深夜、なんとなく目が覚めてしまった私は、マリアがいなくなっていたことも忘れるほどに独り憤慨していた。  
 
「まったく……もう、みんなして私のことを馬鹿にしおって……  
 大体、あんなに胸打ちひしがれる物語は他に類を見ないというのに……」  
 
もちろんこれは私の現時点での最高傑作『世紀末伝説マジカル☆デストロイ』のことだ。  
プロットにプロットを重ね、幾度ともなくネームを切り、ようやくカタチらしきものが見えてきた私のライフワーク。  
今の私にできることを、全て詰め込んだこの作品……それなのになぜあいつらはそれが理解できんというのだ!  
それに比べて伊澄はよくわかっている。 うん。 それにまさか伊澄が作品を作ってくるとは驚きだ。  
さらにはそれらがことごとく私のツボを抑えてくるとは……うーん、将来のライバル出現かもしれないな。  
 
(でも…正直にああもみんなの反応を目の当たりにすると、実際キツイな……)  
ほんとうはわかっている。 私だって馬鹿ではない。 過去の敗北から学んできた。  
だが…それでもなお、まだ足りない部分が多すぎる。 決定的、とまではいかないまでも、足りない部分があることは事実だ。  
その差を埋めようとしても、なかなか上手くいかないのもまた―――事実なのだ。  
 
――――――ならその事実を覆すには?  
――――――飛躍的、もしくは突発的な経験値。  
 
自問自答。 これは常日頃、散々と繰り返してきた。  
もうこれ以上は成すことはないのかも、なんて弱気にもなってしまう。 だが私はここで諦め、朽ち果てるわけにもいかない。  
 
この三千院ナギには夢がある!  
まだだ! まだおわらんよ!!  
漫画王に私はなるんだッ!!!  
 
先人達の到達し得なかった未踏の地。 そんな場所を目指して突き進むのみなのだ。  
 
「――――」  
かねてから思うことがある……私は漫画が大好きだ。 その想いは誰にも負けないし負けたくもない。  
しかし、好きだから! 大好きだから! と声高に喚いているだけでは何も進捗しない。  
いたずらに増えていくネーム帳やラフスケッチなどが書斎に残るだけだ。  
こちらから積極的にアクションを起こさなければ、いつまでたっても平行線を辿るだけなのだ。  
だから私は行動を起こしてきた! 過去に幾度ともなく挑戦してきたのだッ!!  
 
集○社に挑み、講○社に挑み、小○館に挑み、秋○書店に挑み、  
□eに挑み、角○に挑み、メ○゛ィワクに挑み、白○社に挑み、  
幻○社に送り、竹○房に送り、○潮社に送り、それから○賽に送り、○迅に送り、少○画報にも送り、  
もっとも古いところでは新声社にまでも送った。  
 
だが――それでも世界は私に味方をしてはくれなかった。  
 
進まねばならぬ未来へ立ち塞がるもの、すべてが敵だとでもいうのか……  
そして、この不幸すぎる現状を打破するために、私は決断を迫られている。  
 
(なにが…必要なのだろうか……)  
いままでは、すべて一人での作業だった。 そのほうが作品に対して集中できるし、なにより気分が楽だ。  
そういった環境で私は作品を作り上げてきた。 その結果が――このような停滞気味な現状に繋がっているのだろうか。  
少し考えてみよう。  
 
一般的だと投稿やら出版社への持ち込みから始まり、編集者からのアドバイスなどを経て、更なる高みを目指すのだが……  
そんなものは天才のなしうる業ではない。 私ならもっとこう別のカタチで――たとえば一発で賞ゲット! 即デビュー! とか。  
 
別に人に会うのが面倒くさい、とか、いちいち編集部まで出向かわなければならない、とか、そういうことではない。  
断固として違う。  
 
「結局は…自分の実力で勝ち取らねばならぬもの……か」  
私は結論を出そうとしたが、もう一度だけ考えてしまった。  
 
(でも…眼前の壁はあまりにも…高く……そして…やっぱり私には才能なんて……)  
心理と同調するかのように、するすると意識が低下する。 心の奥の弱い私がじわりじわりと頭を持ち上げてくる。  
その私は泣き虫だった。 くらいのはこわい、こわい、と泣いている。 その姿が幼き日の自分と重なってしまう。  
このままではまずいな、と私は意識をしっかりと保とうとした。 が、防護壁は簡単には構築されなかった。  
 
頬に残る一筋の痕、気がつくと私も涙を流していた。  
 
ふらふらと屋敷内を彷徨う私がいる。 明かりがなくとも平気だった。  
なぜなら目的があった。 誰でもいい、人に会いたい。 ぬくもりに触れたい。 いやぬくもりでなくともいい。  
――もうなんでもいい。  
意識も朦朧とし、混濁した思考の中で、ただふらふらと彷徨っていた。  
 
「お嬢様ッ!?」  
声が聞こえた。 いつも聞いているはずなのに、酷く懐かしく感じる。 神々しいほどに脳裏に響いてくる。  
私はハヤテに早く会いたい一心で、声のする場所へと走り出していた。  
そして、永遠とも感じられる時間を体感しながらも、ようやくハヤテの胸に飛び込んだ。  
 
「ハヤテぇ…」  
「お嬢様、一体どうされたんですか? こんな時間に屋敷内を歩いてるなんて……」  
「あぅ…あっと、え、そのな……」  
うまく言葉が出てこない。 混乱が続いている。 (誰か私にエスナを……)  
 
「お嬢様?」  
「いや…その…ちょっと…怖くなって……」  
自然治癒を待ってから、ようやくのことで説明をする。  
昼間の悔しさを憤り、さきほどまでの葛藤を愚痴る。 そして、少し不安になってしまったことを告白した。  
すぐ目の前にいるハヤテに安堵の感を覚えたのだろう、私はおもわず本心を溢してしまっていた。  
 
「なんだ…そんな些細なことで、お悩みになられてたんですね」  
 
ピキッ!!  
「ほう…主にそんなことを言うのはこの口か?」  
ゴゴゴゴ……、と気迫のオーラを纏いつつ私はハヤテに詰め寄った。 もちろん頭にはツノが生えている。  
 
いままで散々悩んできたというのに、コイツは一体ナニを言っているのだ!  
些細なことだと? とんでもない! これは私にとって、最重要懸案なんだぞ!! それを…それを……  
 
普段から軽口が気になっていたが、そんなところに稀に殺意を抱いてしまう。  
 
「ええい! おまえなんてもう知らな――」  
「――――でしょうか?」  
(え? いま…なんて……?)  
 
