店の中からでは分かり辛いけど、外はもう真っ暗になってしまっているだろう。  
 私は、歩と一緒にここ、喫茶どんぐりでバイトに勤しんでいた。  
 ……と、ここまでなら、ごく普通の、高校生らしいバイト風景を想像できるんだろうけど。  
 現実は……“ごく普通”なんてものとは、かけ離れていた。  
 
「あっ……ん、……あ、あゆむ、ちょっと……」  
「ん〜? どうしたのかな、ヒナさん」  
 
 誰もいない店内で――お客さんはいないし、マスターはメイドカフェの方が忙しいらしい――特にすべきこともない私と歩は、厨房の奥で隠れるようにして、抱き締め合っていた。  
 正確には、歩が私を抱き締めている、と言った方が正しいんだけど。  
 
「だ、ダメよ……誰か来たら……んっ、あぁ」  
「大丈夫ですって。元々お客さんも少ないし、こんな時間じゃ、誰も来ませんよ」  
 
 この店との付き合いは、歩よりも私の方がずっと長い。だから、歩に言われるまでもなく、そんな事は分かっていた。今日はもう、これからずっと歩と二人きり。  
 歩は私を真正面から抱き締めて……それだけなら、友達同士のちょっと過激なスキンシプと言えないこともない。でも、そうじゃない証拠に、歩は私の背中側に回した手で、私のお尻をスカートの上からゆっくり優しく、撫で回している。  
 
「ヒナさん、耳真っ赤ですよ。可愛いなぁ、もう」  
「はあっ、ん! や、やだ、ダメだったら!」  
 
 その、真っ赤になってしまっているらしい私の耳を、歩が甘噛みする。歩も慣れたもので、痛さは全く感じない。ただ、甘いだけの、そんな刺激。  
 あの観覧車での出来事から、もう2週間以上が経っていた。今となっては、歩は私以上に私の身体を知り尽くしていて。だから、歩はどんなに小さな刺激でも、それで私を昂ぶらせる事ができる。  
 
「ひぃん、ん、あっ、ああっ!」  
 
 甘噛みから舌への愛撫にシフトして、反対側の耳は手で揉み解されて、私はいつものように、頭の中が真っ白になっていくような感覚に襲われる。でも、その感覚は不快なものじゃなくて。  
 
 だから、抵抗しようと思えばできるはずなのに、私は何もしなかった。もっとも、それは今回に限った話じゃなくて……いつものこと、なんだけど。  
 でも……歩は、いつもと違っているらしかった。  
 
「……あ、あぅん……ふあっ……」  
 
 舌と手による耳への愛撫は、左右を入れ替えてまだ続いていた。いつもなら、もう別の場所に取り掛かっている頃なんだけど。  
 
「あ、あのっ……あゆ、む……ひぁんっ」  
「どうかしたのかな、ヒナさん」  
 
 手が下の方に下がってきて、また私のお尻を撫で始める。耳へのものとはまた違う、ずっと軽い刺激だけど、それが緩急になっているせいなのか、さっきまでより気持ちいいぐらいだった。  
 でも。舌も、手も。それ以上、進もうとしない。焦らそうとしているのかとも思ったけど、どうにも違うみたいで、私は快楽に溺れつつある心の片隅で、困惑していた。  
 
「……ひゃ、ん……んああ……! あ、あゆむっ……ど、どう、して……ふ、ああっ」  
「…………」  
 
 歩は、答えてくれない。ただただ、物足りない愛撫を続ける。  
 
「……ヒナさん」  
「……は、あん……な、なぁに、あゆむ……ん、ぁ……」  
「今日は、このぐらいにしておきましょうか。そろそろ、閉店時間ですし」  
「え……?」  
 
 そう囁かれた時には、手も舌も、その動きを止めていて。  
 今日の歩は、やっぱりおかしかった。  
 
 
 結局マスターが帰ってこない内にバイトを終え、私達は二人並んで帰途についていた。  
 もう4月も半ばを過ぎているとはいえ、夜は冷え込む。歩と手を繋いだら少しは温かくなるだろうか、取り留めもなく、そんなことを思う。  
 歩のことだから、てっきりどこかの公園でさっきの続きを……要するに野外プレイをしようとか、そういうことを考えているのかと思ったけど、どうやらそれも違うらしい。  
 でも、それは中途半端に昂ぶらされた私にとっては堪ったものじゃなくて。さっきも一度だけ、すごく遠回しにおねだりしてみたんだけど、あっさり却下されてしまった。私がどれだけ恥ずかしい思いをして言ったのか、分かっているのだろうか。  
 
「じゃあヒナさん、私、こっちですから」  
「あ……」  
 
 そうこうしている内に、歩が言った。確かに、お互いの家の位置を考えれば、ここで別れなければならないんだけど……。  
 
「あ、あの、歩。もうちょっと、どこかで……」  
「ヒナさん」  
 
 歩の声が、私の言葉を遮る。歩は笑っていなかった。かといって、怒っているわけでもない。歩が何を考えているのか、分からない。そんな表情のまま、歩は、  
 
「ヒナさんは、ハヤテ君のこと、好きなんですよね?」  
 
 唐突に、そんなことを言った。やっぱり、何を考えているのか分からない。分からないけど、私は答えた。  
 
「う、うん」  
「そうですか。なら、いいんです」  
 
 歩の表情が、初めて変わった。何か安心したような、そんな顔。  
 何に安心したんだろう。歩だってハヤテ君のことが好きなんだし、そもそもこの関係の始まりだって、ハヤテ君のことがどうこうって、そんなものだったはずなんだけど。  
 
「じゃ、ヒナさん、また明日!」  
「へ? あ、ちょっと!」  
 
 私がそうやって思案に暮れている隙をついて、歩は走り出していた。そのまま角を曲がって、すぐに姿が見えなくなってしまう。  
 追う気は起きなかった。今日の歩、何だか変だったし……焦らなくても、明日のバイトも私と歩の二人ってことになってるし。  
 
「……はやく帰ろ」  
 
 結局、今夜は自分で慰めないといけないな、なんてことを考えながら、私も帰路につく。  
 “こういうこと”を自然と考えてしまう自分には、もうさほど違和感を覚えなくなっていた。  
 
 
「はぁ……私だって、ハヤテ君のことが好きなはずなんだけどなぁ」  
 
 ヒナさんは、突然の質問に戸惑ってはいたけど、躊躇いはなかった。  
 元々は、「ヒナさんを身も心も私のモノにしちゃえば『私>>>(超えられない壁)>>>ハヤテ君』になっちゃうんじゃないかな?作戦」だったはずなのに。  
 まるで効果がない……って、そもそも冗談というか口実というか、そんなものだったから、それはどうでもいいんだけど。  
 でも、これって。ヒナさんのハヤテ君への想いが、それだけ強いってことなんだと思う。誕生日にハヤテ君への気持ちに気付いたって言ってたけど、何か、特別なことがあったのかな。あったんだろうなぁ、きっと。  
 
「それに比べて、私ときたら……」  
 
 ハヤテ君のことは、もちろん好き。一年前の4月に出逢ってから、ずっと想い続けてきたんだから。これは、そんな簡単に変わるはずがない想い。  
 でも……一番好きなのは誰か、って聞かれたら、きっと迷ってしまう。ハヤテ君と……ヒナさんで。  
 
「……そもそも、ヒナさんが可愛すぎるのがいけないんじゃないかな」  
 
 そうやって、責任転嫁でもしたい気分。まあ、ヒナさんの可愛さが異常なのは事実なんだけど……。  
 最近では、すごく遠回しだけど自分からおねだりもしてくれるようになったし。あの恥ずかしそうに言う顔が、もう可愛くて可愛くて。  
 
