「自分、放置プレイって知っとるか……?」
その日、綾崎ハヤテは、ただでさえ不幸な人生の中でも、最悪の部類に入る受難続きの
一日だった。
「えーと、一般的な用法の方であれば『敢えてネタをスルーすることによって笑いを取る』
漫才、お笑いの手法のことでしょうか……」
影で何のイベントが進行していたのか朝からお嬢様の機嫌はマイナス突破しているし、
分けもわからず乗せられたクルーザーは爆破、沈没するし、頭から流血したまま冷水に
放り込まれたあげくサメ二匹に襲われるし、少しは頑丈だと思っている自分の体も今日
ばかりはもう無理です限界ですフェニックスの尾をくださいと思ったものだ。
「そうや。ウチ、これはあんまり好きやないねん。ツッコミが対して努力もせえへんでも
笑いに繋がるっちゅーんは、ボケに対する不義であり怠慢や」
「は、はぁ…」
「でな。結局ウチが何を言いたいかっていうと…」
それでも、なんとか無事(?)生還し、波乱の一日もやっと幕降ろしかと思ったのだが…。
「なんでウチの服装に誰ぁれもツッコまんねーーーーーんっっ!!」
…まだ、不幸はハヤテを寝かせてはくれないようだった。
『ラヴリー・チェーン』
咲夜は、クルーザーパーティの時の衣装のままでハヤテのベッドのそばに立っていた。
インディゴブルーをベースに、幾重に重なったフリルが特徴的な可愛いドレス……、
だが、何よりも目を奪うのは、首に巻かれたチョーカーと左手首のブレスレット――と
言うより手錠にしか見えない――を繋ぐ1本の鎖だった。
ジャラリと音を立てるそれを掴み前に突き出して咲夜はまくし立てる。
「なんでやねん!? 首輪やで? 鎖やで? フレームの右下から指差しで斜め45度に
飛び出してきて『って何のプレイですかー!』ってつっこんで来るところちゃうん!?
そこまでやらんでも『すごい衣装ですね』の一言くらいないんかい!」
「あ、やっぱりツッコミ待ちだったんですね。お嬢様もマリアさんも何も言わないから、
僕もここは黙っておくべきかなあと……」
「ナギも自分もほんまにぃ!」
「や、でも蜘蛛の巣界隈や某匿名掲示板では大反響だったみたいですよ?」
「そんな陰で言われてもちぃとも嬉しゅうないわ!」
「それは……」
あはは、と苦笑いを浮かべるハヤテ。まあ要するに、ちょっと奇抜な服装をしてきた
のに誰も構ってくれないから拗ねているんだろう。
「……で?」
「はい?」
「せやから、自分……、ハヤテは、ウチのこのカッコ見て、どう思うたんや?」
口を尖らせながら、少し浮ついたトーンで問いかける咲夜は、心なしか少し顔が赤い。
「ええと、いや、もちろん可愛いと思いますよ。咲夜さんによく似合って……」
「そ、そうやのうて!」
ツカツカツカと荒々しい足取りでベッドに近づいてきた咲夜は、そのままハヤテの
横にどかっと腰を下ろして、にゅっと顔を寄せてきた。
首もとの鎖が、チャキと乾いた音を立てる。
「そうやのうて……、ハヤテは、こういうカッコしてるウチを見て、どんな気分に
なったんや……?」
目の前で、恥じらいながら呟く咲夜の顔は、すっかり上気している。
ああ、そうか。この人は拗ねているんじゃない。
求めているんだ。綾崎ハヤテからの言葉を。
「……ええ、とても魅力的で、ちょっと、その、いけない気分になっちゃいました」
「……ふふ、そうか。いけない気分になったかハヤテは」
猫のように口をにんまりと歪ませると、咲夜は体をさらにぐっと寄せて、すっと
目を閉じ、そのまま唇を――
「だめですよ」
「むぐっ!?」
5センチ先に迫った咲夜の顔との間にシュビッと手を差し込むと、ハヤテは咲夜の
唇をそのまま押しのけた。
「なっ、なんやねん、いま絶対そういうムードやったやんかぁ!」