「僕では…お嬢様の味方にはなれないのでしょうか?」  
「――――」  
ハヤテが手を差し伸べつつ私に向かう。 その言葉には少し悲壮が感じられた。  
そんなハヤテの様子に思いがけず私は正気に戻されつつある。  
そして私がなにか言わなくては、と思う前にハヤテの方から続けてきた。  
 
「確かに僕なんかでは心許ないかもしれませんが、でも…お一人で抱え込んでいられるより、ずっと楽になれるかもしれませんよ」  
スッと胸に入ってくる言葉だった。 夏日の打ち水のような清涼に心を奪われていた。  
いつしか陰鬱な思いにかき乱されていた状態が解かれ、私は混乱から解放された。  
 
「ハヤテ……私はこれからどうしたらいいんだろうな」  
ただ素直に聞いた。  
 
「僕にお手伝いできることであれば、全力で頑張りますから」  
ハヤテも純朴さを漂わせながら答えてくれた。  
それならば私もその想いに応えなければ、と言葉を繋げる。  
 
「ど、どうしたらもっと…人の…心を惹きつけられるような…おもしろい漫画を描くことができるんだろうか……」  
すがることの悔しさからの反面、問題から逃避できることの心強さ。 悲観と楽観。  
相反するものなのに、なぜか私の中では対称されている。 不思議な感覚だった。  
 
「そうですね……それなら――」  
こんなのはどうでしょう、とハヤテが提案をしてきた。 すでに私は半ばハヤテに迎合している。  
だからどんな提案でも受け入れられるつもりでいた。 ――――はずだった。  
 
「だ、駄目だぞ! そんなのは無理……絶対にダメーーッ!!」  
私は深夜だというのにもかかわらず、絶叫する。 マリアの耳に入ったらすぐにでも駆けつけてきそうなほどだ。  
なぜ私がこうもまで驚愕するのか。 それはハヤテの示しているものがあまりにも予想外だったから――――  
 
さきほどまでのやり取りを掻い摘んで思い出す。  
 
「お嬢様の目指している道程は険しく厳しいものです。 なので、最初に『漫画家の心』を養うというのはどうでしょうか」  
「漫画家の…心?」  
私はハヤテの言葉で問い返した。 それを受けてハヤテは真面目な顔でこう語った。  
 
「ある高名な漫画家は言います。 『おもしろい漫画を描くためには「リアリティ」が必要なんだ』と」  
「お前は私に蜘蛛を食え、とでもいうのか?」  
私はすかさず突っ込んだが、それをまるで気にしない様子でハヤテは進めてきた。  
 
「でも…お嬢様は以前に仰られてましたよ、『人生経験が足りないから』だって」  
「うっ……」  
言葉に詰まった。 確かに言ったような気もするが、アレはただ紙面をなぞっただけで、私自身の本心ではないと思っていた。  
だが実際はどうだろう、足りないのは経験、と明らかに理解しているのも本心だった。  
 
「で、では私に足りない部分を補うためには一体なにが必要だというのだ!」  
「ですから、さきほども言いましたけど漫画家の心、つまり『心構え』ではないかと……」  
心構えとは、あらゆる物事に対処できるように心を事前に用意しておくことの意。 心のストック。 つまり経験値。   
またもや経験の差が私に重く圧し掛かってきた。 以前にマリアの手伝いをしたこともあったが、満足のいく値は得られなかった。  
 
「それでは漫画家の心を掴むために、まずはカタチから入るとしましょうか」  
「むぅ…………ん?」  
次々とハヤテのペースに乗せられていた。 気がつくと私は、いつのまにやら怪しげな服を眼前に掲げられていた。  
傍目から見るとそれは淡い青色のボタンタイプのワンピースかのように思えた。 が、よく見直してみるとけっこう厚手だ。  
漫画などでは見たことはあったが、実物を目の当たりにしたのはこれが初めてだった。 園児がよく着ているおなじみのアレだ。  
突然と現れた子供用の服に私は違和を覚えずにはいられなかった。 これも心構えができていないためか、困惑を隠せない。  
 
「は? というかハヤテ…そんなものどこから……」  
「いやー、本当はベレー帽とスモックをご用意しようかと思ったのですが、コレしかなかったので」  
まったく理解が出来なかった。 第一それでは漫画家ではなく『画家』だ。 そこから間違っているというのに、なぜか園児服。  
そっちを用意するほうが難しいのではないのか? と疑問を浮かべながらもハヤテはそれを掲げたままでずいずいと迫ってきた。  
有無を言わせぬ勢いに言葉を塞がれたままで私は押し進められていく。 そのハヤテの真意までもは、計ることはできなかった。  
 
「で? それを使ってハヤテは一体どうするつもりなんだ?」  
「お嬢様、僕はさっき『カタチから入る』って言いませんでしたか?」  
(んー? それってどういう意味…………ってぇええ!?)  
ハヤテの真意が汲み取れない。 話がまったく繋がっていないのも気になるが、それでも私は言葉を発しなければいけなかった。  
 
「き、きききき着ろというのか!? わわ私に!?」  
「これもお嬢様のためです」  
それならばなぜ、漫画家から画家へ掏り替えようとし、さらにはそこから園児へと移行するのだ。  
関連性が微塵もないではないか。 それになんだかハヤテの目が笑っているように思えるぞ。  
これではハヤテを疑いたくなってしまう。 さきほどまでのハヤテを信頼していた気持ちが――――揺らいでしまう。  
 
