アルバイト初日が終わったその夜。  
ベッドに座った西沢歩は、自分に舞い降りた幸運の余韻に浸っていた。  
好きな人、綾崎ハヤテと共にアルバイトできるという喜びに乙女心がフルドライブ。  
湯上りで柔らかく仕上がった身体を水色のパジャマに包み、大きなクッションをぎゅーっと抱きしめる。  
 
「えへへ……」  
 
にへーと緩んでしまう頬を抑えることができない。  
ハヤテとナギを送り出して以来、歩はずっとこんな状態だった。  
笑顔で帰宅を告げ、笑顔で食事をし、笑顔でお風呂に入って、笑顔で日記をつけて、現在に至る。  
本人は気付かなかったが、ヤバイ薬でもキメちゃったようなその姿に、家族はドン引きしていたりした。  
 
「ハヤテ君とアルバイトか〜……えへへへへ〜」  
 
ころんと横になると、少しだけ水気を残している髪がベッドにぱらりと広がる。  
肩にかかる長さの髪を散り広げた寝姿は、普段とはまた違うしっとりとした魅力を帯びていた。  
湯上がりの熱と恋のときめきにのぼせた頭と身体からは、熱が消える様子は少しもない。  
ブレインハレルヤ状態の歩は、瞼を閉じて幾度目かの妄想に浸ることにした。  
 
 
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ハヤテのごとく!! ハヤテくんとのはじめてアルバイトした夜のお話かな!?  
「妄想、それは最後の理想郷。そんな感じの乙女ちっくシャドーセックス」  
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想像する。雀のさえずりが聞こえる、うららかな陽射しが射す喫茶どんぐり店内。  
窓辺の席に座るハヤテの前に、歩はそっと一杯のコーヒーを差し出した。  
自分がいれたコーヒーに絶対の自信を持つ歩は、すました表情でハヤテの側に立って感想を待つ。  
ふわりと漂うコーヒーの薫香は店内に優しく広がり、二人だけの世界を温かく包んでいた。  
姿勢良く、けれども強張りのない柔らかな姿勢で、ハヤテがコーヒーカップを手にする。  
息を吸い込んで香りを楽しんだハヤテは、そっと優しくカップに口をつけた。  
コクリと咽喉を鳴らして嚥下すると、ハヤテはその素晴らしい味に目を見開く。  
爽やかな風に撫でられたような驚きが収まると、ハヤテは心を打たれたように柔らかな微笑みを浮かべた。  
 
『うわぁ、西沢さんのいれてくれたコーヒー…、まるで妖精が集う森の朝露のようにさわやかだなぁ〜』  
 
最上級の褒め言葉にたおやかな微笑みを浮かべる歩の前で、ハヤテはもう一度コーヒーの味を確かめる。  
そして満足そうに肯くと、スッと椅子から立ち上がった。  
朝の陽射しにキラキラと輝くハヤテの表情は、美しさの中にも男らしさを秘めている。  
その表情はまるで、運命の女性に出会ったかのような確信に彩られていた。  
強い意志に瞳を輝かせるハヤテは、寄り添うように立っていた歩の小さな手をギュッと握る。  
 
『こんなコーヒーをいれてくれる人を放っておくわけにはいかない。僕とつきあってください、西沢さん』  
「いやん、ハヤテ君ったら♪」  
 
突然の告白に、歩は照れながらも嬉しげに微笑んだ。  
いくら私の超スペシャルなコーヒーがあまりに美味しいからといって、いきなり告白するなんて。  
ハヤテ君ったらなんて情熱的な困ったさんなんだろう。でもそんなところも大好き!!  
そんなことを思ってくねくねとする歩の腰に手を回し、ハヤテが間近で歩をじっと見つめる。  
 
「好きです西沢さん。これからもずっと僕のそばにいてください」  
「――はい、よろこんで……」  
 
喜びに表情をほころばせたハヤテの手が、初恋の成就に浮かされた歩の頬に添えられる。  
ハヤテは伺いをたてるように、壊れ物を扱うようにそっと唇を寄せていった。  
歩もまた初めての行為に少し怖がりながらも、勇気を振り絞って身体から力を抜いていく。  
 
コーヒーの薫香漂う、うららかな陽光が射す店内で、二人の唇はお互いを求め合うように重なった――。  
 
                       ☆  
 
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ! ぷはっ!!」  
 
うちゅ〜〜っとクッションに口付けてぷるぷるしていた歩が、息継ぎをするように顔を上げる。  
はぁはぁと荒い呼吸をして息を整えた歩は、自分の妄想の素敵さ加減に身悶えしてしまった。  
しかも今回は告白どころか、キスまでしてしまった。大躍進である。  
 
(きゃーきゃー!! し、しんじゃう! こんなことあったら私しんじゃうよ!?)  
 
