―プロローグ―  
 
この恋は必ず報われる。  
二人の間には隔てている壁など無い。  
最高のハッピーエンド、そんなものすら軽い。  
 
彼への想いが募るほどに実感する。  
私の心を彼に傾ければ傾けるほど、更に充実した気分になる。  
 
――――――とても穏やかな日々。  
 
草花は萌え、生命は胎動している。  
万物に祝福を、目に映るもの全てに福音を鳴らそう。  
 
この先の未来、これ以上無い程の幸福が待っている。  
 
――――――そう、思っていた。  
 
 
 
 目に見えるモノには安心感が生まれる。  
 
 目に見えぬモノには不安感に苛まれる。  
 
 目で見たモノ―――全てを受け入れる。  
 
 
ハヤテのごとく! IF 【 Love Style so Rare 〜TYPE-ASYMMETRY〜 】  
 
 
―1―  
 
彼と初めて出会ってから、どれ程の月日が過ぎた頃だろうか。  
当時、私は極めて不安定だった。  
 
最初の頃の、あの安堵感は何処吹く風か、微塵も感じられなくなっていた。  
彼の気持ちが分からなかった。 いや、少しは分からなくも無かったのかもしれなかったが、でも、やっぱり分からなかった。  
私の心は彼にだけ向いているというのに、彼の気持ちは何処に向いているというのか。  
 
とても不安だった。  
 
やがて不安は疑心に変わり、疑心が憎悪に変わり、憎悪が偏愛に変わるまで、それほど時間は掛からなかった。  
 
 
 その後、私は――――――思い出したくも無い記憶。  
 
 彼を私だけの――――――思い出すのもおぞましい。  
 
 モノにした。――――――想いは儚く、崩れ去った。  
 
 
彼が屋敷から姿を消したという事実は、暗い闇の中の事。  
 
誰も口に出す事は 一度も なかった  
 
 
―2―  
 
その頃から私は不登校に拍車を掛け、何かに憑かれたかの様な日々を送っていた。  
屋敷から一歩も出る事は無く、また、家人とは、会う事や話をする事も少なくなっていた。  
 
何をしていたかは、はっきりと覚えている。 書斎に篭っていただけ。  
ただひたすら書斎で、飽く事無く、ナニカをしていた。  
 
閉塞的な空間の中の残響音、そして微かに零れ落ちる声、秘密のおままごと。  
 
誰にも邪魔されない場所で、誰も入ってこない場所で、誰にも咎められる事も無い。  
私だけの場所。 正確には私と彼の場所、空間、縄張り。 二人だけの、場所。  
 
そこでは私は自分に素直になれた。 そこだけで私は感情を露見できた。  
彼に想いを叩き付けた。 彼への想いを爆発させた。 彼だけを見ていた。  
だけど、彼が応えてくれたものは無かった。  
 
そして、押し付ける形の、ただ一方的な想いだけが残った。  
 
残された私と、私の想いは、二人の場所で、他の誰にも見てもらう事無く、溶けて消えた。  
彼は応えない。 私も、もう問わない。  
 
でも、此処で二人、朽ちる前に、するべき事は、まだ在った。  
 
 
―3―  
 
私は物言わぬ彼の前に立ち、衣服を全て脱ぎ捨てた。  
全裸になった私を、彼は ちらり と、一瞥した気がするが、構わない。  
私は椅子に座ったままの動かない彼に近付き、そっと顔を撫でた。  
曇った目で私を見た様な気がしたが、その真偽は分からない。 どうでも良い。  
 
彼の衣服を脱がそうとしたが、あまり上手くいかなかった。 なので下だけを脱がす。  
下半身を露わにした彼は未だ動じず。 私は少し居た堪れない気持ちになったが、すぐに忘れた。  
そしておもむろに、荒々しく股間全体を鷲掴んだ。 僅かな反応を感じたが、構わずにそのまま続けた。  
一転して今度は優しく、竿の部分を摩る。 右手の親指、人差し指、中指を使ってゆっくりと扱く。  
何度も何度も右手を上下させる。 たまに速度を変えて、繰り返し、幾度ともなく、何度も。  
段々と股間に血液が集まってくるのが分かる。 怒張の前触れ、その感覚に新鮮さを感じながら、じっくりと観察し続けていた。  
 
彼はうなだれたまま人形と化していた。 が、まだ生きていた。 証拠があった。 固く張り詰めたペニス。  
私がそうさせた、彼の為にした、だからきっと彼も嬉しいんだ、と、思った。 自惚れでも何でも無く、ただ自然に、そう思った。  
そんな彼のペニスを見ていたら、なんだかとても愛しくなり、そっとキスをした。  
 