だから――――私は疑惑を払うために頭を振り心を落ち着かせ、ハヤテの本気を試すかのように抵抗をしたのだった。  
 
「だ、駄目だぞ! そんなのは無理……絶対にダメーーッ!!」  
「お嬢様……」  
スッ、と寄り添ってくるハヤテに少し身構えたかたちで私は半歩退く。  
私の怯えた様子に気づいたのか、ハヤテはにっこり、と笑いながらさらに近寄ってきた。  
頬に手を寄せて、耳元でするりと言葉を落としてくる。  
 
「何事も…経験ですよ……」  
「あ――――」  
(そうか…ハヤテは…私のために……)  
ここにきて、なんとなくだけどわかってきた。 いままでもそうだった。 ハヤテの言葉には嘘はない。  
私を見てくれている。 私を導いてくれている。 私を案じてくれている。 私を大切にしてくれている。  
 
――――いつだってハヤテは私の執事で味方だった。  
――――ならばそれに答えるのは主である私の務め。  
 
きわめて冷静な思考の中、身体だけがむやみやたらに―――――熱い。  
この熱が冷め切らないうちに、ハヤテの想いに応えなくてはいけない。  
注がれるハヤテの真摯な眼差しで体温の上昇はとどまる所を知らない。  
その熱に浮かされながらも私はただ、恍惚とハヤテにその身を任せた。  
 
それからあとは、ハヤテの思惑に落ちていくだけだった。  
 
「それじゃあ、行きましょうか」  
「ど…こ…へ?」  
意識は、はっきりとしていたはずなのに思うように口からは言葉が出てこない。  
冷静だと思っていたのは勘違いだったようだ。 それもそのはず、私は病に犯されている。  
目を離すことのできない蠱惑的なハヤテの瞳によって、熱病に掛かってしまっていたのだ。  
 
「ふふ…もちろん、例の部屋ですよ」  
「例……の?」  
私は思い出そうと必死になって思考を張り巡らした。 しばらくして脳裏に浮かび上がってきたものは――淫らな二人の姿。  
節操もなく出てきたイメージを消そうとして私は両手を頭の上でぱたぱたと振ってみる。 それでも顔は次第に赤く染まった。  
と、ここでふと疑問に思うことがあった。 あの部屋に行くことの意味がわからない。 漫画を描くのなら書斎に行くべきだ。  
 
「で、でも、あの部屋は漫画と関係な」  
「道具を使うのはもっと後からでいいんですよ……今はまだ必要ありませんから…くす」  
私の疑問はカウンターで返されてしまった。 心を養うのに道具は必要ない。 と、いうのがハヤテの回答だった。  
返すべき言葉が見つからない。 ああ――でも、ハヤテの言うことなのだから、きっと正しいのだろう。  
 
「う、うん……わかった」  
私が不意に目を覚ました夜のこと、ハヤテによる二人きりの課業が幕を開けていく。  
 
「お嬢様、お着替えはどうなさいますか? ……お嬢様?」  
(また…ハヤテと…ここで……)  
私はハヤテの言葉も届いていないという様子で一人ぶつぶつと想いに耽っていた。 頭がポーっとしてくる。  
(え、えっちなことになったら……)  
今回はそんなことになるはずもない。 なぜならこれは漫画の心を習得するための、ある意味、修行なのだ。がさがさごそ  
(でも…ハヤテは一体どんなことを……)  
心を掴むとはいっても実体のないものだ。 私は漠然とした面持ちでうーんと頭をひねる。ぷちぷちぷち、ぱさっ  
(なにか、精神的な教えを説いてくれる…とかかな?)  
ハヤテがいままでに体験してきた様々な話を聞かせてくれるのだろうか? うん、それならわかる気がする。しゅっ、しゅるしゅる  
(あれ? それなら別に着替える必要はないんじゃ……んん? なんだか身体が軽くなったような気が……)  
ふと、足元に感じられる上質な生地の感触。 まさにそれは私のブラウスだった。  
そして今の状況は、ばんざーいの格好でキャミソールを脱がされている真っ最中である。  
(んー、着替えさせてもらうのなんて何年ぶり――って、お、おおぉおい!!!!)  
 
「ちょっと待てーーーーっ!!」  
「あ――気がつかれましたか?」  
慌ててキャンソールを下ろしてから、私はもう少しで露わにされる所だった胸を両手で隠す。  
いくら想いに耽っていたからといって、ここまでされても気がつかなかったとは、われながら情けなくなった。  
 
「ななななにをやっているのだ! お前は!!」  
「だ、だって…お嬢様の反応がないものですから、つい……」  
「答えなければ服を脱がしても良いというのかぁっ!!」  
「それに、あんまりダラダラと引き延ばしていても容量がもったいないですし……」  
ハヤテが何に気を遣っているのかはわかりかねるが、確かにここまできてしまっているのであとは着替え終わってからのことだ。  
 
「もういい…自分で着替える」  
「あ、はい、ではむこう向いてますね」  
私は、別に構わない、と言い放ってからさっさと着替えを始めた。 すでにキャミソ−ルなのだから上に着ればいいだけの話だ。  
 
そういえば…ハヤテはコレまで脱がそうとしていたな。 意外といやらしいヤツめ。  
 
(…………)  
スッ…しゅる……  
私の中の悪戯心がハヤテを意識し始めていた。 園児が着る服を脇に置き、最後の一枚も脱ぎ始める。  
両手を交差させ裾を掴む。 そのままで、さも意識しています。 と、いったようなゆったりとした仕草で少しずつ捲っていく。  
次第に露出されていく肌色。 ハヤテの見ている前で、上半身だけとはいえ、自らの肌を晒していく行為に私の鼓動は激しさを増す。  
(ぅぁ……は、はずかしい……ハヤテは…見ているのかな……)  
チラッと横目でうかがう。 みるとハヤテはにこにこと笑顔を浮かべながら、黙ってこちらを眺めていた。  
私はなんだか余裕を持っているハヤテを見て頭に血が上ってくる。 なのでわざと正面を向き後は一気に着替えを済ませた。  
露出している胸も隠さずに、ぷちぷちと無造作にボタンを留めていく。  
(しかし……今日はミニスカートだからサイズ的になんだか履いてないようにも見えるな)  
少し丈が合わないのかもしれない。 一体ハヤテがコレをどうやって調達したのかは謎だ。  
そして着替えを終えた私は、憮然としつつもハヤテに話しかけた。  
 
