〜あらすじ〜
屋敷を追い出されたハヤテは負け犬公園に逃げるようにやってきた。
「はぁ、どうしよう…」
眠かったからとはいえ主の機嫌を大きく損ねてしまったハヤテの心持ちは重い。
「あの様子だと一週間は帰れなさそうだなあ…
ほんとにこれからどうしよう。お金なんか持ってこなかったし」
ぐぅ〜
消沈するハヤテの腹部が本人とは対照的な景気の良い音を立てた。
昨日の昼から何も食べていなかったハヤテにここにきて空腹が襲いかかってきたのである。
勿論ハヤテにとってこのような空腹を耐える事など造作もないことなのだが、これからの事を考えると自然と気も重くなる。
「はぁ…」
今日何度目か分からない溜め息を付きふと公園の時計を見ると、ちょうど学校が始まっている頃合であった。
「とりあえず、学校に行こうかな。もしかしてお嬢様も登校なさってるかもしれないし」
ハヤテがいない学校にナギが行くはずはないが、そんな事が人の気持ちを読む事がめっぽう苦手な執事には分かるはずもなく、
ハヤテはベンチを立つとふらふらとおぼつかない足取りで登校を始めた。
リィィーン、ゴーン。リィィーン、ゴーン。
けたたましい鐘の音が白皇学園に一時限目の合図を告げる。
各教室ではそれぞれ授業が始まり始め、渡り廊下は体育の授業の為に移動する生徒でごった返していた。
肌寒い冬の朝から体育があることをぼやきながら歩いている生徒達の様は他の高校とさほど変わらないようにも見える。
それでも彼等が履いている靴のメーカーひとつみればそんな考えは吹き飛ぶわけだが。
そんないつもの風景を絵に描いた様な白皇学園の朝の校内に怪しく蠢く影がひとつ。
渡り廊下から1kmほど離れた白皇学園の私有林の中にそれは息を潜めていた。
辺りを見回して誰もいないことを確認するとそれはゆっくりと口を開き、低い声で呟いた。
「こちらハヤーク、作戦エリア内に侵入した。これより…、ってこんなことやってる場合じゃない!」
綾崎ハヤテはピンチに陥っていた。
「おかしいなあ、確かにそこにいたはずなんだが…」
ハヤテが隠れている茂みの前を警備員がうろついている。
ハヤテは心中で自分の軽率な行動を大いに悔いていた。
こんな格好でここにくるんじゃなかった!!
あほだ、僕は最大級の阿呆だ!
一昨日にナギの屋敷から脱出する際にハヤテは夢中で抜け出した為、
羽織っていたパジャマが木の枝やらでビリビリに破れていることに気付いていなかったのだ。
そしてそんな一見すると単なる浮浪者にしか見えないハヤテが学園内にふらふらとした足取りで入ろうとした時、
当然の如く警備員に止められ弁解のしようもないので学園内を逃げ回って今に至るというわけである。
「いたぞ!こっちだ!」「くっ…」
またハヤテは走りだした。
警備員の執拗な追跡は体力的にも精神的にも疲弊しているハヤテの活力を確実に奪っていく。
嗚呼、ここで捕まったら僕どうなるのかなあ。今はナギお嬢様を頼るわけにもいかないし、
最悪白皇学園の秘密の地下牢に監禁されてそのまま一生を終えたりするのかなあ…
実際には捕まれば生徒会辺りに引き渡されてハヤテにとっては楽な展開になってくるのだが、
疲れた心はありもしない妄想を産みだし、徐々にハヤテを追い詰めて行く。
「はぁ、はぁ、もう…限界だ…」
ハヤテは目前の植え込みに倒れこんだ。
「あれ?消えたぞ?」
「くそ、すばしっこい奴だ。あっちを探してみよう」
ハヤテは頭上で交わされる警備員の声を聞いた。
「良かった…助かったのか…」
一時的な安堵を感じた瞬間、ハヤテの脳に甘い睡魔の波がやってきた。
まだダメだ!ここで寝たら…みつ…か、る…
脳内で必死に抵抗するが体はそれに反比例して活動を停止し始め、
やがてハヤテの口から寝息が漏れ始めた。