じたばたじたばたごろごろごろ。  
クッションをぎゅっと抱きしめたまま、ベッドの上で右へ左へ身体をよじる。  
ひとしきりベッドで暴れると、歩は快心の妄想の余韻に浸りながら天井を見上げた。  
 
(キス、かぁ……もしハヤテくんと付き合うことになったら、やっぱり、したりするのかな……)  
 
指先で唇に触れてみる。ぷにぷにと押すと、瑞々しくて柔らかな弾力が指を押し返してくる。  
乾燥を避けるために塗ったリップクリームは、クッションへのキスで少し落ちてしまっていた。  
 
歩は少しの間ぽやーっとしてから、クッションを両手で持ち上げて顔を覆うように影を作る。  
そこに自分に覆い被さっているハヤテのイメージを重ね合わせると、まっすぐに見つめあった。  
ゆっくりとクッションを顔に近づけながら、頬を赤らめた歩が少しずつ瞼を閉じていく。  
ハヤテのイメージを重ねていると、クッション相手でも緊張してしまう。  
パジャマに包まれた脚をもじもじと閉じ合わせながら、歩はもう一度ハヤテとのキスを想像した。  
 
 
色とりどりの花が咲く花畑で青空の下、追いかけっこをしているのは世界で最も素敵なカップル。  
軽やかに逃げる白いワンピースを清楚に着こなした歩を、執事服を着たハヤテが爽やかに追いかけている。  
 
『あはははー。待ってくださいよー、西沢さぁーん』  
「うふふ、ハヤテ君。こっちこっちー♪」  
 
息を弾ませた二人は、青空に相応しい幸せに満ちた笑顔を浮かべている。  
恋人同士の幸せな時間。しかし、やがてかよわい乙女である歩は、逞しいハヤテに追いつかれてしまった。  
 
『つかまえ――たっ! えいっ』  
「きゃぁっ」  
 
後ろからハヤテに抱きすくめられ、そのまま二人は重なるように地面に倒れこむ。  
純白のワンピースの胸を上下させる歩に、ハヤテは舞い散る花びらを背景に恋に潤んだ微笑みを向けた。  
ドキドキと高鳴る鼓動。示し合わせたようにハヤテが唇を寄せ、歩がうっとりと瞳を閉じていく。  
軽く顎を上げて差し出された歩の可憐な花のような唇に、ハヤテは優しくキスをした。  
ちゅっと可愛らしい音を立てて離れると、ハヤテは小さな舌先で唇をちろりと舐めて柔らかく微笑む。  
 
『うわぁ、西沢さんの唇…まるで妖精の国になる果物でつくったフルーツゼリーのように柔らかくて甘いです』  
「あん、やぁ、ハヤテ君ったら♪ ……もっともっと、味わって……」  
 
輝く瞳に見つめられた歩はきゅんと心をときめかせ、ハヤテの首に腕を回して甘やかな声で続きをせがむ。  
ハヤテは、『はい、よろこんで』と微笑むと、瑞々しい歩の唇を自らの唇で優しくついばみはじめた。  
可愛らしく出した舌先で唇の表面をチロチロと舐め、唾液でいやらしく濡れ輝く唇に改めて吸いつく。  
 
「んんっ……ふぅ……西沢さん……」  
「んぁ、ハ、ハヤテ君……っ」  
 
丁寧で優しいハヤテのキスに、歩も少しずつお返しをはじめた。  
瑞々しい唇をふにふにと動かしてハヤテの唇を優しくついばみ、そんな積極的な自分に赤面してしまう。  
それでもハヤテに喜んで貰いたくて、首の後ろに回した指先で後れ毛をくすぐりながら、唇を軽く開いていく。  
おそるおそる舌を伸ばした歩は、熱くぬめるピンクの舌先を、ハヤテのそれへと絡めていった――。  
 
                       ☆  
 
はた、と。舌がクッションを舐めるザラついた感触に我に返る。  
抱きしめたクッションを指先でくすぐりながら濃厚なキスをしていた歩は、きょとんとしたあと  
 
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」  
 
ものすごい勢いで赤面していった。  
ベッドに仰向けになったパジャマ姿をぷるぷると震わせ、羞恥に瞳がうるうるとしてしまう。  
クッションをぽとりと顔の横に落とした歩は、両手で顔を覆ってぐりんぐりんと悶絶した。  
 
(はうあああ!! やばいよっ! やばいよ私!! なんだかすごいえっちになってるんじゃないかなっ!?)  
 
