抱き合ったままベッドに倒れこんだ僕達は、お互いの身体をぎゅっと抱き締めながら、  
さっきよりも少しだけ積極的なキスをして、どちらともなく唇を離して・・・  
今度はもっと積極的に唇を交わして・・・  
そんなことを繰り返しながら、どんどん積極的になっていて―――  
 
いつの間にか僕とマリアさんは・・・舌と舌を絡め合うほどの熱烈なキスに没頭していました。  
それは、月明かりの下で交わした神聖な儀式のようなキスとは違う・・・  
肉感的で、淫らで・・・お互いを貪りあうような―――そんな、キス。  
 
「ん・・・・・・ぷぁ・・・っ、は・・・ぁむ・・・んぐ・・・っん」  
 
お互いの唾液を混ぜ捏ねて、啜りあって・・・  
ちゅぱ、ぴちゃ、と・・・はしたない音が洩れるのも、口の端から涎がこぼれるのも厭わずに、  
僕はマリアさんの唇に夢中になっていました。  
そしてきっと、それはマリアさんも同じなのだと思います。  
だって彼女と僕は―――同じくらいの積極さで互いの唇を貪りあっていたのですから。  
 
マリアさんとこんなことが出来るなんて・・・昨日までは考えもしませんでした。  
このお屋敷を出て行った時は、もうこのヒトに二度と会えないと、全て諦めていました。  
だからマリアさんと今、こんな行為に没頭できることが嬉しくて堪りません。  
このまま朝までずっと、彼女とキスし続けていたいって・・・そんな気持ちにすらなります。  
ですが・・・・・・やっぱり僕も、男でした。  
大好きな女の子をベッドの上で抱き締めて、キスをして・・・  
それだけでいい、だなんて最後まで思い続けられるハズもなく、  
だんだんと・・・そしてハッキリと、キスだけでは物足りなくなって・・・・・・  
 
「ん・・・むっ、ぷ・・・ぁ・・・っ」  
 
そんな思いが、伝わってしまったのか・・・唇はどちらからともなく、自然と離れ、  
ゆっくりと目を開くと―――  
 
「ハヤテ君・・・・・・」  
 
頬を赤く染めて、唇の端を涎で汚して・・・瞳を潤ませたマリアさんが、  
切なげな声で僕を呼びます。  
 
「マリアさん・・・」  
 
その顔を見て、わかりました。  
マリアさんも僕と同じだと・・・キスだけじゃ・・・物足りないんだと。  
だから僕は、僕の中で膨らんでゆく欲求の赴くままに―――  
 
「服を、脱がせても・・・いいですか?」  
 
こんなことを口走っていました。  
 
「え・・・ぁ・・・」  
 
真っ赤になっているでしょうけれど、それでも真顔でそんなことを言う僕に、  
マリアさんはどう答えていいかわからない、という風に言葉を失います。  
でも、それも束の間のこと。  
恥ずかしそうに顔を伏せながら、彼女が口にしたのは―――  
 
「あの、これ・・・ワンピースで、脱がせ難いでしょうから・・・自分で・・・・・・脱ぎますから・・・」  
 
そんな言葉でした。  
 
 
マリアさんはベッドの上で身体を起こし、緊張と羞恥の為でしょうか・・・  
こちらに背を向けるようにして座りなおして、  
そして・・・僕の目の前で・・・する、しゅるり・・・と微かな衣擦れの音と共に、  
ぎこちない動作でゆっくりとパジャマを捲りあげてゆきます。  
ショーツに包まれたお尻・・・白い背中・・・ブラがあるハズのところには何もなく、肩・・・うなじと・・・  
白い裸身が少しずつ露わになってゆく様子は、もの凄く色っぽくて・・・  
ショーツを一枚残すのみとなった、ほぼ全裸のマリアさんが脱ぎ終えたパジャマを脇に置くところまで、  
僕は彼女のことをじっと・・・食い入るように・・・まさに、凝視していました。  
 
「・・・・・・あの・・・あまり・・・見ないで・・・・・・」  
 
本当に恥ずかしいのでしょう、決して僕の方を見ようともしないマリアさんですが、  
それでも視線が感じられるくらいに、僕は彼女を見つめていたのかもしれません・・・  
背を向けたままのマリアさんに、そんなことを言われてしまいました。  
でも・・・・・・ベッドの上で膝を崩して、白い背中を露わにしながら座っているマリアさんは、  
余りにも綺麗で・・・そして僕は・・・男としての衝動を煽られずにはいられなくて―――  
 
「ま・・・マリアさん・・・」  
 
その背中に引き寄せられるように、僕はベッドの上を這うようにして・・・マリアさんににじり寄っていました。  
同じベッドの上にいる彼女には、そんな僕の動きはすぐに察知できるでしょうけど・・・  
でも、マリアさんは逃げません。  
ぎしり、とベッドが揺れる度に、ぴくり、と彼女の肩が震えますが・・・  
でも、逃げもせず、振り返ることもなく・・・背を向けたまま―――マリアさんは僕を迎えました。  
 
ついに僕は彼女に迫り、伸ばした手がその背中に届くところまで来て・・・  
でも、この剥き出しの背中に・・・いえ、裸になった彼女に触れてしまって、いいのかどうか・・・  
いや、勿論触れたいし、それ以上に・・・マリアさんに対する欲求は、際限無くあります。  
あるのですが・・・このぐらついた理性のもとで彼女に触れてしまったら、  
僕は本当に、自分を抑えきれなくなってしまうんじゃないかって・・・  
 
今更ながらだとは自分でも思います。  
でも、キスを止めたことで、のぼせかけていた意識がはっきりしてしまったせいかもしれません、  
自分の欲求の重さに傾いていた天秤は、  
彼女を大切にしたいという想いの側とのバランスを取り戻しつつあって、  
結局僕は、この半端なところで宙を彷徨う手を、伸ばしきることが出来ずにいて・・・  
 
