―プロローグ―  
 
「ハヤテは……私の事好きか?」  
「…世界で一番……大事な人ですよ」  
 
 
 
 あの時、お前は言ってくれたよな……  
 私が一番、って、言ってくれたよな……  
 その言葉は、ほんとに…ほんとに嬉しかった……  
 あまりにも嬉しくて ふわっ って、身体が浮いちゃって、まるで天にも昇る心持だった。  
 
 ほんとだぞ?  
 
 だって、今でもあの言葉を思い出すだけで、胸がドキドキする。  
 ほら、また、身体の全部がふわふわしてきた。  
 
 …あの崖の上で…私に言ってくれた言葉……  
 あの言葉は私にとって、ずっと、大切なものなんだ。  
 
 だから……最後に……もう一度だけ、聞いておきたくて…………  
 
 
ハヤテのごとく! IF 【 Love Style so Rare 〜TYPE-SYMMETRY〜 】  
 
 
―1―  
 
私の杞憂であれば良い。  
もし仮に、そうであったとしても、彼は私の恋人だから何も問題は無い筈。  
そう、問題は無い。 絶対に大丈夫。 二人の絆は固い。  
 
―――それを証明してくれるものは?  
 
確証があるし、何より私は愛されている。  
彼は、どんな時でも私の傍にいてくれた。  
だから、これからも私の傍にいてくれる。  
 
―――これからもって、永遠に?  
 
不確かな根拠など微塵も意味を持たないのは分かっている。  
でも、不安定なままでいると、私は潰されてしまう。  
だから、私は、押し込めてきたんだ。  
 
つまり――――――欺瞞。  
 
頭に響く声が煩わしい。  
これほど苛立ちを覚えた事は、久しく無かった。  
考えれば考えるほど、想像するほど、辛く―――苦い。  
 
かといって、また閉じ込もる、というのも間違いの様な気もする。  
混乱、そして困惑、または雑念、もしくは単純な単調子。  
雑な思考の中、私は至った。  
 
私の根源にあるもの。 それはとても儚くて淡い。  
故に酷く脆く、触れれば簡単に砕ける。  
薄氷のような―――いや、むしろ雪の結晶にも似た私の心。  
 
それを自ら壊そうというのか――――  
 
 
―2―  
 
きっかけは単なる思い付きだった。 気まぐれ。  
でも、強固な意思も確かにあった。 僅か。  
 
現状に意味を持たせる為に行動を起こした。  
 
そして、私は出会ってしまった。  
 
瞬間。 嫉妬、妬みとは違う、まったく逆の感情が湧き上がった。  
そして即座に理解した。 羨望に近いが、また少し違う。  
 
これは―――だと。  
 
それから少しは、努力もしてみた。 が、やはり身に過ぎる。  
私とは違うのだ。 価値観、思想、根本的なもの。  
今ならまだ間に合う、引き返すのなら今のうち。  
でも、嫌だった。 私もあんな風になれたら――――  
無理かもしれない、だが、近づく事くらいは出来るかもしれない。  
 
距離を置く事で、客観的にもなれる。  
だけど近過ぎず、そして離れ過ぎず。  
このスタンスが私には合っていた。  
合っていたからこそ、より浮き彫りになる。  
知れば知るほど、掛け離れていた。  
 
『ああ、やっぱりこの人には敵わないのかもしれないな』  
 
実感した。  
 
 
―3―  
 
 …私の事……好き……か?  
 
 …なんで黙ってるんだ?  
 
 だって、お前は、言ってくれたじゃないか  
 あの崖の上で、言ってくれた  
 夢に何度も出てきたんだ  
 その言葉が私の心に光を差してくれたんだ  
 あたたかい光で私を包み込んでくれたんだ  
 
 あの言葉に、嘘は無いんだよな?  
 間違いなく、ほんとの気持ちなんだよな?  
 私の勘違いなんかじゃ……ないよな?  
 お前は私の……こ、恋人、だよな?  
 
 どうして何も言ってくれないんだ……  
 
 やっぱりヒナギクの事が気になるのか?  
 …きっとヒナギクは、お前の事が好きなんだと思う  
 お前でも、態度で程度は分かるだろ?    
 
 でも、鈍いのは、私も同じなのかもしれないな……  
 そんな、今のお前の態度で気が付くなんて……  
 
 お前の気持ちは最初から私には向いていなかったのか  
 はは……馬鹿だな、私……大馬鹿者だ  
 ……でも、似た者同士……相性は良いかもな  
 
 だから……見て欲しい  
 私だけを、見て欲しい  
 他の誰かを見てないで  
 私だけを、見て欲しい  
 
 我儘なのは十分承知している  
 でも、抑えが利かないんだ  
 
 こんなにもお前の事が好きになって  
 こんなにもお前に恋をしてしまった  
 
 この気持ちは本物だ  
 だから何度でも言うぞ  
 
 
 私だけを見て欲しい  
 私に降り注いだ光  
 その先の永遠と共に  
 私だけを見て欲しい  
 
 
―4―  
 
彼は微笑んだ。  
その微笑が意味することは私には分からなかった。  
 
一緒に過ごしてきた時間は、決して長くは無かった。  
だけど、彼が手を伸ばしてくれた未来は、私にとって最高の選択肢だった。  
 
この人と歩いていける。 ただそれだけで心躍る。  
過去とは決別し、未来を紡いでいく。  
いや、過去は過去として、そして、未来は未来として。  
目の前に無数に分岐している道を、彼と共に歩いていく。  
 
一人では迷う事もある。 二人でも迷うかもしれない。  
けど、彼と一緒なら迷っても平気だった。  
泣き、笑い、たまには喧嘩して、その全てが楽しかった。  
 
 
 
そして、私は今日も、彼の腕の中にいる。  
あたたかいぬくもりに包まれている。  
まぶしい光が差し込んでくる。  
 
先に目覚めた私は、彼の胸に頭を預ける。  
そのまま胸を開けて そろぅっ と、指を這わす。  
さらに むにっ と、口付けをする。 ちょっと甘噛みしてみる。  
彼が むぅん と、唸る。  
反応が楽しい。  
こんな些細な事で、幸福感で一杯になれる。  
調子に乗ってパンツを脱がそうとしたら、目を覚ました彼に怒られた。  
 
あはは、ごめんなさい  
 
笑って誤魔化す。  
 
彼も笑う。  
 
私も、もう一度、笑った。  
 
 
 
暫くして笑いは途切れ、互いに見つめ合い、キスをした。  
 
 
―エピローグ―  
 
  輝かしい日々  
 
  いつも二人  
 
  ずっと一緒  
 
 彼が私の傍にいる  
 
 私も彼の傍にいる  
 
  過去も未来も  
 
  全て見据えて  
 
  歩んでいこう  
 
 
   永遠に  
 
 
 
「ハヤテ、お茶にしようか」  
「はい、お嬢様」  
 
(了)  
 

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