声が 聞こえた気がした。  
 
アウターストーリーin第122話  
「紫子以外の何か」  
 
 カキィン  
「ういいい――!!」  
 下田シリーズ第二号ホームランが鷺ノ宮温泉場外に消えていくのを、伊澄はじっと  
見つめていた。  
「そう……ハヤテさまは、ナギのヒーローなのだから……」  
「てゆうかジブンが第109話あたりですんなり血ぃ飲んどったら済んどった話と  
ちゃう?」  
「う゛。」  
 伊澄がそおっと振り返る。同じように空を眺めていた咲夜が、伊澄の方を向いて  
はっはっはっと笑った。  
「まあなんか上手くまとまりそやからええけど。あんま無理したらあかんで。  
で、この助っ人外国人はタイガースに来てくれるんか?」  
「……それは代理人さんと交渉してね。」  
 伊澄は手を払って送還を宣告する。手を振って別れを告げる大男が、光の中へ  
消えていった。咲夜も手を振りながらそれを見届ける。  
「ああ、夜空に飛んでくホームランはええなぁ。……おお!!ええこと思いついた!!」  
「だめです。」  
「聞いてからダメ出しせんかい!!」  
 パコーーン!!  
「いたい……」  
 頭にタイガースメガホンの一撃を食らい、伊澄は涙目でしゃがみ込んだ。  
「ナイスなボケや、伊澄さん。ウチの誕生日プレゼントもその調子で頼むで。」  
 メガホンで自分の肩を叩きながら、伊澄に背を向けて咲夜は言う。  
「あの、ボケじゃ……」  
「た・の・む・で?」  
「……ああっ。どんな良いことを思いついたのか、聞くのを忘れていたわ……」  
 咲夜は伊澄の方に向き直ってうんうんと頷く。  
「うむ、ボケやな伊澄さん。教えてやりたいとこやけど……見てのお楽しみっ!!……  
ちゅうことで勘弁な?」  
「……それはボケなの?」  
「ちゃうわ!! 伊澄さんにも楽しんでもらおと思っとるから、それまで内緒っちゅう  
だけや。なんもやばいことあらへん、あと二十日ちょい……ふぁ?」  
「……咲夜?」  
 ドサ。  
 伊澄の目の前で、咲夜は眠るように倒れこんだ。  
「咲夜っ!?」  
 
声が 聞こえた気がした。  
 
『……次のお便りはサク姉ちゃん大好きっ子ちゃんから!!【ゆっきゅんこんばんは。  
らぶらぶパワーで地球に無事戻れることになったのですが、みんなはいなくなった  
私たちを心配して探すと思います。どうか帰ってくる場所をみんなに教えてあげて  
ください。特にサク姉ちゃんには迎えに来てほしいです。よろしくお願いします。】  
んー、そっかそっか。サク姉ちゃん大好きっ子ちゃんは心配してくれる友達が沢山  
いるんだねー。そんな友達に心配かけないようにしたいんだ。えらいねー。サク姉  
ちゃん、っていうお姉さんととっても仲良しさんなのかな?サク姉ちゃんさーん。  
きっと迎えに行ってあげてくださいねーっ。サク姉ちゃん大好きっ子ちゃんが待って  
まーす。あ、でも、夜はちゃんと寝てないとだめだよー?朝にならないと暗くって  
見つからないし、夜更かしは美容に悪いですからねー。もううちの子ったら夜まで  
漫画を読んだりアニメ見たりゲームしたり、FFVIIを発売以来徹夜でやり込んだり、  
それに朝起きれないし二度寝はするし、疲れるとすぐウトウト眠たくなるしで――』  
 ぐに。  
『きゃ!?』  
 倒れた咲夜の頭上の空間を伊澄が掴むと、手応えがあった。伊澄の霊的視界に、  
掴んだ物の像が結ばれていく。  
「あうぅ、放して伊澄ちゃん……」  
 おもちゃの人形ほどの大きさの、ストールを羽織った髪の長い女性が、伊澄に  
捕まってじたばたとしていた。  
「……もしかして、紫子おばさま?」  
 伊澄の問いかけに、その小さな女性はぴたりと固まる。  
「……」  
「……」  
 女性は目を逸らしながら答えた。  
「……ち、違うのよ。伊澄ちゃんは小さい頃に会ったきりだから、きっと  
見間違えているのよー……」  
「随分とお詳しいですが……」  
「……ほ、ほんとに違うのよ。紫子などではないの!!」  
「では、どなたで?」  
「わ、私の名前はさ…いえ…ちがっ…えーと、えーと…主婦…ミス…」  
 何やら考えていた女性は、ようやく思いついたかのように名乗りを上げた。  
「『ミストレス3000』よ!!」  
「はぁ……」  
 