・・・そんな優柔不断な振る舞いこそ、僕の覚悟不足の証なのかもしれません。  
そして・・・そんな僕を後押ししてくれるのは、やはり年上のお姉さんであるこのヒトで・・・  
 
「ハヤテ君」  
「あ、はい・・・」  
 
触れたい、でも・・・触れてはいけない・・・かもしれない、なんて・・・  
そんなことを逡巡していた僕に、  
マリアさんはとても恥ずかしげに、消え入りそうな声で・・・だけど、確かにこう言ってくれたのです。  
 
「・・・・・・優しく・・・して下さいね・・・」  
 
それで僕は――――――  
 
「・・・マリアさんっ!」  
「きゃ!」  
 
背後からマリアさんをぎゅっと抱き締めて、  
うなじや首筋に、何度も何度もキスを繰り返します。  
 
「は・・・んっ、ひぅ・・・・・・っ、そんな、ひぁ・・・痕が・・・ついちゃう・・・」  
「ん・・・っ、イヤ、ですか・・・?」  
「それは、あの・・・んっ、イヤじゃ、ないです、けど・・・ナギに、ばれちゃ・・・んん!」  
 
振り返ってそう訴えるマリアさんの言葉は、まさにその通りなんですが・・・  
今はそんなことよりも、ただこの人が愛しくて・・・今度は振り向いた彼女の唇にキスをして・・・  
 
「ん、んん! んむ・・・っ、ん!? ん―――!」  
 
そして、もうキスだけでは満足出来なくなっている僕は、  
彼女を抱き締めていた腕をほどき、その手で滑らかな肌を撫でながら・・・  
左右の手をそれぞれ、マリアさんの胸と秘所―――を隠すように覆う、彼女の両手に重ね・・・  
 
「ん・・・ぷぁ・・・っ、マリアさん・・・」  
 
それだけ言って、後は彼女のことをじっと見つめます。  
マリアさんは僕に見つめられて、何も言わずに顔を背け・・・胸を覆う手を、ゆっくりとどけてくれました。  
そして僕は・・・逸る心をなんとか抑えつつ、マリアさんの胸の膨らみに直に触れて・・・  
 
「ふ・・・ぁ・・・っ」  
 
恐る恐る触れたそこは、ふにゅ、と柔らかな触り心地で、  
その感触を確かめるように今度は軽く、手中の膨らみを円を描くように撫でてみたり、  
 
「は・・・ぅぁ・・・んっ」  
 
指先で小さな突起にさりげなく触れてみたり・・・  
 
「ひゃんっ!」  
 
僕のそんな控え目な愛撫に、マリアさんは確かに反応してくれています。  
ちょっと上擦った、可愛いくてそれでいて悩ましげな声を聞いていると、  
そして―――その声を上げさせているのが僕だと思うと、  
もっと強く・・・揉んだりこねたりとか、つまんでみたりとかして、  
こう、ちょっと意地悪くマリアさんを苛めてあげたい、もっと可愛い声を出させてみたい・・・  
・・・なんて、考えてしまいます。  
それくらい、マリアさんの声や仕草は・・・男としての欲求を“そそる”ものがありました。  
でも、同時に・・・やっぱりマリアさんに嫌な思いはさせたくなくて、  
さっきの『優しく―――』って言葉にも応えたくて、  
結局僕は、さわさわと―――  
 
「ひぁ・・・ふぁぁ・・・っ」  
 
ふにふにと―――  
 
「あふ・・・っ、ん・・・ぅう・・・」  
 
そして、つんっ、と―――  
 
「んぁ! ・・・っ・・・ふぅ・・・ぅ」  
 
胸の膨らみをマッサージでもするみたいに、優しく撫で回します。  
と・・・  
 
「んぁ・・・っ、ひ・・・っく、あ、あの・・・・・・ハヤテ君・・・」  
「はい、マリアさん?」  
 
胸をこうして弄られる恥ずかしさから、でしょうか。  
マリアさんは真っ赤な頬で、眉を潜めて、ドキリとするくらいに艶のあるで僕に振り返って・・・  
 
「あの・・・もう少し・・・」  
「もう少し?」  
 
なんでしょう?  
まだ、強かっ――――――  
 
「もう少し、その・・・つ、強く、されても・・・いいですよ?」  
 
――――――っ!  
ちょっと・・・抑えていた何かが弾けそうになりますが・・・ぐっと堪えつつ、  
僅かに力を込めて・・・  
 
「んぁっ! あ、ひ・・・んっ、そ・・・・・・っ、あ、は・・・ぁ・・・」  
 
今度は、柔らかさの中にもしっかりと弾力が確かめられるくらいに揉んでみたり、  
そのままぐにっと捏ね回してみたり、  
小さな突起を指先で突付いてみたり、つまんでみたりして・・・  
 
「ふぁあ・・・っ、あ・・・くぅ! はぅ・・・ん・・・」  
「こ・・・このくらい、でしょうか・・・」  
 
マッサージじゃあるまいし、とは思いつつも・・・敢えてそんなズレたことでも口にしてないと、  
こう、抑えが効かなくなりそうで・・・  
 
「ひぅ・・・そ、その・・・も、もう、ん・・・ちょっと・・・」  
「もうちょっと・・・?」  
 
予想、というか期待通りなら、ちょっと意地悪な問い返しに、  
マリアさんは期待通りの恥じらう仕草で・・・  
 
「もうちょっと、その・・・強くても・・・だ、大丈夫、ですかぁあぅうっ!?」  
 
ぐにゅり、と―――  
マリアさんが言い終えるのも待たず、僕は彼女の胸を鷲掴みにして、  
揉んで、捏ねて・・・豊かな乳房を、パン生地でも捏ねるみたいに・・・弄び始めます。  
 
