「ヒナは・・・どんな時でもかっこよくなきゃいけないんだから・・・。」  
 バレンタインデーの日、美希にこう言われた。  
 
 分かってる。  
 
 私は生徒会長なんだから。威厳ってものが大切だから。  
 かっこよくなきゃ、強くなきゃいけない。  
 勉強も運動も何でもできなきゃいけない。  
 
   
でも、私はかっこよくなんか、強くなんかない。  
 高いとこは絶対無理だし、おばけとかだって苦手。  
 それにハヤ・・綾崎君にチョコを渡す勇気だってない。  
 私だって女の子なんだから。   
   
 だけど私は強くなきゃいけないから、かっこよくなきゃいけないから。  
 完璧じゃないといけないから。  
 
 
「だからって、あんなの見るんじゃなかった・・・。」  
 冬、辺りが暗くなってきたころ、ヒナギクは生徒会室で昨夜の自分の行動を後悔していた。  
 「強くなりたい」「苦手なお化けを克服したい」という思いでビデオを借りてきた。  
 題名は「着○あり」。  
 これを一本ぶっ通しで見てきた。しかも夜、たった1人で。  
 それが今こんな状況になるとは思わなかった。  
 帰りたい、トイレにも行きたい。でもビデオの映像が脳裏に浮かんで怖くて1人じゃ帰れない。  
 
 ヒナギクは幽霊とかは元々は信じていなかった。しかし旧校舎の一件のせいで認めざるをえなかった。  
 
 (このままじゃずっと帰れない)いろいろ帰る方法を考えたがいい案が浮かばない。  
   
 意を決して椅子から立ち上がりエレベーターへと向かう。部屋の明かりを消して、下へ下へとどんどん降りる。  
   
 そしてドアが開いた時、ヒナギクの目に映ったのは、人1人いない真っ暗な並木道だった。幽霊とか関係なく怖い。  
 
 自分を勇気づけながら一歩一歩足を前に進める。後ろに人の気配を感じて振り返ったがそこには誰もいない。  
(あと数百メートルいけば街灯のある道がある。)  
 そう思いながらいつものように歩いていく。だが歩くペースはだんだん速くなる。  
 ペースは落ちるどころか更に早くなり、そして早歩きになり、やっと校門まであと二百メートルの所までやってきた。  
 
 だがこんな所でまたビデオの映像思い出される。  
   
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  
 
 幽霊の正体がいると思われる廃墟と化した病院にやってきた主人公。血や骨とかを目にしながら奥へ、奥へと進んでいく。  
 そしてある部屋の前にたどり着いた。  
 そのドアを開けるとそこには・・・・。  
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  
(幽霊なんていない!!そんなの迷信よ!!)  
 そう自分に言い聞かすが、後ろには何もいないはずなのに何かの気配を感じる。  
「あの・・・ヒ・・さ・・・・。」  
「!!!!!!!」   
 聞こえた、確かに声が聞こえた。脳裏に旧校舎の人体模型が浮かび上がる。  
 ヒナギクは校門だけを見据えて、耳を手でふさぎ走り出した。一刻も早く逃げ出したい、ただそれだけだった。  
 しかしどんなに走っても気配は消えることない。  
 さらにスピードを上げる。それでも消えることはない、むしろ近づいている。  
 泣きそうになりながら走りに走って校門まであと少しのところまできた。  
 
(やった・・・。)  
 気が少しゆるんだその瞬間、誰かに肩をつかまれた。  
 
「キャアアアアアーーーーー」  
 突然のことに叫び声を上げる。そして下半身の力が抜けていくのを感じた。  
 立っていたいのに、走って逃げ出したいのに、足に、膝に、腰に力が入らない。  
「あ・・・あ・・・」  
 立つこともできなくなり、その場にしゃがみ込む。悪いことに尿意も襲ってくる。でも止めることができない。  
 
(もうダメ・・・誰か・・・誰か・・・綾崎君・・。)  
 最初の一滴が秘部から出てくるのを感じた。  
 
「す、すいませんヒナギクさん。まさかこんなにビックリするとは思わなくて・・。」  
(!!!!!!!)  
 肩をつかんだのは今自分が想っていた張本人だった。でもこんなところを彼に見せるわけにはいかない。  
「あ、綾崎君!見ないで!!」  
「へ?ヒッヒナギクさん!?」   
   
 最初の一滴をきっかけに次から次へと滴が溢れてくる。止まらない。滴はやがて線となりパンツを黄色に染めながら温かく濡らしていく。  
 パンツだけでは吸い取れなくなった液体はヒナギクのふとももを通り、スパッツを濡らし、そして地面へと流れ着く。  
 流れついた液体は街灯に照らされながら、地面に黄色い水たまりをつくっていく。  
 