「着替え終わったぞ! それでこれから私はどうすればいいのだ!」  
「うわぁ、お嬢様! とても可愛らしくて良くお似合いですよー」  
ピキッ!  
(なんだか馬鹿にされているようでくやしい……というかムカつく)  
ハヤテのいう『可愛らしい』がどういった意味を持つのか気になるところだが、ここでぶり返していても仕方がない。  
そんなことよりもこの園児服を身につけた私に徐々にだが、ある変化が訪れていた。  
私は興味本位で部屋の鏡に映る自分の姿を見た。 そこに映し出されていたものは――――乏しくも儚そうな少女の姿だった。  
弱者のオーラとでも言うのか、見る者にとっては擁護したくなるような存在。  
そういうものが滲み出ている自分をまじまじと見つめていると、ついこんなことを考えてしまった。  
 
着物を羽織ると背筋が伸びるというが、元来、装束といったものは思想信条を表すこともあるという。  
多少意味合いは違うかもしれないが、女性のする化粧と一緒で普段の自分とは違う印象を自ずと持ち、または持たれるのであろう。  
 
そのような観念からなのかはわからないが、こんな服は着たこともないはずなのに、私の心は幼さを求めて退行の兆候を見せていた。  
 
「お嬢様の準備も整ったようですし……始めましょうか」  
「んっ…そうだな……」  
ハヤテの合図で講義が始まる。 とは言いつつも何をするかはハヤテ任せなのだが……  
それでも私はこれからのことに少しだけ期待、というか予測のできない状況にわくわくといった子供じみた興奮を隠し切れずにいた。  
 
「あ、その前にお嬢様…今は、どんなお気持ちですか?」  
「え?」  
(どんな気持ち? ……今? ……えっと…かなり…ドキドキしてる…かも?)  
突然の何も脈絡もない質問で、今の自分の正直な気持ちが頭に浮かぶ。  
それがあまりにも自然なことだったので、私は素直に思ったことを告げていた。  
 
「なんだか…胸がドキドキしている……」  
「それはどうしてですか?」  
間を置かずにまた質問を出された。 私は思考を止められそうになったが、それでもしっかりと考えてからどうにか答える。  
 
「こ、こんな格好してるし、この部屋は薄暗いし、それに…ハヤテと二人きりだし……」  
「ふむ…なるほど、ではこの薄暗い部屋でお嬢様はこれから僕がなにをすると思いますか?」  
また質問だ。 しかもその内容が段々と具体的になってきている。 私はぐるぐるとまわりはじめた頭を使って答えを絞り出した。  
 
「なに…を? する…のか? それは――ハヤテが私に…漫画のことを教えてくれる……」  
「はい、そうですね。 そのために僕がお嬢様にご用意したそのお洋服を着てみた感想はいかがですか?」  
 
もう、よくわからない。 ハヤテのテンポについて行くのが辛くなってきた。 それでも答えなくては……  
 
「コレ…着たら、私では…ない…みたいだ……」  
「いつもと違う格好をしているので、変な気分がしますか?」  
 
ヘン、といったら、ヘンだ。 だってコレはわたしではない。 違うだれかだ。 ではだれ? といってもそれはわからない。  
 
「うん…ヘン、な…感じがする…でも…よくわから…ない……」  
「つまり、お嬢様にとっては初めての経験、ということになりましたね。 新しい自分を発見できましたでしょうか?  
 何事も経験です。 ですから、お嬢様はもう少し行動的になられたほうがいいかと思います。 お一人では限界もあります。  
 もっと広い視野で物事を捉えることが大切なんだと僕は思うのですが……どうでしょうか? でも正直な所、この前のエプロンの  
リベンジも少しだけありましたけどね」  
 
あ――なんだか…ハヤテの言いたいことが…わかったような気がする。 でも……むずかしくて……じょうずに……言えない。  
それに…まわりのくらさが…だんだん…こわくなって…きた。 すごく……こわい。  
 
「こわい……」  
「あはは、すいませんお嬢様、でもこれもお嬢様のためを思ってしたこと――っぷわ!?」  
回らぬ頭のせいで恐怖は増し、私はただ、至極当然のようにハヤテに抱きついて、怯えていた。  
ハヤテの腰に巻きついて、顔を埋め、こわいこわいと繰り返し泣いていた。  
 
「あ、あああの…そ、そのお嬢様!?」  
「こわいよぉ…ハヤテぇ……」  
泣き止まぬ私に、どうしていいかわからない、といった様子でハヤテは困惑している。  
それでもなお、泣くのを止めない私にハヤテはやさしくふんわりと囁いた。  
 
「大丈夫ですよ、僕はここにいますから」  
「うぅっ……う、うん」  
落ち着く声がした。 ハヤテの声。 その声を聞いていると、とても安心する。  
涙も止まり、だいぶ冷静を取り戻した私はそのままの姿勢でハヤテに抱きついたままでいた。  
 
「あのー、お嬢様? そろそろ離れても平気なんじゃ……」  
「まだだ」  
もっとハヤテのぬくもりが欲しい。 暗くて冷たい所はもう沢山だ。 あたたかいままがいい。  
 
「でも…そのような格好でそんなに強く抱きしめられたら僕だって困ってしまいます」  
「んー、もうちょっとだけな」  
私はハヤテをもっと貪欲に感じ取ろうとして、ぐりぐりと顔を押し付けていた。  
どれくらいそうしていただろうか、私はふと胸下あたりで硬いモノを発見する。  
確認するまでもなく、それはハヤテの股間だった。 どうしてだろう……  
(こんなロマンチックな時に、何故こうなっているのだ?)  
溢れる好奇心からは逃れられず、私はハヤテに聞いてみた。  
 