「んあっ! ひ、ぁ・・・んんっ、ぁ・・・ふぁあ! っく・・・ハヤテ、くんっ! つよ・・・っぁあ!」  
 
だんだんと理性のタガが外れてゆくことに危うさを覚えつつ、  
ですが・・・マリアさんの胸の感触と途切れ途切れにあがる上擦った声の前では、  
そんなのは些細なコトで・・・  
 
「ひんっ・・・は・・・やっ、くん・・・んぅ! ひぁっ、そこ・・・っぁあ!」  
 
さっきより・・・心なしか張りが出たように思える乳首をつまんであげると、  
一際高い声で叫んで・・・いえ、喘いでくれます。  
・・・今更ですが、確信しました。  
マリアさんは僕の手で、感じてくれているんだって。  
そう思うと、もう・・・止まれません。  
 
「ひゃうっ、ハヤ・・・く、んぅ! んぁっ、や、つよ・・・ぅあぁ!」  
 
さっきみたいにいちいち確認したりなんかせず、  
胸を弄る手指を一層激しく動かして、マリアさんの喘ぎ声を止まらなくさせます。  
 
「あく・・・んんっ、ちょ、ま・・・って、は、ハヤテくん―――」  
 
そんな、急に激しさを増した愛撫に思わず―――というように振り向いたマリアさんの首筋に、  
すかさず舌を“つぃっ”と這わせると、  
 
「っひゃぁああっ!?」  
 
一際高い声をあげて、びくびくと身体を揺らして応えてくれます。  
そんな彼女の“女”としての反応に、僕は“男”としての欲求を掻き立てられずにはいられなくて・・・  
胸を弄る手とは違う、もう一方の・・・今だ彼女の手で覆われたソコにあてがっていた手を動かして、  
おへその辺りに一度手を置いて、それから・・・ゆっくりと肌を舐めるように指を滑らせて、  
改めてショーツを隠すように押さえる彼女の手に触れて―――  
 
「は、っく・・・は、ハヤテ君!? そ、そこ・・・はぁ・・・・・・っ!」  
 
慌てたようにその手にぎゅっと力を込めて、頑なにソコを守ろうというような様子です。  
・・・まぁ、それもそうでしょう。  
マリアさんにとっても、ソコは気になるところ・・・  
いえ、マリアさんにとってこそ、一番大事なところです。  
だからその反応は当然のモノ。  
でも、僕は・・・  
 
「マリアさん・・・・・・」  
 
敢えてそんなマリアさんの彼女の耳元に唇を寄せて、吐息を吹きかけるようにして問い掛けます。  
 
「ダメ・・・・・・ですか・・・?」  
 
そんな吐息にも感じてしまうのか、マリアさんは僕の腕の中でびくん、と震え・・・そして、  
かぁ・・・と火照りっ放しの頬を更に赤くしながら・・・・・・  
何も言わずに、彼女の一番大事なところを覆っていた手を――――――どけてくれました。  
 
「・・・失礼、しますね・・・」  
 
恥ずかしくて堪らないのでしょう。  
無言のままうつむいてしまったマリアさんに、そんな断りを入れて、  
僕は阻むものの無くなった彼女の足と足の間に手を伸ばし―――  
びく、と。  
指先がショーツに触れた瞬間、マリアさんの身体が強張ります。  
僕も緊張して、少しだけ逡巡して・・・でも、そのまま指先を、彼女のショーツの中に潜り込ませて―――  
 
「ひゃ・・・っ、ぁ、は・・・ぁ・・・・・・んん・・・っ」  
 
ゆっくりと指先を押し進め・・・指先で彼女の叢を梳いて、更に指を押し進めて―――  
 
「―――ひぁあっ!?」  
 
きっと、胸よりももっと、ずっと敏感に違いないトコロに指が届きます。  
最初に小さな膨らみに触れると、マリアさんは甲高い声を上げて“がくん”と大きく身体を揺らし、  
それでも更に指を進め、彼女の・・・隠れた裂け目に触れて、  
 
「ひ・・・ぁ・・・!」  
 
そこに沿って、指をゆっくりと這わせ・・・  
 
「ひぁ! や、きゃ・・・ぁふ! んっ・・・ぅ!」  
 
彼女のソコを、少しずつ解し始めます。  
指先から伝わる感触は、まだ微かに湿っている程度です。  
だから丹念に、じっくりと・・・じれったいくらいに・・・  
ソコを指で撫で続けてあげます。  
 
「ふぁ、ひぁあ・・・・・・っ、はや・・・て・・・っ、君・・・っ!  
 そんな、そこ・・・ぅあ・・・・・・あんっ! ひ・・・ぅう・・・・・・」  
 
マリアさんの声が跳ね、悩ましげに首を振る仕草に・・・  
そして・・・彼女のソコに触れ、いじっている、という事実に・・・  
理性が消し飛びそうです。  
指なんかじゃなく、もうとっくにガチガチに固くなっている僕のもので、このヒトを貫いてしまいたいって。  
僕自身を彼女の中に埋め込んで・・・一つになって・・・  
マリアさんの中に、僕の想いを注ぎ込みたいって・・・そんな衝動に襲われます。  
 
でも、勿論そんなことはまだ、出来ません。  
今夜は、その・・・最後まで、するつもりです。  
マリアさんはこんなに恥ずかしがっているのに、それでも・・・求めてくれたんです。  
だから、僕も・・・応えるつもりです。  
今夜限りじゃなく、いつか・・・皆に祝福されながら、本当にこのヒトと結ばれる、その日まで・・・  
それまでずっと、スキであり続けるって・・・  
その証として、僕は・・・マリアさんを抱くって決めたんです。  
 
だからこそ、少しでも辛い思いが和らぐように・・・  
僕は出来るだけ、マリアさんが痛い思いをしないで済むように、  
拙い知識を総動員して、吹き飛びそうな理性を繋ぎとめて・・・  
 
