浴場から後の事を、ハヤテはよく覚えていない。  
ふと気づけば、いつもの執事服を着て中庭の石に腰を落としているところだった。  
一度意識が覚醒すると、先ほどの事件が鮮明に甦ってくる。  
(終わった―――――ついにマリアさんにまで嫌われてしまった―――)  
初対面――と言うべきかどうか――のタマ(お姉さんだったが)に押し倒された挙句、  
よりによってあんな瞬間をマリアさんに……  
(もうぼくは、このお屋敷で生きていけない……)  
そのまま地面にめり込めそうなほど見事な落ち込みっぷりを披露するハヤテに、  
「いよー悪い悪い。で? 何、落ち込んでんの?」  
やたらと軽い調子で元凶が声をかけてきた。  
 
………!!  
 
「お前は――――っ!!」  
「おお!? なんだよ!! やんのかよ!!」  
 
 
 まだまだ続く第26話異聞、2つ目。  
 
 
………ぜーはー。  
 
「あれ、タマ……お前、なんか縮んでないか?」  
「いつものヤツが故障しちまってよー。仕方ねーから古いのを引っ張り出してきたんだ」  
確かに、今のタマはハヤテと同じくらいのサイズしかなかった。  
しかもディティールも甘い。  
「ひょっとして、お屋敷のどこにもいない時があるのって……」  
「そりゃ、たいがい整備中だな。ただ最近、なにかとダメージが酷かったからなー。  
 やっぱあのヘビの時、研究所にメンテ頼んどきゃよかったな」  
色々苦労があるらしい。  
 
「ほんとなら、こいつを改造してお前用のペット服造ってもらおうと思ってたのによー」  
「って、お前がそんな事考えるからあんな事になったんじゃないかーっ!」  
あのお風呂で、何か失ってはいけない大事なものがドバドバと流れ去っていった気がする。  
「ううっ…もう僕どうしていいやら……」  
思い出すだけで涙が出ちゃう。だって男の子だもん。  
「なるほどなー。つまりマリアに見られたのがショックで、それが原因で嫌われたくないんだろ?」  
「うん……何か他にも色々問題はあると思うけど……」  
「じゃああれだ、とりあえず物置に行こう」  
「……なんで物置?」  
「こいつを引っ張り出してくる時にいいもん見つけたんだよ」  
「いいけど……適当な案出して、原因がお前だってこと誤魔化そうとしてない?」  
「馬鹿。女同士ピンと来るもんがあんだよ、任せとけって。  
 とりあえず先に行ってな。俺はお嬢の部屋に取ってくるもんがあるからよー」  
言うやいなや、いきなり二足歩行でダッシュするタマ。  
「あ…行っちゃったよ。でもまあ、言われてみれば中身はお姉さんなんだし……  
 この際マリアさんに嫌われないですむなら何でもいいか……」  
状況に流されっぱなしになりながら、ハヤテはとぼとぼと倉庫に向かう。  
このそこはかとなく受身な流れが各種トラブルの一因である事にハヤテが気づくのは、当分先になりそうだ。  
 
で、しばらくして物置。  
 
「タマ……これ何?」  
 
「ちょ、取ってくる物って……またぁ!?」  
 
「やっぱり僕一人で何とかっていうかトラに脱がされるのは何かイヤ…」  
 
「え、ちょっと待っ何がぬるぬるそんなとこダメでやめっ冷たっあっあっあ―――――っ!!」  
 
普段あまり人の出入りがない物置の閂がなぜか外されているのを見て、不審に思ったマリアは中を覗き込んだ。  
様々な箱や袋が積み上げられて軽く迷路になっているため奥のほうは全く見通せないが、  
耳を澄ませるとどうやら人の話し声らしきものが聞こえてくる。  
(うっかり戸締りをしてしまわなくて良かったですわね…)  
セキュリティは万全のため不審者の可能性は低く、マリアはそう警戒せずに声の方へ近づいていった。  
「声がしますけど誰かいるんですか?」  
言いながら何の気なしに角を一つ曲がった瞬間、  
「へ? ハヤテ君? こんなところで……というよりそんな姿で一体、何を?」  
「はあぁ……マ、マリア…さぁん……」  
マリアの目前でなぜかスポットライトに照らしだされたハヤテは、  
以前マリア自身がナギと共にコーディネートした猫コスプレの女装姿で床にくずおれていた。  
「ハヤテ君? 何か顔が赤いですよ……それに声もいつもと違って……」  
ハヤテの姿に危険信号…とはまた違う何かのシグナルを感じつつも、  
とりあえずその前にしゃがんで様子をみようとするマリア。  
すると、ハヤテの表情がほやんと緩み、安心したようにマリアにしなだれかかる。  
「ちょっとハヤテ君!? ねえ、しっかりして下さい!」  
びっくりして思わず引き剥がすと、マリアの目の前には赤く上気して半分蕩けたようなハヤテの顔。  
その色っぽさのあまり心臓がバクンと大きく鼓動し、耐え切れずにマリアは後ろを向いた。  
(こんな姿でそんな事をされてしまうと、何か抑えきれないものがこう……  
 うーん、顔をあわせづらいですわねー)  
きっと自分も同じくらい赤い顔をしていると確信しつつ、すーはーと深呼吸を繰り返す。  
と、いつしか背中から伝わる気配が変わり……  
 