 ヒナさんと初めて会った時は、しっかりしてて、カッコよくて、キレーで。あんな風になれたらな、って憧れた。  
 でも、下田の温泉やこの間の観覧車で、私なんかじゃ手の届かない雲の上の人ってわけじゃないことも分かって。けっこう無防備だったり、ナギちゃんみたいに意地っ張りで、そこが可愛らしかったり。  
 やっぱりヒナさんも女の子なんだ、って、そう思った。でも、最初にヒナさんに憧れた気持ちが無くなったわけじゃない。  
 結局は、その“憧れ”が理由なんだと思う。  
 憧れのヒナさんが。私が、あの綺麗な肌をちょっと撫でてあげるだけで、あんなにえっちな顔を見せてくれて、あんなにえっちな声を聴かせてくれる。そのことが……堪らなく、気持ちいい。  
 きっとこれは、ヒナさんが私の愛撫で感じてくれてる気持ちよさとは、ちょっと違うものだと思う。  
 身体的か精神的か、そういう話じゃなくて。うまく言葉にできないけど……どこか優越感にも似たような、あまり褒められたものとは言えないような、そんな快感。  
 だから、私とヒナさんの関係は……よく分からないけど、普通とは違う、イビツなものだと思う。  
 普通だったら……お互いに、相手を気持ちよくしてあげよう、って色々するのかな。私達の場合は、私が一方的にやってるだけ。ヒナさんに何かさせたら、私もヒナさんみたいになっちゃうって、分かってるから。ヒナさんに主導権を握らせたくないというか……。  
 どっちかというと、ずっと私が主導権を握っていたい、そんな感じ。  
 
 ……認めてしまおう。私は、ヒナさんをずっと独り占めしていたい。私が憧れたヒナさんも、えっちで変態なヒナさんも、全部私のモノにしてしまいたい。誰にも……ハヤテ君にだって、渡したくない。  
 
 あれ? 何だか、私の方がヒナさんにゾッコンになっちゃってるんじゃないかな……? も、もしかして、今までのは全部、ヒナさんの計算だったんじゃ……? ヒナさんも実は私と同じ事考えてて、ライバルを減らそうと……。  
 い、いや、まさかね。さすがに考えすぎじゃないかな、それは。で、ですよね、ヒナさん……?  
 
 
 
 
 
(天の声)もちろん、ヒナギクは純天然のMっ娘である。そんなこんなで、翌日。  
 
 
 
 
 今日もマスターはいない。今さらだけど、こんな事でこの店、大丈夫なのかしら……そんな事を考えながら、私は歩が来るのを待っていた。  
 今日も昨日と同じで、歩と二人で店番。明日からはしばらく、ハヤテ君と歩、それにナギの三人でのシフトになっている。  
 つまり、歩と堂々と会う口実があるのは、今日まで。友達なんだから、別に会うのに理由なんていらないとは思うんだけど……私の方から誘うのは、何というか、その……変な誤解を与えそうで嫌だし。  
 まあ、私は生徒会の仕事があるし、歩は明日以降もバイトだし、仕方ないことではあるんだけど。せめて、今日は昨日の分まで……お、お喋りとかしないと、うん。  
 
「それにしても……遅いわね」  
 
 いつもならもっと早いはずなんだけど。まあ、何かあったなら連絡があるはずだし、しばらく待ってればいいか。と、言ってるそばから来たみたい。入り口のベルが鳴って……。  
 
「あれ、ヒナギクさん。お一人ですか?」  
「ハ、ハヤテ君!?」  
 
 そこにいたのは、歩ではなくハヤテ君だった。  
 毎日学校で会っているとはいえ、こうやっていきなりやって来られると、さすがに驚いてしまう。  
 
「ど、どうしたの。ハヤテ君は明日からでしょ」  
「ええ、それは分かってるんですけど。最近働き詰めだから少し休んでこいって、マリアさんが。それで、特に行く所もなかったので、ここに」  
「へ、へぇ。そうなんだ」  
 
 正直、気まずかった。歩との関係が始まってから、学校で会う時もぎこちない感じなのに、こんな所で会っちゃうなんて。  
 それに……歩が来たと思った瞬間に、私は……今日はどんな事をされるんだろうって、そんなイヤらしい期待に胸を躍らせて。パンツを脱がされて接客させられるのかな、とか、そんなえっちな妄想をしてしまって。たったそれだけで、もう、アソコを濡らしてしまっていたから。  
 気付かれるはずがない。でも、気付かれたらどうしよう。ハヤテ君に私を見られているというだけで、もう堪らなく恥ずかしい。  
 
「……? ヒナギクさん、何だか顔が赤いですけど……大丈夫ですか?」  
「え、あ! へ、平気よ、うん、全然平気だから!」  
「そうですか。なら、いいんですけど」  
「そ、そうよ、大丈夫なんだから。そんなことより、ほら、座って」  
 
 誤魔化すように、ハヤテ君を適当な席に座らせる。  
 
「ブレンドでいいわよね? あと、軽く何か作るから、ちょっと待ってて」  
「へ? あの、ヒナギクさん? 僕、今お金が……」  
「おごってあげるから、安心して」  
「いや、そんな。わるいですよ」  
「人の好意は素直に受け取りなさい。いいのよ、私がそうしたいだけなんだから」  
 
 そうやって無理やりハヤテ君の反論を封じつつ、私は厨房に向かった。ここなら、ハヤテ君の視線に晒される事もない。  
 もちろん、ずっとここに隠れてることなんてできないし、何の解決にもならないことは分かってる。でも、この火照った身体を落ち着かせるための時間が欲しかった。  
 
 ゆっくりと、なるべく時間をかけてブレンドのコーヒーを淹れる。もっとも、たかがコーヒーの準備にそんなに時間がかかるはずもない。私からすれば早すぎるほどに、コーヒーは出来上がってしまった。  
 一度淹れてしまった以上、ハヤテ君の所に持っていかなければならない。まさか、冷めたものを出すわけにもいかないし。  
 私は諦めて、ハヤテ君の席へ行くことにした。身体の火照りはまだ引かないけど、さっきまでに比べればマシになったし……多分、大丈夫。  
 
「ハヤテ君、お待たせ」  
「あ。ありがとうございます。でも、本当にいいんですか?」  
「いいのよ。そんなに気にしないで」  
 
 声が震えたりしないように、私は細心の注意を払っていた。  
 だから、なのだろう。会話に気を取られすぎていた私は、ハヤテ君の席のすぐ近くまで来た所で、  
 
「きゃっ」  
「ヒナギクさん、危な――熱ッ!?」  
 
 何かの突起につまずいた私はそのままバランスを崩して。手に持っていたカップは、その中身を撒き散らしながら、宙を飛んでいく。その、淹れ立ての中身が、ハヤテ君にもかかってしまっていた。  
 ガチャン、と床に落ちたカップが割れる音がするのと同時に、私は我に返った。まったく、どうしてこういう時に限ってこんな失敗をしてしまうのだろう。  
 手近にあった布巾を手に取って、私はすぐに、ハヤテ君の執事服にかかってしまったコーヒーを拭き始める。  
 
「ご、ごめんなさい! 大丈夫? 火傷、してない?」  
「え、ええ。大丈夫ですけど、その……」  
 
 どうして、彼の前ではいつもこうなってしまうのだろう。初めて会った時も、旧校舎の時も、マラソン大会の時も。私はいつも、カッコ悪くて情けない所ばかりを彼に見せてしまう。  
 
「……あの、ヒナギクさん?」  
「何? やっぱり、どこか……」  
「いえ、そうじゃなくて」  
 
 ハヤテ君の言葉は、どこか歯切れが悪かった。その顔を見上げてみれば、視線があちらこちらに泳いでいる。偶然目が合うと、ハヤテ君は真っ赤になって、すごい勢いで顔を逸らしてしまった。  
 この時になって、ようやく私も、何かおかしい事に気付いた。  
 