「ええと、ミストレスさんは何をしているのですか?」  
「あ、私は本体のリクエストのただの化身なの。こうやってポートに接続して、  
やってもらいたいことをお願いしてるだけなのよ。」  
 そう言って小さな女性は口の前で手のメガホンを作り、咲夜に向かって話しかける  
仕草をした。  
「はあ。」  
 伊澄はそれを見て生返事をする。  
「すごいでしょー。世の中は私が死んでいる間にも進んでいるのね。ゆっきゅん  
とってもびっくりしちゃったー。」  
「あの、お名前はミストレス3000さんでは?」  
「……ゆっきゅん☆はニックネームだからいいの!!」  
「はあ……」  
 伊澄は思案を巡らし、呟いた。  
「とりあえず、咲夜の霊的チャネルを防護して、心話的な物が届かないように  
しましょう。」  
「えーー!!伊澄ちゃんひどーい!!それじゃあ咲夜ちゃんにお願いの続きができない  
じゃなーい!!」  
 女性がふるふると首を振って抗議する。  
「はあ……ですが、どこの誰かもわからない方が、よくわからない術で、咲夜の  
意識を落とした上で、要求を成就させようとしているのですから、初動としては  
妥当な措置かと……」  
 ぎゅ。  
「あああ、も少し優しく握ってーー」  
 どこの誰かもわからない女性は、自分を捕まえている伊澄にそう希望した。  
「とりあえずお話はそれから……」  
「ああ待って待って!!」  
 女性は伊澄の言葉に割り込んで叫ぶ。  
「ええとね、だからね、ゆっきゅんはナギをよく知っているの。だから、ナギと  
執事君には、なるべく安全平穏にここに戻ってもらいたいの。それには、心配して  
探しそうな人が、なぜか朝起きると二人の居場所を知っているっていうのが、  
私にできる一番いい方法なの。咲夜ちゃんはいろいろ見られちゃったから、  
起きたままにしておくと捜索活動とかしそうだし、とりあえず眠ってもらいました。  
宇宙船のこととかは起きたら忘れてもらうけど、危険なことはしないわ。ね、  
だからお願い、私を信じて!!」  
 祈るポーズで頼み込む女性の目をしばらくじっと見つめ、伊澄は女性を掴んでいた  
手を放した。  
「いいでしょう。」  
「わーーい!!伊澄ちゃんありがとう!!」  
 女性は手を万歳して感謝と喜びを表す。  
「悪意の無いことは信じました。ですが……本当にその術は安全なのですか?」  
「え?もちろん!!」  
 女性は自信満々に答えた。  
「しかし……私の知る紫子おばさまは……その……少しそそっかしい所のある方  
だったので……」  
「あーー伊澄ちゃんひっどーい!!」  
「いえ……紫子おばさまの話ですよ?」  
「……」  
「……」  
 途絶えた会話を女性は強引に回復させる。  
「え、えと、わたしがこのテクノロジーを理解して、ちゃんと使えていればいいん  
でしょう?大丈夫、すぐに見せてあげるわ!!」  
 