「ひ・・・ぁうっ、んく・・・・・・ふゃあ!  
 ハヤテくっ、んぁ! そんな・・・そこ、ばっかり・・・しちゃあ・・・あぅう・・・」  
「そうですね・・・・・・じゃあ、ココも・・・」  
「ひぁっ!? や、そん・・・なぁあ! あ、はうぅ・・・っ」  
 
少しずつ、だけど着実に潤いを増しつつあるソコをほぐすことだけにいつの間にか没頭してしまいましたが、  
マリアさんの声で我に返って・・・  
手を被せたままの胸や、目の前にある白い首筋への愛撫も再開します。  
・・・もちろん、潤いつつあるソコをほぐす作業をおろそかにすることなく。  
 
「ひゃ、んぁ・・・あ! んくっ! はやぁっ! ハヤテくんっ、そん、なぁあっ!  
 わた・・・っ、ひぁ! ふぁ・・・!」  
 
僕の愛撫に敏感に反応して、身体を、声を震わせるマリアさん。  
身悶えしながらこちらを振り向いたその表情は、切なげでありながら・・・甘く蕩けていて・・・  
 
「は・・・ハヤテく・・・んっ、んむ・・・! んっ! んぷ・・・んん―――!」  
 
吸い寄せられるようにして、再びマリアさんと唇を交わします。  
唇と唇で、舌と舌で交わりあうようなキスをしながら、  
僕は尚も彼女の胸をいじり、徐々にほぐれてきた秘裂に少しずつ指を埋め込んで・・・  
 
「んむ・・・っ!? んんん! ん――――――っ!」  
 
そんな風にしてマリアさんを悶え、震わせ続け、やがて・・・  
彼女の秘所は、汗とは違う別の体液で・・・じっとりと潤ってきました。  
それこそが、身体の震えよりも、艶のある喘ぎ声よりも、潤んだ瞳よりも・・・  
何よりも強烈に、彼女が女性として・・・感じて、昂ぶっていることを教えてくれて・・・  
 
もう、これで充分でしょうか・・・?  
 
どれだけすれば充分なのか・・・というのは、僕も初めてのことなのでわかりません。  
女性にとっての“はじめて”に関する乏しい知識から想像するに、  
どれだけしてもし過ぎるということは無いのかも知れませんし、  
どれだけしても・・・辛い思いをさせてしまうことには変わりないのかも知れません。  
でも、それよりも何よりも、今は・・・僕が・・・もう・・・  
そんなマリアさんを、ただ指や舌で愛撫するだけでは・・・我慢が出来なくて・・・  
 
「・・・っ、ぷぁ・・・っ、あ、はぁ・・・っ・・・・・・あの・・・っ、マリアさん・・・・・・!」  
 
秘所や胸を弄る指を止めて、唇と・・・そして身体を離し、  
その・・・・・・次の段階に進むべく・・・マリアさんに声をかけます。  
・・・我ながら、切羽詰った余裕の無い声で。  
 
「っはぁ、は・・・っ、は・・・ぁ・・・・・・・・・は・・・はい・・・・・・」  
 
ずっとがくがくと身体を揺らして身悶えを続けていたマリアさんは、  
まだ息を乱しながら、それでも僕の呼び掛けに応えてくれて―――そのまま、次の言葉を待っています。  
赤い頬に潤んだ瞳・・・切なげに乱れた吐息・・・  
艶に満ちた、それでいて本当に綺麗な顔はじっと僕の顔を見つめていて・・・  
なんとなく、わかりました。  
 
―――このヒトはきっと、僕が何を言おうとしているか既にわかっていて、  
その上で僕の言葉を待っていてくれてるんだって―――  
 
だから僕は、期待と緊張で高鳴る鼓動を抑え、  
 
「あの・・・・・・マリアさん・・・」  
 
ごくり、と唾を飲み込んで・・・  
 
「もう、その・・・し、しても・・・・・・いい、ですか・・・?」  
 
これでちゃんと伝わるのかどうか、自分でも怪しくなるようなハッキリしない言い方になってしまって、  
でも、マリアさんは僕の言葉を聞いて、目を逸らすようにうつむいて、  
そして・・・顔を上げて、僕の顔を、目を見て・・・  
 
「・・・・・・・・・はい」  
 
そう、はっきりと答えてくれました。  
 
どくん、どくん、と・・・もの凄い勢いで胸が高鳴っているのもそのままに、  
僕はマリアさんの肩に手をかけて・・・  
 
「あの、ハヤテ君・・・」  
「は、はい!?」  
「ハヤテ君も・・・裸になってください・・・」  
「あ・・・」  
「私だけ裸なのは・・・・・・恥ずかしい・・・です」  
「は、はいっ!」  
 
言われるまで、そんなことすら忘れていました。  
僕は慌ててさっきのマリアさんのように後ろを向いて、  
Tシャツを脱ぎ、スウェットを脱ぎ、すっかりテントを張ってしまっているトランクスを脱ぎ捨てて・・・  
そして、改めて彼女に向き直った時には、  
マリアさんもまた・・・身体を覆う最後の一枚だったショーツを・・・脱いでいました。  
もう、僕とマリアさんの間には・・・身体を覆う服もなく、  
想いを遮る誤解もなく、  
ただ・・・愛しい相手の姿があるだけで・・・  
僕は手を伸ばし、彼女の肩に触れて・・・そのまま優しく・・・  
彼女を押し倒しました。  
 
 
「あ・・・」  
 
マリアさんは小さく声をあげて、ですが逆らうことなく僕に組み敷かれ・・・  
そのままじっと、僕のことを見上げ・・・待っています。  
だから僕は、押さえきれなくなりつつある衝動を言葉にして―――  
 
「マリアさん・・・僕はこれから・・・あなたを抱きます」  
「・・・はい」  
「痛かったら、辛かったら・・・言って下さい。 そうしたら・・・」  
「ハヤテ君」  
 
