「また二人で、ですか」  
ハヤテは日誌を前に嘆いた。  
「あはは〜、ごめんね〜ハヤ太くん」  
それに対して泉は満面の笑みを浮かべる。  
「笑いごとじゃ有りませんよ〜、僕は瀬川さんの執事じゃないんですから」  
「気にしない!気にしない!…とは言っても二回目だからね、いいんちょさん、本気出しちゃうよ!?」  
「日記は駄目ですよ」  
「う…」  
そんな取りとめもない会話が続く。  
そして作業は進まない。  
 
なんだかんだで、ハヤテにとって今は休息の時、心休まる時であった。  
泉が「ただの友達」であるが故に、ハヤテの場合、最も安堵できる時であるのだった。  
しかしそれ故に…  
 
「ふと気になったんですけど」  
「うん?なぁに?」  
「瀬川さんて、好きな方とかいらっしゃるんですか?」  
こんなデリカシーの無い質問が躊躇いもなく出てくる。  
「ほぇ?わたし?」  
泉は恥じらうでもなく、単にクビを傾げた。  
「好きな人、ねえ」  
「あ、すみません!僕ってばまたデリカシーのないことw」  
「ハヤ太くん」  
「ふぇ?」  
「私が好きな人、それはハヤ太くん、だよ?」  
「へ?」  
ハヤテの顔がひきつる。  
「あれ?聞こえなかった?ハ・ヤ・太くんって言ったんだよ?」  
ハヤテは非常に慌てた。  
「あ、あの…冗談ですよね?」  
「ふぇ?冗談?」  
「え、だって、僕が言ったのは『異性として』って意味で…」  
「そうだよ」  
 
ハヤテは困惑した。  
『あれ?いつの間に瀬川さんルートになったんだ?』と  
 
「異性として好きな子は、ハヤ太くんだよ♪」  
「へ…?え…?」  
ハヤテは見る見るうちに赤面していった。  
「じょ、冗談じゃなく?」  
ハヤテはもう一度聞いた。  
「うん。好きだよ」  
泉は一息おいた。  
「ナギちゃんほどゾッコンじゃないけどね、それでもハヤ太くんのこと、好きだよ?」  
ハヤテは呆ける他なかった。  
 
「せ、瀬川さん。熱でもあるんじゃ…」  
「泉!」  
「はい?」  
「泉って、名前で呼んで?ナギちゃんやヒナちゃんばっかりずるいよ…」  
 
『本気なのか!?本心なのか!?ってそんな艶やかな顔で僕を見つめないで…!』  
 
「いけません!」  
「ふぇ?………どうして?」  
「前にも言いましたよね、僕には女を養う甲斐性がないって。だから…」  
ハヤテはそう言って背を向けた。  
「ごめんなさい。でも、貴女を不幸にしたくはありません。」  
ハヤテはその場からすかさず逃げようとした。そのとき、  
 
 
 
―ガシッ―  
 
 
 
腕を掴まれた。  
ハヤテは申し訳なさそうに後ろをふりむく。  
「わかったよ、ハヤ太くん。でも、せめて…」  
泉は「作り笑顔」でハヤテを見つめた。  
「これからは、名前で呼んでほしいなあ…なんて」  
「瀬川…さん」  
「ねえ。呼んでくれるなら、もうこんな『我が儘』しないから。」  
「我が儘って…」  
ハヤテは反論しようとしてやめた。  
「告白」を「我が儘」へと変えてしまった責任を感じたからだ。  
『あーこんなだから益々甲斐性がなくなるんだろうなぁ…』  
 
「わかりました。これから貴女を呼ぶときは名前で呼びます。」  
「…本当?」  
泉の顔か少し解れた。  
「はい。僕にできるのはそれ位ですから」  
「…うん♪」  
 
ハヤテはホッとした。「振って」おきながら嫌われることを恐れていた。そんな自分に嫌悪感を抱いた。  
 
「ねぇ、ハヤ太くん?」  
「はい、なんでしょうか」  
「試しに、呼んでみて?」  
「え、い、今ですか?」  
「そう、今。ちゃんと約束を守れるか試さないとね♪」  
泉は満面の笑みでハヤテを見つめる。  
「ふぅ、わかりました」  
 
『あれ?何でだろ。緊張する。ナギお嬢様やヒナギクさんの前ではこんなことにならないのに…  
告白、されたからなのかな』  
 
しかし、一度言ってしまえばきっとそんな緊張も消えるだろう。そう思った。  
 
「えと、これからも、どうかよろしくお願いします、泉さん。」  
 
 
 