「なんと――」  
 立ち上がらせた咲夜の前に胸を張って浮かぶ小さな女性は、そこで息を溜め、  
片手を横に大きく振りながら続く言葉を叫んだ。  
「胸とか触るとしゃべって反応するのよ!!」  
 バァアン、と効果音が鳴った。  
「……」  
「……」  
「……」  
「……あれ?」  
 女性は首を傾げる。咲夜はその後ろで同じポーズのまま、瞬きだけをしていた。  
「……ええと、ゆっきゅんさん。」  
「はーい、伊澄ちゃん?」  
「……先ほどはたしかもっと高度なことが出来るような話でしたが……」  
「もちろんよ。なんと――サブの子も触れるの。」  
 そう言って目をきらりと光らせる。  
「触ることから離れられないのですか?というか、サブの子って誰なのですか。」  
「サク姉ちゃん大好きっ子ちゃんは今日は残念ながらスタジオに来れないので、  
伊澄ちゃん、やってくれる?」  
「よくわかりませんが、嫌です。」  
「そうよね、せっかくだから触る方をやりたいよね……」  
 うんうんと女性は頷いた。  
「そういう意味ではありません……」  
 伊澄は困った口調で反論する。  
「サブの子の代打はこれで済ませておくから、伊澄ちゃんは安心して触ってね。」  
 そう女性が言い終わると、地面から板が起き上った。8年くらい前のナギの姿が  
絵に描かれている。  
「……やっぱり、チャネルの遮断を……」  
「あああほらほら、ね、ちょっとでいいから試してみて?ね?ね?」  
 
 小さな女性は慌てて伊澄の手を取り、咲夜の方へ体ごと引っ張った。  
「あ、ちょっ……」  
 むに。  
「あ。」  
「あんっ……」  
 伊澄の手が咲夜の胸でバウンドする。咲夜は短い声をあげて胸を手で隠した。  
「あ、ごめんなさいさく……」  
「もう、お兄ちゃんはホントえっちなんやから……」  
「……はい?」  
「そんなにウチの胸、触りたいんか?お兄ちゃんの、ス・ケ・ベ!!」  
 咲夜は頬を染めて、誘うような視線を伊澄に投げかける。伊澄は横で満足げに  
浮いている女性の方を向き、咲夜を指さして言った。  
「ペルソナが変わっていますよ?」  
「ゴーストって呼ぶらしいわよ?」  
「だれが乳オバケや―――!!」  
 パコーーン!!  
「あう。」  
 咲夜の投げたタイガースメガホンが女性にヒットした。  
「……あ、そんなに変わってないかも……」  
「いたた……うん、そんなに変わってないのよ。咲夜ちゃんの性格の萌えっぽい所を  
フィーチャーした仮想人格だから。これはきっと、お兄ちゃんが欲しいなあ、って  
気持ちを、より萌えっぽく強調してあるのね。」  
「だからって、私の呼び名までお兄ちゃんに……」  
「フルボイスと主人公の名前変更システムを両立させる偉大な知恵なのよ!?」  
「いやどちらかというと私は名前固定制の方が……」  
「やっぱり……嫌やった?お兄ちゃん、っていうん……」  
 沈んだ声で咲夜が問い掛けた。伊澄はびっくりして振り向く。咲夜は目を潤ませ  
ながら、無理に笑って話し出した。  
「そうやな。ウチなんかにお兄ちゃんなんて呼ばれても迷惑でしゃあないわな。  
ごめんな、ワガママ言うて……ちょっと……お兄ちゃん、ってのに、憧れとった  
だけなんや。かんにんな、お兄ちゃん……あ、また言うてしもた。あはは……」  
 咲夜は目尻の涙を指で拭きながら笑う。  
「咲夜……あの、えと……」  
「あはは、なんか目から汗が出るで。あー、困ったわ……はは……は……」  
「さ、咲夜……?」  
「は……は…」  
 段々と咲夜の声は詰まって行った。伊澄はオロオロしている。そして突然、  
咲夜の体が伊澄の胸へと飛び込んだ。  
「きゃ?」  
「……うっく………ぐすっ……」  
 そしてすすり泣きを始める。  
「うう……おにいちゃん……おにいちゃんっ……」  
 ぎゅ……  
「う……?」  
 
