「‥‥ふぅ‥‥‥。」
夜の少年の部屋にため息が響く。
「明日‥‥か‥‥。こなきゃいいのになぁ‥‥」
『ハッピーバースデー』
「あっ‥おはようハヤテ」
次の日の朝、ナギの元気な声がハヤテの後ろから突き刺さる。
今日のハヤテにはいつも元気はない。が、
「あっ!おはようございますお嬢様!今日もいい天気ですね」
「お‥おお‥そうだな」
「じゃ、僕は朝の仕事がありますんで!今日も頑張りましょう!」
執事たるもの、主を心配さしてはならない。その一心で無理に元気をだす。
ハヤテは完璧に演じたつもりだった。だがハヤテの演技力では騙せるはずもなかった。
「なぁマリア、今日のハヤテ何かおかしくないか?」
「おかしいって‥何がですか?」
「何かこう‥‥無理してるような‥‥」
こんな時、マリアは本当に役にたつ。自分よりも頭はいいし、回転も速い。
案の定、マリアには理由がすぐに浮かんできた。
「あぁ‥‥それは多分、今日だからですよ。」
「?」
ナギは訳がわからない、といった顔でマリアを見る。
そんなナギを見たのち、マリアの視線はカレンダーへと移る。
ナギの考察が始まる、
「今日は何の日だ?11月11日は祝日でも何でも‥‥」
そこでナギの考察が終わる。稲妻のようにあることが閃いたから。
「そうか‥‥」
「ええ‥‥‥」
ナギとマリアは何もない空中を見つめる。
『今日はハヤテの誕生日か‥‥』
「あのハヤテ君の両親ですからねぇ‥‥。つらい思い出しかないんでしょうねぇ‥‥。」
「ハヤテ‥‥可哀想だな‥‥。」
「ええ‥‥。」
マリアは用意に想像できた。あんな両親のことだ、祝ってくれたことなどないのだろう。
「マリア‥‥私は決めたぞ‥」
「ええ‥その考えは賛成ですよ」
ハヤテは夕飯前にマリアから買い物を頼まれ、今その帰宅途中である。
「‥‥懐かしいよなぁ‥」
ハヤテの脳裏に思い出したくない思い出がよぎる。
6歳になった時‥親はパチンコに行っていた。
7歳になった時‥貰った物は友達がくれた消しゴムだけだった。
8歳になった時‥親に言ったが「おめでとう」の一言だった。
9歳になった時‥自分はバイトをしていた。
10歳以上になった時‥‥もう誕生日とか口にしなくなっていた。
羨ましかった。
他の子が誕生日がきて、ケーキを食べたりしているのが。
腹が立った。
その子の嬉しそうな顔を見ていると。
憎かった。
何で誕生日なんかあるのかと。
不意に涙が流れそうになった。
だが泣かなかった。
泣けなかった。
誕生日などに思い入れはなかったから。
「‥‥帰ろう‥‥。」
思い出に背を向け歩きだす。
歩くたび、涙が流れそうになった。
必死でガマンした。
泣いたら負けだと思ったから
必死で歩き、屋敷の前までやってきた。
切らした息を整え、平然とした顔をつくる。
ドアノブに手をかけ、扉を押す。
「只今帰りました‥。」
パァーーン!!
ハヤテの言葉と同時にクラッカーの炸裂音が響く。
紙吹雪の間からハヤテの目に飛び込んできたのは満面の笑みのナギ、マリア、咲夜と伊澄の姿。
「誕生日、おめでとう。ハヤテ♪」
そう言われた瞬間、涙があふれた。
涙が止まらない。止められない。17年分ためこんだ涙、
「ありが‥‥‥お嬢‥‥‥。」
うまく声がでない。
あんなに嫌っていたのに、憎んでいたのに‥
今は本当に嬉しくて‥涙が止まらなくて‥
そんなハヤテに満足したのか、ナギ達はハヤテを食堂に連れて行く。
「私達だけのささやかなパーティーですけど」
そこにあったのはろうそくが17本立ったケーキ‥
「さぁ、ハヤテ勢いよく吹き消してくれ♪」
ハヤテは涙目であたりを見回す。
笑顔で祝ってくれる人達、ケーキ、装飾された部屋‥‥
これだけのことが何よりも嬉しくて‥‥
「ありがとうございます‥‥みなさん」
17歳になった少年は息を吸い込んだ。
その夜、部屋で寝ているハヤテに近づく影、
その手には何かが握られている。
ハヤテを起こさぬよう、そっとそれを起き、頬に唇をよせる。
「‥‥誕生日おめでとう‥‥」
そう言い残し部屋から立ち去る。
その物には手紙が貼り付けてあった。
HAPPY BIRTHDAY ハヤテ
FROM ナギ
愛をこめて