三千院邸のある静かな夜、ハヤテは遅い入浴を済ませ自分の部屋へと向かっていた。
「あんな大きい風呂を独り占めできるなんて幸せだなぁ」
自分の髪をタオルでわしゃわしゃと拭きながらいつもの台詞をご機嫌に呟いた。
「ちょっと喉が渇いたから水でも貰いに行こうかな…と」
喉の乾きを覚えたハヤテは、そんなことを言いながら少し寄り道をすることに決めた。自分の部屋を通り過ぎちょっと進むと、どこかの部屋から明かりが漏れていることに気づく。「何だろう」と思い足早に近づきそっと中を覗いた。
「うわぁ、バーカウンターだ…やっぱお金持ちは違うなぁ」
簡素な作りではあるが質素ではない、そんなバーカウンターにハヤテは素直に感想を述べた。そしてキョロキョロと中の様子を伺う。
「うん?あれはマリアさん?」
見覚えのある後ろ姿、髪をおろしたパジャマ姿ではあるが間違いなくマリアだと認識した。
「ふぅ…」
少し酔っているのだろう、哀愁のある笑みを浮かべたマリア、酒により少々紅潮した頬も相まってすごく色っぽい。
そんなマリアに近寄りづらい雰囲気を感じたハヤテは、当初の目的を果たそうとマリアに気づかれぬように身を翻した。
その時、入り口の壁に肩が勢いよくぶつかってしまう。その物音にマリアが思わず顔をこちらに向け視線を這わす。
「あらハヤテ君…」
少し虚ろな目で見つめられハヤテは固まった。
「どうしたんですか?」
そう聞かれハヤテがやっと口を開く。
「いや、その、ちょっと喉が渇いたので水を貰おうと…」
いつもと違うマリアに緊張し戸惑いながら答えた。それを聞いたマリアが、人差し指を口に当て少し考える。そして笑みを浮かべたマリアは、ハヤテに手招きをした。
こちらを見つめるマリアの目に逆らえない力を感じ、ハヤテはおずおずと歩を進めた。
ハヤテがすぐ側まで来たのを認めマリアがふと視線を外す。そしてグラスに透明の液体を注いだ。
「はい、どうぞ」
それをハヤテに差し出す。
「マリアさんこれってお酒じゃ…」
ないですか?と言おうとしたところでマリアがグラスを持った手を更に差し出す。有無をいわさぬその気配にハヤテがグラスを受け取り、そして…一気に呷った。
「これ…水」
そんなハヤテをケラケラと笑いながら見るマリアがいた。
「ひっかかりましたねぇハヤテ君、普通匂いで気づくと思うんですけど」
そう言われたハヤテはこれまでの自分の緊張を恥じ顔を赤らめる。
「ひ、ひどいですよマリアさ〜ん」
「うふふ、どうしたんですかハヤテ君。そんなに緊張して」
そんなハヤテを楽しむマリア。
「まぁそこに掛けて…」
そう言ってマリアはハヤテに隣の椅子を勧める。からかわれたことにより緊張がほぐれたハヤテはそれに従う。
「ハヤテ君お酒は飲めるの?」
「いや、飲んだことはありませんけど…」
その答えを聞くか聞かないか、マリアはカウンターの裏に行き何か作業を始める。そして、炭酸により泡を吹く紫の液体が入ったグラスをハヤテの前に置いた。
「はい」
「これは?」
「葡萄の酎ハイよ」
「お酒ですよね?」
最後の問いに答える代わりにコクンと頷く。
「これを飲めと?」
マリアは先ほどから浮かべてる笑みを少し深める。とりあえず飲めということだろう。それに逆らえず一口飲む。
「おいしい…」
ハヤテのその一言に満足し、マリアが席に戻る。
そして自分のグラスにウイスキーの水割りを作り一口飲む。ハヤテもまた酎ハイを一口飲む。
「ハヤテ君」
「はい?」
「この前のビリヤード…本当は違うわよね」
「え、何がですかぁ」
ニコニコしながら酎ハイを飲む。
「カシミアのコート…あれは伊澄さんが何とかしてくれますよ?」
まだ何事か分からずにハヤテは酎ハイを飲んでいる。
「本当は何がしたかったんですか?」
そう言われハヤテは何を問われているのかやっと気づき、あたふたし始めた。
「な、な、何を」
慌てた拍子にハヤテがグラスを倒してしまう。
「あ…」
テーブルにこぼれた液体を見ながら困った顔をしているハヤテを見て微笑むマリア。
「あらあら」
そう言って台拭きを取り液体を拭き取る。そして酎ハイを作り直しハヤテの前に置いた。
「あ、すみません…」
「で、何がしたかったんですか?」
マリアが結論を急ぐ。
「あ、あ、あ。マ、マリアさん酔って…」