頭から湯気が出そうだった。顔から火が出そうだった。――いや、きっと出ているに違いない。  
そう思ってしまうほど顔も頭も熱かった。恥ずかしさで燃されて焼かれて死んでしまいそうになる。  
横向きになり胎児のように丸まってぷるぷると震えていた歩は、しばらくしてやっと震えを抑えこんだ。  
恥ずかしい気持ちは相変わらずあるが、とりあえず暴れることがない程度に落ち着きを取り戻す。  
 
(うう〜〜〜〜〜、恥ずかしいよ……)  
 
再び仰向けになった歩は、腕を顔を覆うように交差させて、脚も膝を軽く立てて交差させるように閉じ合わせる。  
――そのとき。  
 
(――――あ)  
 
くちゅりと。ぬめる感触が下着の中から響いてきた。  
意識した瞬間、その感覚は眠りから醒めたように鮮明になってしまった。  
じぃんとした痺れが正中線を下から上に駆け上り、下腹部――子宮のあたりでぶつかるようにして拡散する。  
波紋のように広がった甘い痺れは、妄想で温かく火照った身体を隅々まで舐めるようにして広がっていった。  
性の疼き。皮膚の感覚をめくり返すようなぴりぴりとした刺激が、意識を堕落の方向へと導いていく。  
ギュッと身を縮こまらせている歩の純真に輝いていた瞳の奥に、小さな情欲の炎が暖かく揺らめいた。  
 
(――や、だ……濡れちゃってる、よ……)  
 
どきどきと胸が早鐘を打っている。  
二度三度と深く呼吸をすると、歩はすぅーーっと身体から力を抜いてリラックスした。  
パジャマのボタンに手をかけ、上から、ぷち、ぷち、とゆっくり外していく。  
篭っていた熱が外へふわりと逃げ、汗が冷たく冷えていく。火照った肌を外気に晒すのは心地良かった。  
 
(私って、えっちなのかな……それとも、こうするのも、普通なのかな……んっ)  
 
しびれた頭でぼんやりと考えながら身体をよじり、ブラジャーのホックを外す。  
平均的な大きさの乳房が、拘束を解かれてふるりと揺れた。  
そんな些細な刺激さえ、今はもうたまらない。  
 
幸せに包まれた一日の終わりの、人には言えない秘密。  
パジャマを肌蹴た程度ではまるで足りない。  
身体の芯に疼いている熱を冷ますには、もう他に方法は考え付かなかった。  
 
(……しかたないよね。だって何回想像しても、目が覚めちゃって、少しも眠くならないんだもん……)  
 
歩は自分の身体が疼いていることを、これ以上ないほど理解していた。  
身体の芯だけじゃない。肌の隅々、足の爪先から髪の先端に至るまでが期待に震えていた。  
皮膚の感覚が性的なものへと切り替わったいまでは、ベッドに触れている背中さえ気持ちいい。  
イメージする相手は決まっていた。誰よりも大切な、誰よりも好きな人。  
綺麗な気持ちで愛したいのに、いやらしい想像の相手にしてしまうことが申し訳なくて。  
 
(はうう……。……ごめんなさい、ハヤテ君……)  
 
瞳を閉じた歩は、愛しい人を自分に都合よく想像しながら――最後に一度謝った。  
 
                       ☆  
 
胸元を肌蹴ていたパジャマに手をかけ、左右に大きく開いていく。  
冬を越したばかりの真っ白な肌が、首元からお腹まで部屋の空気に晒された。  
ホックを外されたピンクのブラジャーは、辛うじて乳房の上に被さっている。  
お腹を冷やさないように手を重ねて置きながら、歩はいよいよ深く想像した。  
自分を押し倒して服を脱がし、普段より少しだけ凛々しい表情で微笑するハヤテの姿を。  
 