 
「・・・綾崎君?」  
「ひゃっひゃい!?」  
「・・・見た?」  
「いっいいえ!見てません!!ヒナギクさんが漏らしたとこなんて全然見てません!!!」  
「!!!!!!!!」  
(見てるじゃない!!)とつっこみたいがそんな元気もわかない。そんなヒナギクを尻目にハヤテの必死の弁解は続く。  
「だ、大丈夫ですよ!全部僕のせいなんですし!!ヒナギクは全然悪くないですよ!!」  
 そんなハヤテをヒナギクは恨み半分、恥ずかしさ半分の目で見つめる。  
「あっヒナギクさん!今してほしいことありますか!?お金がかからないことなら僕なんでもしますから!!」  
「何でも・・ね」  
「はっはい!!」  
「じゃあ、とりあえず起こしてくれる?」  
「へ?」  
「その・・・腰が・・・抜けちゃって・・・・」  
 
 そして今ヒナギクはハヤテに抱えられながら自宅へと向かっていた。いわゆるお姫様だっこの状態で。  
 立って歩きたいが、下半身に力がよみがえる気配はなかった。それでもいつもの強い自分を作ろうと強がってハヤテに話しかける。  
「綾崎君?わかってると思うけど・・今日のことは」  
「わかってます!絶対誰にも言いません!!」  
「でも・・やっぱり綾崎君ってサディストなのね」  
「うっ!、いや、でもあれは。」  
「女の子いじめて楽しい?」  
「いや、あのですね?あれは不可抗力というか。」  
「バカ」  
「うっ!」  
「スケベ」  
「ううっ!」  
「ヘンタイ」  
「すいません・・・ホントすいません・・・。」  
(何でこんなに言われなきゃ・・・。)ハヤテは正直複雑だった。  
(そりゃ僕が肩をたたいたのが原因なんだろうけど、何も悪いことはしてないのに・・。)  
 そんな時、一輪の風が吹いた。風は猛烈な早さにヒナギクへ近づき、彼女のスカートを巻き上げる。  
 刹那、ヒナギクがそれを押さえる。そのスピードはまさに疾風のごとく。  
「ヒナギクさん?」  
「し、しかたないでしょ!?こんな格好なんだから!!」  
 
今ヒナギクはスカートの中に何も身につけていなかった。いわゆるノーパン状態だ。それを思い出し2人はお互いに顔を赤らめる。  
 スカートという薄い布きれ一枚の下にはヒナギクのおしりがある、そう考えると思わず変な気持ちになってしまう。  
 ヒナギクにとってはそれだけではない。一枚の薄い布きれを挟んで自分のおしりをハヤテの二の腕だ触れている。  
 それだけでも恥ずかしいのに、外で、しかも自分が想っている人の前でノーパンという羞恥感、誰かに見られるのではないかという緊張、  
 そして(綾崎君の前でもらしちゃった・・。)という思いがヒナギクの体を熱く染めていく。  
 ヒナギクの秘部からはさっきだした液体とは違う液体が溢れてくる。それはもう水浸しのスカートを更に濡らし、ハヤテの執事服に染みこんでいく。  
   
 下の白い執事服にシミができた頃、やっとヒナギクの家についた。  
 ここにきてもヒナギクは立てなかった。これは腰を抜かした所為ではない。膝に、いや体に力がはいらない。  
 あそこはもうビショビショで息もものすごく荒い。指一本入れてしまえばすぐに絶叫に達っしてしまうほどに。  
 
「綾崎君・・・私の部屋まで・・運んで。」  
「あ、わかりました。」  
 玄関を開け家の中に入る。泊まったこともあるので構造は熟知している。が、おかしい。人の気配を感じない。  
 
 廊下を進み、ドアを開けヒナギクの部屋に入る。まず感じるのは彼女のにおい。甘く、温かいにおいが敷き詰められている。  
 ヒナギクをベッドに寝かせ顔を凝視する。それはもう(熱があるんでしょうか?)というくらい真っ赤に染まっていた。  
「じゃ、じゃあヒナギクさん、僕はこれで・・・。」  
 
 そうしてヒナギクから背をむけ帰ろうとしたハヤテに彼女は後ろからしがみつく。そしてそのまま一気にベッドに引き戻し押し倒す。  
「ヒ、ヒナギクさ・・っんん!?」  
 何も言わさないよう唇をふさぐ、自分の唇で。逃がさないように、むさぼるように、強く、そして甘く。  
 
「ヒナギクさん・・あの・・」  
 混乱しているハヤテにもう真っ赤な顔をさらに赤く染めながら言う。  
「綾崎君・・・いまは・・一緒にいて?」  
 初めて見せる素直なところ。ハヤテは守ってあげたい。大切にしたい。そう思った。  
「わかりました。ヒナギクさん。」  
 満面の笑みでハヤテは答える。そしてどちらともなく再び唇をあわせた。  
 

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