不意に、背中に腕を回されて・・・マリアさんは僕を抱き寄せるようにして・・・  
 
「約束してください・・・必ず、私がどんなに痛がっても、泣いても・・・必ず最後まで、するって・・・・」  
 
そう、言われました。  
正直・・・自信はありません。  
大好きなヒトが目の前で痛みに喘いでいる状況で、僕は・・・この衝動を維持できるのか・・・わかりません。  
でも、実際に辛い思いをするマリアさんがそう望むなら・・・覚悟をされたのなら、僕には・・・  
 
「・・・はい」  
 
としか言えません。  
そして、僕も・・・大好きなこのヒトに痛みを与える覚悟を決めて・・・  
 
ちゅ、と。  
 
誓いの証の代わりに軽くキスをして―――  
こんなに緊張しているにも関わらず、先程から衰える気配も見せずそそり立ったモノの先端を、  
彼女の秘裂にあてがって、ゆっくりと・・・腰を押し進め・・・  
 
「ぁ・・・」  
 
蜜で濡れた秘肉の感触は、簡単に僕の理性を霧散させかねない・・・“快楽”そのもの。  
その感触に吸い込まれるようにして、僕は更に腰を前に進めようとしますが・・・  
 
「――――――っ」  
 
すぐに先端は、行く手を遮る障壁に行き当たります。  
その感触と、息を飲むマリアさんの気配に・・・快楽に酔いしれかけた意識は一気に醒めてしまうけど、  
ですが・・・醒めたからこそ―――  
僕とマリアさんはその刹那に視線を交わして・・・  
互いの意思と・・・覚悟を通わせて―――  
 
「・・・ぅあ! あ・・・ぐ・・・ん・・・・・・!」  
 
みり・・・みち・・・と・・・  
僕はこのヒトの・・・最愛のヒトの純潔を今まさに侵して・・・  
彼女の奥に、僕自身を挿入させてゆきます。  
 
「あぐ・・・んん! ん・・・・・・んっ! あ・・・あぁ・・・・・・っあぐ・・・っぅう!」  
 
ずぶずぶと・・・目をぎゅっと閉じて、必死に痛みを堪えるマリアさんの中に、更に入り込んで・・・  
 
「う・・・・・・ぁ・・・ひぎ・・・あ・・・・・・ぁあ!」  
 
ぽろぽろと涙を流す彼女の中にそれでも敢えて突き込んで、  
そして―――  
 
 
「マリアさん・・・全部・・・・・・入りました」  
「・・・・・・っ・・・・・・は・・・い・・・っ」  
 
マリアさんの表情は辛そうで、そんな苦痛を与えているのが自分だと思うと・・・  
それこそ彼女が感じているものに比べたら些細なモノでしょうけど、やはり・・・胸が痛みます。  
それなのに、マリアさんに苦痛を与えているモノから伝わるのはどうしようもない程の快感で・・・  
それが、酷く後ろめたくて・・・  
 
「ハヤテ君・・・」  
「マリアさん・・・大丈夫じゃ・・・ないですよね」  
 
薄く目を開けて、僕を見上げるマリアさんは本当に辛そうで、なのに・・・  
 
「ハヤテ君こそ・・・なんだか、辛そう・・・」  
 
このヒトは、僕のことなんかを気遣って・・・!  
 
「私の・・・っ、なか・・・あまり・・・その・・・よ、よく・・・ないでしょうか・・・」  
「そ、そんなことありませんっ! むしろ凄く気持ちよくて!  
 ・・・・・・だから・・・マリアさんに申し訳なくて・・・・・・」  
「ダメですよ」  
「・・・マリア、さん?」  
 
いきなり、何を―――  
 
「ハヤテ君、私は、今・・・凄く・・・幸せなんですよ?」  
 
マリアさんは、痛そうなのに、辛そうなのに、無理に笑顔を作って・・・  
 
「確かに痛いです・・・辛くない、と言ったら嘘になります・・・でも!  
 私は今、ハヤテ君と繋がっている・・・大好きなヒトと・・・あなたと一つになっているんですよ?」  
 
涙の滲む瞳で、じっと僕のことを見て・・・  
 
「この想いは、ずっと私一人の胸にしまっておこうって・・・  
 ナギのため、ハヤテ君のため・・・決して叶えてはいけないって・・・  
 ずっと、そう・・・自分にいい聞かせてきたんですよ?」  
 
そう・・・そんなマリアさんの心の蓋を僕がこじ開けてしまったのが、ことの起こり。  
たくさんの人を巻き込んで・・・涙を流させて・・・  
それでも、僕はこのヒトを選ぶって決めて―――  
 
「この痛みは、ハヤテ君が私を選んでくれた証です。  
 私の・・・初めてをあなたに捧げて・・・こうして・・・結ばれたことの、証です」  
 
マリアさんの声は震えていましたが、でも・・・嘘や誤魔化しじゃないということが伝わってきます。  
 
「だから・・・そんな辛そうな顔・・・しないで・・・」  
「マリアさん・・・」  
 
僕は、このヒトを・・・大好きなマリアさんに辛い想いをさせたくないって、思っていました。  
だけど・・・・・・彼女が求めるなら・・・  
例え肉体的な苦痛を伴っても・・・それで彼女の心を満たしてあげることができるなら・・・  
僕の為すべき事は一つだけ。  
彼女のために・・・彼女に苦痛を与える覚悟を、もう一度決めて・・・・・・  
 
 
「マリアさん・・・約束していましたね・・・最後まで、必ずする・・・って」  
「はい・・・」  
「だから・・・動きます・・・本当に痛いと思いますが・・・でも、ちゃんと・・・最後まで、します」  
「はい・・・」  
 