『西沢さん……好きですよ』  
「ハヤテ君……」  
 
ちゅ、くちゅ……と口の中で舌を蠢かせてキスをイメージする。  
熱くとろけた舌が口内の粘膜を舐め、唾液をからめ、唇の内側をちろちろとくすぐる。  
深いキスをイメージした歩は、唇を口の中に含んで唾液で濡らすと、熱っぽい息を吐いた。  
 
『とっても美味しいですよ』  
「やだ、ハヤテ君ったら……」  
 
ねっとりとした口付けを楽しんだハヤテが、余韻に表情を柔らかくとろかせて微笑する。  
歩は頬を指先で撫で、顎の裏から首筋を伝って鎖骨へとおろしていった。  
くすぐるような感触に歓喜するかのように、ぞくぞくと肌に震えが走る。  
服を肌蹴た恋人の姿に、ハヤテは胸を打たれたような感嘆のため息をついた。  
 
『うわぁ、とても綺麗です。西沢さんの肌……まるでパウダースノーに覆われた西洋の雪原みたいです』  
 
両手でそっとお腹に触れる。無駄な脂肪がないきめ細かな肌の上を撫で、脇腹へと滑らせていく。  
指先で脇腹を撫でるようにすると、くすぐったさと気持ちよさがぴりぴりと首筋を震わせた。  
歩はさらに両手を交差させて腕の表面を撫でて、気持ちを少しずつ高めていく。  
ひとしきり肌の上を撫でると、交差した両手を少しずつ上にあげていき、乳房へと近づけていった。  
 
『可愛らしいブラジャーをなさってますけど……すみません。胸に触れますね……』  
 
耳元でハヤテが優しく囁く。色めいた響きの声に、歩は赤面しながらも小さく肯いた。  
だらしなく胸に被さっているピンク色のブラジャーの隙間に、焦らすように指先を入れていく。  
辛うじて小さくはないと言える程度の大きさの乳房の縁を、胸の形を整えるように手の平が包みこんだ。  
柔らかな乳肉がふにゅりと揺れる。大切な女性の象徴への愛撫に、歩は身体の芯が甘く疼くのを感じていた。  
 
一番敏感な場所には触れないまま、白く吸いつくような乳房を優しくマッサージする。  
ぴくぴくと快楽に震える歩は、足の指先でシーツを伸ばすように引っ掻いて漏れそうになる声を殺した。  
 
(はぁ、あ……気持ちいいよ……ハヤテ君……っ)  
 
僅かに開いた唇から小刻みに吐息が漏れる。下腹部がじんわりと熱い。  
小さく咽喉を鳴らした歩は、小高い双丘の頂へと、指を伸ばしていった。  
首筋に、頬に、鎖骨に。優しくキスをしていたハヤテが、恋人の反応を見つめながら手を伸ばす。  
 
「――――はっ……!」  
 
優しい表情で顔を見つめられたまま乳首を撫でられた歩は、ビクンと身体を震わせた。  
バッと顔を背けてベッドに押しつけ、歯を食い縛って快楽に耐える。  
そんな過敏な反応を見て、ハヤテは感動したような甘い口調で問いかけてきた。  
 
『……ここが、気持ちいいんですね。ぷっくりしていて、触れて欲しいとせがんでますよ?』  
「やぁぁ……見ないで……ハヤテく……っ」  
 
いつも澄んでいるハヤテの声は熱くとろけ、悪戯っぽい響きを帯びている。  
恥ずかしさに顔を背ける歩。その痴態を眺めて、ハヤテは優しく微笑んだ。  
指先でこりこりと乳首を撫でると、待ちかねた愛撫に身体が敏感に反応してしまう。  
その刺激は子宮にも響き渡り、まだ誰も受け入れたことがない膣内を愛液でぬめらせていった。  
 
充血した乳首の独特の感触を手で十分に味わったハヤテは、今度は唇を近づけていく。  
指を舐めてねっとりとした唾液を塗りつけた歩は、きゅうっと乳首を摘みあげた。  
唾液で指がぬるりと滑り、しごき上げられるようにして充血した突起が開放される。  
 
「はっ、ん……くぅぅ……っ」  
 
ぬるぬるとした指の感触は、本当に舐められているようにいやらしかった。  
ぬめる指先は乳首の根元をこすこすとさすり、挟みこんでしごきあげ、乳肉に埋めるように押しこんでいく。  
 