「その……ヒナギクさんが一生懸命拭いて下さっている場所が、ですね……」  
「……え、あ、え、ええっ!?」  
 
 気が動転して、気付いていなかったのか、そこは……えっと……ハヤテ君の腰……より、ちょっと下で。そ、その、つまり……  
 
「……あの、ヒナギクさん。手をどかしてもらえると助かるんですが……」  
「は、は、ひゃいっ!」  
 
 私は妙な声を出しながら、手をどかすどころか、勢いよく飛び退いた。  
 わ、私が拭いてた場所は……その……うぅ……お、男の子の――。  
 
「ヒナギクさん、あとは僕が自分でやりますから」  
「……ごめん、なさい」  
「いえ、僕も悪かったですし」  
 
 ただ座っていただけのハヤテ君に、落ち度なんてあるはずがないのに。今回ばかりは、全部私が悪いのに。  
 
「……替えのコーヒー、淹れてくるわね」  
「あ……すいません、わざわざ。割れたカップは僕が片付けておきますから」  
「うん……ごめんね。お願い」  
 
 気まずい空気から逃げるようにして、私は再び、厨房に引き篭もった。  
 
(……どうしてこんな事になっちゃうのよ)  
 
 ハヤテ君にはいつも怒ってばかりだし、女の子らしいところを見せたこともないし、ただでさえ嫌われてるかもしれないのに。  
 
(……でも)  
 
 ハヤテ君の前では何をやってもうまくいかない自分に自己嫌悪しながら……私は、布巾越しに手に感じた感触を、思い出していた。  
 
(大きかったな……それに……硬かった……)  
 
 自分の両手を――布巾とズボン越しだったとはいえ、彼のモノを触ってしまった両手を、じっと見つめる。  
 私が、歩にえっちなことをされて乳首や陰核を勃起させてしまうように……男の子のアソコも、興奮すると大きくなるってことは知ってる。  
 と、いうことは――。  
 
(……興奮、してくれたのかな……私が、触ったから……)  
 
 私が触ったから、なのか、“女の子”に触られたから、なのか。多分、後者なんだろうけど……でも、なんというか、その……。  
 
「……はやてくん……」  
 
 だんだんと、頭が熱っぽく、意識がはっきりとしなくなってくる。これに似た感覚を、私は、とてもよく知っていて――。  
 朦朧としたまま、私はそっと舌を伸ばして……その舌を、彼のモノに触れた手へ、ゆっくりと這わせた。  
 直接触れたわけでもないのに、変わった味がするわけもない。でも、  
 
「は……ぁ……」  
 
 私は、間接的に――間接的、と言えるかどうかは怪しくても――彼のモノを、舐めてしまった。その行為に、身体の中を、ゾクゾクとした何かが駆け抜ける。  
 気付いたら、私は自分でスカートをまくり上げて――この前、歩に言われてやったみたいに――裾を口で咥えていた。当然、ショーツだって丸見えで、濡れて染みになってしまっているのもはっきりと分かるぐらいで。  
 ハヤテ君には見えないだろうけど、それだって壁一枚隔てているだけ。そんな状況に、私はまた興奮の度合いを上げて――。  
 
「……ふ、ぅ……ぁん……ぁ、あっ……」  
 
 ついには、その状態のまま、指をワレメに這わせ始めてしまった。  
 ハヤテ君がいるのに、こんな恥ずかしいこと……そう思いながらも、私は指の動きを止めることができない。  
 
 次第に、ショーツ越しの刺激がもどかしくなって、私はショーツを膝まで下ろしてしまう。こんな格好、ハヤテ君に見られたら……そう思うと、アソコからえっちな蜜がどんどん溢れてくるのが分かる。  
 触るだけではもう満足できなくて。私は右手の人差し指をワレメに捻り込んで、左手の指は、クリトリスを摘んで、ゆっくりと動かす。  
 歩がいつもしてくれることだけど、私には、歩みたいに上手くはできない。だから、自分でする時はいつも物足りないんだけど……今日は、違っていた。  
 
「……はふぅ……ひ、ん……は、ぁあん! ふぁ、あ、はぁ……」  
 
 スカートを咥えているから、くぐもった声ばかりが漏れる。もっとも、そのお陰でハヤテ君には気付かれていないみたいだけど。  
 
「……ひぁ……は、ぁ、ああっ……は、や……ぁん、ふぁ、はぁん……あ、ああ……」  
 
 足が、ガクガクと震え始める。私は立っていられなくなって、ぺたん、とそのままの格好で座り込んでしまった。  
 もうすぐ、イッちゃう……大声なんて出したら、ハヤテ君に絶対気付かれる。そしたら……どうなって、しまうのだろう。  
 
「……っあ、ふぁあぁ……は、あ、あぁ……! はやて、く……はやてくぅん……ふあ、ああっ!」  
 
 見られたくない、でも……見て欲しい。矛盾した思いがグチャグチャに混ざり合う中で、私は快楽の渦に溺れる。いつの間にか、私の口はスカートの裾を放していて――。  
 
「は、ぁ……っ、はう……ぁ……い、イ、っんぁああああぁああぁあっ!!」  
 
 何も考えられなくなって、私は……絶頂に達した。  
 
「……はぁ……はぁ……」  
「ヒナギクさん、大丈夫ですか!? 何か、叫び声みたいなのが聞こえましたけど……!」  
 
 ハヤテ君の声が聞こえる。すぐに、この厨房まで飛び込んでくるだろう。  
 私は今になって、ハヤテ君にこのはしたない姿を見られてしまうことに、恐怖を感じていた。きっと、軽蔑されて嫌われる。口だって利いてくれなくなるかも……。  
 そうやって暗い未来を考えている内に、ハヤテ君は来てしまった。今だけは聞きたくない彼の声が、すぐ近くで聞こえる。イッたばかりで弛緩してしまっているこの身体では、悪あがきもできない。  
 
「ヒナギクさん、どうしたんですか!? 黒いヤツでも出たんですか!?」  
「……はやて……くん……わた、し……。…………?」  
 
 奇妙だった。  
 ハヤテ君は、不安そうな顔をしていて。きっと、本当に私のことを心配してくれているのだろう。それは嬉しいんだけど……おかしなことに、“それだけ”だった。  
 その顔には、驚愕も嫌悪もない。そのまま駆け寄ってこようとする彼を、  
 
「ま、待って!」  
 
 慌てて制止する。そうした後で、私は自分の姿を見下ろした。  
 
(……あ、あはは……)  
 
 私の姿勢が幸いしていた。  
 座り込んでいた私の下半身を、膝まで下ろしたショーツも含めて、スカートが覆い隠してくれていた。そういえば、咥えてたスカートは放しちゃったんだった……そもそも、それが原因でハヤテ君がここに来たのに、それを忘れるなんて。  
 なんにせよ、長めのスカートにしておいてよかった……。  
 
「あの、ヒナギクさん……?」  
「心配させてごめんね。でも、大丈夫だから。黒いヤツが出たんだけど、もう退治したわ」  
「そうだったんですか。あぁ、よかった」  
 
 ちょっと無理があるかとも思ったけど、どうやら納得してくれたみたいで、私も安心してホッと一息つく。  
 
「そういうわけだから、ほら、早く戻って」  
「あ、はい」  
 
 でも、これ以上近くに来られたら、きっと気付かれてしまう。ショーツのことを考えれば立ち上がるわけにはいかないし、立てたとしても、足下にはアソコから溢れたえっちな蜜が水溜まりを作ってしまっているだろうから。  
 私は早々にハヤテ君を追い払うと、手早く後始末を始める。ティッシュでびしょ濡れになっているアソコを拭って、同じような状態のショーツは、穿き直す気にもなれないので脱いでしまう。  
 替えは一応持ってきてるけど……どうせ後で歩に悪戯されて濡らしちゃうんだろうし、どうしよう。ハヤテ君がいなかったら、このままでもいいんだけど……。  
 結局私はショーツのことは保留にしたまま、待っているハヤテ君のために、先にコーヒーを淹れてしまうことにした。一度失敗しているし、もうけっこうな時間を待たせている。  
 私はさっきとは逆に、可能な限りの早さで準備を始めた。野菜とハムがあったはずだから、サンドイッチでも作って……。5分あまりを使って、なんとか用意できた。  
 カップとサンドイッチを載せた皿を手に取り、今度は失敗しないよう、私は慎重に、ハヤテ君の所へと歩いていく。  
 
