満月の光もろくに届かない、暗闇に覆われた夜の森。  
その中をガサガサと草木をかきわけ、制服姿の女子高生が走っていた。  
後ろを気にしながら全力疾走する姿は、明らかに何者かに追われるものかに追われている。  
高速で迫る樹木を左右にかわし、藪を飛び越える姿は、反射神経の良さを伺わせた。  
 
「――――ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、――――なんで、」  
 
広大な森は果てを知らず、逃げ続ける少女を喘がせる。  
以前侵入したときも感じた私有地の広さは、逃走の大きな足枷になっていた。  
背後からは、彼女が避けるしかなかった障害物を力任せに突破して迫る影。  
巨大な四足獣のシルエットは、一瞬だけ射しこんだ月明かりに蒼銀に輝いた。  
ドドスッ、ドドスッ、と地を揺らし迫る足音は、障害物を砕く音が混じってもリズムを崩さない。  
それを器用に聞き取ってピンチを悟った少女――西沢歩は  
 
 
「ななな、なんでまた三千院ちゃんちのトラに追いかけられてるのかなーーーーーー!!」  
 
 
心を侵食する恐怖を跳ね除けるように、空に向かって大声で叫んだ。  
 
 
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ハヤテのごとく!! 第何話なのかな! かな!  
「何かを期待する人間にとって誕生日はむしろ緊張感に包まれた日になりかねない」  
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今日は誕生日だった。  
スッキリとした朝を迎えて、上機嫌に家族に挨拶をした。  
新聞を読んでいた父と、キッチンに立っていた母が祝いの言葉を言ってくれて、  
弟の和樹だけは何も言ってくれなかったので軽く頭をぐりぐりってしてやった。  
学校でもそれなりに仲の良いクラスメートからおめでとうを言われ、  
親しい友人達はカラオケボックスで軽いパーティーを開いてくれた。  
特別なことはなかったけど、とても幸せだった。  
 
けれど友達と別れ、家族の待つ家路を一人歩いているときに――特別なことが欲しくなった。  
 
特別な人に逢いたかった。プレゼントなんていらない。  
たった一言、「お誕生日、おめでとうございます」と言って貰えたら……。  
そう考えながら歩いているうちに三千院家についてしまい、  
だけど、用らしい用もないのに正面から呼ぶこともできず、  
うろうろとしているうちに小さな隙間があることを見つけ、  
 
――いまこうして、ピンチになっていた。  
 
「あーーもーー! 私はバカなのかなー! 早く帰らなきゃいけないのにー!!」  
 
家では、家族がささやかなパーティーを開いてくれるはずだった。  
後ろから走ってくるケモノを早く振り切って、自転車を飛ばして帰らないといけない。  
ああ、そうだった。自転車は忍びこんだところに置いてあるから、取りに戻らないと。  
友達から貰ったプレゼントはカバンと一緒に忍びこんですぐの茂みに隠してある。  
盗まれる可能性はないけど、お屋敷の警備の人に回収されたりしてないかな――。  
 
ガアアアッ! ゴルルルァァッ!!  
「って、きゃーーー!! なんで私なんか追ってくるかなーーーー!!」  
 
いろんなことを考えて気持ちを軽くしようと努めたが、獰猛な叫び声で現実に戻された。  
もうどれくらい走ったのか。息は絶え絶えで、身体のあげる悲鳴が火花のように頭で散る。  
制服や靴下にも枝葉でつけられた傷が走り、ところどころでは血が滲んでいた。  
目の前に膝上まである茂みが現れて、スカートが翻るのも構わずに跳躍する。  
 
――しかし。  
 
疲労の蓄積した脚に力が入りきらず、ハードルのように綺麗に飛び越えるはずの脚が茂みに取られた。  
畳んでいた後脚のふくらはぎが細い枝葉の茂みをバキバキと削り折り、バランスを崩す。  
 