「ひゃ、んぁぁ……気持ちいい……ハヤテ君……ハヤテ君……っ」  
『可愛いですよ、西沢さん……もっと気持ちよくなるところ、見せてください……』  
 
ハヤテの言葉に恥じらいを感じてしまい、ギュッと閉じた瞼に涙がにじむ。  
唇から漏れる吐息は、気持ちよさを熱に変換したように熱かった。  
隠すように丸まりながら胸を愛撫する歩は、性感がギリギリまで高まっていた。  
パジャマに包まれた太腿をもじもじとすり合わせ、爪先でシーツをカリカリと引っ掻く。  
熱くぬめるじんじんと痺れた襞肉は、太腿をすり合わせるたびにいやらしく疼きをあげていた。  
 
『そろそろ、さわりますね……』  
 
秘められた聖域に触れる前の、ハヤテの小さな確認の声。  
身を焦がす快楽に耐え切れず、そっと片手を下へと滑らせていき、パジャマのズボンの縁を潜らせた。  
指先がショーツの中にまで潜りこみ、汗に濡れた薄い草むらをすりすりと撫でる。  
心の準備を促すような焦らしをしたあと、探るように遅く動いていた指先が肉の丘から滑り降りた。  
瞬間、電流を流されたようにビクンッと歩の身体が跳ねる。  
 
「――――ッ! きゃ……はぁぁ……ッ、っ……!」  
 
愛液に濡れぼり熱く疼いていた媚肉を、細い指が一息になぞり上げる。  
背筋を駆け上る凄まじい快楽に、歩はガクガクと腰を震わせた。  
ぬちゅりと指が柔らかな肉に沈みこみ、溢れた愛液をとろとろと絡めていく。  
唾液とはまた違うぬめりを得た指先は、敏感になりすぎた部分に丁度良かった。  
 
『西沢さんのここ……すごく熱くて、とろとろとしてますよ……』  
「はぅ……ぁ、……っく……あぁ……ん」  
 
愛液に濡れた手で閉じあわされた肉襞を包むように覆い、前後にぬちぬちと動かす。  
温かな手の感触と触れられているという実感は、直接的な快楽の少なさを補って余りあるものだった。  
時折良い場所に手が触れ、じんわりとした快楽の中に鋭い性感がひとすじ混ざる。  
その心地良さと快楽の具合が、本当の性行為をまだ知らない身体にはこの上なく適していた。  
左右にくにくにと動かした手の指が、充血した媚肉を吸い付かせながらぴらぴらと撫でていく。  
手の平は茂みに覆われた丘を温かく包みこみ、しょりしょりとした独特の感触を楽しんでいた。  
 
『ぬるぬると指に絡みついてますよ……これが、西沢さんの花びらなんですね……』  
「んん……やぁ……えっちなこと、言わないで……んん、はぁぁ……っ」  
 
いつまででもこうしていられそうな、まどろむような性感が身体を温める。  
陰唇から、子宮から、快楽が波紋を広げるようにして全身に膜を張っていくようだった。  
甘く緩やかな性感に、とろけるような温かさと崩れてしまいそうな弛緩が全身を包みこむ。  
もう一段高い快楽を得るための素地が築かれると、歩は小さく咽喉を鳴らした。  
 
『西沢さんの大切な場所……僕に見せてください……』  
 
優しい声でお願いするハヤテの声を聞きながら、手をゆっくりと離した歩は仰向けに寝転んだ。  
水色のパジャマのズボンに手をかけ、親指をスッと差し入れてズボンとショーツの縁に引っかける。  
身体を丸めるようにしてお尻の半ばまで服を下ろした歩は、身体反らすように腰を浮かせた。  
ベッドとの間に僅かにできた隙間を衣服がくぐり、秘められていた肌が白日の下に晒されていく。  
立てている膝の近くまで服を下ろすと、歩は軽く脚を開いて落ちてこないように固定した。  
 
ベッドにぺたりとつけている足先は大きく開かれ、爪先が内側へと向けられている。  
両脚を緩やかな山折りにして立てた膝の間隔は、指が何本か入る程度だった。  
両脚の間の隙間は、太腿の半ばで少し狭まり、股間に向かう過程で再び開いていく。  
下品に開かず、けれど触れるには適した格好は、自慰を行う歩にはひどくいやらしく見えた。  
 