「ハヤテ…コレって……」  
「お嬢様が…あんまり強く押し付けるから……」  
もじもじと恥じらいながらも、そうハヤテは言った。  
 
(えぇええ! そんな簡単なことなのか!?)  
男とはこういうものなのだろうか…単純というか、単細胞というか……  
(それにしても……)  
私は自分の格好を思い出す。 自慢なんてものはしようとも思わないがどう見ても園児だ。  
そんな格好をしている私ですら、男とは欲情するものなのだろうか……  
私はスッと身を引いて、落ち着いた振りをしながらハヤテを問い詰める。  
 
「こ、こんな子供みたいな容姿でも、こ、興奮するなんて、ハヤテは変態だな」  
言い終えてから胸がチクリと痛む。 ……自傷気味な私の言葉を聞いた後で、ハヤテは妖しい目をして答えた。  
 
「僕を…こんな風にしたのは…お嬢様ですよ」  
「――――」  
その言葉を聞いて私は再びこの前のことを思い出していた。 そして今いる場所はあの時と同じ部屋。  
そんな情景に過去の感触をも余計に思い出し、と同時に当時の快感すらも透写してしまっていた。  
 
(あの感覚をもう一度…味わってみたい……でも、そんなことをハヤテに言うのは恥ずかしいし……)  
私は欲情の波で溺れそうになる。 しかし、ここでハヤテのある言葉を思い出した。  
それは私の感情を最も素直に表現するのに相応しい言葉だった。  
 
「ハヤテ……それでは苦しいだろう…そ、その…わ、私が楽にさせてあげても…いいぞ?」  
「え!? で、でもお嬢様……」  
私は目を瞑り息を飲んでからゆっくりと吐き出して、呼吸を整えた。 心臓は物凄い速度で血液を循環させている。  
それから私の胸の奥に響いた言葉を一言一言、噛み締めるように紡いでいった。  
 
「何事も……経験なんだろ?」  
「――――」  
ハヤテは沈黙をしたまま宙を仰いでいた。 しばらくはそうしていたと思ったらスッと顔を私に下ろして笑顔で言った。  
 
「でも、踏まれるのはもうイヤですよ?」  
「ぷっ」  
思わず吹き出してしまう。 だってあんまりにもさわやかに言うものだから、その言葉とのギャップに可笑しくて堪らなかったのだ。  
 
「大丈夫だぞ、ハヤテ、もうあんなことはしない…と思う…たぶん……」  
「えーっと……はは、まあ、そこはひとつおてやわらかにお願いします」  
「おぅ! 私に任せるのだ!」  
何を任せてもらうというのか、その辺りのことはあまり深くは考えなかったが、私はハヤテと私自身のために頑張ることを誓った。  
そしてハヤテを床に寝そべらせ、私も覆いかぶさるように密着し、その近い距離でハヤテの息遣いを感じながらそっと目を閉じた。  
 
ちゅ…ぅんっ…ちゅっ……  
「っはぁ……」  
唇をくっつけるだけのお子様キス。 そんなものでも私には十分だった。 恥ずかしくてハヤテの顔がまともに見れない。  
それでもハヤテの唇の感触が忘れられなくて、私は目を瞑ったまま、もう一度ハヤテに顔を寄せた。  
 
ちゅっ…じゅるっ!!  
「ん、んむーーっ!?」  
私は即座に目を開けて状況を分析しようとする。 でも開けてしまうとハヤテの顔が超至近距離で目に入ってきてしまう。  
だが、そんなことも忘れてしまうほどに私は焦りを感じていた。 そして私は勢いよく目を見開いた。  
 
ぱちっ  
「「――――」」  
互いに無言。 しかしハヤテは目を閉じていた。  
(目を瞑ったままのハヤテもカッコイイな……)  
 
ではなくて! いま重要なのは口! 私の唇はどうされているのかだっ!  
 
ぢゅっ…ぢゅるっ……  
(んんんん……ぷはっ)  
続けられているキスを眼前にしてようやく私は理解できた。 吸引されている。 私の唇がハヤテによって強く吸われている。  
擦れ合う唇がハヤテの方に寄せられていく。 まるで空気を抜かれているみたいだ。 だがその感触が意外と心地よかった。  
こんなキスは初めてだった。 いやキス自体経験したのもついこの間なのだから当然だ。 しかし…なんというか…凄い……  
 
私はキスが終わりそうになる瞬間に慌てて目を閉じた。 キスを交わし互いに少し距離を置く。 だけど身体は密着したまま。  
瞼を開けた私は仰向けなハヤテの胸に右手を置き、両足の間に身体を潜らせる。 左手はハヤテの膝に乗せていた。  
その体勢のままで目線を下の部分にスライドさせていく。 まだハヤテのあそこは苦しそうにズボンの中で張り詰めていた。  
 
「で、では……いいか?」  
ゴクリ、と喉が鳴りそうなほどに息を潜めて、ただハヤテのあそこだけを見つめながら問う。  
聞いてはいるのだが、答えを待つこともできないといった様子で私の右手はもうすでにズボンのチャックに伸びていた。   
 
ジ、ジジ…ジジッ……ジジッ……  
「あぅ……」  
チャックを少しずつ少しずつ下ろしていく。 私は顔を上げてハヤテの様子を伺ってみる。  
すると頬を真っ赤に染めたハヤテが羞恥心に必死に耐えている様が垣間見えた。 そんなハヤテを見てしまったからか身体が熱い。  
お腹の下の奥のほうがじんわりと熱を帯びていく。 これがどんな状況を呼び起こすのかも、もう私は知っている。  
(下着…汚れてしまうかな……)  
チャックを下ろす手は以前として継続したままで、そんなことを考えていた。  
 
チッ…  
そんなわりとどうでもいいことを考えつつもチャックを下ろしきってしまった。  
明るさの足りない部屋なので奥まではよく見えないが、確かに開いている。 だが次はどうしよう。  
パンツにはチャックなんて付いていない、と思う。 ならば一体どうやってハヤテのあそこを出せばいいのかがわからない。  
ズボンに手を入れてパンツの隙間から出すのか、それともズボンの中でパンツを下ろしてしまうのか。 さて……  
 