「――――!」  
 
前脚の着地で体勢を立て直せなかった歩は、前のめりに地面に倒れこんだ。  
茂みに取られたとはいえ、勢いはまだまだ全力疾走のそれに近い。  
その状況下で樹にぶつかることもなく、腕の骨や手首に怪我を負うこともなく、  
草の上にゴロゴロと転がることが出来たのは不幸中の幸いだった。  
 
(――――だ、だめ、もう、走れないよ――――)  
 
なんとか立ち上がるが、走り出すことはできず、よろよろと樹木に身体を預けてしまう。  
目立つ外傷こそなかったが、歩の身体はすで限界を超えていた。  
歩が飛び越えられなかった茂みをバキバキと踏みしめて、三千院家のトラ――  
三千院ナギが『タマ』と呼んでいたホワイトタイガーが月明かりの下に姿をあらわす。  
 
限界を超えて酷使した身体が、許容範囲を超えた疲労にガクガクと震えている。  
背後からは、獲物が逃げないとわかっているのか、歩くような速度で近づいてくる巨大な四足獣。  
 
荒い息を吐いていた歩は、大きく息を吸うと最後の力を振り絞って叫んだ。  
 
 
「ハヤテくーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」  
 
 
彼を追って初めてこの屋敷を訪れた時のように、  
彼女の特別な――大好きな人が、助けに現れることを願って。  
 
 
空気を貫くような声が、夜の森に響き渡る。  
背後から近づく森の王さえ一瞬立ち止まるほどの叫びは、  
しかし周囲の木々に吸い取られるように力をなくしていって……消えてしまった。  
 
夜の森の冷たい静寂と、肉食獣の重厚な呼吸の音が戻ってくる。  
――助けは、訪れなかった。  
 
(……ハァ、ハァ、ハァ……、そうだよね。そんなに、いつもいつも上手くいくはずがないよ……  
 参ったなぁ……私どうなるんだろう。三千院ちゃん家のペットだもん、乱暴なことはしないだろうけど……  
 舐められたりじゃれつかれたりするのかな……こんなに大きいと、さすがに、怖いなー……)  
 
よりかかっていた樹に腕をついて、よっと力をいれて地面に立つ。  
走り疲れた身体は汗みずくで、白い靴下にも僅かに湿り気があり、靴にイヤな感触を伝えていた。  
深呼吸して、少し気合をいれる。  
右足を半歩引いて踵を浮かせ、爪先立ちになってくるりと半回転。  
体育の授業のように綺麗に回れ右をすると、歩はタマと向き合った。  
 
地面には草が茂り、周囲は木々と茂みが囲むなか、のそり、のそりと近づいてくるトラの姿。  
それは、紛れもなくここが彼のテリトリーであると確信させる、圧倒的な迫力を持っていた。  
 
一目で太刀打ち出来ないと感じさせる肉厚の身体が、堅そうな毛皮に覆われている。  
全長二メートル強の体躯は、四肢を地面につけてなお歩の胸の辺りまで高さがあった。  
獲物を威圧する瞳に、肉を食いちぎるための、大きな牙を生やした分厚い縁取りの口。  
鋭い爪で地面を踏みしめている前足は、歩の顔を覆ってしまえるほどの大きさがある。  
 
都会で暮らす一介の女子高生にとって、それはあまりに規格外の存在だった。  
白い毛並みを月明かりに蒼く染めたホワイトタイガーを見て、意識が完全に呑まれてしまう。  
黄金色の瞳から視線をそらせないまま無意識に一歩下がった歩は、地面に脚を取られてしまった。  
 
「わきゃっ!? あぅ……いたた……」  
 
ぺたんと尻餅をついてしまい、膝を閉じ合わせたまま腰をさする。  
すると、少女の一瞬の変化に敏感に反応した猛獣が、やおら近寄る速度を上げた。  
残り数メートルしか開いていなかった距離をすぐに詰め、歩の細脚の間に顔を突き出す。  
何度か鼻をヒクヒクさせると、膝上丈のスカートに噛みついて勢いをよく首を捻り上げた。  
 
