
時間的にも、体力、気力の面でも、そろそろ潮時、最終的な片付けに入るべき時間が来た。  
少女は、もそもそと身繕いを始める。  
先ず、キュロットのジッパーを上げ、次にTシャツの乱れを直した。  
件の本を引き出しの中へ元通りの順番に並べながら仕舞う。  
次いで引き出しを施錠したのだが、ここで腹立ち紛れの小さなイタズラを仕掛けた。  
先ほど閉じたばかりのジッパーを再びジジジと開けると、鍵の頭、つまり指でつまむ部分をその中に差し込んで、秘蜜が滲むショーツの表面を2、3回軽く撫でた。  
少女は、鍵の柄を摘んで微かに滑るその頭を睨み付ける。  
「ふん!これで、安い女共に手を出す前には、必ず私に触らなければならなくなったわけだ!」  
『間接キス理論』の、簡単かつ素朴な応用である。  
 
 「ふぅ〜‥‥」  
ナギは、背中を椅子の背もたれに預けて、思い切り伸びをした。  
マリアの栄養管理のおかげで基本的な健康状態には何の問題も無かったが、引き篭もり生活のせいでスタミナは皆無であり、  
さすがに徹夜の創作活動明けの激しい電撃のような2回の絶頂は、文字通り骨身に堪えた。  
「うーん‥‥」  
思わず、机に突っ伏す。  
創作活動に疲れた時のいつもの姿勢だ。  
しばらくすると、少女は規則正しい静かな寝息をたて始めた。  
 
 
「はい、はい‥‥。たぶん、寝ていらっしゃるんでしょう、昨夜は徹夜だったみたいですから。では、そのようにお伝えします。」  
下校中のハヤテの携帯電話に、マリアから着信があったのは、ついさっきだ。  
帝が、クラウスとマリアに、どうしても晩餐を共にしてゆけといって聞かないらしい。  
帰還が遅くなるという連絡をナギの携帯に入れたのだが、ナギが出ないとのことだった。  
「お任せ下さい!お嬢様の疲れが吹き飛ぶような美味しいものを拵えますから!‥‥はい、分かりました。では。」  
ナギに夕食を作ってやって欲しいこと、自分が添い寝しないと寝られないナギのためにもなるべく早く帰ることをハヤテに伝えて、マリアからの電話は切れた。  
マリア達の行動予定の変更を、一刻も早く我が主人に伝えねばならない。  
だが実は、ナギの携帯は彼女の部屋の机の上で描きかけの漫画の原稿に埋もれていたのだ。  
そんなことを露ほども知らない少年は、歩を速めた。  
 
 
屋敷に帰ったハヤテは、お嬢様、お嬢様、と呼び掛けながら、心当たりの場所を訪ね歩いたが、主人の姿はどこにも無い。  
ひょっとすると、気晴らしの散歩がてら、ワタル君のレンタルビデオ店に面白そうなDVDでも探しに行ったのかも知れないが、ともかく、携帯電話の不通を何とか解決しなければならない。  
「(とりあえず、ワタル君に電話を入れてみよう。)」  
その他にも考え得る主人の立ち回り先に思いを巡らせながら、少年は自室のドアノブを捻った。  
「あれ‥?」  
鍵が掛かっていない。  
「(ああ、そうだった!)」  
今朝、ちょうど部屋を出て施錠した直後、桂先生から「講師の都合で補習の内容が一部変更になったので、もし今からでも取りに戻れる者は、  
以下に指定する資料集を持ってくるように」との連絡メールが届いたので、再び鍵を開け、部屋に入ったことを思い出した。  
きっと再び部屋を出たとき、かけ忘れたのに違いない。少年は、そのままドアを開けた。  
 
「わっ!」  
如何に数々の修羅場を掻い潜ってきたハヤテとはいえ、自室に入った途端、机に自分の主人が突っ伏しているのを発見すれば、びっくりせざるを得ない。  
「おっ、お嬢さ、‥‥ま‥‥?」  
ハヤテは通学鞄を持ったまま、慌てて少女のもとに駆け寄る。  
幸い、少女の外見に特段の異常は認められない。その背中はゆっくりと上下しており、顔からは力が抜け切っている。  
「寝ていらっしゃるのか‥‥」  
少年の表情が見る見るうちに緩み、優しい微笑みに変わる。  
ナギの奇行は何時ものことであり、徹夜明けで疲れた人一倍寂しがり屋の少女が、この広大な館で一人きりの午後の寂静に耐え兼ねてこの部屋にさ迷い込んだとしても、別段不思議は無い。  
 