「駄目です。キスなんて、僕たちみたいな年齢の人間がそう妄りにしてはいけません」
「オヤジくさぁ……。それに、妄りにも何も、ウチらもうすっかり『いたして』もてるん
やけど?」
「ぐ……」
そうなのだ。何の因果か勢いか、ハヤテと咲夜は先日の突発的なイベントで急接近、
しかも勢い余って抱き合ってしまったのだ。
事の詳細は省くが、一行で表すならば、
『2人で探検や危ないえっ咲夜さんってこんなに女の子ナギごめんなあっあっあっ』
といったところである。
その後は、できるだけ周りの人間関係を壊さないことを目標にしつつ、ひっそりと
恋人としての関係を続けていこうと決めたのだ。
……それがつい1週間ほど前。実は、こうして2人きりになるのも抱き合ったその日
以来だった。
「で、ですから、あの日は、その、つい、我慢し切れなくて、しちゃいましたけど……。
ほんとは僕はこういうことはもっと段階を踏んでゆっくりと……」
「じゃあ、しばらくはキスもせぇへんていうこと?」
「いや、絶対ってことはないですけど……、でも」
「ウチは」
しどろもどろになるハヤテの言葉を、咲夜が遮る。
俯いてハヤテから目を逸らしているが、こちらを向いた耳まで真っ赤になっている。
「ウチは、もっとしたいんやで。自分と、もっと……」
「咲夜さん……」
ハヤテも、しゅんとうなだれてしまう。
求められることは、嬉しい。
けれど、心の奥、理性の部分で、どこかブレーキがかかってしまうのだ。
一度してしまったからといって、それはその後もしていいという免罪符にはならな――
「だああぁぁぁ、もう! こういう湿っぽいの、全然ウチらしゅうないわ!」
「さ、咲夜さん?」
がーーーっと髪を掻き毟って立ち上がった咲夜は、ハヤテの方に向き直るとハヤテの
両肩に掴みかかった。
「自分、いつも本音殺しとる感じやけど、もっと気持ちの根っこのほう、本能みたいな
部分出してええんちゃうん!? あの時かて、そんな自分が本音の気持ち出してくれて、
抱いてくれて、それでウチほんま嬉しかったんやで! そういうのがこれから続いてく
思うたのに、それとも、やっぱりウチってやっぱりそんなに魅力な――うぐっ!?」
必死になってまくし立てる咲夜の体を、ぎゅっとハヤテは抱き寄せた。
「そんなことないですよ、咲夜さん」
「う、うわわ、うわ」
いきなり抱きとめられるとは思っていなかった咲夜は、あっぷあっぷと慌てている。
背中の開いたドレスだから、ハヤテの手のひらの暖かな感触が直接伝わってきて、
なんだかムズムズしてしまう。
「本音を言いましょうか。……もうさっきから、体が疼いて仕方ないです。咲夜さん、
ただでさえそんな格好してるのに、あんなに近寄られて、いい匂いがして……。
こうやって抱きしめたくらいじゃ、全然治まりそうにないですよ」
「〜〜〜っ!!」
耳元で囁かれるハヤテの言葉に、ただでさえ赤かった咲夜の顔がますます紅潮する。
「ほ、ほんまは今日かて、ちょっと期待してたんやで? ナギもおったけど、ちょっとは
どこかで2人きりになれんかな、て。せっかく船まで出して……」
「本当にすいません。……じゃあ、これから埋め合わせをしましょう」
ハヤテは、そっと咲夜の体を解放する。
咲夜は自分がどんな顔をしているかわかっているのか、そっぽを向いてハヤテと目を
合わせようとしない。
「ほんま、自分と付き合うてから、ウチ変やわ。ほんまはこんなキャラやないのに……」
「それは……、えーと、すいません」
「なーんか下手(したて)やな。前みたいにおっかなびっくりなんやのうて、今日は
ちょっとは強気なとこ見してや」
言って、咲夜は挑戦的に口端を歪める。
「強気、ですか。うーん。はい、じゃあわかりまし、た」
一瞬、ヒュンと風を切るような音が2人の間を通り抜ける。