ぐすっ。  
 
「へ?」  
慌てて振り向けば、両の目尻に大粒の涙をぷっくりと溜めたハヤテ。  
その頬を、途切れることない滴がぽろぽろ流れ落ちていた。  
「うあああ………」  
「えええ!? 何、泣いてるんですかハヤテ君!!」  
「だって…だって…僕…うああぁん………」  
両膝を曲げて女の子座りしたハヤテが、床に力無く手をついて泣き崩れる。  
宙を滑る水滴がスポットライトの光を浴びて、淡い真珠の輝きを放つ。  
その様子に胸をきゅっと締め付けられるものを感じたマリアは、  
何かに急かされるようにしてハヤテの頭を胸に抱いた。  
「もう泣かないで下さい、ハヤテ君。困った事があるなら、泣く前に私に話して下さいな」  
「うくっ……マリアさぁん……」  
「ほら、何があったんですか? こんな可愛い格好までして」  
小さな子をあやすようにぽんぽんと背中を叩いて促すと、  
ハヤテはマリアの胸に顔を押し当てたまま、涙混じりに話し始めた。  
「えぐ……マリアさんに……あんなところ……嫌われっ……  
 ぐすっ……この服、前に……マリアさんが着せた服だから……ひっく……  
 この格好なら……少しは……嫌いにならないでくれるんじゃ……うあぁ、ないかって……」  
「そ……それはまあ……でも、それならなんでこんな物置にいるんです?」  
「……それは……あうう……前と同じじゃインパクトが弱いって……はぁ……  
 いいものがあるって……言われて、ふあぁっ!」  
「あの…ハヤテ君? 先ほどから何だか声の調子がおかしいんですけれど?」  
不審に思ってハヤテの姿をよくよく見れば……  
以前と違って首や手足に革製の輪が巻かれていたり。  
首の輪から同じ革素材の手綱が伸びていたり。  
果てはスカートから覗く太ももにレースの輪で何かのスイッチが留められていたりする。  
 
「ハヤテ君……貴方、それは……」  
スポットライトが淡いピンクの光に切り換わり、小さく震えるハヤテの姿を優しく浮かび上がらせる。  
気づけばその震えも、泣いているためとは思えなくて……  
(さっきのアレといい……最近のハヤテ君はどうしてこう可愛いんでしょうか)  
「もしかして、自分で?」  
ちょっと意地悪してみたくなり、そんな事を言ってみる。  
「ち、違っ……違いますっ! これは……タマが…むりやりぃ……」  
「タマですか? ………うーん」  
首を傾げてふとピンクの光源を追えば、その先には古めかしい投光器のシルエット。  
逆光の中、その横に見える人影…いや、頭の上に耳がついている?  
(どうしましょ…どうしましょ…本当にもう、この天然さんは……)  
一歩一歩、着実にイケない世界に踏み込もうとしているのが自分でもわかる。  
わかるだけで、止められない。  
(思いつめているハヤテ君を、ここで突き放してしまうのも良くないですよね?)  
言い訳なのかもしれない。でもその思考にたどり着けば、後はUターンなしの一本道。  
 
「ハヤテ君は、私のためにこんな格好までしてくれたんですよね?」  
「ああ……はいぃ、でもぉ……なんだか、んんっ、かえって迷惑をぉ……」  
「大丈夫です。ハヤテ君のそういう一生懸命なところ…キラいじゃないですよ」  
「ほ…本当ですか…?」  
耳元でゆっくり囁くと、ハヤテはおそるおそる顔を上げてマリアの顔を覗き込んだ。  
「まあでも……」  
マリアは微笑んでハヤテの顔を見つめ返すと、片手をそっとハヤテの足に添わせ、  
「もう少し可愛いところを見せてくれれば、もっと好きになれるんですけれど」  
「はひ?」  
 
カチッ…ヴィィィィィッ!  
 