顔を赤くしながら慌てふためくハヤテ。
「あらあら、またこぼしちゃいますよ」
「あ、すいません」
ハヤテはそう言いながらどうにか落ち着こうとする。
急にマリアがハヤテを抱きしめた。
「!」
「こうしたかったんじゃありませんか?」
そして、ハヤテの唇を奪った。
「やっぱりマリアさん酔って…」
マリアの口から漏れるアルコールの匂いを嗅ぎながらハヤテが言う。
それを遮るようにマリアが喋る。
「本当は何がしたかったんですか?」
三度目の同じ問い。ハヤテは観念して答える。
「はい、こういうことがしたかったです…」
「どういうこと?」
マリアが更に深く聞こうとする。
「あの、こういうことというか、あの、その」
マリアが楽しそうに微笑んでいる。
「あの、あの、マリアさんが欲しいです…」
その答えを聞きマリアがハヤテを見つめる。そしてまたキスをした。今度はハヤテもそれを迎える。
「男の子とキスをしたのなんか初めて…ハヤテ君は?ハヤテ君はしたことある?」
「ありますけど…って、マリアさん初めて〜!」
ハヤテが驚き答える。そんなハヤテの言葉に、マリアの顔へ酒の性ではない赤みが浮かぶ。マリアが言葉に詰まった。
「あ、かわいい…」
そんなマリアを見てハヤテの口から思わず言葉が出た。ハヤテも少し酔いが回ったようだ。
マリアの顔が更に赤くなる。
ハヤテはマリアを強く抱きしめた。
強く目を瞑りハヤテは思い切って言う。
「マリ…アさん、ぼ、僕の部屋に来ませぶぐわ」
ハヤテは大切なところでかんでしまった。ハヤテの顔が真っ赤に染まる。
「ふふ。ハヤテ君、私のこと好き?」
「はい」
「本当?」
「はい」
「ナギは?」
「え?あ、かわいいお嬢様ですね」
突然よく分からない質問を受け、訳も分からず答える。
「それだけ?」
「はい。あ、しいて言うなら妹ですかね?おてんばな。でもなんでいきなりお嬢様が…」
「なんでもないの…行きましょ!」
マリアは「ごめんなさいナギ」と心の中で謝りながら答えた。
ハヤテは少し困った顔をしたマリアの手を取り自分の部屋へと導いた。
「えい」
「うわ」
部屋へ着くなりマリアはハヤテをベットへ押し倒した。そして「うふふ」と笑いながら頬をハヤテの胸に押しつける。ハヤテはそんなマリアを優しく抱きしめた。
「ハヤテ君、私はナギが好きよ。本気でナギの幸せを願ってるわ。でも、でもねたまに思うの…私だって女の子よ…なにか…無性に寂しくなるの。このままでいいのかなって」
そこまで言ってマリアは顔をあげた。マリアの瞳から涙が頬を伝う。
初めての酒、ハヤテはその力を借りて勢いでマリアを誘った。マリアに誘われたというのもある。だがその涙を見て急速に酔いが引いていった。
「あれ、なんで私…」
マリアはベットの上で座り直し流れた涙を拭った。
「今の生活に不満はないわ。出会いはないけどナギがいる。でも…でもね…」
そういってマリアが泣きじゃくり始める。
「マリアさん…」
ハヤテが上半身を起こしながら言葉を紡ぐ。
「マリアさん…やっぱりこういうのはちょっといけないと…思います」
マリアが涙を拭いながらハヤテを見る。
「やっぱりお酒の勢いでこんな…」
「ハヤテ君……ごめんなさいハヤテ君。いきなり泣いちゃったから………お酒は関係ないの」
そう言われハヤテの口が止まる。
「今日はナギが早く寝たから…伊澄さんがいるから…だからハヤテ君に会いに来たの。ハヤテ君私は大丈夫だから……だから」
その言葉を聞いてハヤテはマリアを抱き寄せた。
「あの、僕はマリアさんが好きです。でもマリアさんは…」
「言ったでしょ、ハヤテ君に会いに来たって。私もハヤテ君が…」
ハヤテの言葉を遮るマリア。そのマリアに皆まで言わさずハヤテからキスをする。口を離し目と目で会話し今度は深いキスをする。まだ慣れていない二人。だが互いが互いを想い深く、深く舌を絡めていく。
「んふ、はっ」
「う…ん」
長いようで短いキスが終わり、ハヤテが再びマリアを抱きしめる。
ハヤテは何も言わずマリアのシャツのボタンを外しにかかる。マリアも自分のズボンと下着を脱ぐ。
最後に自分でブラジャーを外しマリアは何も身に纏っていない肢体を月明かりに晒した。
その姿を見てハヤテが息を飲む。
