十分後。  
「埋まらないね〜」  
「埋まりませんね〜」  
 
日誌は未だ白紙のままであった。  
「さっきのこと書」  
「九回目。それだけはぜっっっっったいにやめてくださいね♪」  
「うっ…わかりました」  
 
そしてまた他愛もない話が始まる。  
「けど、もったいないよね〜」  
「何がですか?」  
「ハヤ太くんのことだよ。」  
「何故ですか?」  
「だってさ、ハヤ太くん、かっこいいじゃん。」  
「む…煽ててもアレ以上はしませんよ?第一僕なんて女々しいですし」  
「うん、顔は女の子だよね」  
「あはは…」  
「でもね、そんなこと気にならないくらいハヤ太くんはかっこいいよ?」  
「へ?」  
「冗談じゃないからね?ハヤ太くんはとっつも可愛いのに、それ以上に凄くかっこいいよ?」  
「……そうですか?」  
「うん、だからみんなハヤ太くんのこと大好きなんだよ?」  
 
ーからんー  
 
 
シャープペンシルが床に落ち、その音が教室内で反響する。  
 
 
「みん…な?」  
「? どうしたの?」  
「え、あはは、いやあ、凄まじい冗談か聞こえた気が…」  
「ほぇ?」  
「え!?だって今、『みんな』って…」  
「うん、みんなだよ?」  
「と、いいますと?」  
「え…本当に気づいてないの?」  
「はい、あしからず」  
 
泉は溜め息をついた  
「これだからハヤ太くんを取り巻く私たち女の子は困っちゃうんだよね〜」  
「はあ」  
「ま、ハヤ太くんらしくていいけどね♪」  
 
ハヤテは考えこんでしまった。  
自分の周りにいる女性の中に、該当する人物がいなかったからだ  
『ナギお嬢様やヒナギクさん、咲夜さんは論外。伊澄さんはお友達。マリアさんは攻略困難…』  
鈍感なハヤテに彼女らの好感度感知システムなどあるはずもなかった  
 
しかし…  
 
「泉さんは、その『みんな』の中の一人、なんですよね?」  
「えっ」  
泉の顔がみるみるうちに赤くなる。  
そして、小さく頷いた。  
いかな鈍感なハヤテでも、話の流れは読めたのであった。  
 
「そう、ですか」  
ハヤテは思い詰めた顔をした。  
「あ、えっと、でもでも!ハヤ太くんの事情はよぉく分かったから、その、気にしないで!」  
 
ハヤテは納得がいかなかった。  
確かに己に女性を養う甲斐性がない。しかしそれにより誰かを、女性の想いを裏切ることは耐えがたかった。  
自分はこんなことでいいのだろうか。普段なら決してこんなこと思わないだろう。  
 
「あの…ハヤ太くん?」  
呼ばれてハヤテはハッとする。泉が心配そうに見つめている。  
 
『もう、甲斐性も理性もないんだよ…。どうせ僕なんて…』  
ハヤテは意を決した。  
 
「僕は、恐れてるんです。人を裏切ってしまうのではないか、傷つけてしまうのではないか、と」  
「…うん」  
「僕には甲斐性がありません。それによって貴女を、いえ貴女だけでなく女性を裏切るのが、怖いんです。」  
 
泉は黙ってハヤテの話を聞いた  
「でも、僕はそれを気にする余り、貴女の想いを裏切った。」  
「…」  
「僕は、成長しなくてはいけない。裏切るなんて、僕には、耐えられない!」  
 
ハヤテは泉を見つめた。泉はそれに見入った。  
「泉さん、もう一度、貴女の想いを、ちゃんと聞かせてください。」  
「私の、想い…」  
「はい」  
 
突然のことに動揺する泉。  
『それって、もう一度言えばOKてこと?なら…』  
泉は口を開いた。…だけだった。  
「!?」  
『声が、出ない…どうして?さっきと同じことを言えばいいだけなのに!…どうして?』  
 
考えるまでもなかった。嬉しかったのだ。  
ハヤテが己の甲斐性のなさを深刻に考えているのは重々理解している  
それなのにハヤテは、泉の想いに答えようとしている。  
それが泉にとって、異常なまでの喜びと感動を与えた。  
 