そう言って、腰を動かそうとした時、  
 
「あの、ハヤテ君」  
「はい・・・あ、その、出来るだけ優しくしますから!」  
「いえ・・・出来れば・・・ずっと、キスしていて、ください・・・」  
「え・・・キス、ですか」  
「はい、その・・・口が塞がっていれば、私の・・・情けない声とか、多分聞こえないから・・・  
 ハヤテ君も、気にしないで済むんじゃないかって・・・それで・・・」  
 
本当にこのヒトは・・・こんな時まで、僕のことを気遣って・・・  
なんだか、ちょっと自分が情けなくなって、でも・・・そんなこのヒトが、僕は本当に大好きで・・・  
 
「ん・・・・・・」  
 
唇を重ね、少しでも痛みから意識を逸らせられるようにと、舌を絡め、ねちっこいキスをしながら、  
僕はマリアさんの中に埋め込んだままのモノを、ゆっくりと、少しずつ・・・動かし始めます。  
 
「ん! んんっ! ん・・・む・・・ん――――――っ!」  
 
マリアさんの中は本当にキツくて、僕のモノをギチギチに締め付けてきます。  
それでいて、指で散々ほぐしてあげた甲斐あってか奥の奥までしっかりと潤っていて、  
動かす分には滑らかで・・・お陰で、本当に気持ちいいです。  
ですがマリアさんは・・・  
 
「んぐ! ん、んんんっ! ん―――っ! ん・・・ん・・・っ!」  
 
唇を塞いでいても、鼻から洩れる音や僕の背に回した腕に込められた力から、  
彼女がどれだけ辛い思いをしているのか・・・伝わってきます。  
でも・・・それでもマリアさんは僕を押しのけようとしたりなんかせず・・・  
ぎゅっと・・・すがり付いてくれているのです。  
だから僕は、せめて早くその苦痛を終わらせてあげようと、小刻みな動きでスピードを上げて、  
気持ちとは完全に乖離しているかのように固さを失わないモノを、マリアさんの中で昂ぶらせてゆきますが・・・  
でも、やっぱり・・・その前に・・・  
 
「んんん! んんぁあっ! あ、ぐ・・・ぁああ! ひぎ・・・っ、は・・・ハヤテ、くん・・・・・・?」  
 
一度、腰の動きを止めて、唇を離すと・・・マリアさんの悲痛な声が漏れ出して、  
胸を・・・刺します・・・・・・でも!  
 
「何で・・・止めて・・・」  
「マリアさん・・・声・・・聞かせてください」  
「え・・・でも・・・なんで・・・」  
「痛いのが、マリアさんにとって僕と繋がったことの証なのでしたら・・・  
 マリアさんがあげるその声は・・・僕が、あなたの初めてを奪った証です・・・  
 だから、マリアさんが痛みに耐えてくれるように、僕も・・・耐えます!  
 マリアさんが耐えてる痛みに比べたら全然大した事ないでしょうけど、  
 それでも受け入れて・・・ちゃんと耐えて・・・それで、最後までします!  
 だから・・・・・・マリアさんだけが我慢しないで下さい・・・」  
 
 
マリアさんは涙で潤んだ瞳で僕を見上げて、  
何か言おうとしているのか口を開いて・・・でも何も言葉にはならなくて・・・それで、最後に・・・  
 
「・・・・・・もぉ」  
 
僕を嗜めるような声を発したマリアさんはやっぱり泣き顔だったけど、  
でもちょっとだけ・・・嬉しそうに見えました。  
 
「じゃあ、また・・・動きます・・・」  
「はい・・・っ、あ・・・ぐ・・・! んぅ・・・あ・・・ぃ・・・ぁあ!」  
 
唇を交わしていた時には近すぎて見えなかったマリアさんの苦痛に喘ぐ表情も、そして悲痛な声も、  
今ははっきりとわかります。  
スキなヒトに・・・本当に大切なヒトに、こんな辛い思いをさせなくちゃならないと思うと、  
なんだか・・・僕まで涙が出そうになりますが・・・  
 
「ひぁ・・・あぐ・・・ぃ・・・っあぁあ! ぅ・・・あ! は・・・ハヤテくん・・・っ  
 ひぎ・・・っうぅ・・・っ、ハヤテ・・・くんっ、ハヤテくんっ!」  
「は・・・ぁっ、はぁ・・・っ、っく、マリアさん・・・マリアさんっ」  
 
それで痛みが和らぐ訳でも、癒してあげられる訳でも無いってお互いにわかっているけど、  
それでも僕たちはその言葉に魔法のような力が篭っていると信じているかのように、  
何度も何度もお互いの名を呼んで・・・  
 
「ハヤテくん・・・ハヤテくん・・・っ! ハヤ・・・ぁあ! あぐ・・・ぅあ! は・・・っ、ハヤテくんっ!」  
「マリアさん・・・マリアさんっ! マリアさんっ!」  
 
この心とは裏腹に昂ぶり続ける衝動をマリアさんに突き込んで、  
彼女の中の・・・一番奥のキツくて温かくて・・・蕩けそうな感触に、身を任せて・・・  
 
「っく、うぁ・・・マリアさん・・・ぼく・・・っ、もう、そろそろ・・・っ」  
「ひぅ・・・んぁ! あぅう! ハヤ・・・くんっ! きて・・・くださいっ! そのまま・・・ぁあ!」  
 
僕はもう、自分を抑えることも出来ず・・・  
ベッドがギシギシと音を立てて軋むくらいにマリアさんを責め立てて、  
彼女の膣内に突き入れる度に僕の昂ぶりは跳ね上がって、  
そして・・・  
 
「は・・・っ、はぁ・・・っ、く・・・マリアさん、マリアさんっ! もう、僕・・・もうっ!」  
「ぃあぁあっ! あぐ・・・ひっ・・・ぁああ! ハヤテくんっ! あぅ、うぐ・・・っ!  
 そのまま・・・っ、いひ・・・っ! なかっ、中にぃ! ハヤテくん・・・っ、ハヤテくんっ!」  
 