見せて欲しいとせがんだハヤテの言葉を思い出し、歩はもう少しだけ膝を開いていく。  
心の中でイメージした格好よりかなり控えめだったが、耳まで赤くした歩にはこれが精一杯だった。  
 
両膝の内側に手を添えて閉じないように抑え、ハヤテが歩の秘部を覗きこんでいく。  
歩は恐る恐る手を伸ばし、震える指先で愛液に濡れた肉襞を左右に開いていった。  
くぱぁ……と開かれた花びらの奥に、ピンク色の聖域が慎ましく姿を見せる。  
愛しい人に見てもらうために恥ずかしい姿を晒す歩に、ハヤテは感嘆したような声をあげた。  
 
『わぁ、西沢さんの女の子……。まるでマーメイドが棲む海岸に光る桜貝のように綺麗だな〜』  
「そ、そんな、褒めすぎだよ、ハヤテ君……っ」  
『そんなことありませんよ。こんなに素敵な場所を許してくれるなんて、僕は本当に幸せ者です』  
「やぁ……そんなに、じっと見つめないで……ひゃんっ!」  
 
言葉の終わりを待たずに、指先が開かれた陰唇の間に滑りこむ。  
左右から花弁の内側にしっとりと挟まれた指は、膣口の周辺をすりすりと撫ではじめた。  
愛液に濡れた指は抵抗が少なく、粘膜を痛めてしまう心配はない。  
刺激は弱いものだったが、左右を挟む襞肉が指に絡んでいくため、こすられる表面積は広かった。  
 
『……わかりますか? 西沢さんの花びらが指に吸いついて……まるでキスされてるみたいです』  
「やっ……んんっ……気持ちいいよ……ハヤテ君……っ」  
 
純潔を保っている歩は、膣口に挿入するのを避けながら指を軽く動かしていく。  
熱くとろけている膣内への愛撫にも興味を感じてはいたが、いまはまだ怖れのほうが強かった。  
膣口に触れるのを怖がっていた歩は、その代わりに指に絡んでいた陰唇へ食指を動かしていった。  
左右の花びらを中指を間に挟むことで立たせ、人差し指と薬指で外側から挟みこむ。  
愛液に濡れ充血した花弁を捕らえると、指をこすり合わせるようにして左右に嬲っていった。  
 
くにゅくにゅと蠢く指が花びらが左右から撫で、中央の敏感な部分を中指がぬちぬちとくすぐる。  
陰唇に守られている膣口周辺への接触は、最も大切な場所に触れられているという実感を強くしていた。  
 
(――この手はハヤテ君の手、この指はハヤテ君の指――)  
 
性感が高まるにつれて頭の奥が白くなりつつある歩は、瞼を閉じて改めてイメージした。  
自分を組み敷くハヤテの姿。笑顔。服装。優しい声に――こうして可愛がってくれている指先。  
願うように、祈るように。恥じらいに赤らめ、快楽に白くなりながら、願望を意識に繋ぎとめる。  
 
(ハヤテ君の手が、指が、こんなにゆっくり、いやらしく、私の女の子の部分を味わってくれてる――)  
 
強くイメージするほどに身体はひときわ熱を帯び、白い柔肌から甘やかな色香が匂い立つ。  
浅く熱い吐息を繰り返す歩は、遊ばせていた手を胸元に寄せ、指先で乳首を弄りはじめた。  
ツンと立った乳首をコリコリと指で挟んで転がしながら、秘部を包むように覆った手をくちゅくちゅと動かす。  
二点を同時に責めはじめると、全身を覆っている性感は急速な勢いで高まっていった。  
 
まだ浅いながらも絶頂の縁に近づきつつある歩は、最も敏感な場所に指を伸ばした。  
下から上へ女性器全体をじっくりと撫で上げた手の指先が、終端にある突起をコリッと撫で上げる。  
 
「きゃうっ!! は、ぁ――――!」  
 
背筋を駆け上がる快楽に、肌を粟立たせた歩はビクンと身体を震わせた。  
ごつんと音を立てて両膝がぶつかり、ぎゅっと握られた足の指がシーツをギリギリと締め付ける。  
愛液に十分に濡れた指で触れてなお、クリトリスへの愛撫は特別なものだった。  
 