 ……私は気付かないフリをしていただけで。きっと、“何か”を期待していたんだと思う。  
 
 今度はハプニングもなく、私は無事にカップと皿をハヤテ君の待つテーブルに置くことができた。  
 
「お待たせ。ごめんね、遅くなっちゃって」  
「いえ、気にしないでください。じゃあ、いただきますね」  
「はい、召し上がれ」  
 
 ハヤテ君はまずカップを手に取って口につけた。味の方は問題なかったみたいで、その表情はちょっぴり満足気にも見える。  
 他にお客さんもいないことだし、私はハヤテ君の向かいに腰掛けて、様子を眺めていた。  
 
「このサンドイッチ、美味しいですね。さすがヒナギクさん」  
「そう? サンドイッチなんて誰が作っても一緒だと思うけど……」  
 
 こんな風に、取り留めのない会話を交わしたりもする。  
 ハヤテ君は……夢にも思っていないだろう。ついさっきまで私が、ハヤテ君を想って自慰に耽っていたなんてことは。そして、今ハヤテ君の目の前にいる私が、スカートの下に何も穿いてないってことも。  
 そう。ショーツをどうしようか決めかねていたまま、私は結局、何も穿いてはいない。  
 
「ふぅ、ご馳走様でした。美味しかったですよ」  
 
 大した量でもなかったし、サンドイッチもコーヒーも、ハヤテ君はあっという間に平らげてしまった。もう帰っちゃうのかな、と少し寂しく思ったところで、ハヤテ君は、  
 
「……それにしても」  
 
 世間話でもするかのように切り出した。まだここにいてくれると分かって、私は少し安心する。  
 
「ヒナギクさんもやっぱり、例の黒いヤツは苦手なんですね〜」  
「それは……まあ、それなりに、ね」  
「いや、でも、びっくりしましたよ。あれは悲鳴というより……う〜ん、なんていうのかな」  
 
 ……ハヤテ君が何もかも気付いていて、それでこういう話をしているのなら、彼も歩に負けず劣らずのサディストだと思う。まあ、天然なんだろうけど……天然じゃなかったらいいな、と心の片隅で思う私も、相当なものかもしれない。  
 
 何をきっかけにバレるか分からない、そんな状況に私の身体はまた昂ぶってきたのか、アソコがまた、少しずつ潤んできたみたいだった。スカートに染みがついちゃう、と思いながらも、私は沸き上がってくる性欲を抑えようとも思わずに、そのままにしておいた。  
 私がこんなえっちな身体になってしまったのは、歩のせいなんだろうけど……そういうことを考えてしまうのは、間違いなく私だから。歩と今みたいな関係になることがなかったとしても、いつか私は、こういう風になっていたのかもしれない。  
 
「……ハヤテ君。執事服、染みになってない? もしそうなら、弁償するけど……」  
「あ、その点は大丈夫ですよ。ヒナギクさんのお陰です」  
「火傷は、大丈夫? その……大事なトコロ、でしょ?」  
 
 自分でも、何を言っているのか分からなかった。自分でも、何をしようとしているのか分からなかった。  
 何も分からないまま、私は席を立って、今度はハヤテ君の隣に腰を下ろす。  
 
「ヒ、ヒナギクさん?」  
 
 困惑したようなハヤテ君の声を聞きながら、私は視線を下に移した。  
 さっき、私が図らずも触ってしまった、ハヤテ君の大事なトコロ。今は、どうなっているんだろう。もう一度触ってみたら、また――。  
 気付いた時には、私は手を伸ばして、そこに触れていた。  
 ズボン越しに触れたそこは、さっき触ってしまった時とはかた違う感触で。ゆっくり、その辺りを撫で回す。  
 なぜか、ハヤテ君は何も言わなかった。でも、私にもそれを不思議に思うほどの余裕はなくて、不可抗力ではなく、自分の意思でそこを触っているというこの状況だけで、頭が一杯だった。  
 やがて……ズボン越しに、ハヤテ君のモノが大きく、硬くなっていくのが分かって……。  
 
「ヒナギクさん」  
 
 その時になって、ようやくハヤテ君は言葉を発した。その声音には、何の驚きも、動揺も、感じ取ることができない。  
 何となく、私は察してしまった。ああ、天然じゃなかったんだな、と。  
 
「……正直、まさかな、とは思ったんですよ」  
 
 ハヤテ君は私の手を止めるでもなく、させるがままにしておいて、言葉を続けた。  
 
「あのヒナギクさんがまさか、僕のモノを触って興奮して、それで、こんな場所でオナニーしちゃうなんて。ありえない、そう思うのが普通ですよね」  
「……聞こえ、てたの? 私の――」  
「ええ。少し驚きましたよ。ヒナギクさん、こんなえっちな声も出せるんだな、って」  
 
 私が、聞こえていない、バレていないと安心していた厨房での自慰は、彼には筒抜けだったらしい。  
 その理由に、「まあ、これでも執事ですから」と微妙に納得しかねるものを付け加えて、ハヤテ君は私に冷ややかな視線を浴びせた。  
 ただ、その冷たさは嫌悪や軽蔑とは全く異なるもので……肉食のケモノが獲物を見るような、そういう冷たさ。  
 その視線と、全てを知られていたという事実、それら全てが、ゾクリ、と私の身体を震わせる。  
 
「まあ、僕が厨房に駆け込んだ時に……とも思ったのですが。もし僕の勘違いで妄想に過ぎないとしたら、失礼極まりないと思いまして」  
 
 それで、カマをかけてみた、ということだろうか。いつもなら、あっさり引っ掛かった自分のマヌケさを嘆きたくなったかもしれないけど……私はもう、いつもの私じゃなかったから。  
 
「もっとも、ヒナギクさん自らこんなことをしてくれるとは、思ってませんでしたけどね。どうです? 直接触ってみますか?」  
「え……」  
 
 思わぬ提案に、一瞬、私は手を止めてしまう。  
 まだ引き返せる、と思った。こんなことをしておいて、今さらな話ではあるけれど。これ以上進んでしまったら、もう戻れなくなる。  
 心に、歩のことが引っ掛かっていた。  
 ただ、分からないのは――その引っ掛かりの根っこがどこにあるのか、ということ。私が負い目に感じているのは、ハヤテ君のこと? それとも――。  
 
「……まあ、これ以上はここでするのもなんですし。奥の方に行きましょうか」  
「あ……ちょ、ちょっと」  
 
 ハヤテ君は立ち上がると、そのまま私の手を取って、ぐいぐいと引っ張っていく。いつものハヤテ君らしくない強引さに、私はほんの少し、恐怖のようなものを感じて、けれど抗うことはできなかった。  
 向かった先は、厨房だった。ついさっき、私が自慰に耽ってしまった場所。そして、歩と二人の時、いつもえっちなことをされてしまう場所でもある。  
 結局、私の脳裏に浮かんだのは、歩の悲しそうな、でも、何を――どちらを――悲しんでいるのか分からない、そんな顔で。  
 ダメだと、そう思った。  
 