ビキッと音を立てて厚い生地のスカートが引っ張られ、腰が軽く浮き上がる。  
汗に濡れた太ももにふわっと風が入ると、歩は慌てて片手を地面から離してスカートを抑えた。  
「え――? な、何をしてるのかな? だ、ダメだよ! スカート噛んじゃだめっ!」  
静止の声に耳を貸さず、タマはじりじりと後ろに下がりながら二度三度同じ動きを繰り返す。  
衝撃でホックが外れたスカートは少しずつファスナーを開いていき、身体への締めつけを緩くしていった。  
「え、えっと――タ、タマちゃん! ダメだってば! ね? お姉ちゃんの言うこと聞いて!」  
少しずつ、少しずつ、柔らかな尻肉を潰すようにして、スカートの縁取りが下がっていく。  
片手では抑えきれなかった歩は今や地面に寝転んで、両手でスカートを引っ張っていた。  
 
抵抗も虚しく、すぐに太ももの半ばまでスカートが下ろされ、完全に綱引きになってしまう。  
本来スカートに隠れている部分のブラウスと、その隙間から覗く純白の下着が月明かりに蒼く染まった。  
「やだ……! ダメだよ……! 三千院ちゃんに……言っちゃう、ん、だからね……っ!」  
(どうしよう、なんかヘンだよ……なんかこの子、怖い……)  
歩は必死に抵抗するものの、タマを手で叩いたり、脚で押しのけようとは決してしない。  
そうしたら、危害を――もっと身体的な、致命的な危害を食らわされそうな危険を感じていた。  
 
――グルル……グオァアアア!!  
 
グイグイとスカートを引っ張り続けていたタマは、痺れを切らしたのか、牙を剥いて威嚇の声を上げる。  
至近距離から浴びせられる重厚で獰猛な唸り声は、まるで空気の大砲だった。  
「ひゃ……――――――――!!」  
肉食獣の大きく攻撃的な口腔と威嚇の声に恐怖した歩は、心臓が限界を超えて収縮する感覚を覚えた。  
 
ビクンと身体を跳ねさせて手を離してしまい、スカートの裾が足元までずり下げられてしまう。  
だが本能的な恐怖に突き動かされた歩は、そんなことに構わず逃げる体勢に入った。  
後ろを向いて這って進みスカートから健康的な白く細い脚を抜いて、立ち上がって逃げようとする。  
スカートの脱げた恥ずかしい姿を晒すことや、地を這う無様を晒すことを省みる余裕などなかった。  
疲れた膝に手をついて強引に立ち上がり、ややフラつきながら一歩、二歩――走る体勢が整う。  
(やだ――やだ、やだ、やだ、怖いよ――逃げなきゃ――どこか、どこか遠くに――ハヤテく――)  
しかし力強く三歩めを踏み込んだ瞬間、歩の身体に、巨大な影が覆いかぶさってきた。  
 
「あううっ!」  
体長2メートル強、体重300キログラム前後の巨躯が行う押し潰しに、少女は逆らうすべを持たなかった。  
全身がブレるように揺さぶられ、前に倒れる動きに合わせて膝がガクンと力を失う。  
ヒジを地面についたうつ伏せに近い形に倒れた歩は、軽いショック状態に陥っていた。  
タマが四肢をしっかりとついて着地したため、華奢な身体は潰されずにすむ。  
しかしそれは長く続く苦しみを約束するものだった。  
 
獲物の思考がくらくらとしている間に、タマは相手が身につけていた素朴な白い布地を食いちぎる。  
長い逃走劇の中で汗濡れになっていた下着が剥ぎ取られると、青臭いメスの香りが周囲に広がった。  
スカートの中で嗅いだものより遥かに濃密で、オスを誘引する要素を持つ香り。  
人間より遥かに優れた嗅覚で汗と混じるメスの性臭を嗅ぎ取ると、猛獣は獲物の露わになった陰部を舐め上げた。  
少女の手のひらほどもある舌が、性器と排泄器官の区別もなくネバつく唾液を塗りつける。  
 