「ハヤテ君?」
固まったハヤテにマリアが声をかけた。はっとしてハヤテが口を開く。
「あ、すみません。実は僕も…キスの経験はあるんですがその先はちょっと…」
「大丈夫よハヤテ君…その…大丈夫だから…」
そんなハヤテを頼りなく慰め、マリアは優しく微笑みかけた。
その慰めを聞いたハヤテは、マリアの頭を枕へ導きながらゆっくり寝かせた。
そして軽い口づけ。
「じゃ、じゃあ行きます」
その言葉にマリアが笑顔で答える。
ハヤテがマリアの胸を見る。そして、そっと触れた。
「あっ…」
ナギに触れられたこともある、普段一人でするときもある、もちろん胸も愛撫する。だが他人が触れる感覚、それも好きな男性に触れられる感覚。ちょっとしたタッチなのにマリアはすごく感じてしまった。
「ハヤテ君続けて…」
動きの止まってしまったハヤテに告げる。ハヤテは愛撫を再会した。
右手で左胸を包み込み、付け根から大きく揉み込む。
「あ、ん…ん」
マリアの喘ぎを聞き右の乳首をあま噛みする。
空いた左手でマリアの髪を撫でる。
どこかで見た本の受け売りだが確実にマリアには効いているようだ。
「んあっ…はぁ、ん」
ゆっくりゆっくり、少しずつ攻め方を変えつつ愛撫する。
胸を揉みながら口づけしてみたり、首筋を舐めたり、耳たぶをあま噛みしたり。
ハヤテとて知識は乏しい、だがそんなハヤテより更に知識がないマリアは受け身に徹するしかなかった。
「んあっは…ハ、ハヤテく…ふぅん…」
名を呼ばれハヤテが動きを止める。
「はぁ、はぁ…はい?」
「あの…」
マリアは両膝をすり合わせている。ハヤテはそれに気づき割れ目にそっと手を添える。
「ふぅ…んん…」
少し下に指をずらす。そこは大量の密に溢れていた。
「マリアさん、ここ凄いですよ…」
そう言い指を突き入れる。
「んあ、はぅ…あ…はやてくん…」
ハヤテはくちゅくちゅと淫音を奏でながら指を掻き回す。
「うぅ…やぁ。はやてくん、はやてくん」
指を動かすたびに密が溢れ出す。マリアがハヤテを抱き締めた。ハヤテは動きを一層激しくした。
「ん、だめ、だ…もう…もう……ふあぁぁあああ」
そう叫びマリアは達してしまった。
余韻に浸っているマリアに口づけし、ハヤテは素早く裸になった。
さっきのマリアへの愛撫でハヤテ自身も興奮していた。ハヤテのモノもはちきれんばかりにいきり立っていた。そしてマリアの足を開きそこに腰を入れ込む。
「あ、ハヤテ君…ん…コンドームは…」
当たり前の質問をする。完全に虚を突かれハヤテの目が泳ぐ。
「…無いんですか?」
「はい」
素直に答えたハヤテが固まる。
「…」
「…」
「…ハヤテ君私のこと好き?」
「はい」
「私もハヤテ君が…好き……です」
「…」
「だからいいですよ…そのままで」
女性にとってこの結論はそれなりに重い。ハヤテはそれを察し、優しく髪を撫で頬を撫で、そしてキスをした。
「ん…でも…できれば膣外にお願いしますね…」
ハヤテが頷き挿入の準備をする。
「じゃ、じゃあいきます」
「一気にきて…」
「は、はい…」
そう言った後、手を添え位置を確認し勢いよく腰を突き出す。
「ん!」
マリアが少し顔を歪める。
「あ、大丈夫ですか…?」
ハヤテがマリアを気遣う。
「う…ん、思ったより大丈夫みたい…」
アルコールにより筋肉が弛緩しているためだろうか、言ったとおりマリアはさほど痛みは感じなかった。
「動きますね…」
マリアを気遣い比較的ゆっくり動かす。くちゅくちゅという音が結合部から溢れる。
「はっはっ、マリアさん…ふ、膣内気持ちいいですよ…」
「ん…ん……んん…」
腰を突き入れられるたびマリアが声を漏らす。
「ん…ん、ハヤテ君チュー…ん、してください…」
求めに応じハヤテがキスをする。マリアがハヤテの頭を抱き、髪を掻く。
「もっと…ん、動い…ん…はっ、ても大丈夫…ですよ…」
口を離しハヤテに囁く。
「ふ、は、はい…」
ハヤテが動きを激しくする。
「あぁふぅ…んあぁ……すごいん…」
容赦のないその動きにマリアが激しく反応する。結合部から溢れる音もさきほどよりも激しいものとなる。
「はぁ、はっ、ふ」
ハヤテから漏れる声も多くなる。
「ん、はやてく、ん、ん、はやてくん…」 「?」
「ん…えい!」