反応は無かったが、抵抗も無かった。 私は恐る恐る彼の唇をこじ開けて、舌を絡めようとしたが、案の定彼は応えてはくれなかった。  
それでも私から舌を絡ませ、唾液の交換をする。 味なんかしない。 そして咥内をたっぷりと舌で嬲る。  
舌、歯茎、歯の裏まで ぞりぞり と、なぞる。 咥内の感触が舌に伝わり、舌から脳へ、脳から脊髄へ、快感となって身体の隅々まで届く。  
 
裸になった時から身体は熱くなっていて、体調の変化にも気付いていた。 なので そろぅっ と、自分の股間へ手を伸ばしてみた。  
すると、そこは既に濡れていた。 私は、こんなにも濡れるという事に少しびっくりしたが、思い切って自分の股間を触ってみた。  
右手は彼のペニスで塞がっているから左手で。 その中指で、自分の身体の割れている部分を、摩る。  
 
『……っあっ!』  
そこを中心にして身体全体へと電流が走った。 今までに感じた事の無い感覚。  
うーんっ と、背筋を伸ばすのとは違う。 お風呂に入ってさっぱりするのとも違う。 ただ、純粋な、快感。  
 
『…………きもちいぃ』  
思わず口から言葉が漏れていた。  
 
彼のペニスを弄んで、ただキスをしただけなのに、こんなにも気持ち良いなんて思わなかった。  
それから少しの間は、彼への愛撫とキスを続けながら、淡々と自愛していた。  
最初はゆっくりとただ擦っていただけだったが、段々と物足りなくなり、次第と行為は激しく、快楽を貪る様に、指の動きを速めていった。  
 
随分と長い時間、耽っていた。 気が付いた時には彼の唇、そして目、鼻、耳、首などは、私の唾液でべとべとになってしまっていた。  
それでも彼は、無反応だった。 ただペニスだけは硬さを保っていたので、私は次の段階へと進んだ。  
 
 
―4―  
 
彼の膝に対面から座わる。 両手を首に回してじっと目を見た。 何処を見ているのか分からなかった。   
ぎゅぅっ と、抱きしめた。 私の小さな胸が彼の衣服で擦れた。 少し痛かった。  
それから再度キスをした。 私の中の確認の意味を込めての行為だった。 そして、意を決した。  
 
ペニスを手に取り、自分に宛がう。 心臓が高鳴っていた。  
怖くて自分では見れないから、目は瞑った。 余計に心音が響いて聞こえた。  
ペニスの先端が埋もれる。 不安と期待が入り混じった。  
 
更に埋没させていく。 ずっ ずっ と、削がれる感覚の中、段々と意識が薄れていくのを感じていた。  
痛みはあった。 けど、もう戻れない。 今、止めても、どうにもならない。  
 
抵抗を感じた所で、腰を落とした。  
 
 ぶつり   
 
あの時、何かが破れる音を確かに私は聞いた。 その音が酷く印象的で耳に残った。 痛さよりも音の方が気になった。  
だが、それで何とか彼の全てを受け入れる事が出来た。 暫くは動けなかった。 痛みのせいもあったのかも知れない。  
ただ、何となく動く気にはなれなかった。 動きたくはなかった。 繋がったままで、いたかった。  
 
胸が熱くなるのが分かる。 切なくて、切なくて、切なくて、恋しくて、愛しくて、愛くるしい。  
 
繋がったままキスをした。 唇が壊れるくらい、繰り返しキスをした。  
 
――――――それでも彼は、無反応だった。  
 
『……ぅっ、うぅっ……うっく…………』  
知らず泣いていた。  
 
 
薄暗い、二人だけの場所。  
 
ようやく彼と一つになれて、嬉しいはずなのに、泣いていた。  
 
嬉しいのだから涙が出るのは当然。 そう考えられれば良かった。  
 
でも、その頃にはもう、気付いてしまっていた。  
 
どうしてあんな事になってしまったのか、分かってしまっていた。  
 
零れ落ちる涙もそのままに、ただただ泣いていた。  
 
 
―エピローグ―  
 
三千院家の遺産は彼のものになった。  
 
私に遺されたものは殆ど無い。  
 
あるとしても、それは最初から持っていた私の財産。  
 
でも、今は彼もその内の一つ。  
 
結局は全て私のモノ。  
 
でも、そんなものに価値は無い。  
 
彼は何も言わない。  
 
私も何も言わない。  
 
ほんとうに大切なものは  
 
二人だけの場所に残る愛のカタチだけ。  
 
(了)  
 

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