誰かに触れさせたことはもちろん、見させたことさえない、恋する少女の純潔の花園。  
乙女にとってとっておきの場所をべちゃりべちゃりと舐められるおぞましさに、歩の意識は引き戻された。  
快楽とは無縁の身の毛もよだつおぞましさに鳥肌が立つ。  
まだ回りきっていない思考は自分の身に降りかかった危険の種類も判別できず、ただ逃走を促した。  
「――――ぁ……や、だ……っ……気持ち、悪いよ……」  
弱々しい声を上げ、ずりずりと地面を這って逃げようとする少女に、肉食獣は再び覆いかぶさった。  
 
「あ―――」  
視界の先にズシンと前脚がつき、身体が完全に影に覆われてしまう。  
四つん這いに組み敷かれた歩は、分厚い檻に入れられたようなものだった。  
頭を押さえつけられるような威圧感。逃れられないという感覚が身体の動きを萎縮させてしまう。  
 
地面にべたりと腹ばいになっていた歩は、自分を覆う影の持ち主を振り返った。  
擦り寄るでもじゃれつくでもなく、ただ逃がさないような膠着状態にどんな意味があるのか。  
タマが何を目的として自分をこんな目に合わせているのか、それを探ろうとした歩の目に、  
暗灰色のシルエットの中で威容を放つ、棒状の物体が止まった。  
 
まるで尻尾と対になるように股から生えている、歩の肘から先まではありそうな尖った器官。  
毛皮に覆われているふうでもないのに、影の中でさえザラつく陰影を残す獰猛な威容。  
それが痛ましいほどに勃起したペニスであると気付くと、歩は顔からどんどん血の気を引かせていった。  
 
(そんな……そんな、嘘だよ……考えられない……そんなことしようと考えてるわけが……)  
 
認めたくない答えに辿り着くのを避けたのか、思考の表層が否定の言葉を繰り返す。  
けれど思考の深層では明らかにその危機を感じ、逃げることを促すように警鐘を鳴らしていた。  
意識の表層と深層がせめぎあい、行動を決断する時間が遅れてしまう。  
硬直している間にタマは焦れたような呻き声を上げ、次の行動を開始していた。  
前脚をのそりと上げ――歩の身体を横薙ぎに叩き始める。  
 
「きゃっ……はっ……うぐ……っ」  
 
少女を組み伏せたホワイトタイガーは、片方だけ浮かした前脚で歩の身体を左右に叩く。  
重い揺さぶりを受けた歩の身体は、まるで丸めたボロキレのようにされるがままに転がった。  
恐怖と思考の混乱で硬直している歩は、顔を隠すように腕を交差して脅えている。  
タマは草と砂埃にまみれた歩の身体をうつ伏せにさせると、前脚を器用に使って腰を持ち上げさせた。  
 
膝が立つほど持ち上げられ、ブラウスの裾しか隠すもののない白い尻が突き出す格好にされる。  
次いで、顔ほどもある巨大な肉球で首と肩を地面に押し付けられると、完全に身動きが取れなくなり  
 
「ぎっっ!!……やああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」  
 
17歳の誕生日を迎えた日――  
西沢歩は、獣の持つ巨大なイチモツによってその純潔を散らされた。  
 
初めて膣に感じる異物感は、脳髄に火花が散るほどの激烈な痛みを伴っていた。  
衝撃に瞳孔が収縮し、脊髄を駆ける痛みが神経の容量を超えたように、背筋がギクンッと震える。  
全身が縮む錯覚を覚えるほど毛穴が収縮し、かと思えばおぞましいほど冷たい汗を噴出させ――  
草に覆われた地面を噛んで叫ぶ歩の身体は、涙を流す余裕もないほど痛みのみに支配されていた。  
 