「あの、ハヤテ君、私、やっぱり――」  
「はは。ここまでやっておいて、今さらそれはないんじゃないですか?」  
 
 でも、それは虫の良すぎる話。  
 
「きゃっ!?」  
 
 乱暴に、跪くように座らせられる。  
 でも、私にハヤテ君を責めることはできなかった。コーヒーを零してしまったのは事故で、彼のモノに触ってしまったのも偶然だけど。その後のことは全部、快楽に流されてしまった私の責任だから。  
 目の前には、ズボンの上からでも大きくなっているのが分かるほどの、ハヤテ君のモノがあった。  
 ハヤテ君がベルトに手をかけて外していくのを、私は呆然と見ていた。逃げようと思えば、まだ逃げられるかもしれない。なのに、私の身体はまったく動こうともしなかった。  
 ……違う。動こうとしないのは身体じゃなくて、私の意思。きっと酷いことをされる、それが分かっているのに、分かっているからこそ、私は逃げようという考えすら持たなかった。  
 
 私は……私の意思で、歩を“裏切る”ことになる。  
 ごめん、と思う余裕はなかった。とうとう顔を見せたハヤテ君のモノが、私を圧倒していたから。  
 ファスナーを下げて、ズボンを下ろして、そうやって姿を現したソレは、私が実際に触って想像していた以上に、太く、長く、とにかく大きくて。時折ビクンと震える様が、まるでソコだけが別の生き物であるかのようで。  
 
「さて……じゃあ、とりあえず」  
「え、あ……」  
 
 ハヤテ君は私の顎に手を添えると、そのまま、ソレのすぐ近くまで持っていった。ほんの少し舌を伸ばせば、もう届いてしまう。そういう近さに、私はハヤテ君の臭いを感じて、股間がじゅんと潤むのが分かった。  
 私の身体は、歩を裏切ることになるのが分かっていて尚、どうしようもなく快楽を求めていた。  
 
「舐めてもらえますか?」  
「…………」  
 
 私は、返事をせずに……それでもハヤテ君の言うがままに、恐る恐る舌を伸ばして――。  
 味は、よく分からない。分からないけど……分からないのに。  
 
「……ん……んん……ちゅ……っぷ……ちゅ……」  
 
 躊躇いがちだった舌の動きは、どんどん激しくなっていって。しまいには、キスでもするかのように、唇で彼のモノに触れてしまっていた。  
 
「はは、何もそこまでしなくてもいいのに。まあ、ヒナギクさんがそうしたいのなら構いませんけどね」  
 
 ハヤテ君の言葉が私を辱めて、でも私は止まれなかった。むしろ、少しずつ口の動きは激しくなっていく。  
 
「……んっ……ふ、あ……ちゅ……んぐ……」  
「ふふ……上手じゃないですか、ヒナギクさん」  
 
 こんな恥ずかしいことをしていても、上手だと褒められることは嬉しかった。異様な雰囲気に呑まれて、まともに物を考えられなくなってきている私にとって、ハヤテ君のそんな言葉は、ただひたすらに甘いもので。  
 味なんか感じていなかったはずの口の中にも、甘さが漂い始める。それはきっと錯覚なのだろうけど――私はその甘さをもっと味わいたくて、ハヤテ君のモノを、ひたすらに貪り続ける。  
 
「……は、ぁ……ん、ちゅ……んむぅ……ぁぐ……」  
「くっ……これは、予想以上に……そろそろ出しちゃいますよ、ヒナギクさん」  
「……? んぐぅ!?」  
 
 ハヤテ君は私の頭を掴むと、乱暴に奥まで突き入れてきた。ほとんど喉まで達していようかというほどで、苦しくはあったけど。頭に置かれたハヤテ君の手が、私に逃げることを許さなかった。  
 
「ヒナギクさんが、僕のモノをこんな奥まで咥え込んで……そうだ、ヒナギクさん。携帯電話持ってますか? 僕、お屋敷に忘れてきちゃいまして」  
「……ん……ぐ……?」  
 
 いきなりそんなことを言い出したハヤテ君の意図が読めない。けれど、変なことを言われたわけでもないし、そもそも私はハヤテ君に逆らう気なんてとうに無くしている。ポケットから携帯電話を取り出すと、そのまま彼に手渡した。  
 
「ありがとうございます。では、ちょっと失礼して……」  
 
 携帯電話を何やら操作しているらしいハヤテ君を見上げながら、私にもようやく、彼が何をしようとしているのかが分かってきた。  
 でも、逃げることはできない。ハヤテ君の手は、変わらず私の頭を掴んだままだし、何よりも、私自身がそうされることを望んでしまっていた。  
 だから、私は。口の中にいっぱいの、ハヤテ君のモノに――ハヤテ君のおちんちんに、舌を絡ませるようにして、続きを始める。  
 
「……ん、んん〜……ん、む……んんぅ……」  
「あ、ちょっと。ヒナギクさん、何やってんですか。少しぐらい我慢して……って、ちょ、ま、待ってください。いや、本当に……っうぅ!?」  
 
 ハヤテ君に逆らう気はない。ないんだけど……私はもう、止まれなかった。  
 
「ああ、もう! 仕方ないですね……このまま出しちゃいますからね、ヒナギクさん! っくぅ!」  
 
 その、一声と同時に。  
 喉の奥に、熱くて粘り気のある、液体らしき物が叩きつけられた。ソレは、ビクンビクンと震えるハヤテ君のおちんちんの先からどんどんと溢れてきて。飲み込もうと思う前に、喉の奥まで流し込まれて。  
 粘液と一緒に、独特の臭いが私の口内に広がっていくのが分かる。  
 
「ん、んん! んむぅ、んーーっ! ん、っぷ、あふぅ……げほっ、ごほっ!」  
 
 いつまでも続くかのように思われたその放出に、さすがに呼吸が苦しくなる。咳き込んだ拍子に、私の口はおちんちんから外れてしまった。  
 でも、ハヤテ君のおちんちんは、まだその脈動を続けていて、それと一緒に、私の顔や髪にも、白濁の粘液が降りかかる。  
 
「……はぁ……はぁ……っ……」  
「ふぅ……ははは。我ながら、たくさん出ちゃいましたねぇ」  
 
 ようやく粘液の放出が止まった頃、ハヤテ君は他人事みたいに言った。  
 ハヤテ君は、今の私をどんな目で見ているのだろう。それが気になって、私は顔を上げて――。  
 パシャリ、と音がした。  
 
「え……?」  
「うん、なかなか良い絵が撮れましたよ」  
 
 今時の携帯電話は、当たり前のようにカメラを積んでいる。私がハヤテ君に渡した物も当然そうで、ハヤテ君はそれを使って、私の姿を撮影していた。  
 
「最初は、ヒナギクさんがえっちな顔で僕のモノを咥えているのを撮ろうと思ってたんですけどね。まあ、結果オーライってことで。ほら、見てください」  
 
 ハヤテ君が見せてくれた、今の私の姿。  
 それは、まるで私ではない別の誰かのようで、でも、間違いなく私だった。  
 自分で見ても分かるほどに、イヤらしく、えっちな顔で。髪や顔に塗れた白い粘液が、口から零れて糸を引いている白い粘液が、まるでそれを引き立てる化粧のようで――。  
 
「さて、ではこれを僕の携帯に送信して、と」  
 
 これで、ハヤテ君が気を変えない限り、あの画像はこの世に残り続けることになる。  
 ハヤテ君は、アレを使って私を脅す気なのだろうか。バラされたくなかったら……そう言って、何をさせるのだろうか。  
 普通なら、絶望するのかもしれない。でも、私はそんな未来図に絶望するどころか……期待さえ抱いていて。あまつさえ、こう思ってすらいた。  
 そんなもの無くても、私は――。  
 