限界を感じ、そのまま迷うことなくマリアさんと僕の望む通りに、  
最後に、一番奥まで突き込んで―――  
 
「―――マリアさんっ!」  
「ハヤテくんっ! ハヤ、ぁ、あぁああああ―――――――――!」  
 
びゅくんっ、とマリアさんの中のモノが一度大きく脈打ったのを皮切りに、  
どくん、どくんと・・・これまでにないくらい、大量に射精して・・・  
僕は・・・僕の衝動の全てを、マリアさんに注ぎ込みました。  
 
 
最後まで出し終えてから、ずっとマリアさんに苦痛を与えていたソレをゆっくりと引き抜いて・・・  
改めて涙に濡れた彼女を見つめて声をかけます。  
 
「終わりました・・・マリアさん」  
 
「・・・は・・・い・・・っ、ハヤテ君の・・・熱いのが・・・お腹の中に・・・・・・  
 いっぱい、流れ込んできて・・・・・・最後まで、してもらえたんだって・・・わかるのに・・・  
 嬉しいのに・・・・・・っ、ぅ・・・うぁ・・・っ・・・」  
 
言っている傍から、マリアさんの目からはさっき以上に涙が溢れてきます。  
 
「ふぁ・・・っ、どうして・・・・・・っ、しあわせなのに・・・うぇぇ・・・ごめんなさい、ハヤテ君・・・  
 わたし・・・・・・うぁぁ・・・・・・」  
 
痛くて辛くて・・・でも、マリアさんは僕に気を使わせたくなくて、  
僕が声を出して、と頼んでも・・・やっぱり、抑えていたんでしょう。  
でも、最後まで終わって、それで緊張の糸が切れて、きっとそれで・・・  
だから僕は、このヒトを胸に抱いて―――  
 
「もう、いいんです・・・今度こそ、思い切り泣いて下さい・・・ずっと、抱いていてあげますから・・・」  
「ふぇ・・・うぁ・・・ハヤ・・・っ、くん・・・わたし・・・っ、わたし・・・! うぁ・・・ぁああああ!」  
 
すすり泣くようだったマリアさんの声は嗚咽となって溢れ出し、  
やがて泣き疲れたのか・・・その声はまたすすり泣くようトーンを落として・・・  
いつしかその声は・・・・・・寝息に変わっていました。  
 
話したいことはまだまだたくさんありましたが、  
今日のことを思えば・・・仕方の無いことでしょう。  
色々なことがありました。  
辛い思いも悲しい思いもしましたが、でも・・・今の僕は、満たされています。  
また明日からはきっと、今まで以上に波乱に富んだ悩ましい日々になることは明らかですが・・・  
それでもこのヒトと一緒なら・・・きっと乗り越えていけるって・・・そう、信じています。  
だから僕も・・・  
僕の胸に顔を埋めたマリアさんの寝顔は見られませんが、  
願わくば・・・その寝顔が安らかであることを祈りながら・・・・・・  
僕もまた、愛しい人を抱いたまま・・・夢の淵への誘いに身を任せました・・・・・・  
 
 
――――――どうかこの夢のような一夜が・・・決して夢ではありませんように――――――  
 
 
 
 
 
 
クリスマスイヴには、あまり楽しい思い出はありませんでした。  
自分に与えられた仮初めの誕生日。  
それはどうしても、私の出自を顧みてしまう日でしたから。  
 
クリスマスに対するそんな印象のせいか、サンタさんにもあまりいいイメージは抱いていませんでした。  
クリスマスの朝、枕元にプレゼントが置いてあるのを見つけたときはそれはそれで嬉しかったのですが、  
それがおじいさまの手によるものだということくらい、幼い頃からわかっていました。  
それに三千院の家にいれば、欲しいと思ったものは普段からなんでも手に入ってしまいますし、  
クリスマスというイベントに対するありがたみというのは、  
私の感覚からは欠如していました。  
 
ですが、今日・・・私は初めて、サンタさんを信じてもいいかもしれないって・・・そんな風に思いました。  
クリスマスの朝、目を覚ました私の枕元・・・ではありませんが、  
そこに大好きなヒトがいてくれたとき・・・そう、思いました。  
 
昨晩、私はハヤテ君と結ばれて・・・事が終わって、緊張の糸が切れてしまって、  
痛かったこととか、辛かったこととか・・・でもやっぱり、何よりも嬉しかったこととか・・・  
そんな感情が堰を切ったみたいに溢れ出してしまって・・・彼の胸で、わんわんと泣いてしまいました。  
泣きに泣いて・・・そのまま泣きつかれて眠ってしまって・・・  
・・・これでは年上のおねーさん、失格ですね。  
 
でも、まぁいいかなって・・・  
ハヤテ君は時々危なっかしかったり、落ち込んだりしちゃうこともあって、  
そんな時は私が彼をフォローしてあげなくっちゃって思いますけど、でも・・・  
私だって、甘えたいなって・・・・・・  
 
「ん・・・ん・・・・・・」  
 
と、ハヤテ君が呻くような声を上げて・・・  
お目覚めかな、と彼の胸から顔を起こして寝顔を見つめますが・・・どうやら、まだ起きる気配は無いようです。  
お寝坊さんですね〜、とは思いながらも、  
なんだかとても幸せそうな寝顔を見ていると、私も少し羨ましくなって・・・  
そのまま、もう一度彼の胸に顔を埋めて・・・そのまま、目を瞑りました。  
 
まどろみゆく意識の中で、ハヤテ君の温もりだけはいつまでもはっきりと感じられて・・・  
私は、幸せな夢を見ました。  
 
 
 
ナギや、たくさんの人たちに囲まれて・・・  
私の隣にはハヤテ君がいて・・・  
みんなは、私とハヤテ君のことを祝福してくれていて・・・  
そんなみんなの前で、私達は・・・  
 
―――ア、―――リア・・・  
 
永遠の・・・  
 
―――リア、マリア!  
 