(あ! そうか!)  
簡単なことだ。 ズボンも脱がしてしまえばそれでいい。 こんな単純なことも思いつかないなんて私もまだまだだな……  
 
ベルトを外そうと試みる。 だが思うようにはいかなかった。 簡単だと思っていたことがこんなにも難しいとは意外だった。  
自分で服を脱ぐのとは違う感覚に手を拱いている私に、ハヤテのほうから気を遣ってきた。  
 
「あの、僕…自分でしますから」  
「いや駄目だ」  
私はハヤテの気遣いをあえて断った。 これでは何も意味を成さない。 ハヤテの思慮に応えなければならないのだ。  
どうにもならないことがあれば他人に任せる。 気に食わないことがあるとすぐに投げ出してしまう。 それでは駄目だ。  
 
「でも……」  
「やってみて始めてわかることもあるんだ。 それを学べといったのはハヤテ、お前だぞ」  
ハヤテの言葉を自分に投げかけて再度挑戦する。 カチャカチャと弄っていると――――外れた。  
 
カチャッ、スルッ……  
どうにか外すことができた。 そしてチャックの上についているボタンも外した。  
ハヤテは右腕を目の上に乗せていて押し黙ったままだ。 その表情は隠れていて窺うことはできなかった。  
前の部分が全部開けたズボンと一緒にパンツも手に掛け同時に下ろしていく。 私の目は一点に釘付けになっていた。  
 
スス…スッ……スッ……  
硬くなっている股間のせいか、途中で引っかかりを感じて少し躊躇してしまう。 それでもなんとか下ろして太ももの辺りで止めた。  
(う、ぁ……)  
私は思ったより顔を近づけすぎていたようだ。 すぐ目の前にハヤテの股間がそそり立っている。  
ピクッピクッと小刻みに震えている。 血管も浮き出していて妙に艶かしい。 改めて見たハヤテの股間はやはりグロテスクだった。  
 
(さて――これからどうするかな)  
さきほどからドクンドクンと高鳴りを続けている鼓動を頭の裏で感じながら私は思案する。  
だけどそのような状態では考えなどまとまるはずもなく、私は自分の感情に正直に行動することを決めた。  
 
スッ……  
恐る恐る右手を伸ばす。 いつのまにか震えていた手をそっとハヤテの股間のサオの部分に添えた。  
ピタッとした皮膚の感触。 私と同じ肌の感覚。 ただし違っていたのはその硬度と温度だった。  
 
「ふぁっ!」  
ハヤテが喘ぐ。 私はその声を聞きつつ股間の感触を確かめるように手のひらでやさしくサオを包んだ。  
ビクンッと一際大きく膨張したようにも思えた。 その股間の血液の流れを手のひらで感じながらハヤテに向かう。  
 
「ハヤテ…すごく…熱くて…硬い……」  
「んっ…そ…れは…お嬢様が…触って…るから……」  
「私が触ってるから…なんなのだ?」  
ハヤテの口からある言葉を引き出したくてあえて聞いてみた。 すると私の予想通りの答えが返ってきた。  
 
「はっ、はぁっ…き、気持ち…よくて……」  
喘ぐ姿もそのままにハヤテは素直に答えてくれた。 そのハヤテの仕草がたまらなく愛おしい。 私はさらに胸が熱くなった。  
 
(これはマズイ…かわいい…そんなこと言われると胸がドキドキしてしまうではないか……)  
聞いたのは私だ。 それに熱いのは胸だけではない。 私のあそこからもいやらしい体液が溢れてくるのがわかる。  
ハヤテのことを考えるだけでこのようになってしまうなんて、私もはしたない女になってしまったものだ。 軽く絶望する。  
恍惚と絶望が入り混じる混沌で、私はハヤテの股間と戯れるべく行為を期待と不安の中、進めていった。  
 
しゅっ、しゅっ、しゅっ……  
「あっ、くぁ、あぁっ!」  
サオを扱き始めた私は、加減もわからぬままにただ繰り返し扱いていた。 ハヤテの股間の皮が上下に波打ち揺れている。  
程よい弾力が手に伝わってきて心地いい。 なのでしばらくは調子に乗ってハヤテを扱き続けていた。  
 
「どう……かな?」  
ふと、われに返った私は急に不安になって思わず聞いてしまった。 ココは男の大事な部分。 ぞんざいに扱っていいものではない。  
するとハヤテは少し申し訳なさそうな顔をしながらやんわりと答えてくれた。  
 
「うぅっ…少し…強いです。 もっと…やさしくして下さると……うれしいです……」  
「あぅぅ…す、すまん」  
やはり調子に乗ってしまっていたようだ。 足でなら力を入れすぎないようにと加減もできるのだが、手だとどうにも難しい。  
(だとしたら…あとは……)  
私は知識だけは豊富に備えている。 あとにやるべき事はまだまだ山ほどあるのだ。 だが今ここで最後までするのは――怖い。  
残された選択肢の中で私が選べるものといったら、これしかなかった。  
 
「あむ…」  
 
ハヤテの亀頭を口に含む。 生暖かい感触が私の口内に広がっていく。 手で触った硬さは思ったほど感じられずむしろ逆だった。  
意外とやわらかい先の部分を唇で感じ、その感覚を確かめる。 少し硬めのスポンジのようだった。 そして無味。  
案外臭いとかするものだと思っていたが、ハヤテのあそこはそんなことはなかった。 なので本音は少しだけ拍子抜けした気分。  
 
「あっ…」  
「ふぁ? ふぉうひふぁ? はひゃへ」  
咥えたままで喋るから変な声になってしまう。 どうした? と聞いたつもりだったのだがハヤテにはきちんと伝わったのだろうか。  
そんな心配をしなくとも、どうやらしっかりと伝わっていたようでハヤテが慌てて私に言ってくれた。  
 
「そんな…お嬢様、汚いですからそこまでして頂かなくても……」  
「っぷはぁっ……んー、そんなことないぞ。 ハヤテのは別に臭いもしないし、割と平気だ」  
これは煽てでもなく本当のことだ。 それにハヤテのだからどんなことがあってもきっと大丈夫。  
 