棍棒のような猛獣のペニスは、まだ成長を残している少女の膣には大きすぎた。  
太ももを伝う血液の量は、処女膜を散らした純潔の証としては説明がつかないほど大量で、  
無残にも膣口が裂けてしまったことを物語っている。  
 
最初の叫び声で肺腑を空にしてしまった歩は、地面に押さえつけられたため呼吸を困難にしていた。  
ひゅうひゅうと浅い呼吸を繰り返し、僅かでも痛みを散らそうとするように指先でガリガリと土を削る。  
痛みに半狂乱になって戒めを解こうともがいても、肩甲骨と鎖骨がミシミシと言うだけでビクともしない。  
 
肉の裂けるゾッとするような痛み。血が流れる熱さと言いようのない喪失感。  
身体の中央を貫く、女だけに与えられている異物感。  
ゴツゴツと最も奥まった部分を突き上げられ、身体が振動する屈服感。  
しかしそれよりも――膣内の肉壁をザリザリと削るような異質な痛みが歩を恐怖させていた。  
 
(あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!  
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!  
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!)  
 
歩を組み伏せた猛獣――タマが行っている腰の動き自体は、何の変哲もないものだった。  
膣の最奥――子宮口まで突き入れたペニスを、時折、僅かに引いてはまた押し込むという単調なもの。  
体重の重い動物らしい最小限の動きで、組み伏せている華奢なメスを壊さない配慮さえあったろう。  
しかし、哺乳動物同士であっても、種族の差は大きすぎた。  
 
――猫科の動物のペニスには、メスを逃がさないための返し針が無数についている。  
オスがペニスを膣に押し込むときには邪魔にならず、メスが逃げようとすれば食い込んで逃さない仕掛けは、  
本来その形状のペニスを挿入するはずのない少女の性器にとって、残酷な拷問具でしかなかった。  
 
言葉にはならない叫びが心の中で荒れ狂い、地面を削る指先は爪が割れて血を滴らせる。  
地面に顔を擦り付けるように押し付けて横を向き、横の額を支点に身体を持ち上げようともがく。  
だが、それらの抵抗は長く続かなかった。  
 
精神を焼ききられそうになった歩は、やがて諦めによって安定を取り戻していき、  
痛みを出来るだけ減らそうと、土を噛みながら一生懸命呼吸を深くして身体の力を抜いていく。  
それに併せて痛みも和らいでいき――思考の回転数が徐々に落ちていった。  
爪がわずかに食い込んで出血した肩ばかりが熱く、下腹部から太ももの半ばまでの  
 
 
それは諦めによる哀しい静寂。  
だが歩本人がそれを哀しいと感じられない――絶望に閉ざされた静寂だった。  
 
風音。ざぁざぁと、風が森の木立を揺らす音が聞こえてくる。  
(ここは、どこなんだっけ――)  
 
風。横を向いたためぴょこりと上に伸びた一房の髪が、ゆらゆらと揺れる。  
(――ああ、三千院ちゃんの、お家の、お庭だ。ヘンなの。どうして私こんなところにいるのかな――)  
 
振動。あまり大きいとは言えない胸が、ブラウス越しに地面に擦りつけられている。  
(――そっか……私、ハヤテくんに逢いたくて――)  
 
吐息。首を空へもたげて月を仰ぐ猛獣の、心地良さそうな唸り声。  
(――タマちゃんに追いかけられて………………………………)  
 
タマが一度目の射精を行うのと、歩の瞳から涙がこぼれるのはほとんど同時だった。  
ビュルビュルと大量に吐き出された精子が子宮に叩きつけられ、ペニスに疲れていた場所よりも、  
もう一段階深いところへ猛獣の精液が注ぎ込まれ、満たされていく。  
未使用だった子宮が無遠慮に穢されきると、溢れた精液は膣道をぬめりながら逆流していった。  
今なおペニスに貫かれている股の間から、ぼたりぼたりと処女血と鮮血と獣精の交わりが落ちていく。  
 