声が 聞こえた気がした。  
 
「ちょうどお兄ちゃんも、咲夜みたいな可愛い妹が欲しかったんです……」  
「え……?」  
「だから、迷惑なんかじゃありませんよ、咲夜……」  
 咲夜は顔を上げて、自分を優しく抱きしめている相手の顔を見た。  
「ほんまに……?」  
 伊澄は真っすぐに咲夜の瞳を見つめて微笑む。きらりと白い歯が光った気がした。  
「ええ。咲夜にお兄ちゃんと呼ばれるのは、とても嬉しいですよ。」  
「お兄ちゃんっ……!!」  
 きゅっと抱き返して、咲夜は体一杯に喜びを表した。  
「お兄ちゃん、ありがとな……ウチ、嬉しゅうて、嬉しゅうて……」  
「ほんとに、咲夜は可愛いですね……」  
 お兄ちゃんスイッチの入った伊澄が、ぽん、ぽん、と咲夜の背を叩き、甘く囁く。  
咲夜はまだ少し涙声で、それに答えた。  
「だって……お兄ちゃんが……お兄ちゃんで……ウチのお兄ちゃんでええって……」  
「咲夜……」  
「お兄ちゃんっ……」  
 
「咲夜……お兄ちゃんは、咲夜があんまり可愛い妹なので……いけないことを  
してしまいそうです……」  
 伊澄はそう咲夜の耳元で囁いた。  
「お兄ちゃんの、ス・ケ・ベ……」  
 ふふ、と笑って咲夜が言う。  
「ええよ……お兄ちゃんなら。お兄ちゃんはえっちでやらしいから、ウチが面倒  
みてやらなあかんもんな。」  
「嬉しいけれど、本当にいいのですか?」  
「ええって。何でもどんと来い、や。」  
「では、この……」  
「あ……」  
 伊澄は指先で咲夜の唇を撫でた。  
「赤い唇から、始めましょうか……?」  
「うん……」  
 咲夜は大人しく、かすかに頷く。そのおとがいを、伊澄は自分の細い指で支えた。  
「目を……」  
「ん……」  
 瞼を閉じた咲夜の顔に、伊澄の顔がそっと近付いていく。伊澄も瞳を閉じながら、  
柔らかく唇を咲夜の唇に押し当てた。  
「んん……」  
「ん……ん……」  
 やがて花のような二つの唇はほころび、絡み合い、柔らかさと温もりを潤いの中で  
伝え合う。もっと全てを知り合おうと、熱い舌が相手の唇に割って入り、唇だけでは  
触れられない場所を愛撫する。  
「はふ……んっ……」  
「うんっ……うんっ……」  
 唇の奪い合いも、舌の与え合いと重なり合って激しくなった。相手の唇を挟んで  
いた唇が、次の瞬間には熱い口の中に包み込まれている。  
「……あっ……」  
「……はぁっ……」  
 そうして疲れるほどついばみ合って、二人はようやく唇を解いた。  
「ぅんんっ……はぁ……お兄ちゃんに……キスされてもうた……」  
 咲夜はうっとりとして呟く。  
「はぁ……咲夜、口付けは、どうでしたか?」  
「うん……お兄ちゃん……キス、上手やな……」  
「咲夜の唇が素敵だから、頑張ってしまいました……」  
「もう……」  
 伊澄に褒め称えられ、咲夜は頬を染めた。  
「咲夜もほら、たくさん舌を使ったりして、頑張ってくれましたし……」  
「それは、お兄ちゃんのキスがえっちやから……仕方なしに……」  
「えっちになった?」  
「な、なってへんわ!!」  
「そうですか?咲夜の方が熱心でえっちな感じでしたよ?」  
「ちゃうわ!!お兄ちゃんのアホ!!スケベ!!」  
「はいはい。じゃあ次は、咲夜はじっとしてていいですからね。」  
「あ……」  
 