ハヤテを否定してしまったら自分の存在意義までもが崩れてしまいそうなほどに迎合しきってしまっている私だった。  
それからもう一度、仕切りなおしというわけでもないが、私はさきほどとは違う責め方で再びハヤテの股間に唇を近づけていった。  
 
ちゅっ…ちゅっ……  
「んふぁっ…はむっ……」  
「ふぅっ…はぁああ……」  
亀頭の先に軽く唇で触れる。 まるでキスのように。 コレもハヤテの一部なのだからと、自分に言い聞かせるように。  
高めの体温をそこから感じた。 唇がセンサーになり、より敏感になっている。 亀頭の感触が脳に伝わる。  
私は今までにないほどの異常な興奮を身体全体で感じていた。 自然と手は自分の身体をまさぐり始めている。  
 
ピクンッ!  
「ふあっ!」  
厚手の洋服の上から胸を触っているだけでも、それなりの刺激が与えられた。 薄い胸でもしっかりと快感を得ることができる。  
服から直に伝わる乳首への擦れが、むず痒いわりに心地よかったりする。 もちろんハヤテを気持ちよくさせてあげることも重要だ。  
私は亀頭へのキスから今度は舌を使ってぺろぺろと舐めまわした。 なんだか子猫がミルクを舐めているような錯覚を覚える。  
 
ぺろ…ちゅ…ぴちゃ……  
「んふっ…はっ、はぁっ……」  
ハヤテはどうやら感じてくれているようだった。 私は段々と嬉しくなってきていた。 ハヤテが悦んでくれている。  
それだけで私も心が弾む。 なおも没頭して亀頭を舐め続けていく。 先から裏筋にかけてカリ周辺までも舌で丁寧になぞっていく。  
 
ちぷ…ちゃぷっ…ちゅるっ……  
「じゅるっ……」  
「あぁ…お嬢様…ぅくっ……」  
(ふふふ…感じてくれているな…よし、それならもっと……)  
顔を横にしてサオの部分をはむっと咥えてみた。 亀頭と違いココは凄く硬い。 皮膚の感触は手足と一緒だが温度だけは違った。  
はむはむと唇だけで甘噛みする。 その都度ハヤテの口からは感嘆の声が漏れる。 私はチラッとハヤテの顔を覗き見た。  
その顔は恥じらいで染まっており、伏し目な表情がたまらなく愛くるしい。 悶絶しそうなほどの衝動が私には溢れていた。  
 
(ああもう! 可愛いなコイツは……)  
よだれでべとべとになってしまっている股間から一旦離れ、私は再び亀頭を口に含んだ。  
 
ぱくっ  
「あーんむっ…じゅるっ…ぢゅちゅ……」  
あまり大きく開かない私の口内でハヤテを包んでいく。 舌も使って一生懸命にいやらしい音を立てながら愛撫していく。  
じゅるじゅると唾がたくさん溢れてきてどうしようもないが、こぼれることも厭わずにただ舐め続けていた。  
 
じゅぶ…じゅぶっ…じゅず…ずずっ……  
「ひゃぁぅっ! ひゃぁあ! くはぁっ……」  
「ぷぁっ…ちゅっ…じゅぷっ…じゅるっ……」  
激しさを増していく口内での愛撫に私の身体も貪欲に変化を遂げる。 めまぐるしく渦巻いている欲望の中、快楽だけを求めていた。  
服を脱ぐことも忘れ、自分の敏感な部分を求め、身体全体でハヤテに擦り寄っていく。  
気が付いた時にはハヤテにお尻を向ける格好で、ぴったりと密着していた自分がいた。  
 
(ふぁ…あ、あれ?)  
なんで? いつの間に? こんな体勢にっ!? これでは、パ、パンツが見えて――って今の私のパンツは確実に染みができて……  
ああああ!! ダメダメ! イヤだ! 見てはダメ! ど、どうしよう……今から体勢を変えるのってヘンかな?――ひゃうっ!!  
 
ぺろっ…ぴちゃ……  
「きゃっ! は、はは、ハヤテ!?」  
「ちゅちゅっ……はぁ、はぁっ…あ、あんまりにも…お嬢様のあそこが艶かしくて…おいしそうで……嫌でしたか?」  
ハヤテに恥ずかしい体液で染みたパンツを見られたことよりも、大事な部分を舐められたことのほうが私には衝撃的だった。  
しかもパンツの上からではなく直接。 と、いうことはハヤテは私のパンツを捲って舐めているということだ。 こんなのって……  
 
私があわあわと慌てふためく暇もなく、ハヤテはなおも私のあそこを舐めようしている。 顔を近づけてくるのが感覚でわかった。  
外気に晒された私のあそこがハヤテに見られている。 舌を近づけられて今まさに舐められようとしている。 私には止められない。  
 
れろ…ちゅ…ちゅるっ……  
「んんーーっ!! ひゃぁん!!」  
初めて舌を味わう感触。 この場合は私のあそこが、ということになる。 ざらりとしたハヤテの舌が私のあそこに触れている。  
いやらしい体液を舐め取っている。 シラヌイに頬を舐められるのとは大違いだ。 こんなことは想像だにしていない。  
未体験の感覚に身体の自由は奪われ、私はハヤテの股間を前にしたままで何もできずにいる。 一方ハヤテはさらに行為を続けた。  
 
くちゅっ…ちゅば…ちゅばっ……くりっ! ちゅっ!  
「――――ッ!! あっ、あぁああんっ!!」  
私がハヤテの愛撫を受けている時に、舌で何か剥かれたと思ったら怒涛の快楽が流れ込んできた。 何をされたのか理解できない。  
今まで舌で舐め回されていた箇所とは明らかに違う。 そこを触れられただけで私はがくがくと身体が震えてしまった。  
 
プッ…プシャーーッ!!  
「いやぁああーーっ!! な、なに…これって!? あ、ああぁっ、んっ…ハ、ハヤッ……」  
最後の方は言葉にならなかった。 継続された絶頂。 永劫の快楽。 そんな酷い興奮に耐え切れず、私はおもらしをしてしまう。  
とたんに羞恥心が湧き上がる。 この体勢なのだ。 ハヤテが今どんな状況になっているかなんて想像するまでもなかった。  
極端に上がった息を治めようともせず、そのままで私はハヤテの方に気を向ける。  
 