そう言った途端、ハヤテと泉との物理的距離は0になった。  
 
 
「えへへ〜♪」  
「い、泉さん!?」泉はハヤテにしがみついた。意外に力強かった。  
「これで私もナギちゃんやヒナちゃんと同じ〜♪」  
泉はハヤテの胸で顔をスリスリし始めた。  
「私、今すごく幸せ…」  
「あははは、そりゃどうも…」  
 
『ま、まずい。女の子にこんなことされたら男として……うぐっ』  
ハヤテは理性が飛びかけていたが、必死に抑えた。  
 
「ねえ、ハヤ太くん?」  
「は、はい、なんでしょうか」  
「ギュッ、てして?」  
泉の腕にさらに力が加わる。  
 
『な!?そんなぶゎぁかな!!これって「抱いて」…げふんげふん、  
「抱きしめて」ということなのか!?まさか泉さん、全然あきらめてないんじゃ…』  
 
顔を赤く染めて見上げる泉。それに心打たれるのは致し方がない。  
『えぇい、ままよ!』  
 
ハヤテは泉を、そっと抱きしめた。  
「ふゃ!?」  
「こ、これでいいですか?」  
「………」  
「あの…何かご不満でも?」  
「ううん。聞こえるの」  
「え?」  
「ハヤ太くんの、鼓動が、聞こえるの」  
泉はため息をついた。  
「あたたかいよ…」  
ハヤテはどう答えればいいか分からなかった。故に、泉に従うのがベストだと考えた。  
 
「ねえハヤ太くん。お願いが、お願いがもう一つだけ、あるの」  
「…なんてすか?僕にできることなら何なりと」  
 
 
泉はリクエストを告げた。  
 
 
「キス、してみたい」  
「え…」  
 
『えーっ!?』  
 
「その、これで最後のお願いだから、ね?」  
そう言い泉はハヤテに微笑みかける。  
「最後」という言葉がハヤテに「妥協する」という選択肢を与えた。  
 
『最後なら、これで治まってくれるか…』  
 
「『最後』の、お願いなんですね?」  
「…………うん」  
泉が少し間をおいて返事をしたことに疑念を抱いたが、すぐに拭い捨てた。  
そして、泉の両肩に手をおき泉をじっと見つめる。  
 
「『最後』、ですからね」  
ハヤテは一応念を押した。  
そして目を瞑り、唇を泉のそれに近づける。  
つられて泉も目つむり、唇を軽く突き出す。  
 
徐々に、唇同士は近づき、そして、遂にふれあった。  
 
 
二人は思う。  
『キスって、こんな感じなんだ…』  
その形容しがたい「こんな感じ」をじっくりと味わっていた。  
 
ふと、ハヤテは気づいた。  
『いつまでこうしていれば…?』  
互いに荒い鼻息がかかり、その鼻呼吸だけでは辛いものがあった。  
 
一方泉は、願いが叶っているという事実とその状況そのものに興奮する以外、なすすべは無かった  
そして、その興奮は泉を大胆にした  
 
ハヤテは、自分の口内に違和感を覚えた。  
『あれ、何か入ってきて、……………!?』  
ハヤテはとっさに唇を離そうとするが、顔をしっかり抑えられて阻止された。  
そして、ハヤテの口内にそれは躊躇なく侵入していった。  
 
『え?え??えっーー!?』  
ハヤテはそれが何なのかを理解した。  
『こ、これって泉さんの舌!?』  
 
紛れもなく。泉は遠慮なくハヤテの口内を弄った。  
泉の舌がハヤテのそれをいじり始めた。  
 
「んふっ…んく」  
ハヤテは何とも女々しかった。  
ハヤテはなすすべもなく泉の思うがままにされ、そして…  
 
 
『あ、あれ?ハヤ太くんのアソコ、膨らんでる?』  
この濃密なキスによって性的興奮を得始めていた。  
『ハヤ太くんも、男の子だもんね…』  
泉は左手だけをハヤテの顔から離し、そして、ハヤテの股間に触れた。  
途端に、ハヤテの躰がピクリと震えた  
 
『い、泉さんなにを!?』  
ハヤテは泉の右手を振り払い。キスを中断した。  
「な、なにするんですか〜!?」  
泉はハッと我に返る。  
「え、ああ、うん。ナニをしようかなあ、なんて…」  
「笑えません!」  
ハヤテは涙目で訴える。  
「と、とにかく、泉さんの望みは叶えました。僕は帰ります!」  
「え…あっ!ちょっと待って!!」  
「もう!今度は何ですか!?」  
 
泉は机に置いてあったそれを手に取り、満面の笑みで僕に告げるのだった。  
 
「に・っ・し♪」  
 
 
『家路につくのはまだまだ先になりそうです…』  
 

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