「? って、うぇぇぇ!!? な、何でウチ縛られてるんやぁ!?」
一瞬の間に、首元と左手の間に結ばれた鎖は右手首にくるりと巻かれ、さらに咲夜の
頭の上、ベッドのフレームに結び付けられていた。
いつの間にか咲夜は、頭の上で手を組んでベッドに縛り付けられた状態になっていたのだ。
「あ、手首痛くないですか? そんなに強く結んでいないんで大丈夫だと思うんですけど」
「い、いつの間に……」
「さっきの台詞の『し』と『た』の間に……」
「いらんことで超人的な能力発揮すんなやボケェ!」
罵る咲夜だが、鎖は手首を締め付けているわけでもないのに、何故か抜け出すことが
できない。
うろたえる咲夜をよそに、のんびりと佇まいを直している。
「な、なんでこんなこと……!」
「いや、なんかこうそのドレス……、というか鎖を見てると、こうするべきかなあって」
「そうやのうて、なんでいきなり、んむっ、ん……」
わめく咲夜の口をハヤテの口が強引に塞ぐ。
「んっ、む、んんぅ……」
唾液を潤滑油にこすれ合う唇と唇。ときに押し付けるように、ときに吸い付くように
ハヤテは咲夜の唇を味わう。
「ふぅ……、いや、強きにとおっしゃられましたので、僕なりに咲夜さんを強気に攻めて
みたんですけど……、いかがですか?」
「あ、アホぉ、そ、それやったらそんなんいちいち言わんと、やってくれたらええねん……」
なんとか言葉を返す咲夜だが、首の後ろがキューッと熱くなるような感覚が止まら
なくて、どこか発音がおぼつかない。
普段の、首を落とされても怒らなさそうなハヤテとのギャップ。それは愛の告白の
ように咲夜の鼓動を早めていた。
「じゃあ続けますね……」
「や、ちょっと、ハヤ、んむっ、むあ、えう、んんっ……!」
今度は咲夜の顎をくいと優しく持ち上げて、さらに荒々しく唇を奪うハヤテ。
覆い被せた口腔から舌を伸ばし、唇を撫で、こじあけ、半ば無理やり咲夜の口内に
進入する。
混ざり合う舌と舌。咲夜が知っているキスは、もっと優しい刺激だったはずなのに、
どくんどくんと溢れる欲情が頭に響くようだった。
「う、む、れう、んんぅ、……ぷは!」
一筋垂れた唾液も気にせず、たっぷり一分はディープキスに没頭した二人は、どちら
ともなく唇を離した。
「はぁ、はぁ……、は、ハヤテ、ちょっとキャラ変わりすぎというか、エンジンかかり
すぎやないか……?」
「なに言ってるんですか咲夜さん。求められれば応えるのが執事です。言うなれば、
今の僕は『強気攻め』です!」
「……いや、言うなればもクソもそのまんまや、ひゃぅ!?」
咲夜のツッコミを待たずに、ハヤテはドレスに包まれた柔らかな双房をわし掴む。
突然の刺激にわなないた咲夜の体に連動して、鎖がジャラジャラと激しい音を立てる。
「前も思いましたけど……、咲夜さん、ほんとにおっぱい大きいですね」
「そ、んっ、そんな、あっ! こ、と、あっ、あら、へ、んん! ……ちぃとは喋らせぇ!」
反論しようにも、その間にハヤテが胸を揉んだり押したりつまんだりするものだから、
なかなか二の句が告げない咲夜はとうとうキレた。
「咲夜さんの反応がよすぎるんですよ……。ちょっと失礼しますね」
「あっ、だめ、そこは、んっ!」
カップの上端のフリルをつまんで、そっと生地をめくると、桜色をした乳首が露出した。
ピンと立ったそれに、まずは挨拶するように軽いキスをしたハヤテは、円を描くように
その先端を舐め始めた。
「どうですか、咲夜さん……」
「んあ、や、だめ、ぇ……っ! いやや、ウチ、こんなん、んああっ! 吸わんといて……!」
いつの間にかハヤテは乳首を口に含み、程よい圧力がかかるようにちゅっ、ちゅっと吸引
する。
ハヤテの口の中で、咲夜の固くなった小さな乳頭の形が明確化する。