安心した少年は、ふっと、部屋の空気の違いに気付く。  
少女の匂いが、濃い。  
少女がこの部屋を訪れてから、かなり経つようだ。  
少年は、考えた。  
館内は空調完備だから風邪を引くということは無かろうが、しかし、徹夜の疲労と眠気を解消するならば、着替えもせずに机に突っ伏した窮屈な姿勢で眠るより、  
シャワーなり入浴なりをして、寝巻きに着替えて自室のベッドで休んだほうが遥かに良いだろう。  
しかし、これ程“爆睡”状態で寝入っているものをここで下手に起こして入浴などさせれば、目が冴えてしまって再び眠れなくなってしまう可能性があった。  
「(さて、どうしたものか‥‥)」  
とにかく、少女の身体に何かをかけてやる必要がある。  
この執事服の上着では失礼だし、かといって毛布では暑いかも知れない。  
ならば、と、ベッドに歩み寄ると、足元に畳まれている掛け布団に手を掛けた。  
その上に載せられているパジャマ ― そう、例のパジャマである ― を横へ置くと、掛け布団を厚手の上掛けとシーツとに分離する作業に入る。  
シーツであれば、暑すぎるということはないだろう。  
なるべく音を立てぬようにはしていたが、何時もであれば机の横のフックに掛ける通学鞄をベッドの上に置いたことを忘れていたため、シーツに引っ掛かって、鞄がバタッと床に落ちた。  
 
 「‥‥、む‥‥。」  
その音で目を覚ましたナギが、ゆっくりと上半身を起こす。  
「あ、お嬢様、お目覚めになりましたか?」  
「ふえええっ!!」  
背後からのハヤテの言葉に、今度は少女が飛び上がった。  
大慌てで振り返れば、ハヤテはベッドの横でシーツの塊を抱えたままにっこりとこちらに微笑みかけている。あのパジャマも移動されていた。  
「ハッ、ハヤテッ!」  
固まる表情筋。バクンバクンと波打つ心臓。詰まる呼吸。瞬時に耳たぶが燃えるように熱くなった。  
「おっ、おっ、おっ、おかえりっ!!」  
「起こしてしまって、っていうかビックリさせてしまって、申し訳ありません。」  
そっとシーツをベッドの上に置き、少年は微笑みながら少女に歩み寄る。  
「マリアさんから連絡があって、お二人共、帰りがちょっと遅くなるそうです。帝様から、晩餐のお誘いがあったとのことで‥‥」  
 
ハヤテがパジャマとベッドの異変に気付いていないらしいこと、そして、帝の名が出たことでナギは少し平静を取り戻した。  
「あの爺!もしや、マリア達に一服盛るつもりか?」  
アハハハ、と苦笑を返しながら、少年はシーツと上掛けを再び元通りに組み合わせ始める。  
「そういうわけで、御夕食は僕が作らせて頂きます。ご希望の献立があればおっしゃって下さいね。それまで、シャワーかお風呂でサッパリなさったらいかがですか?  
徹夜明けで、お疲れでしょうから」  
「あ、ああ。じゃあ、そうさせてもらう。」  
そう言ってはみたものの、ハヤテがベッドでの作業を終えて、その関心が他所へと移ったことを確認するまでは、少女は気を緩めることなど出来ない。  
 「夕食の支度を、私も手伝おう」  
ハヤテが掛け布団を整え終えたのを見計らって、ナギが声を掛ける。運が良ければ、少年の意識がパジャマにのみ集中することを阻止することができるはずだ。  
「はい!‥‥、あっ!いえいえ、お疲れのお嬢様にその様な‥‥」  
少年は無造作にパジャマを取り上げて畳み直した掛け布団の上に置いた後、少女に向き直って胸の辺りで両掌をこちらに向けて振る。  
少年としては、少女の疲労とその家事一般に対するセンスの無さに思いを致しての辞退だったが、少女の目論見は見事にその目的を達した。  
 
 「それで、御夕食は何をお召上がりになりますか?」  
少年は料理の腕前も超一流であり、それに、少女としては少年が自分のために作ってくれるものなら何でも嬉しく、又、彼と二人きりでの食事であれば、真冬の真夜中、吹き曝しの寒空の下で食べる冷めかけのカップラーメンと、  
最高級ホテルの展望レストランを借り切りって生の弦楽合奏を聴きながら食すフルコースとの間に、何の違いも無かった。  
そして何より、さっきまでの淫らな一人遊びの発覚が一応ながらも回避できたことに少女は心底安堵していたから、ついこの間食べておいしかったメニューを思いつくままに口にした。  
「ハンバーグ。」  
なーんだ、などと思ってはいけない。  
なんといっても、“三千院家のハンバーグ”である。  
主たる素材の牛肉・豚肉は、客の年齢や嗜好に合わせて、低温で一定期間熟成させた部位別の塊から必要なだけ切り取り、それを調理開始直前に挽いて混ぜ合わせる。  
繋ぎのパン粉も、小麦の産地から一旦パンとして焼き上げる際のその焼き方まで、フライの衣用とは別仕立てであった。  
 
 「かしこまりました、お嬢様。」  
そこに承諾の意味が込められていようと、問い掛けとしてであろうと、或いは警告としてであっても、  
少女にとって少年からの「お嬢様」という呼び掛けは、その甘い声音と思いやりの篭った抑揚とが相俟ってとても耳に心地よいものだった。  
だが、その次の台詞が事態を意外な方向へ誘うことになる。  
「ですが、今日こそは、グラッセしたニンジンをお召上がり下さいね」  
 
 

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