 咲夜の背に伊澄は回った。手を前に回して、腰を抱える。そして、浴衣の上を  
這わせながら、ゆっくり右手を咲夜の左の胸に近づけた。  
「あ、お兄ちゃん……」  
「触っても、いいのですよね?咲夜の、胸……」  
「ん、ええ、よ……お兄ちゃんが、触りたいんなら……」  
「ええ、とっても、触りたいです……」  
「……んぁっ!!」  
 伊澄の手が咲夜の左胸を包む。咲夜は服の上から柔らかくタッチされただけで、  
堪え切れず声を漏らした。  
「咲夜の胸、いいおっぱい、してます……立派に育ってますね……」  
「んっ、アホっ、エロオヤジかっ……!!」  
「いえいえ、お兄ちゃんは咲夜が成長してて嬉しいんですよ。ほら、こんなに  
大きくて……」  
「ん!!」  
「形もよくて……」  
「あ!!」  
「張りがあって、柔らかくて……」  
「んー!!んー!!」  
「とっても、素敵なおっぱいです……」  
「んっ、んんっ……!!」  
 伊澄の手に胸の膨らみを調べられるたび、咲夜は悩ましい息をこぼしていく。  
「ほら、こっちのおっぱいも……」  
「あんっ!!」  
 伊澄は手を入れ換えて、左手でもう一つの乳房を浴衣の上から撫で回した。  
「素敵な、触り心地です……咲夜は、気分はどうですか?」  
「んぁっ、そんなん、聞かんといて……」  
「じゃあ、こんなのは……」  
「うぅんっっ!!」  
 伊澄は咲夜の右胸をゆっくり揉みしだき始める。  
「ほら、どうです?」  
「んぁ、お兄ちゃんっ、あぅっ、手が、やらしいっ……!!」  
「でも、悪くなさそうですね……」  
「あんん、ちゃうぅ……!!」  
「そうですか?」  
 伊澄は手を止め、胸から離した。  
「はふ……」  
 咲夜は息をついた。だが伊澄はやめたわけではなかった。すぐに離した左手を  
浴衣の下に滑り込ませ、肌に直接触れて乳房の愛撫を再開する。  
「ぅっん!!」  
「ああ、やっぱりすべすべでぷにぷにで気持ちいいです……」  
「ぅん!!ん!!アホッ、んぁ!!」  
「咲夜……ん」  
 伊澄の指が咲夜の乳首を摘み上げた。  
「ああんっっっ!!」  
 咲夜はひときわ高い声を上げて仰け反る。  
「咲夜の乳首、こんなに固くなってますよ……やっぱり、胸を触られて、気持ち  
良かったのでしょう?」  
「やあ……」  
 咲夜はふるふると首を振った。  
「ほら、我慢することありませんよ。全部、お兄ちゃんに任せて……咲夜が  
気持ち良くなるところ、お兄ちゃんに見せてください……」  
「あっ、お兄ちゃんっ……!!」  
 咲夜はそう囁かれ、漏れ出る声の抑えを失う。一段高く大きい声が庭に響いた。  
「あんっ!!んぁ!!あっ……!!あんん!!」  
 
「ふふふ、伊澄ちゃんもこのテクノロジーの素晴らしさを理解してくれたみたいね。  
では、伊澄ちゃんの理解も得られたところで、お便りの続きを――」  
 ひゅうぅう  
「んっ?」  
 突然風が舞う。ナギの絵を描いた板が、ハガキを手にした小さな女性の方に  
倒れてきた。  
「え゛えええっ!!」  
 ばたん。  
「きゅう。」  
 小さな女性は板の下敷きになってもがいている。  
「あ、ちょっと、どいてナギ……重っ。重いわっ。ゆっきゅんだいピンチっ。  
ねえねえ咲夜ちゃんっ、伊澄ちゃんっ、へるぷみーっ。……聞こえてませんか  
そうですか。へるぷみー初っちゃぁん……!!」  
 
声が 聞こえた気がした。  
 
 初穂は、はっとして庭の方角に視線を向けた。  
「……気のせいよね。」  
 ずずー。  
 お茶を飲んでテレビに向き直り、初穂はひとりごちた。  
「……紫子姉さまに呼ばれたなんて……そんな非科学的な推理は、おっちゃんだけで  
十分だよ、です……」  
 