あまりの刺激にハヤテの頭を押し退けたくなる咲夜だったが、しっかり繋がった鎖が
ガチャガチャと乾いた音を立てるだけだった。
「は、あっ、は、ハヤテ、ぇ……」
さんざん胸を弄ばれた咲夜は、やや涙交じりの声を絞り上げた。
「はい、なんですか、咲夜さん」
「ウチ……、ウチ、ダメや、もう、あそこが、切なぁて……」
「!」
「挿れてぇ……」
咲夜自身は気づいていないが。
「? ど、どないしたんや、ハヤテ……?」
普段、親だろうが友達だろうが容赦なくツッコミを入れる勝ち気な咲夜が。
負けず嫌いで、自分の意思を少しも曲げない強気な咲夜が。
目の前で、顔を紅潮させ瞳を潤ませ、息も絶え絶えに自分を懇願してくるというこの落差。
それは、ハヤテの半分演技が入った「ギャップ」とは比べ物にならない破壊力だった。
「わ、ど、どないしたんやハヤテ!?」
アルコールが頭に直接まわったかのようにくらくらときたハヤテは、そのまま咲夜に
もたれ掛かってしまった。
「……ダメです、やっぱり咲夜さんには一生敵いそうにありません……」
「な、なんのことやねーん!」
何だかわからないがなんとなく馬鹿にされた気がした咲夜は、体をゆすって抗議する。
「わ、わ、落ち着いてください……。ほら、ん……」
「んっ、んぅ……」
今まで散々浴びせられた、攻めるようなものとは違う、包み込むような暖かいキス。
唇からじわっと広がる安心感に癇癪を治める咲夜だが、体の疼きは止まらない。
「……っ、ふぅ、……ハヤテ、早ぅ……」
「わかりました。じゃあ咲夜さん、後ろを向いてください。手が不自由なところ申し訳
ありませんが」
「そう思うんやったら解かんかい……」
不平を垂れつつも、くるりと後ろを向いた咲夜は、ベッドの上で立てひざをついて
壁を見るような格好になった。
目の前には、ベッドの支柱に縛り付けられた鎖とそこに収まる自分の手首。
「なんか、改めてウチらがいかがわしいプレイをしていたことに気づかされるわ……、
っひゃぅ!?」
素っ頓狂な声を上げる咲夜。
無理もない、ハヤテがいきなりスカートの中に顔をつっこみ、なおかつ咲夜のお尻の
間に口先を突っ込んできたのだから。
「な、何をやっとんじゃこの変態執事ーっ!!」
「いや、ここがしっかり濡れているか確かめないと……。でも大丈夫みたいですね」
「んひっ!?」
ハヤテの舌がぺろりと咲夜の秘部を舐める。汗を濃くしたような、塩気とえぐみのある
味が舌を通り過ぎる。
「こ、こら、舐めるな、ってあれ、ウチ、パンツは……?」
「ああ、これですか。さっき咲夜さんが後ろを振り向いたスキに、こうシュパッと」
「お〜の〜れ〜は〜っ!!」
ハヤテの指先でくるくる回る自分のパンツを恨めしげに睨む咲夜の視線をかわし、
ハヤテは咲夜のスカートの中に再び潜る。
「このスカート、2層のフリルになってるんですね。可愛いです」
「そ、その場所からいうセリフか! ひゃ、あ、だめぇ……っ!」
ハヤテの舌がねっとりと割れ目の間を通り抜けるたびに這い上がる快感に、咲夜の腿
から背筋にかけてがピンと伸びる。
痙攣するように震える咲夜の背中を、不意にハヤテの指がつつ……と撫でる。
撫でられた跡が外気に当てられヒヤリとする。濡れていた。
「どうです……? 咲夜さんの、ここの、お汁ですよ」
「ひゃ、ば、馬鹿ぁ……!」
咲夜のそこは、放っておいてもじわりと愛液がにじんでくる。ハヤテが指や舌を使って
刺激すると、たちまち雫を垂れるほどだった。
「もう、いいですかね。……いきますよ、咲夜さん」
「うん、うん……」
ハヤテはズボンを下ろし、こちらも先端がすっかりぐしょぐしょになったペニスを露出
させる。後ろがよく見えない咲夜は、ハヤテが来るのをじりじりと待つ。