きゅんと膣道が痛いほどに収縮し、硬直した身体がガクガクと震える。  
強張っていた首元から力が抜けると、歩は忘れていた呼吸を取り戻した。  
 
「っく……はぁー…っ、はぁーっ」  
 
達してしまいそうな身体を寸前で抑えこんだ歩は、荒くなりすぎた呼吸を整える。  
全身から強張りが抜けきると、歩はそっと丁寧な手つきでクリトリスへの愛撫を再開した。  
包皮を被せるように上から撫で下ろし、愛液を丁寧に塗りつける。  
左右から挟むようにして周囲の肌を強く撫で、間接的にクリトリスの根元を刺激する。  
膣口の周りを撫でながらクリトリスに触れると、丁度良く性感が分断された。  
 
『西沢さんのクリトリス、コバルトブルーの海に光る真珠のように可愛らしいです……そっと触れますね』  
「はい……やさしく、して……ください……」  
 
いたわるように囁く声に、祈るように哀願する。  
外堀を埋めるような愛撫をするうちに、歩の感覚にゆっくりとした変化があらわれ始めた  
腰が抜けてしまったかように感覚が消え、快楽を感じる部位の感覚だけが冴え渡っていく。  
それに合わせてクリトリスへの刺激が、痛いほど鮮烈なものから、鈍く滲んだものへと変化していった。  
 
熱くとろけていたはずの咽喉はカラカラに渇き始め、唇から漏れる声はかすれてしまっている。  
潤いに溢れ熱されていた身体は、火をつけられ燃え上がったように狂乱しそうになっていた。  
波紋を広げるように全身を包んでいた快楽は、出口を求めるように一点に向かおうとしている。  
快楽の頂、到達点。白く漂白された世界に向けて、快楽が集束し高まっていく。  
膣口から溢れた愛液は滑らかな肌を下へと伝い落ち、シーツに染みを作っていた。  
 
「や――、すご、い……気持ちいいっ……気持ちいいよぉぉ……っ」  
『西沢さん……可愛いです。もっと僕の手で気持ちよくなってください……』  
 
胸の鼓動の他には、愛撫を続けている乳首とクリトリスばかりが、歩の意識を支配し始める。  
コリコリと撫でられる二箇所の突起は、身体の中に収まりきらないほどの快楽を奏でていた。  
もうクリトリスへの愛撫にも遠慮はなかった。  
摘んだ指を擦り合わせるようにして転がし、背筋を駆ける快楽に身体を跳ねさせる。  
 
「はぁっ、はぁっ、……ハヤテくん……っ」  
『気持ちいいんですね。……いいんですよ。我慢しないで』  
 
耳元で囁くハヤテの声に、下唇をきゅっと噛んだ歩が小さくコクンと肯く。  
絶頂を迎えることの恥ずかしさを乗り越えると、手の動きを強めていった。  
 
「ふぁ……はぁ、――んくっ、あっ、あんっ、くぅぅっ……んんんっ!」  
 
ぐっと肩をベッドに押し付け、少しずつ腰を浮かしていく。  
ベッドから数ミリほど腰を浮かし、くちゅくちゅと性器全体を撫でつけた。  
もう一方の手で乳房を強く掴み、指先で乳首を転がす。  
まるでハヤテの愛撫に翻弄されるように、歩はあられもない痴態を晒していった。  
 
「はぅぅ……ハヤテくん、ハヤテくんっ……わたし、もう……だめ……ッ!」  
『いいんですよ、西沢さん。一番気持ちよくなってる、一番綺麗な姿を、僕に見せてくださいね』  
 
静寂に包まれた部屋の中に、熱く乱れた吐息と淫らに濡れた水音が広がっていく。  
クリトリスに気持ち良い刺激が走るたび、歩は歯を食い縛って腰をビクンと跳ねさせた。  
すでに快楽の極みにあるはずの歩だが、なぜか絶頂へ至りきることができない。  
まるで見せ付けるような格好で快楽を貪り続ける歩は、救いを求めるように言葉を紡いだ。  
 
「ハヤテくんっ……! …………好き……、大好き……。大好きだよ……っ!」  
『――僕も、大好きですよ、歩さん』  
 
「――――――!!」  
愛しい人からの呼び声にドクンと胸が熱く鳴った。  
快楽だけに彩られていた感覚がめくれ返るようにして愛情に転化していく。  
見開いた瞳から涙をひとすじ流した歩は、枷を外された鳥のように快楽の頂へと飛翔した。  
 