心を閉ざしつつあり、弛緩した身体に痛みはなくとも。  
人ならざるモノの精を子宮に注がれたことは、歩の精神の深いところに致命的な亀裂を走らせた。  
 
束の間の休息。放精したケダモノが充足の唸りを一声上げる。  
しかし歩の膣からペニスを抜くことはなく、また膣内のペニスが萎える様子もなかった。  
すぐに腰の動きが再開し、一度目の放精ですべりを良くした膣にペニスを深々と打ち込む。  
一度欲望を満たしたタマは歩に逃げる素振りがないことを見て取ると、余裕を持って周囲を見渡した。  
右斜め前方、少しの距離にある樹に目をとめる。  
歩の肩を押さえつけていた前脚をのそりと退けると、腰をグリッと動かして方向を転換した。  
 
「――っ……!」  
 
限界まで広がって獣根を包んでいた膣をえぐられ、浮いた身体が草を撫でるように動かされる。  
タマが歩き出すと、ほぼペニスだけで身体を支えられた歩は、手足で頼りなく地面を掻いてそれに従った。  
返し針に膣を傷つけられないようにするには、自分を犯すケダモノと歩調を併せるしかない。  
猛獣のペニスに膣を深々と串刺しにされたまま、自発的に四つに這うしかない惨めさに打ちのめされながら  
――歩は、自分がタマと同じケダモノになってしまったと錯覚し始めていた。  
 
説得の通じない相手に人間の言葉を発することを放棄し、  
辛くなるだけの哀しくなるだけの人間の言葉での思考を放棄し、  
自分を犯すケダモノが欲望を満たすまで、心を閉ざした性の道具になり果てる。  
そこには、明るく活発だった少女の面影はどこにもなかった。  
 
タマは歩の身体を木の前まで運ぶと、立ち上がるようにして腰を上向かせた。  
ペニスに釣り上げられた少女の手と膝が地面を離れ、立ち上がることを強制される。  
まるで人間のように地面に足をついた歩は、今度は地面でなく木の幹に身体を押し付けられた。  
顔から胸までを木に押し付け、腰は後ろに突き出し、脚は膝をやや曲げた苦しい姿勢を強いられる。  
それは、体格差のあるメスを犯しやすくするための獣の知恵だった。  
 
姿勢が楽になったのを喜ぶよう喉を鳴らすと、タマは今度こそ交尾に熱中する。  
再開された腰の突き上げは、地面でそうされた時より安定感と逞しさを備えていた。  
腰を動かすペースは遅くとも、タマはぬめりを増した膣を味わうように余裕を持って交尾を楽しむ。  
そこに身体の奥で眠っていた野生がふつふつ目覚める感覚も合わさって、我を忘れるほどに酔いしれていた。  
二度目の射精を行ったことにも気付かず腰を動かし続け、肉の悦びに耽溺し続ける。  
 
 
西沢歩は、県立高校に通う普通の女の子だった。  
普通の家庭に生まれ、穏やかな家庭環境で育ち、普通の恋心を抱くようになった。  
その相手に好きになって欲しいと願っても、恋愛が成就した先のことには疎かった。  
キスをすることを想像するだけで精一杯で、肉体関係になることにまで考えが及ばない。  
――そんな、優しい環境でゆっくり育った女の子だった。  
 
 
遠く離れた場所。  
三千院家の敷地のすみ。鉄柵に近い場所の茂みに小さな光が灯った。  
ピンク、グリーン、オレンジ……複数の色のLED光が交互に輝く。  
カバンの脇ポケットに刺さった携帯電話。  
一定の感覚で震えていたそれは、やがて動きを止めて沈黙する。  
震動の影響を受けたのか、カバンに寄りかかっていた友達からのプレゼントがわずかに動いた。  
 