「あ、ひ、ひゃああぁぁんっ!!」  
 
マリアの腕に抱えられ、ハヤテはびくびくと体を震わせる。  
「あっ、マ、マリアさぁっ! だめですうぅっ!」  
「あら、何がダメなんです? このスイッチは何ですか?」  
 
カチカチッ  
 
「ふああああっ!! やらっ、やめ、強くしないでぇっ!!」  
スカート越しに両手で股間を押さえるハヤテ。  
マリアはその隙をついて、ハヤテをあおむけにコロンと転がす。  
「きゃぁっ!」  
「まあ、ハヤテ君…下着を着けていないんですか?」  
後転に失敗したような形で床に転がされたハヤテは、  
スカートの中でぴくぴく跳ねる性器をマリアの前に惜し気もなく捧げる事になった。  
「だって…下着まで用意してくれなか…ひぃんっ!」  
マリアがスイッチを上下させると、ハヤテの言葉が悲鳴で途切れる。  
「ハヤテ君はエッチなんですね。  
こんな可愛い服を着て、下着も穿かずに、代わりにおちんちんにおもちゃをつけて遊ぶなんて」  
太ももからスイッチを抜き取って片手に持ち、一番下から中程までの間を不規則に何度も動かす。  
そのたびにハヤテの性器の根元にくくりつけられたショッキングピンクの小さなボールが振動し、  
細くしなやかなハヤテの体がマリアの前でいやらしく悶える。  
「許して……違っ、エッチじゃなぁ…ぁああんっ!」  
何か反論される前に、マリアは先手を取って振動を強くする。  
それだけでハヤテの口からは可愛い喘ぎ声しか聞こえなくなった。  
「そうですね。男の子なのにこんなことをされて気持ち良くなるハヤテ君は、エッチじゃなくて立派なヘンタイです」  
「うあぅ……そんなぁ……僕、僕ぅ……」  
 
両手で顔を隠してイヤイヤをするハヤテは、すでに強制的に作り出された快感に耐えるのが精一杯で、  
理論だてた反論を考えられるほどの理性を残してはいなかった。  
マリアはその手をそっと引きはがし、めったに見せない悪戯っぽい瞳を向ける。  
「いいんですよ。こんなに可愛いハヤテ君みたいなヘンタイさんなら、私は大好きです」  
「ふえ……すき……?」  
「はい。ですから、可愛いヘンタイさんにご褒美をあげますね」  
そう言って立ち上がると、マリアはスカートに手を入れて滑らかな動作でショーツを脱ぎ、  
小さく丸まったそれをハヤテの上にかざして見せた。  
「うーん、ちょっと惜しいですけれど、これは邪魔なので…」  
猫の足を模した巨大な靴をハヤテの両足から無造作に取り外すと、  
代わりにまだ温かいショーツを足に通して一気に腰まで押し上げる。  
「マママリアさん! 何をやって…いひゃぁうぅっ!?」  
「あら、おかしな悲鳴…やっぱり女の子の下着は気持ちいいですか?」  
マリアのショーツはハヤテの性器をくくりつけられたローターごと包み、  
腰の高さまで引っ張られた女物の柔らかく小さな布が、ローターを強く押し付けて振動を倍増させた。  
「やっ…つよ…許して、許してマリアさぁんっ……もうだめ……きちゃ……」  
「先のほうが外に出ちゃってますねー。ハヤテ君、可愛いのに大きい……」  
ショーツ越しにマリアが指を這わせる。  
決して強くはない撫でるほどの刺激でも、今のハヤテを追い詰めるには充分すぎた。  
倒錯的な状況と次々に押し付けられる快感のせいで逃げ出すことも考えられず、  
マリアの繊細な指がひと撫でするごとに崖っぷちへと急き立てられてゆく。  
 
(あああ……なんだかどんどん取り返しのつかないことに……)  
ハヤテを快感で捕らえながら、マリア自身も混乱する思考の渦に捕らえられていた。  
ここまでするつもりはまるでなかったはずなのに、いつの間にか男をたぶらかす悪女のごとく、笑いながらハヤテを責めている。  
極めつけ、自分の下着を目の前で脱いで穿かせるなんて、一体どうして思いついたのだろうか。  
(でも……ここまでしたのなら、いっそ……)  
自分の体を制御できないまま、それでもこの状況を楽しんでいる自分が確かに存在する。  
そしてとうとう、マリアは衝動に抗うのを止めた。  
 