「咲夜……」  
「んっ!!あんっ!!」  
 伊澄は咲夜の耳元で囁きながら、乳首と乳房を責め立てる。咲夜は快感の声を  
もはや憚りなく振りまき、身を震わせた。  
「ん?咲夜?」  
「ん!!あっ……!!」  
 伊澄は、右胸を揉んでいる自分の左腕に、咲夜が自ら左胸を擦りつけているのに  
気付く。  
「こちらが寂しいのですか?」  
「んあ!!ん、ん!!」  
 伊澄が右手を上げ、咲夜の左胸の上に指先で円を描くと、咲夜はうんうんと  
頷いた。  
「では……」  
「ふぁ……あっ、お兄ちゃん……!!」  
 伊澄は咲夜の胸元を大きく開いて、両胸の肌をあらわにする。そして両手で近場の  
乳房をそれぞれ掴み、大胆に揉み始めた。  
「ああ!!あっ!!あぅ!!」  
「揉み甲斐が、ありますね、やっぱり……」  
「ふあ!!」  
「ほら、乳首も……」  
「あああ!!あっああ!!」  
 伊澄は乳首を摘み、耳を舐め、息を吹きかけ、咲夜を翻弄していく。咲夜は  
伊澄の愛撫に一層耽溺していった。  
「ああっ!!あはんっ!!」  
「ああ……咲夜……」  
「あ!!おにいちゃんんん!!んんん!!」  
 そうして長い愛撫の後、伊澄は唐突に動きを止めた。  
「あ……?おにい、ちゃん……?」  
「ねえ、咲夜……?」  
 上気した顔で訝しがる咲夜に、伊澄は耳元で囁く。  
「お兄ちゃんはそろそろ、もっといけないことをしたくなったのですけれど……  
咲夜のいけないところは、そろそろお兄ちゃんを欲しくはないですか?」  
「え……」  
 咲夜は一瞬の後、ぱっと顔を真っ赤にして、脚をきつく閉じ合わせた。  
「どあほー……」  
「ふふっ……可愛いですよ、咲夜……」  
 
「んっ……」  
「んんっ……」  
 二人は縁側に並んで座り、再び熱く口付けを交わした。その間にも、伊澄の手が  
咲夜の胸元からするすると腹の下へ滑り降りていく。  
「あっ、お兄ちゃんっ……」  
「咲夜……」  
「あっ、ぁんっ!!」  
 伊澄の指にショーツの上を撫でられて、咲夜は思わず声を上げる。  
「やっぱり、もう濡れていますね……」  
 ショーツの染みになった所を、指先でゆっくりと擦った。愛液を漏らした秘裂の  
凹凸も、湿って張り付いた布の上からだとよく分かる。  
「あんっ、やっ、そんな、はずかし……っ……」  
「濡れた下着を脱がしますから、そっちへ体を倒して、横になって……」  
「ぅあんっ……」  
 伊澄に横から迫られて、咲夜は倒されるように横たわった。胸と股間を申し訳  
程度に手で覆い隠す。伊澄はショーツの前後に指を掛けて、太腿まで引き下げた。  
秘所からショーツに伝う愛液の糸が、ぴちんと切れる。  
「足を浮かせて……そう……」  
「んん……」  
 咲夜のショーツを足先から抜き取ると、伊澄は自分の和服も脱いで、帯を解いた  
襦袢だけの姿になった。そして軽く眼を閉じて、自分の陰部を指でまさぐる。  
「んっ……」  
「お兄ちゃん……」  
 咲夜は体を仰向けにし、顔を横向けてそれを見つめる。  
「ん……咲夜……ほら……」  
 伊澄はびっしょりと濡れた指を示しながら、咲夜の横に跪いた。  
「あ……」  
「お兄ちゃんも……すごく期待して……こんなになっているんですよ……」  
 咲夜の鼻先で指を動かして見せる。月光に淫液が光り、風に淫香が薫る。咲夜は  
頭を持ち上げて匂いを嗅ぎ、舌を伸ばして指にかすらせた。  
「ん……」  
「んっ、はっ……」  
 伊澄は指を咲夜の口元に持って来て、咲夜がそれを咥え引き下ろすのに任せる。  
一方で咲夜の片足を跨ぎ、手で太腿の内側を愛撫した。  
「あんっんんっ……むんんん……」  
「ん……は……」  
 気分の高まった咲夜が、伊澄の背に手を掛ける。そして指を口から離して、  
愛しい名を呼んだ。  
「おにい、ちゃんっ……」  
「咲夜……」  
 二人は目で意思を伝え合い、覆い被さる伊澄を咲夜が優しく抱き締める。下腹部で  
一度触れ合った手と手は、別れた後相手の秘所へと到達した。  
「んんんっ……!!」  
「あんっ!!んああんんっ……!!」  
 咲夜の花弁が伊澄の指先で広げられていく。伊澄のものは溢れ出る体液を塗り返す  
ように撫でられた。愛撫する指を濡らし、馴らし、ゆっくりと相手の敏感な器官を  
ほぐして、段々と大胆な動きにつなげていく。  
「んはっ!!ああっ、咲夜ぁ、ああ……!!」  
「あんん!!あん!!おにいちゃんっっ……!!あん!!」  
 蜜壺を探り、陰核を擦り、激しい責め合いによって、続けざまに快感が弾けた。  
全身が快楽の期待と渇望に満ち、肌にも温もりと刺激を求めて互いに触れ合う。  
特に咲夜の大きめな胸と伊澄の慎ましやかな胸とは、感じやすい突起を巻き込んで、  
激しくぶつかり擦れ合った。  
 