「どうでしたか、ヒナギクさん。僕の精液のお味は」  
「……変な……味……でも……」  
「でも?」  
「もっと……欲しい……」  
 
 ハヤテ君は、満足そうに笑った。そのまま、優しい指遣いで、私の顔と髪にかかってしまった精液を拭い始める。  
 やがて、精液塗れになってしまった指を私の目の前に差し出しながら、  
 
「じゃあ、ヒナギクさん。綺麗にしてもらえますか?」  
「……はい」  
 
 私は、差し出されたハヤテ君の指を舐めしゃぶる。太く硬いおちんちんとは違って、女の子みたいに細い指。そこにこびり付いた白いモノを、私はゆっくりと味わうように舐めとって……。  
 ごくん、と。ハヤテ君にも聞こえるように、音を立てて飲み下す。やっぱり、美味しいとは思えないけど……でも、もっと欲しくなってしまうのはどうしてなんだろう。  
 
「これで、いい?」  
「ええ。ありがとうございます、ヒナギクさん。立てますか?」  
 
 さっきまでのことが何にもなかったみたいに、ハヤテ君は極自然な動作で手を差し伸べてくれた。  
 
「あ……ありがと」  
 
 その手を借りて何とか立ち上がったけれど。ハヤテ君が何をしたというわけでもないのに、イッてしまった後みたいに、身体に力が入らない。ハヤテ君のおちんちんを舐めていたことを、私はそれほどに感じてしまっていたらしい。  
 
「あっ」  
「おっと」  
 
 ただ、そういう状態で急に立ち上がったのは、あまり良くなかったかもしれない。立ち眩み、というわけではないけど、私はバランスを崩して倒れそうになって――そのまま、ハヤテ君に抱き留められた。  
 
「大丈夫ですか?」  
「う、うん」  
 
 あんなことをしておいて、今さらだとは思うけど……この体勢は、少し恥ずかしい。まあ、ハヤテ君は下半身丸出しだから、ちょっとマヌケな絵面かもしれないけど。  
 
「……ヒナギクさん」  
「なに? って、え、ちょ、ちょっと、ハヤテ君!?」  
 
 気付けば、背中に回されたハヤテ君の腕で、ギュっと、抱き締められていた。  
 
「ははは。やっぱり、ヒナギクさんも女の子ですね。抱き心地がなんだか柔らかい感じです」  
「な、何を言って……」  
「ねぇ、ヒナギクさん」  
 
 ハヤテ君の声には、不思議な力があった。何も言えなくなってしまうような、そんなものが。  
 
「ヒナギクさんは、誰が相手でも……さっきみたいに、男を誘うようなこと、しちゃうんですか?」  
「そ、それは……」  
 
 例えば……今日この店に来たのが、知らない男の人で。まったく同じことが起こったとしたら、私はどうしていただろう。  
 
「私は……」  
「うん?」  
「……ハヤテ君、だったから」  
 
 正直、私は自分の身体のことが信用できない。この答えだって絶対だとは言えない。だから、これは、願いのようなもの。  
 
 私の答えを、ハヤテ君がどう思ったのかは分からない。ただ、背側に回されていた彼の手が、スカートの中に潜り込んできて。  
 
「ひっ……ぃん!」  
「嬉しいこと言ってくれるじゃないですか」  
 
 私のお尻を、ぐにぐにと揉み始める。  
 歩は撫でるのが好きだから、こういうことはあまりやらない。慣れない感じだけど、不快ではなくて、むしろ――。  
 
「は、ぁ……ん……」  
「それに、ノーパンですか。まさか、学校にいた時からずっと、じゃないでしょうね?」  
「ち、違っ、ひゃぁん!」  
「おや、もうこんなに濡れてるんですね」  
 
 不意に、ハヤテ君の指がワレメの辺りに触れて、突然の強い刺激が私の身体を襲った。  
 そのまま標的をそこに変更したのか、秘裂に沿うように撫でて。そうしている内に硬く勃起してしまっている敏感な突起を探り当てると、摘んで、転がすかのように弄られてしまう。  
 
「ひやっ、ん、あぁぁっ!?」  
「こんなに硬くしちゃって……こっちはどうでしょう」  
 
 そう言って、ハヤテ君はスカートの中をまさぐっていた手を片方引っ込めると、今度は上着の中に潜り込ませた。  
 ハヤテ君はあっさりとブラのホックを探し当てると、それを外して、器用にブラだけを引き抜いてしまう。  
 そうした後で、ハヤテ君は私の身体をぐりんと180度回転させた。正面から抱き合うような形だったのが、ハヤテ君に後ろから抱きかかえられるような形になる。  
 こっちの方が胸を弄りやすいのだろう。その証拠に、ブラと一緒に引き抜かれていた手が、早速戻ってくる。  
 
「うん、乳首もしっかり勃起してしまっているみたいですね」  
「ひぁ、あ、や、あ、ひああっ!」  
 
 ハヤテ君は私の胸を揉……揉みながら、首筋を舌と唇で撫で、それでいてアソコや陰核への愛撫も疎かにしない。三箇所から同時に齎される甘美な刺激に、私はただ、喘ぐことしかできない。  
 
「それにしても……ノーパンだけじゃなくて、ノーブラとは」  
「そっ、それは今、ハヤテ君が、っあ、やあ、いぁああっ!?」  
 
 自分でブラを外しておきながら、根も葉もないことを言い出したハヤテ君の意図は、なんとなくだけど分かっていた。  
 それに乗っかろうと思ったわけじゃない。でも、甘すぎる快感の波に乗せられたハヤテ君の言葉が、否応なしに“私”を上塗りしていく。  
 
「まったく、学校にいた間からずっとノーブラノーパンだなんて。どんだけ無防備なんですか、ヒナギクさんは」  
「ふぁ、んあ! あうんっ! はあっ、んあああっ!」  
 
 違う、ありえない――そんな私の声も思いも、最後まで続かずに途切れてしまう。  
 それどころか……少しずつ、分からなくなっていく。本当に、“そんなこと”はなかったのか。本当は、ハヤテ君の言う通りに、私はずっと、ノーブラノーパンで過ごしていたのではないか――。  
 
「こんなにえっちで淫乱なヒナギクさんのことですから……もしかして、コーヒー零したのもわざとなんじゃないですか?」  
「それ、はっ、あ、んぁ、ひゃうん、ああんっ、あ、あん、あああっ!」  
 
 もう、違うと言い切ることはもちろん、そう考えることすらできなくなっていた。だって、ハヤテ君の言う通り、私はえっちで淫乱で……。  
 そんな、どうしようもなく変態な私だから。ハヤテ君のおちんちんに触りたくて、わざとコーヒーを零して……その通りなのかもしれない。  
 身体を蝕む快楽の刺激と、心を蝕むハヤテ君の言葉に、私は溺れていく。  
 
「さて……ヒナギクさん、そろそろいいですか?」  
「ん、はんんっ、はぁん! あ、ぁあっ、あぁぁあんっ!!」  
 
 ハヤテ君が、何を“いい”と言っているのか分からなかったけど、それでも私は、何度も何度も頷いて答えた。もう、口で返事をするような余裕はなかった。  
 
「じゃあ、いきますよ」  
 
 その声と、ほぼ同時に。アソコに、さっきまでとは違う違和感を覚える。太くて硬い何かが、そこに――。  
 
「――っ!? ひ、ぃああっ!? あ、ぎ……っ!」  
 
 それは、そのまま、何の躊躇もなく突き進んできて――。  
 
「は、あ……ひ、ぃ、ぐっ……い、イ、っんぁああああぁああぁあ!!」  
 
 それが、最奥まで届いた時。私は、涙が出るほどの痛みと一緒に……絶頂に達していた。  
 
「……は、ははは。さすがヒナギクさん。入れただけでイってしまうとは」  
「は、ぁ……っ、はう、ぁ……はぁ……い、れ……?」  
「ああ、気持ちよすぎて何をされてたのか分かってなかったんですか。見てください」  
 