 
視界がぼやけた。  
『あれ?私…』  
 
 
いつの間にか、泣いていた。  
 
 
『言えない…言えないよぉ…』  
泉はえんえんと泣き出してしまった。  
 
 
ハヤ太くんは自分に甲斐性がないって言っているけど、そんなことはないと思う  
もし、いざ付き合うとなったらハヤ太くんは心から愛すると思う  
もし、その相手が私だったとして、私はハヤ太くんと同じだけ愛することができるだろうか?  
これで相手がハヤ太くんじゃなかったら、私は「彼氏」として見ていただろう。  
でも、ハヤ太くんは違う。ハヤ太くんなら、躊躇い無く「恋人」って言える。  
形だけじゃなく、その身と心全てを以て愛してくれる。きっと  
なら、私はどう?ハヤ太くんにとって私は心から「恋人」と言える人?  
…自信がない。釣り合う自身がない。  
私に彼を愛し尽くすことができるのだろうか。  
 
無理だよ…  
 
そう思うと涙は止まらず、滾々と湧き出てくる。  
『好き。』この言葉にこんなに深い意味があったなんて、ハヤ太くんに出会わなければ気づけなかった。  
この深意は相手がハヤ太くんであってこそ成り立つ。  
それ以外の誰でも、成り立つことはないだろう。  
 
無理?  
それは私が決めることじゃない。結果が教えてくれる。  
「無理」に未来型はない。あってはいけない。  
 
それをハヤ太くんが証明しようとしてる。  
私はそれから逃げてはいけない。ましてや事の始まりは自分にある。  
 
私は腕で涙をしっかりと拭いて、顔を上げた。  
 
ハヤテは困惑した。  
泉がいきなり泣き出したからだ。  
『僕、なんかマズいことでも言ったのか!?』  
「泉、さん?」  
「うぇぇぇぇぇん」  
聞こえていないのか返事はなく、ただただ泣くだけだった。  
ハヤテはポッケからハンカチを取り出し、泉に差し出した。  
「あの、どうか、泣きやんでください。」  
やはり返事はない。  
たまに涙を拭うものの、それでもまだ治まらない。  
『どうして泣いているんだろうか。  
どうしたら泣きやんでくれるだろうか。  
どうしたら喜んでくれるだろうか。』  
 
 
ハヤテは立ち上がり、泉の肩に手を置いた。  
泉はそれにすら気づかない。  
ハヤテは顔を近づけた。  
「泉さん、失礼します。」  
 
 
泉は顔をあげた。  
 
「「あ…」」  
二人の声が重なる。  
泉は呆けた。目を開けたらハヤテの顔が目の前にあったからだ。  
自分の肩に置かれた手を見て状況を把握する。  
泉は目を瞑り、ハヤテの手に自分のそれを添える。  
ハヤテは指を絡めて、そして唇を重ねた。  
 
重ねてすぐに舌を侵入させ、泉のそれと絡む。  
互いにまさぐり合い、唾液が垂れても気にしない。  
先ほどよりも激しいキスに、泉はより強い性的興奮を覚え始めていた。  
『うそ…濡れてきちゃったよぉ』  
泉の躰が小刻みに震える。  
呼吸が苦しくなり始めたが、お構いなしにキスを続ける。  
日誌の上に、一滴二滴と雫が落ち、染みが広がっていく。  
 
暫くそれが続き、泉は流石に息がきつくなってきた。  
「んくぅっ、んふぅ、んぐぅ」  
泉はハヤテの手を強く握る。ハヤテはそれを悟り、唇を離した。  
互いの唾液によって透明の橋ができ、それが二人をさらに興奮させた。二人とも口元はびしょびしょだ。  
ハヤテはすかさずそれを拭う。一方泉はとてつもなく淫靡な顔で物足りなさそうに、ハヤテを見つめる。  
 
「大丈夫、ですか?」  
泉はハッとして答える  
「う、うん!スッゴく、気持ちよかったよ!」  
泉はにっこりとほほえんだ。  
 
「ごめんね、いきなり泣き出しちゃって」  
「いえ、こちらこそ。僕ってば、何か酷いことを…」  
「ううん、違うの。私、凄く嬉しいの」  
「嬉しい?」  
泉は首肯した。  
「ハヤ太くんがね、私のこと凄く想ってくれてるって考えただけで、胸が高鳴るんだ。でも…」  
「でも?」  
「本当に私で良いのかな?って思っちゃったんだ。  
私はハヤ太くんにふさわしくないんじゃないか、って  
そしたら急に涙が出てきちゃった…」  
「そんな…ふさわしくないなんて」  
 
「でも、それ以上に凄く嬉しくて、嬉しすぎて、もうわけわからなくなったんだぁ」  
泉は「えへへ」と自分の頭を小突いた。  
「それでも、ハヤ太くんが私のこと想ってくれてるって考えるとやっぱり嬉しくって…」  
「泉さん…」  
 