「はぁ…はぁっ、はぁっ……んっ、はぁああ……」  
(ああぁ…か、かけちゃった…ハヤテに……)  
私は気付かれないようにそろーっとハヤテの方を向いてみたが、すぐに目が合ってしまった。 慌てて顔を元に戻したがもう遅い。  
鏡を見なくともわかる。 私の顔は完熟トマトのように真っ赤になっているはずだ。 そんな私にハヤテはやさしく語りかけてきた。  
 
「あは、イッちゃいましたね。 そんなに気持ち良かったなんて…なんだか僕も嬉しいですよ」  
「――――ば、バカっ!」  
顔にかかった恥ずかしい雫も、まるで気にしていませんよ、とでも言わんばかりの笑顔を振りまくハヤテに、私は救われた気がした。  
でも、もうあんな恥ずかしいことは御免だ。 私は服の袖でハヤテの顔を拭いてやり、呼吸を整えてから体勢を初めの頃に戻した。  
 
「私だけ…先では…主としての面目が立たないではないか……」  
「お嬢様を優先させるのも執事の務めだと思ってますけど……」  
お互いがお互いを気遣ってふざけあう。 じゃれ合うことがこんなにも気持ちいい。 こんな執事と主の関係も面白いと思った。  
それでも私は責任を果たさなければならない。 ハヤテをしっかりと絶頂まで導いてやらないといけないのだ。  
そうして私はまたハヤテの股間を手に取り、舌を絡ませていくのであった。  
 
ちゃぷっ…ちゃぷっ…しゅっ、しゅっ、しゅっ……  
均整の取れたリズムで、私は歌うようにハヤテと戯れている。 股間を口に含み、舌で亀頭を舐め、手でサオを扱く。  
この三点で小楽団のような空間をハヤテに提供している。 ハヤテが観客で私が演者。 いや…ハヤテは楽器かな。  
段々と楽しくなってくる。 さっきまではあんなにも恥ずかしかったのに。 私はそんなことを考えながらハヤテを愛していた。  
 
ちゅっ…ぢゅるっ…しゅしゅっ…しゅしゅっ……  
「はっ、はっ、はぁっはぁっ……あっぅくぅっ……」  
ハヤテの息遣いが荒くなってくる。 咥えている股間も硬さを増していく。 私は絶頂が近付いているのを口内で感じ取っていた。  
そして右手の速度を上げていく。 あまり痛くならないように最善の配慮をしながら。 でも舌の動きはより複雑に、と動いていく。  
 
しゅっ、しゅしゅっ、しゅっ……びゅるっ! びゅくっびゅくっ! びゅっ……  
「っあっ! あぅ、あ、あぁあああぁあああ!!!!」  
「んぷっ!?」  
ハヤテの股間から迸る大量の精液が私の口内に満遍なく満たされていった。 あまりにも勢いがいいので喉の奥に絡んでくるほどだ。   
それから生暖かい白濁の液体が私の口を犯していく。 粘性の高いその液体は正直あまり気持ちのいいものではなかった。  
 
初めて味わう精液の味…生臭くてねばねばしてる…うぅ…やっぱり気持ち悪い……でも……コレがハヤテの味なんだよな……  
ハヤテが私で気持ちよくなってくれた証だし……これも経験……頑張って飲んでみる…か?  
 
口内には大量の精液がまだ残っている。 私は努力をしてみたがあまりの飲みにくさに耐え切れず全部吐き出してしまった。  
 
「げほっげほっ…うぇぇ……」  
「ああ! お嬢様! 大丈夫ですか!?」  
大丈夫ではないが大丈夫だ。 それに少しほっとしたのも事実だった。 あんなに大量の精液などとてもじゃないが飲みきれない。  
それでもまだ少し口の中に残っていた精液をなんとか嚥下して、涙目になった私はあることを思いついてハヤテに擦り寄った。  
 
「うくっ…ごくん、っぷはっ――――なぁハヤテ……」  
「はい?」  
「キス…して……」  
一瞬だけハヤテの顔がほんのちょっと歪んだのを私は見逃さなかった。 実際そういうものだろう。  
自分の出した精液がさっきまで私の口に入っていたのだ。 どんな男だって嫌悪する。 私は理解のある女だ。 だから平気。  
 
「嘘だよ。 さて、おフロにでも入ってくるかな……」  
「お嬢様」  
「ん?」  
ハヤテの答えを待たずに自己完結して、さっさとその場を離れようとした私だったが、急に呼び止められたので振り向いた。  
 
ちゅっ  
「お嬢様…僕、とっても気持ちがよかったです。 ですから…これからもよろしくお願いしますね」  
不意打ちだった。 というか卑怯だ。 そんなことをされてそんなことを言われたら私だってこう言うしかないではないか。  
   
「こ、こちらこそ……よ…よろしくお願い…します……」  
なぜか敬語になってしまう私だったが、自然と口から出てしまう。 ハヤテとこれからもよろしく、と言葉を紡ぐ。  
そのこれからというのが何を意味するものなのか考えるとまた赤面してしまうそうになるので、なんとか誤魔化しつつ逃げた。  
 
「と、とにかく! 私はフロに行くが、ハヤテはどうするのだ!」  
「はい、お嬢様のお傍にいさせて頂きますが、きちんと目隠しはしますのでご安心ください」  
「――――」  
私がまだ恥かしさを残していることをハヤテは理解してくれていた。 ハヤテとこういう関係になったとしてもそれはまた別なのだ。  
女心は複雑だ。 特に気まぐれな私ならなおさらだろう。 それでもハヤテは私を理解しようとしてくれている。  
胸の奥があたたかい感情に包まれていた。 ただ素直に嬉しかった。 そして私はハヤテと一緒に風呂場へと赴いた。  
 
「じゃあ、今度は髪を洗ってくれ」  
「わかりました、でもあまり上手くできないかもしれませんよ?」  
「かまわんさ……ハヤテがしてくれるのだからな」  
 
(了)  
 

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