余裕が出てきたのかその掛け声とともにマリアが一気にハヤテをひっくり返し、綺上位の体制になる。
「うわ、マリアさん?」
「はぁ、はぁ、ん…さっきからずっとハヤテ君が頑張ってくれてるから…私にもこのくらいはできるから…」
マリアがハヤテの口に舌を差し込む。ゆっくりハヤテの口内を味わい口を離す。銀糸を引く。
「後は私が…」
そう言ってハヤテの胸に手をつき、髪を振り乱し、腰を動かす。
「はぁ、ん、まりあさ〜ん」
攻められる側に転じたハヤテが喘ぐ。
「ん、ハヤテく…ん、気持ち…いいですかぁ?」
「は…い、でももう…」
「あん」
ハヤテがマリアを抱き寄せ横倒しにする。そしてまた攻めを逆転し正常位に戻した。
「マリアさん、もう、もうイきます」
ハヤテが更に更に腰の動きを増す。
「んん…んぁ、だめぇ」
マリアが一気に上り詰める。
「だめだめだめぇ、私またイっちゃうよぉぉ、ああぁぅぁあ〜」
マリアが先にイってしまった。
「まりあさん…」
ハヤテも達するため神経を自分自身に集中する。
「…ちょっと…待って」
「?」
マリアの言葉にハヤテが動きを止める。
「最後は私が…私が口で…」
マリアは気だるげに腰を引き結合部を解こうとする。
「ん…」
「あ…」
そして動きづらい体に鞭打ってハヤテの股間に顔を埋める。マリアが自分の愛液で塗れそぼったソレを手に取りくわえこむ。
「ん、あ…マリアさん…それは…」
膣内とは違う感触にハヤテは性感を刺激される。
「ん…むちゅ…、ひのあじがふる」
マリアがくわえたまま何かを言い、おぼつかない舌使いで一所懸命舐め上げる。
「あ…マリアさん…だめです…口を離して」
マリアは解放する気がない。むしろ、今度は顔を前後させ更に快感を与える。
「だめ…もう……もう射精ちゃいますー」 遂にハヤテはマリアの口内で発射した。どんどん溢れるそれを頑張って飲み込む。
「ん、あ、まりあさ…ん」
ハヤテの片手がマリアの頭にそっと置かれる。マリアは最後まで口を離さず全部飲み干した。
「けほ、けほ。う〜苦い…」
マリアはちゅるりという音を立てハヤテを解放した。軽くせき込み普段感じることのできない味の感想を述べる。
「大丈夫ですかマリアさん」
「大丈夫よ……ハヤテ君のだから…」
マリアがハヤテを抱き締めキスをする。そして、そのまま枕に向かって倒れ込んだ。
「ハヤテ君、腕枕して下さい」
体も落ち着きマリアが言う。
「う、え…はい」
いたした行為も何のその、ハヤテは照れながら答える。
「ハヤテ君…」
「はい?」
「ハヤテ君…好きです」
言われてハヤテの顔が赤くなる。マリアは「ごめんなさいナギ」と心中でまた謝る。
…。
「ハヤテ君」
「はい?」
「ペンダントはどうしたんですか?ずっと着けてなかったみたいですけど」
マリアが何気なく質問する。
「あれ?…お風呂ですね、多分」
会話が終わる。
「…さてと」
数分後、マリアがベットを降り着衣を整え始める。
「あ、マリアさん?」
「後始末があるんですよ」
パジャマを着終えマリアが部屋を出ようとする。
「あの…」
「また来ますね」
最後に微笑みかけマリアは部屋を後にした。
「ふふふ、いいネタだぜ。あのすけこまし執事め。俺の絶妙なカメラワークで撮った映像、これをネタに…ムフフ」
廊下の曲がり角をそろりそろりと歩く虎の姿があった。
「題名は何がいいかな〜。【ヌルヌル。借金執事と淫乱メイド!夜の密会!!】か〜?お〜っと、もうメイドじゃなかったぜ、メ・イ・ドじゃ」
変なノリツッコミをしつつ、知らず知らずの内に顔がにやける。
「処女…童貞…チェリー……ダブルチェリー…二枚チェリーだ!2チェだ2チェ。とすると…【2チェ解除!?ボーナスはすぐ…」
「タ〜マ、それだとホモになっちゃいますよ」
「!」
その呼びかけに恐る恐る振り返る。
「みゃ、みゃう」
「とぼけてもだめです。私…も知っているんですよ、いいネタ。喋る虎とか…」
口調は普通、顔も微笑みを浮かべている。だが虎には特に判る、オーラが違っていた。
売られる!
そう直感した虎は震えが止まらない。
「判ってますよね」
語尾にはてなマークのつかないせりふだった。
「…」
大人しくデータを消す虎。そして震えを増した虎を引き連れ各々の部屋へと戻って行った。
〜FIN〜