「……っ、あ、あ、あああぁ……っ!」
ハヤテは咲夜のお尻にそっと両手を添えると、すっかり濡れそぼった咲夜の陰部にゆっ
くりとペニスを差し込んでいく。
自分の体内に異物が割り込んでくる感覚、それとともに痺れるような快感が脊髄、腿、
膝、二の腕までびりびりと伝わる。
体勢が保てなくなって、ベッドの外枠に体重を預ける咲夜。
「だ、大丈夫ですか、咲夜さん……」
「う、うん、大丈夫や、続けて、ん、あっ!」
少し心配になったハヤテだが、咲夜の言葉に腰の動きを続けることにした。
バックから、ゆっくりと自分の大きさを馴染ませるように注挿を続ける。
「ん……、んんっ、あ、あぁ、くぅ、は、ハヤテぇ、いい、優しぃ……」
膣の内壁をずりずりと撫でられると、気持ちよくて首筋がぞわぞわする咲夜。
緩慢なピストンのリズムに合わせて、下腹部に淀んでいた欲求不満がゆっくり満たされて
いくようだった。
「咲夜さん……」
「ひゃっ、は、ハヤテ、駄目や、んっく! 痛、つまんじゃ、やぁや……」
ハヤテは咲夜を抱きすくめるような体勢に変えると、ドレスの裾から手を差し込み、
咲夜の胸を揉みあげた。
手のひらでしっかり乳房を包み込み、人差し指と親指でツンと張った乳首をつまみ上げる。
しかし、腰の動きは片時も止めない。
「くっ、咲夜さん、気持ち、いいですか?」
「んっ、うん、あっ、いい、ええ、ええよハヤテぇ、んんあっ!?」
十分に咲夜の胸の感触を味わったハヤテは、右手を下方に回して、自分のペニスが
収まっている秘部の入り口あたりをまさぐる。
きゅっと押さえられた下腹部にかかる圧力が、快感を増大させる。
「咲夜さんの、中で、動いてるの、わかります、ほら……」
「あっ、ハヤテ、それ、だっめぇ、んっ、んんんぅ〜〜〜っ……!」
手首の鎖をガチャンと鳴らして、子供がむずがるように体を大きく奮わせる咲夜。
「はぁ、はぁ、んっ……」
「咲夜さん、イッちゃいました……?」
「はぁ、うん……、ウチ、もう、んんっ」
ハヤテがゆっくり肉棒を引き抜くと、余韻が残っていた咲夜はびくっと身を震わせる。
「おつかれさまでした。……すみません、今ほどきますね」
「うん……」
ハヤテが鎖をほどくのを見守る咲夜は、借りてきた猫のようにおとなしかった。
てっきり今までの無礼千万を怒られるものだと思っていたハヤテは、いぶかしみながらも
複雑に絡んだ鎖を早業で解いた。
「えっと、体、痛いところとかないですか?」
「ううん、……なあハヤテ、自分、まだ『終わって』ないやんな?」
「え? ええ、まあ……」
「……それでええん?」
「いや、まあまだこんな風になってますけど、そのうち治まりますし」
自分のいきり立ったペニスをちらりと見て、はは、と苦笑するハヤテ。
「……う、ウチは、まだ」
「え?」
「ウチは、まだ足りんで……」
「……」
「う…、ウチも正直に言うたんや、自分も」
「……、わかりました。僕はまだ全然足りません。しましょう、咲夜さん」
「う、うん」
もうすっかり赤くなったまま戻らない顔を縦に振って、咲夜は応えた。
「そや、今度はな」
「はい、って、え、咲夜さんちょっと」
「ふふ、自分よう似合ぅてるで。で、こっちはここ、と」
咲夜は、鎖の手錠をハヤテの右手首にはめると、チョーカーを自分の首に巻きつけた。
「咲夜さん、これは……」
「そういうプレイ、ぽいやろ? どや、興奮する?」
「んー、どうでしょう……」
二人の間で繋がった鎖を掴んで、ハヤテは困り顔を浮かべる。
まあ、なんというか、言い知れぬ背徳感はある。興奮するかどうかはともかく。
「ぐい」
「うおっ!?」
不意に鎖を引っ張られた咲夜は、首を弓なりに逸らせてバランスを崩し、ハヤテの
胸元に倒れこむ。
「おっ、おま、何しとんじゃー!!」