十数回コールした後で、取られる様子のない携帯電話を切る。  
「――ダメです、出ませんね。……西沢さん、どうしたんでしょう」  
携帯を折り畳んでポケットに仕舞うハヤテに、マリアが小首を傾げるようにして応じた。  
「御学友からのお祝いが長引いているのではありませんか?」  
「まったく、ヒナギクがサプライズパーティーにしようなどと言うからこうなるのだ」  
二人のやり取りが聞こえたのか、ナギが呆れたように立案者に愚痴を言う。  
「な、何よ! こういうのはね、ビックリさせた方が喜ばれるものでしょ?」  
言われたヒナギクは、ちょっと慌てた様子でそれに答えた。  
 
ここは西沢家。  
広いとは言えない家の中は一人娘の誕生日であるこの日、にわかに賑わっていた。  
娘を祝うために訪れた四人の客に、両親が申し訳なさそうな声をかける。  
「すみません、皆さん。歩のために集まって頂いたのに……」  
「どうぞ、皆さんお先に食べていてください」  
所狭しと並べられている手付かずの料理を促されたが、ハヤテがそれを断った。  
「いえ、折角のお祝いなんですから、待たせて頂きます。それでいいですよね?」  
 
文句は一つも上がらなかった。  
ヒナギク、マリアが頷き、彼の主であるナギが代表して口を開く。  
「ああ、構わんさ。何か時間を潰せるものがあればいいんだが。和樹、何かないのか?」  
「えっと、テレビゲーム以外だと、トランプかUNOとかだけど……」  
「UNOがいいな。たまにはアナログなゲームもいい。……お父様とお母様も是非参加してください」  
ナギはにっこりと余所行きの――良家の御令嬢の笑顔で、歩の両親を遊びに誘う。  
ヒナギクも加わり、和気藹々とした雰囲気になるのを見て、マリアとハヤテは笑顔を浮かべた。  
 
「なんだか和みますね」  
「ふふ、こういうのが普通の御家族なんですね。ナギも少し嬉しそう」  
両親から愛されたことのない執事と、両親から捨てられたメイドが微笑みを交わす。  
それはどこか、遠く暖かい場所を見つめるような、そんな笑顔だった。  
わずかな間だけ仕事を忘れて素の会話を楽しんだ二人は、相談を再開する。  
「一緒に遊んでらっしゃる子達の携帯番号は知らないんですか?」  
「退学になった後に支給されましたから……西沢さんのしか、メモリーされてないんです」  
「学校の連絡網から御友人宅に電話をして、御友人の携帯番号を教えていただきましょう」  
「それがいいですね。では西沢さんの携帯に留守電を入れたら、西沢さんのお母さんに聞いてきます」  
 
「ふふ、ヒナギク悪いな。ドロー2」  
「あら、何を言っているのかしら? すみませんお母様、ドロー2です」  
「ごめんなさいね? お母さんはじめてだから。ドロー4。赤ね」  
「はっはっは。母さん容赦ないなー。よーしパパ8枚引いちゃうぞー?」  
「助かったー。赤だったね。ゴメンねナギさん、スキップ」  
「む、やるな和樹。だが謝る必要はないぞ」  
「そうそう。その子はちょっと凹ませるくらいでいいんだから――と言いつつリバース」  
「む、施しは受けんぞ――、といいつつスキップ返し」  
「うわ」  
「フフフ。わかったろう? 謝る必要などないのだ」  
 