「んあっ、ああ!!あっあ!!あ!!」  
「んっ!!んっ!!あっ!!ああ!!」  
 二人の体は密着の度合いを深め、足を絡ませ合い、頬を寄せ合って快楽に耽る。  
三月の夜空の下、熱を帯び汗にまみれた裸体が悩ましい声を上げて蠢いていた。  
「んぁ!!んっ!!ああっ!!あ!!」  
「あはっんっ!!はああっ……ああ!!」  
「ああ!!あっあっ!!あ!!」  
 上に乗る伊澄の声が少しせわしなくなる。それに合わせて咲夜への責めも  
勢いが増した。敏感なポイントばかりを、加減なしの強さと速度で繰り返し  
弄り立てる。  
「ん!!あ・あ・ああっ!!そんなっ!!あっ!!おにぃちゃんっ、んんんんああああっ!!  
あっ、あかぁんっっ……!!」  
 咲夜は悦びと苦しみの交じりあった声で叫んだ。拒否するような言葉と裏腹に、  
吸い付くように伊澄の体にしがみ付く。  
「ああ!!咲夜ぁっ、あっ!!あんんっ!!」  
 快楽の頂点に届きつつある伊澄は、到達の瞬間への期待に心奪われるとともに、  
そこへ咲夜も一緒に連れて行きたいとも願っていた。一段づつ登り詰めて行くたび、  
早く駆け登りたいという想いと、咲夜をまだ送り届けていないという焦りが、心に  
渦を巻く。  
「おにーちゃぁんっ!!んふぁ!!あ!!ああああっ!!んぁ!!ぁ!!あ!!」  
 取りつかれたように秘裂を蹂躙する伊澄によって、咲夜は否応なく高みへと  
突き上げられた。その速度は、咲夜によって今なお局所に快楽を送り込まれ  
続けている伊澄の上昇のテンポをも上回り、ついには追いついてしまった。  
「あ、おにいちゃん!!おにいちゃん、いくっ、ウチっ、あっ!!あああっ!!」  
「ああ、咲夜っ、いってぇ!!あああぁんんっ!!お兄、あんっ、ちゃんも、  
ああぁいくからっ!!」  
「おにいちゃん、いくぅ……っ!!」  
 咲夜はぎゅうと伊澄に抱き付き、伊澄は髪を振りながら最後のスパートを掛ける。  
そして、しばらく高い声を上げて激しく求め合った後、二人はそろって喉を  
仰け反らせた。  
「あぁあああああああああああああああああ……!!!!」  
「んぁあああぁあああああぁああああぁあああああっ……!!!!」  
 