「・・・ハヤテ・・・君・・・?」  
 
耳元で鳴り響く大声に、ふっと目を開くとそこには・・・  
 
 
「ハヤテでなくて悪かったな、目が醒めたか、マリア?」  
「・・・・・・」  
 
ぼおっとしていた寝覚めの頭が、だんだんとはっきりしてきて・・・  
 
「まだ寝ているのか? おいマリア」  
「・・・・・・な、ナギ!?」  
「うむ、おはよう」  
「お、おはようございます・・・って、どうして!?」  
「いや、どうしても何も・・・」  
 
やっとハッキリした視界の真正面にナギが、そしてナギの背後には・・・  
 
「お、おはようございます、マリアさん・・・」  
「あ・・・」  
 
私を抱き締めていてくれたハズのハヤテ君がいて・・・  
ああ、そうか・・・・・・そう、ですよね・・・・・・  
 
「こんな早朝に帰ってきたから冷えてしまったのだ、  
 早速だがお風呂の用意をしてくれ!」  
「あ、はい・・・」  
 
全部・・・夢、だったんですね・・・・・・  
あんな幸せなことが・・・あるハズないって・・・・・・そう思って、ベッドから起きようとして―――  
 
「―――――――――っ!?」  
「!? ど、どうしたマリア!?」  
 
私は声にならない悲鳴を上げて、ナギは飛びのくくらい驚いていますが、  
ハヤテ君は何故か・・・なんでしょう、予想通りとでもいうような顔で苦笑していて・・・・・・  
っていうか、ええと・・・・・・この痛み・・・・・・足と足の間に何か挟まったような、  
絶対に錯覚なんかじゃない、この痛みは・・・つまり、その・・・・・・  
 
「お、おい、大丈夫なのかマリア!?」  
「え、ええ・・・だ、大丈夫、ですわ・・・・・・」  
 
多分、かなり・・・こう、引き攣った顔をしてしまっているのでしょう。  
ナギが本気で心配してくれているようで・・・それでなんだか後ろめたい気にもなってしまいます。  
何故なら、この痛みの原因は・・・ナギに見抜かれる訳には行かないモノのハズで、  
なんとか素を装って立ち上がり、こう、できるだけ小股で歩き出すと・・・  
 
「あの・・・・・・大丈夫、ですか・・・?」  
 
ハヤテ君が小声で声をかけてくれます・・・心配そうに・・・そして後ろめたそうに。  
 
「はい・・・な、なんとか・・・」  
 
それで、改めて理解しました。  
昨晩のことは・・・やっぱり夢なんかじゃないって・・・・・・!  
 
「おい、何をこそこそやっているのだ?」  
「あ、いえ! べ、別に何も!」  
「そ、そうですわ! 何でもありませんわ! で、ではお風呂ですね?」  
「うむ、歩とヒナギクも来ているからな、大浴場にしてくれ」  
「はい!」  
「じゃあ、その間に僕はお茶でもいれてきますね」  
「うむ、頼んだぞ」  
 
そう言って別の用事をこなすように装いながら、  
私は浴場、ハヤテ君は厨房へと・・・同じ通路を並んで歩いて行きます。  
それはナギがくれた私とハヤテ君の二人きりの一夜の・・・・・・最後の欠片。  
 
「すみません、お嬢様達が帰ってくる気配がしたので、起こそうとはしたのですが・・・  
 マリアさん、その・・・・・・あんまり幸せそうに眠っていたものですから・・・つい・・・」  
 
それはそうでしょう・・・だって、あんな夢を見ていたのですから・・・  
 
「ところでマリアさん、その・・・身体は大丈夫ですか?」  
「ええ、まぁ・・・なんとか」  
 
正直、痛くて・・・かなり小股で歩いてたりしますが、  
あんまり露骨に痛がってしまうとバレてしまいますし・・・そうでなくても・・・  
 
「出来るだけ何事もないように装わないと、その・・・何せ相手はナギだけじゃないみたいですので・・・」  
「ええ・・・そうですね・・・」  
 
さっきの時点ではナギにはまだ勘付かれてはいなかったみたいですが、  
部屋を出たところでお会いした桂さんと西沢さんは・・・  
 
「二人とも、なんとなく不審な気配を察知された感じでしたからね・・・」  
 
お互いに顔を見合わせると、この後のことを思って思わず溜息が出てしまいます。  
ですがそんな状況だからこそ、  
この先作りにくくなるであろう二人きりの時間をこんな風に浪費するのは惜しくて、  
そしてその思いはハヤテ君も同じだったようで・・・  
 
「ところでマリアさん」  
 
急に声のトーンを変えて、話しかけてきてくれます。  
 
「はい、なんでしょう?」  
「さっきのマリアさんの寝顔・・・本当に幸せそうだったんですが、楽しい夢でも見られてたんですか?」  
 
わざわざそんなことを聞かれるくらいですから、さぞかし幸せそうな寝顔だったのでしょう。  
でも、仕方ありませんよね。  
実際に・・・本当に幸せな夢だったんですから、ね♪  
 
「ふふ、それはヒミツですよ♪」  
「えー」  
「ほらハヤテ君、もう厨房ですから、お茶の用意をお願いしますね」  
「あ、はい!」  
 
夢のような一夜の後の、短い逢瀬はこれでお終い。  
あとは、再び訪れたお屋敷での日常に戻るだけ。  
でも、その前に―――  
 
「ねぇ、ハヤテ君」  
「はい、なん――――――」  
 
振り向きざまの彼に、愛しさと・・・一つの願いを込めて、キスをします。  
 
これから始まる日常の先にいつか、  
彼の胸に抱かれて見た夢の風景が続いていますように、って――――――  
 
 
 
―――了―――  
 
 

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