泉は立ち上がった。  
「えへへ♪ハヤ太くんが、せっかくもう一度チャンスをくれたんだから、ちゃんと生かさないとね!  
いい?一度しか言わないからね!」  
泉はにっこりと笑った。ハヤテは少し拍子抜けした。  
さっきまで泣いていたとは思えない、清々しい笑顔。  
ハヤテはそれに心惹かれた。  
 
泉はハヤテの隣に、ちょんと移動した。  
そして、しっかりとハヤテを見つめる。  
ハヤテはそれに応えるように、その眼をしっかりて見つめた。  
 
遠くでカラスが鳴いているのが微かに聞こえる、紅い夕陽が差し込む二人きりの教室で、  
遂に泉は一一一一一  
 
 
きーんこーんかーんこーん…  
 
夕陽が差し込む校舎内にチャイムが鳴り響く。  
それは、二人が抱きしめ合っている教室でも同じだった。  
 
 
「やっと、言えた…」  
泉はハヤテの胸に顔を擦り付ける。  
ハヤテは泉の頭を優しく撫でる。  
「はい、よくできました♪」  
お互い、満足げにほほえむ。  
「ハヤ太くんの、音が聞こえる。あったかい…」  
「泉さんこそ温かいですよ。なんだが、ホッとします。」  
「hotなだけに?」  
ハヤテは少し考えて答えた。  
「貴女が居るから、寒くなりませんね♪」  
 
ーボッー  
 
泉の顔から煙りがでる。  
「誰がうまいことを…ブツブツ」  
うまくはない。  
「本当ですよ」  
それを聞いて益々顔を赤くする。  
 
ふと、泉はあることに気づいた。いや、気づいてしまった。  
 
「んぬえぇ、はゃ太くぅん?」  
「に、にてませんよ?」  
「えへへ♪」  
再び抱擁を始める。  
 
『気づかれ、た?』  
『どう切り出すべきなんだろ…』  
 
 
『気づかれ、た?』  
 
今、僕と泉さんは密着している。  
お互いにしっかりと腕をからめて抱きついているから、離れない。というか離したくない。  
けど……、これは流石に  
 
 
何を隠そう、僕は勃起している。さっきからだ。  
いくら女々しい外見だって、男には変わりない。  
 
勃起してしまったこと自体はさほど問題ではない。健康な証拠だ。  
問題なのは、こうしと泉さんと密着していることだ。  
勃起した部分は丁度泉さんの腹部から大切な部分にかけてあたっている。  
 
気づかれるのも時間の問題、いや、とっくに気づいてるのでは!?  
でも待てよ、泉さんの根本的なステータスは「天然」、気づいてないさ!  
そ、そうだ!『骨かな?』な〜んて思ってるに違いない!  
でも待てよ…そうなると必然的に『ハヤ太くんて犬なんだ〜♪』→犬プレイ…  
くっ、それだけは避けなくては!  
 
うーんどうしよう…  
ここで泉さんが、  
『ハヤ太くんのここ、大きくなってるよ?うふふ♪』  
なんて…  
 
ないっ!ないっ!ないっ!  
そんなエロゲ展開、  
ないっ!ないっ!ないっ!  
 
 
そう思いながらも泉さんを強く抱きしめてる僕って…  
 
 
『どう切り出すべきなんだろ…』  
 
今、私とハヤ太くんは密着している。  
お互いにしっかりと腕をからめて抱きついているから、離れない。というか離したくない。  
けど……、これは流石に  
 
 
何を隠そう、ハヤ太くんは勃起している。さっきよりも大きい。  
いくら女々しい外見でも、やっぱり男の子だもんね…  
 
勃起しちゃうのは仕方ないよね。健康で何より。  
問題なのは、こうしてハヤ太くんと密着していることだ。  
ハヤ太くんのそれは丁度私の腹部から大切な部分にかけてあたっている。うわぁ…  
 
どうしよう、何か言うべきなのかな…  
ハヤ太くんがイメージしてる私を壊さない為にも考えなきゃ!  
そ、そうだ!『骨かな?』な〜んてどうだろ。  
でも待てよ…そうなると必然的に『そうで〜す、僕は犬ですよ〜』→犬プレイ…  
むむむ、これはまだ早いよね  
 
うーんどうしよう…  
ここで私が思い切って、  
『ハヤ太くんのここ、大きくなってるよ?うふふ♪』なんて…  
 
ないっ!ないっ!ないっ!  
SNEG?  
ないっ!ないっ!ないっ!  
 
 
そう思いながらもハヤ太くんを強く抱きしめてる私って…  
 

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