「いえ、ちょっとムラムラとしちゃって……」
「まったく……、……むちゅ」
「っ!!?」
ハヤテの懐に治まった咲夜は、不意打ちのようにハヤテの唇を奪った。
唇をあわせるだけの、けれど力強いキス。
「お返しや」
「もう、まったく咲夜さんは……」
「ははは」
ニカッと笑う咲夜を見て、改めてこの人には敵わないと思うハヤテ。
そして、どうしようもなく愛しい、とも。
「咲夜さん、このまましますよ。ちょっと腰、浮かせてください」
「えっ、あ、うん……」
「僕のこと、跨いじゃって……、うん、そうです」
二人は、向かい合ったまま佇まいを直す。お互いの首に腕を回し、ハヤテが咲夜を
抱え上げ、対面座位の形をとる。
「咲夜さん、自分で入れてみてください」
「わかった……、ん、んんんっ……!」
しゃがみこみながら、自分の膣内に恐る恐るハヤテのペニスを挿入していく咲夜。
さっきイッたばかりなのに、伝わる刺激はキツくもなく、心地いい。
「そのまま、体重預けていいですよ……」
「……っ、あ……っ! これ、ハヤテ、これ、深い、うあぅ!」
体位の違いからか、先ほどより奥に届く肉棒の感触。快感がより体中に響く。
「……いいですか、動きますよ」
「だ、待って、あっ、あっ、ああぅ!」
ハヤテは自分に乗っかる咲夜の体をぐん、ぐんと突き上げる。
振幅は短いが、一突きの刺激は先ほどと段違いだった。
「っ、咲夜さん、すごいです、きつくて……!」
「くっ、んっ、んああ、あっ! ハ、ヤテ、ウチも、いいっ、いいよ、ああっ!!」
一心不乱に、互いに互いをむさぼる様に行為に没頭する二人。
時折、思い出したようにキスをし、またピストン運動を再開する。
「あっ、ハヤ、テぇ、ウチ、もう……、また……」
「ええ、僕も、イキます、咲夜、さん……!」
「うん、ええよ、来て、あっ、あぅ、だっ、め、イ、イく、ん、あ、あああー……っ!」
キュウッ、と頭の中が一瞬真っ白になったような感覚が通り抜け、咲夜は再び絶頂に
達した。
ワンテンポ遅れて、ハヤテも小さく唸りながら、ビュッ、ビュッ……、と咲夜の膣内に
思い切り精子を放った。
「あ、出てる……ん……」
自分の中にどろりとした液体が注がれる感触に体を震わせる咲夜。
「ん……、ハヤテ……、……ん? ハヤテ?」
ぎゅっと抱き寄せていたハヤテから何も反応がない。咲夜がそっと腕を放すと、ハヤテは
そのままぺたりとベッドに仰向けに倒れこんでしまった。
「ちょっ、え、ハヤテぇ!?」
「は、はは……、なんか、完全に精気搾り取られちゃったみたいです……」
「ちょ、大丈夫なん?」
まあ、今朝からのイベント数とそのハードっぷりを考えれば当然の結果なのだが。
「咲夜さん、もうそろそろ意識ダウンしそうなんで、その……」
「……うん、そやな」
咲夜はニコッと笑うと、ハヤテの体から降りて、ぽすっとハヤテの傍らに寝そべった。
「え、咲夜さん、あの」
「添い寝したる。うちが一緒に寝たったら、元気出るやろ?」
「……そうですね、そんな気が、しま、す……」
ハヤテは安らかに笑うと、電源が落ちたように眠りに落ちた。
繋がった鎖。咲夜はふと思いついて、自分の首もとのチョーカーと、ハヤテの手錠を
取り替えてみた。
「ふふ、こっちの方がお似合いかも知れんで、自分」
ハヤテの首もとの鎖をチャリチャリ鳴らしながらニヤニヤ笑う咲夜。声は届いていない
はずだが、悪い夢でも見ているのかむにゃむにゃと口を歪ませるハヤテ。
「ふふ……。おやすみな、ハヤテ……☆」
ちなみに、次の日の朝には咲夜と同衾(鎖付き)しているところをナギに目撃されそれを
誤魔化しきらなければならないという難度MAXのミッションが待ち受けているのだが、
今の二人は幸せな心地なので、とりあえずめでたしということで。
-END-