「はぁっ、咲夜……」  
 咲夜と身を重ねていた伊澄は、上半身を起こして咲夜の顔を見下ろした。咲夜は  
目を瞑って荒い息をしている。  
「はっ、はぁっ……お……」  
「お?」  
「お、ぬ……」  
「お兄?」  
「……お姉ちゃんパンチっっっっっ!!」  
 パコーーン!!  
「いたい……」  
 頭にタイガースメガホンの一撃を食らい、伊澄は涙目でしゃがみ込んだ。  
「半ば不可抗力とはいえ、あんさんの姉的存在であるウチに、随分と恥ずかしいこと  
させてくれたやないか、伊澄さん……?」  
 咲夜はゆらりと立ち上がり怒りを込めた低い声で問いかける。  
「ああっ、妹がついに反抗期に……」  
「誰が反抗期や!! ボケる前に『それパンチちゃうやんけー!!』とつっこめや!!  
それからとっととその変な所に入ったスイッチ戻さんかい!!」  
「ええと、『後輩メイド』スイッチに切り替えるには、咲夜の協力がお兄ちゃん  
必要で」  
「誰がそないなとこへ切り替えろ言うたか!!」  
「くしゅ〜、やっと抜け出せました……」  
 ぐに。  
「きゃ!?」  
 咲夜はふらふらしながら飛んで来た小さな女性を捕まえて睨んだ。  
「ゆっきゅんも目的はともかく、人を変なキャラにせんといてもらおか……」  
 女性はたらりと汗を流す。  
「……そ、そう?咲夜ちゃんがお兄ちゃんを欲しいとかお兄ちゃんスキスキとか  
いうことが良く表れて……」  
「そもそも伊澄さんをお兄ちゃんとか明らかに変やろ!!」  
 咲夜に指差された伊澄が反論した。  
「しかし咲夜はお兄ちゃんが欲しくてお兄ちゃんスキスキなキャラなのですから、  
咲夜の前にいるお兄ちゃんは血が繋がってなくともお兄ちゃんなんですよ?」  
「だぁ!!そないなユーザーに振られた設定がどうのっちゅう話やのうてやな、  
お兄ちゃん言うたらそれなりのカテゴリっちゅうもんがあるやろ言うとんのや!!」  
「お兄ちゃんスキスキな咲夜は、どんなお兄ちゃんが欲しいのですか?」  
「例えばやな――」  
 言いかけて、咲夜はみるみる顔を赤くする。  
「あ、赤くなったー。」  
「なぜでしょう?」  
「それはね伊澄ちゃん、スキスキなお兄ちゃんを具体的に思いついたんだけど、  
さっきみたいに『お兄ちゃんになら……いいよっ』ってなっちゃう自分に気付い」  
 ぎゅ。  
「ゆっきゅんは命が惜しくないようやな……」  
「あああ、も少し優しく握ってーー」  
「ああ、『お兄ちゃんじゃなきゃ……いやなのっ』というさっきみたいなお兄ちゃん  
スキスキな気持ちに」  
「命が惜しいんやったら、早いとこ記憶を消すとかして全て無かったことにしてや。  
できるんやろ?」  
 咲夜は伊澄を指差して小さな女性に要求した。  
「はーい。咲夜ちゃんの頼みだし、命は惜しいのでオッケーでーす。」  
 小さな女性は片手を上げて受諾する。  
「残念です。お兄ちゃんはせっかく『お兄ちゃんが……ほしいのっ』という咲夜の  
お兄ちゃんスキスキな可愛いところが体験できたのですが……」  
「できたらスイッチも戻しといてな。」  
「はーい。じゃあ、咲夜ちゃん、伊澄ちゃん、」  
 
声が 聞こえた気がした。  
 
 ナギの事、  
 よろしくお願いね。  
 
『……次のお便りはスキスキお兄ちゃんさんから!!【ゆっきゅんさんこんばんは。  
ヒーローパワーで地球に無事戻れることになったのですが、みんなはいなくなった  
僕たちを心配して探すと思います。どうか帰ってくる場所をみんなに教えてあげて  
下さい。特に義妹の咲夜さんには迎えに来てほしいです。よろしくお願いします。】  
んー、そっかそっか。スキスキお兄ちゃんさんは心配してくれるお友達が沢山いるん  
だねー。そんなにお友達が多いようには見えないけど!咲夜さん、っていう義妹さん  
ととっても仲良しさんなのかな?義妹の咲夜さんさーん。きっと迎えに行ってあげて  
くださいねーっ。スキスキお兄ちゃんさんが待ってまーす。あ、でも、夜はちゃんと  
寝てないとだめだよー?朝にならないと暗くって見つからないし、夜更かしは美容に  
悪いですからねー。もううちの子ったら夜まで漫画を読んだりアニメ見たりゲーム  
したり、DQ3を発売以来徹夜でやり込んだり、それに朝起きれないし二度寝はするし、  
疲れるとすぐウトウト眠たくなるしで――』  
 
〜えんいー〜  
 

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