やがて訪れる宴に期待を馳せて、穏やかに時間はすぎていく。  
笑顔でそれを見つめた後、ハヤテは携帯電話を開いた。  
 
 
星の明かりの遥か下。森の木立を夜の風が撫でていく。  
そこには身体を預けた木を揺らしながら交尾をする一対のケダモノがいた。  
メスの股からは白濁した液体が落ち、或いは太ももを伝って地面に落ちている。  
肩幅よりわずかに大きく開いた足の靴底は、白濁の水溜りに両方とも浸されていた。  
オスがズグリ、ズグリと腰を動かすたび、新たに溢れ出た精液が水溜りに跳ねる。  
瞳から輝きを無くし、されるがままのメスの頬には、わずかだが朱がさしていた。  
口元もわずかに緩み、時折漏れる吐息はクスクスと笑っているようにも聞こえる。  
 
二桁に達する射精が行われる間、かつて西沢歩だったメスはゆっくりと精神を壊していった。  
屈辱に涙したし、理不尽を呪いもしたし、怒りを抱きもしたし、自らの不運を嘲りもした。  
叫びもしたし、暴れもした、許しを請うたし、哀れな声で周囲に助けを求めもした。  
一つ試すたびに、心の要素が一つ賭けられ、  
一つ敗れるたびに、それが砕け散っていく。  
 
――そして。心の中をどんなにかき集めても掛け金が得られなくなった頃。  
諦めと抵抗を繰り返して疲弊し擦り切れた心は、狂った笑みと壊れる快楽に侵食された。  
 
肉の喜びなどない。性的な快楽もない。  
猛獣にされるがままという被虐への悦びと、呆れるほど絶倫な自分を犯す獣への嘲笑。  
それが今の彼女に表出できる感情の全てだった。  
 
十何度目かの射精が近づくと、タマは獰猛な唸り声を上げた。  
交尾する中で蘇った野生は、性欲を満たす中で勢力を増していく。  
――その末のことだった。  
空を仰ぐようにして巨大な口を開くと、犯しているメスの首に牙を添える。  
メスを逃がさないために行う本能的な行動を、長く飼われていたトラは取り戻していた。  
相手が華奢であるため、甘噛みにも満たない、仕草だけを真似た代償行為に過ぎない。  
だがその手加減が長く続かないことは明らかだった。  
性豪の代名詞でもあるトラの交尾は、二日間をかけて100回以上行われるとされている。  
そしてタマは、性をメスに注ぐたび、獰猛な野生を取り戻しているのだから――  
 
首に当てられた牙の感触に一瞬だけ瞳が潤み、  
心の奥底で、砕け散ったかけらが、最後の光を反射するように回想する。  
 
 
今日は誕生日だった。  
スッキリとした朝を迎えて、上機嫌に家族に挨拶をした。  
新聞を読んでいた父と、キッチンに立っていた母が祝いの言葉を言ってくれて、  
弟の和樹だけは何も言ってくれなかったので軽く頭をぐりぐりってしてやった。  
学校でもそれなりに仲の良いクラスメートからおめでとうを言われ、  
親しい友人達はカラオケボックスで軽いパーティーを開いてくれた。  
特別なことはなかったけど、とても幸せだった。  
 
けれど友達と別れ、家族の待つ家路を一人歩いているときに――特別なことが欲しくなった。  
 
特別な人に逢いたかった。プレゼントなんていらない。  
たった一言、「お誕生日、おめでとうございます」と言って貰えたら……。  
 
そう、思った、だけなのにな……。  
 
 
遠く離れた場所。  
三千院家の敷地のすみ。鉄柵に近い場所の茂みに小さな光が灯った。  
ピンク、グリーン、オレンジ……複数の色のLED光が交互に輝く。  
カバンの脇ポケットに刺さった携帯電話。  
一定の感覚で震えていたそれは、やがて機能が切り替わり、ある少年の声を発した。  
 
『――えっと、西沢さんですか? ハヤテです。今は、お友達とご一緒なのでしょうか?  
 実は、その――ちょっと驚かせたいことがあるんです。留守電で言っちゃうのはアレですから、連絡を待ってますね。  
 でも、これだけは言っておいてもいいのかな――こほん。少し緊張しますね……ええと』  
 
『――西沢さん、誕生日、おめでごうございます』  
 

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