「―――――――――――――――――――――――――――――――」  
 
唐突に上りつめた歩は、声を発することも出来ずにガクガクと身体を震わせた。  
浮かせていた腰が跳ねるように震え、愛液の飛沫がシーツに新しい染みを作っていく。  
震えが収まった歩は、シーツに突っ張っていた足先をずるずると滑らせてベッドに横になった。  
 
なにも考えることが出来ず、ただ余韻に浸る。  
なかなか達せない状態から、いきなり誘われた絶頂。  
抑圧と開放は、忘我してしまうほどの鮮烈な絶頂感を歩に与えていた。  
 
「…………………………………………………………………………………」  
 
パジャマを開き、ブラジャーを押し上げ、ズボンとショーツを膝の近くまで下ろしたあられもない姿。  
肩までの長さの髪を広げる歩は、そんな恥ずかしい姿を隠すことさえせず、天井をぼんやり見つめた。  
まるで落雷のあとのよう。帯電したようにピリピリと全身を甘痒く撫でている絶頂の残滓が心地良い。  
 
そんな風にのびのびと快楽の余韻に浸っていた歩だが。  
 
「………………………………………………………………はうう」  
 
ゆっくりと我に返ってはじめて漏らした言葉は、なんとも冴えないものだった。  
余韻に浸る中で幸せな形にリセットされていた顔が、みるみるうちに耳まで紅潮していく。  
 
恥ずかしすぎて言葉にすることなどできやしない。  
西沢歩という少女にとって、今日のは間違いなく。  
今までで一番最高にいやらしい一人えっちだった。  
 
裸同然の身体を隠す前に、パチンと音を立てて顔を覆う。  
そのままぷるぷると震え、死にそうなほどの恥ずかしさと戦っていた。  
 
(いぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーやぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!  
 な、なんてエッチなことしちゃったのかな!! 私……、私……、いやあああああああああ!!  
 ちょ、どうしよ、どうしよ! うわぁぁぁぁ……やっちゃっ…………ごめんなさいハヤテ君!!  
 うわ、なんだか泣きたくなってきちゃったよ。いやもうこれはいっそ殺して欲しいくらいかな!  
 あっはっはっはーーって笑えないよ!! わーもう明日どんな顔してハヤテ君に逢えばいいの?)  
 
ひとしきり心の中で嘆いたあと、歩はしくしくと軽く半泣きになりながら服を着替え始めた。  
汗を拭いてから下着を穿き替え、改めてパジャマに袖を通す。少し汗を吸ってるけど我慢。  
脱いだ下着は手洗いしてから洗濯機の中に放り込んだ。  
ベッドメイクをやり直し、ピンと張ったシーツの上に香水を少し吹きかける。  
小さなアロマを焚いて部屋の空気に匂いをつけると、やっと落ち着くことが出来た。  
カーペットにぺたんと腰を降ろし、ベッドに背中を預ける。  
 
「ううう……やっちゃった…………すっごく気持ちよかったけど……あうう……」  
 
足の指でカーペットをくにくに握り、机の上に置いていた携帯電話を手に取る。  
携帯電話をパチリと開き、そこに貼られたハヤテとのプリクラ写真を見つめた。  
まだ一緒の学校にいた頃、想いを告げていなかった頃、強引に撮ったぎこちない写真。  
さっきまで想像していた底抜けに凛々しく優しい姿とは違うけれど、想像じゃない本当のハヤテ。  
それをじっとみつめて心を痛めた歩は、改めて「ごめんなさい」とぺこぺこ謝った。  
 
シャワーを浴びるために目覚まし時計の針を早くセットし、アロマの火を消してベッドに潜りこむ。  
心地良い疲労感が身体を包んでいて、すぐにでも寝付けそうだった。  
眠りを待つ僅かな間、歩は改めて思い出していた。ハヤテと一緒のアルバイトになった幸せを。  
美味しいコーヒーをいれて感動したハヤテ君に告白されるんだ、と意気込みたいところだったけれど、  
こんなことをしてしまったあとで、きちんと挨拶出来るかどうかが一番の心配事だった。  
小さくため息をついた歩は、うとうとと眠りにつきながら、まどろむような声で最後に告げる。  
 
「でも、いつかあんなふうに……なんて…………おやすみなさい、ハヤテ君」  
 

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