 そう言って、ハヤテ君はスカートをまくり上げた。私も、視線を下に移す。  
 
「あ……え? そ、そん、な……」  
 
 私が見たのは……ハヤテ君のおちんちんが、私のアソコに突き入れられている、そんな光景だった。  
 
「ぅ、うそ……」  
「とりあえず、体勢を変えたいので……悪いですけど、いったん抜いちゃいますね」  
「あ……ひぃ、っん! は、ぁあ……っ!」  
 
 引き抜かれるおちんちんがナカに擦れて、私の口から嬌声が洩れる。今まで、指を入れられることがなかったわけじゃないし、自分で入れることもあった。でも、指とおちんちんは、全然違っていて。  
 その、全然違っているものは、あっさりと私のナカから引き抜かれてしまった。  
 
「ん? これって……ヒナギクさん。まさか、処女だったんですか……?」  
 
 おちんちんを抜いて、アソコから血が流れているのに気付いたのだろう。驚いたように言うハヤテ君に、未だに息が荒いままの私は、小さく頷いた。  
 
「それは……まあ、なんというか。すみません。てっきり、男性経験が豊富なものと思ってたんですが」  
「な、なによ、それは……! 誰に、だって……は、ぁ……こんなこと、するとでも思ってたわけ……!?」  
 
 でも、ハヤテ君がそう思うのは無理もないと思う。ハジメテの女の子がこんなに感じるわけないって思うのが普通だろうし。まあ、厳密に言えば私は“ハジメテ”じゃない……ってことになるんだろうけど。  
 
「でも、オナニーだけ……ってわけじゃないですよね?」  
「そ、それは……その……歩、が……」  
「へ?」  
 
 まあ……そういう反応になるんだろうけど。  
 
「……ぼ、僕のせいでしょうか」  
「は?」  
 
 いきなり深刻な表情になって、後悔しているかのように言うハヤテ君は、上手く言えないけど……さっきまでとは違って、“いつも”のハヤテ君みたいだった。  
 
「僕が、はっきりと返事をしないから。だから、西沢さんがソッチの道に……!」  
「……それは、あまり関係ないんじゃない?」  
 
 元から、歩がドッチもイケるクチだったというだけの話な気もするけど。  
 私はどうなんだろう。歩にえっちなことされるのは、恥ずかしくはあるけど、もう抵抗感はない。でも、今日はハヤテ君と……しちゃったし。私も、歩と同じなんだろうか。歩に引きずり込まれた、と言った方が正しい気もするけど。  
 
「なら、いいんですが……。しかしそうなると、僕は西沢さんに感謝すべきなのか妬むべきなのか……」  
「どういう意味よ……?」  
「いやぁ、だって」  
 
 無邪気な笑顔を浮かべて――まあ、中身は無邪気でも何でもないわけだけど――ハヤテ君は、言った。  
 
「ヒナギクさんをここまで仕立て上げてくれたことを感謝すべきなのか、僕が自分でヒナギクさんを調教する楽しみを奪われたことを嘆くべきなのか、分からないじゃないですか」  
 
 もう、“いつも”の雰囲気は消え去っていた。  
 さっきまでの、ハヤテ君だ。  
 
「さて……そろそろ続きをしたいと思うんですけど。ヒナギクさん、いいですか?」  
「そ、そんなの……わざわざ聞かないでよ。好きにすればいいじゃない」  
「そういうわけにはいきません。意図したことではなかったといえ、僕はヒナギクさんの処女を奪ってしまったんですから。知っていれば、もっと別のやり方もあったのに……」  
 
 妙な気遣い……というか、ポリシーだと思う。別のやり方って、優しく丁寧に、とか、そんな感じだろうか。処女を奪わないという選択肢は最初から無いみたいだけど……。  
 
「というわけですから。一日中ノーブラノーパンで、僕のモノを触りたくてしょうがなかった、えっちで淫乱な変態生徒会長さん。僕にどうしてほしいのか、あなたの口からちゃんと言ってくださいね?」  
 
 ……ああ、そういうことか、と私は納得した。まあ、ポリシーの方も本当なのかもしれないけど、それまで利用してハヤテ君は私を辱めようとする。  
 たいしたサディストだと思う。何時ぞやのマラソン大会の時も、もしかしたら吊り橋の上で怯える私を見て悦んでいたのかもしれない。いや、きっとそうに違いない。  
 
「……ハヤテ君の方が、よっぽど変態じゃない」  
「はいはい。で、どうするんですか?」  
「…………」  
 
 答えは、もう決まっていたけど――。  
 
(歩、ごめんね)  
 
 何について謝ったのかは、自分でも分からない。ただ、心の中だとしても、そう言っておきたかった。  
 
「……ハヤテ君の、おちんちんを……私の、アソコに……」  
「おマンコって言ってみてください」  
「……っ! ぅ……私の、お、おマンコに……私のおマンコに、ハヤテ君の硬くて太いおちんちんを……ください……それで……おちんちんで、ぐちゃぐちゃに、めちゃくちゃにして、ください……!」  
 
 歩にだって、ここまでのことは言わない。そんなことを言わされて……違う。私は、自分の意思で、言った。本当に、言葉通りに、そうしてもらいたくて。  
 ハヤテ君は、すぐに応えてくれた。  
 
「わかりました。では、いきますよ」  
「あ、あ……あ、は、んぁあああっ!!」  
 
 今度は真正面から、立ったまま、下から突き上げられるようにして、一気に――ハヤテ君のおちんちんが、私のナカに入ってきた。  
 実を言えば、私は我慢の限界だった。だって、一度入れられたきり、すぐに抜かれてそのままだったわけだし……そこに強烈な刺激が突然与えられて、すぐにえっちなお汁が、すごい勢いで溢れてくるのが分かる。  
 
「ヒナギクさん、痛くないんですか?」  
「ん、くぅ……だい、じょうぶ……あ、んんっ!」  
 
 本当は、少し痛いけど……少し間を置いたからか、噂に聞いたほどの痛みじゃない。これぐらいなら……ハヤテ君が私を気持ちよくしてくれれば、すぐにどうでもよくなってしまうだろう。  
 
「まあ、処女喪失と同時にイってしまうぐらいですからね〜。ちょっと持ち上げるので、しっかり捕まってくださいね」  
「は、ぁん!」  
 
 繋がったまま、ハヤテ君は私の身体を持ち上げた。まず足が浮いて、そうなると、私の身体を支えているのはハヤテ君のおちんちんなわけで。自重で、より深い所まで突き刺さる。  
 
「ふあっ、んんっ、やっ、あっ、すご、すごいよ、はやてくんっ! おくまで、おくまでとどいてるぅ!」  
 
 腕を首に、足を腰に絡めるようにしてハヤテ君にしがみつくと、彼はゆっくり、身体を上下に揺らし始めた。  
 
「ひっ、ん、あ、ああっ、ふあああっ! ひやぁあああっ!」  
「くっ……良い締め付けです、ヒナギクさん。気持ちいいですよ」  
「ふあ、ふああああっ! わたしも、は、ぁああっ! わたしもぉ! あ、やっ、はぁぁぁぁんっ!」  
 
 動きが激しくなっていくにつれて、私が洩らす嬌声も大きくなっていく。それこそ、店の外にまで聞こえてしまうんじゃないかってほどに。  
 硬くて太いおちんちんでおマンコの中を掻き回される……歩との行為ではありえなかったこの快楽に、私は少しずつ、でも確実に、溺れていった。どっちが上手だとか、そういう話じゃない。ただ、“そういうもの”として、私の身体に刻まれ、記憶されていく。  
 