………けっこうストレスが溜まっていたのかもしれない。  
 
「……マリア…ぁん……僕……ひゃあぁぁ……だめ、もうだめぇ……でちゃいますぅ……」  
「あらあら、それは困りますねー」  
ハヤテの声に切実なものを聞き取って、マリアは手の中のスイッチを押し下げた。  
「ええ? ああぁぁん……なんでぇ……」  
「ハヤテ君だけが気持ち良いのはずるいですよ。私にも少しはおすそ分けしてくれませんと」  
ハヤテの腰をまたぎ、ショーツをずらして性器をつまみあげる。  
「角度が難しいですね…この……くらいで、平気でしょうか…」  
「マ、マリ…」  
戸惑うようなハヤテの声に微笑んで答え、スカートの奥に隠された秘所にハヤテの性器の先端をあてがうと、  
「ハヤテ君、頑張って私も気持ちよくしてくださいね」  
そう言ってマリアは丁寧に、時間を掛けて腰を落としていった。  
 
「あ…ああ、あ…ああぁっ! あつ、熱いぃっ! マリアさんの熱いのに食べられてるうっ!」  
柔らかな肉に包まれる未知の感覚に驚いたハヤテがマリアの下でじたばたともがくと、  
マリアはくっと小さく呻いて眉間にしわを寄せた。  
「あっ、ご、ごめんなさぁ……僕、こんなの初めてでぇ……っ」  
「それは、助かります……私が、初めてでも……誰かと比べられたり…しないで、しょうから……」  
「えっ、ええぇぇっ!? マリアさ…ごめんなさいっ、マリアさぁん!」  
今更ながらの告白に声を裏返らせるハヤテ。  
その様子を見降ろして、マリアはしかめた顔を少しだけやわらげた。  
「謝らないで下さい、ハヤテ君。  
 こんなに可愛らしいハヤテ君が相手ですから、怖いとか緊張するとか、そういう感じが全くなくて…  
 今、私が最後までしたくなってしまったんです。だから、ハヤテ君は謝らなくていいんですよ」  
 
女装姿で組み敷かれながら、それでもマリアの痛みを案じるハヤテ。  
しかしまた一方では、マリアと繋がった部分から湧き起こる快感の嵐に翻弄され、今にも限界を超えようとしている。  
その表情を見つめるマリアも、ハヤテの喘ぐ様子に体を貫く痛みを超える快さを味わっていた。  
「じゃあ、もう私のことなんて、気にならなくなるくらい、気持ちよく…してあげますね。  
 それでもう、女装して可愛がられるのが大好きな、本物のヘンタイさんに、なっちゃってもいいですよ……」  
「そんなぁ……マリアぁさぁぁん……はぁ、やぁぁ……」  
「安心してください。そうなっても、私もナギも、きっとハヤテ君をキラいには、なりませんから…」  
繋がったまま頭を低くして、ハヤテに軽く唇を合わせるマリア。  
そして、ローターのスイッチを最高レベルまで一気に押し込み、勢いを付けて立ち上がる…  
「さっきみたいにたくさん吹き上げてくださいね、ハヤテ君っ!」  
 
一方その頃。  
「ん、何をしてるのだタマ?」  
「ニャ! ……ニャア……」  
こそこそと物置から出てくるタマを偶然見つけたナギは、状況が理解できないながらも扉を閉めようと入口に近づいた。  
すると、なにやら奥のほうから声らしきものが聞こえてくるわけで。  
「誰かいるのか?」  
顔に縦線を入れて脱兎のごとく(トラだけど)逃げ出すタマには気づかず、中に入ってみれば……  
「……たくさん吹き上げてくださいね、ハヤテ君っ!」  
「きゃふうぅぅっ! イっ、あっ、イっちゃいまぁぁあああんっ!!」  
「………マリア、何をして……!!」  
「え……ナギ!?」  
 
呆然とするナギ。  
とめられないところまで追い詰められたハヤテ。  
不意をつかれた拍子に足の力が抜け、マリアががくんと腰を落として。  
 
ズニュ! ………ドクどくドクどくドクッ………  
 
「あ、は…入ってくるぅぅぅ……」  
 
 
 

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