「さあ、ヒナギクさん……もっと気持ちよくしてあげますよ……!」  
「ああん、んああっ! ふあ、あぁああんっ!! もっと、もっとおくまでついてぇっ!!」  
「お望み通りに!」  
「ひゃっ、ああああっ、あぁぁぁん、 んあああっあぁぁあ!!」  
 
 上下の動きだけじゃなく、ぐるぐると掻き混ぜるような横の動きも加わり始める。  
 もっとも、本当にそうなのかは分からない。気持ちよすぎて、何も考えられなくなっていく。  
 
 そうして、私は、  
 
「あぁんっ! あふ! はっ! んんう! は、あ、ああ、あああっ! あ、あああ、ひああああっ!?」  
 
 今日、三度目の絶頂を迎えた。  
 でも、ハヤテ君は。私がイク所を、目の前で見てたはずのハヤテ君は。動きを止めるどころか、全くペースを落とさず、むしろ、より激しく、私を犯し続ける。  
 
「……ぁ、ぁああっ、は、はやて、くんっ! わた、わたし、もうっ! もう、イっちゃってるから! ふぁああっ、イっちゃってるのにぃ! やめ、や、あ、やあっ、だめぇ!!」  
「そう言われましても、僕の方はもう少しかかりそうなので……すいませんが、お付き合いください」  
「あ……っあ! や、ああっ! ひぁあああああっ!」  
 
 じゅぷじゅぷと、淫らな水音を立てながら、ハヤテ君はイったばかりの私の身体を、容赦なく責め立てる。  
 もう呂律も回らなくなって、私はただ、泣き叫ぶように喘ぐことしかできない。  
 
「らめ、らめらめらめぇぇぇ! もうらめなのぉ、わたしこわれちゃう、こわれちゃうよぉ!! は、ぁあぁぁん! ふぁぁ、また、またイっちゃうぅぅぅ!」  
「いいですよ、いくらでもイっちゃってください!」  
「ひああっ! イっちゃう、イっちゃうよおっ、あ、あん、あっ、ああっ! イ、あ、あ、ああああ、っぁあぁああぁあああぁあ!!」  
 
 四度目……それでも、ハヤテ君は止まってくれない。  
 
「もう、もうやだっ、もうイきたくない! イきたくないのに、はっ、んあああっ! はぁ、んんっ、また、またイク、イっちゃうぅぅぅ!! らめぇぇえぇ!!」  
「……う、っく……ははは、安心してください、ヒナギクさん。僕も、もう少しでイケそうですから……今日は、これで最後にしましょう。だから、最後は思いっきりイっちゃってください」  
「ほ、ほんと? ほんとにっ!?」  
「ええ。ただし、ヒナギクさんが最高のイキっぷりを僕に見せてくれたら、の話ですけどね」  
「はん、あん、ふぁぁあん! わか、った、わたし、は、あああっ、わたし、イクから、イクからぁ! だから、あん、あぁ! ちゃんとみててね、はやてく、ふああああっ!?」  
 
 おマンコの中で暴れているハヤテ君のおちんちんが、膨らんだような……そんな感覚があった。その、すぐ後――。  
 
「くっ……イきます、ヒナギクさんっ! 全部、全部ナカに出します! ぅ、あああっ!」  
 
 そのハヤテ君の声と一緒に、おマンコの中、その一番奥に、熱いものが――私の口を、喉を犯したのと同じ、精液が、いっぱい、いっぱい、叩きつけられるようにして注ぎ込まれて、  
 
「あ、ぅあああぁあ! すご、すごいよぉ! でてる、はやてくんの、でてる、でてるぅぅぅ! わたしのなかに、はやてくんのあついの、でてるよぉっ!! は、ぁ、ぁ、あああっ、はやてくんので、わたし、イっちゃ、あ、ひ、あああああああああああっ!!」  
 
 私は、今日、五度目の……そして、最高の絶頂に達した。  
 
 
 
 精液とか愛液とか汗とか、とにかく色んなもので濡れてしまった私の身体をちゃんと綺麗にしてくれて、他に色々後始末もしてくれて……そうした後で、ハヤテ君はここを出ていった。  
 去り際の「また明日」は、どういう意味なんだろう。また明日、学校で会おう……あんなことがあった後では、そんな普通すぎる解釈なんて、できるはずもなかった。  
 明日から、ハヤテ君とどう向き合っていけばいいのか、私には分からなかった。少なくとも……私が密かに夢見ていたような関係には、もうなれないだろう。  
 それに、ハヤテ君が“そういう意味”で私を好き、ということはないだろうし。性欲処理の道具としか思われていないかもしれない。……ちょっと自虐が過ぎてるけど。  
 何にせよ、ある意味では、これは失恋とも言えるもので。小さなショックを受けて、私はボーっとしながら、ただ徒に時間を浪費していた。まあ、身体がダルい、というのもあるけど。  
 
 何度も何度もイかされて、弛緩しきってしまっていた身体がとりあえず動けるほどに回復した頃になって、歩がようやく姿を現した。  
 
「す、すいません、ヒナさん! 学校の方で、色々、急な、用事が、できちゃって……!」  
 
 息も荒く、途切れ途切れに言う歩は、本当に申し訳なさそうで。さっきまで、ここで私とハヤテ君が何をしていたのかを知ったら、歩はどうするだろう。  
 
「れ、連絡、しようにも、運悪く、ケータイの電池、切れ、ちゃってて……!」  
「歩。怒ってないから、とりあえず落ち着いて」  
「は、はい……すぅー、はぁー」  
 
 歩が息を落ち着けているのを眺めながら、私はゆっくりと、近付いていく。  
 
「すぅー、はぁー……。って、あれ? ヒナさん、どうかし――」  
 
 歩の言葉を遮るようにして、私は、歩の細い身体に抱きついた。  
 歩は少し驚いていたみたいだけど……すぐに、子供をあやすように、私を抱き返す。  
 
「今日のヒナさん、なんだか甘えん坊ですね〜。もしかして、一人で寂しかったのかな?」  
「……うん。ねぇ、歩……私、怒ってないから……だから、代わりに、昨日の分までいっぱい、私のこと……可愛がってくれる?」  
 
 歩に、ここまでストレートなおねだりをするのは初めてのことだった。  
 多分、償いみたいな気持ちがあるんだと思う。私は――私は歩のモノなのに、ごめんね、そんな思いが。  
 
「……まったく、ヒナさんはしょうがない人ですね。とんでもない女たらしだ」  
「お、女たらしって……」  
「だって、そうじゃないですか。こんなこと言われたら……ふふ」  
 
 歩は、笑いながら言う。  
 
「はは。なんだか、悩んでたのがバカらしくなっちゃいましたよ」  
「悩み……?」  
「あ、気にしないでください。とりあえず、まずは目の前にあるものをちゃんと捕まえておいて、他は後回し」  
「えっと……どういう意味?」  
「要するに、ヒナさんは私だけのモノってことです。ハヤテ君にだって渡しませんから、覚悟しといてくださいよ?」  
「恥ずかしいことを大声で言わないの」  
「えー。そりゃまあ、ヒナさんは小声でしたけど」  
 
 どこか吹っ切れたような笑顔を浮かべる歩に、私は心の中でもう一度、ごめんね、と言葉をかける。  
 私は歩のモノだけど……もう、ハヤテ君のモノにもされてしまったから。私は欲張りだから……どちらか一方を捨てるなんてことは、できそうにない。  
 いけないことなのは分かってる。分かっているからこそ、なのかもしれないけど。  
 
「……じゃあ、歩。お願い、ね?」  
「はい!」  
 
 私達は、そっと……恋人同士がするように、唇を重ねて――。  
 
 

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