―プロローグ―
夢を見ている。
夢を見ている私を、私が俯瞰的に見ている。
とても悲しい夢。
――――ただ、その夢は、どんな夢だったのか。
ハヤテのごとく! IF 【 Happy Happy End 〜 Naturally 〜 】
―1―
私が目覚めた時、ベッドには、ぬくもりがあった。
昨夜の出来事は鮮明に覚えていた。
だが、そのぬくもりは次第に熱を奪われ、と、同時に想いも失いかける。
記憶は曖昧で、自分の立ち位置を確保しようとするも、ままならない。
これは現実なのだろうか、それとも架空の事柄なのだろうか。
どうでも良い事だ。
ただ、起こった事は確実。
それだけで良かった。
彼と私だけの時間、それだけは本物なのだから。
―2―
それは、いつか必ず訪れると信じていた。
そう信じて疑わなかった。 疑う余地も無かった。
そうなる事が必然だと、固く信じていた。
そんな私でも不安になる事があった。
私の独りよがりなのではないか、と、思う事があった。
でも彼は私と向き合ってくれた。
私の気持ちと彼の気持ち。
双方に深い溝があったのは事実。
その溝を埋めてくれたのは―――ただ、ひたむきな想い。
同情ではないと思いたい。
だって何時も見ていたから。
彼の事だけを。
―3―
そうして私は彼と結ばれた。
矮躯な身体を恥じた私を、彼は優しく、とても優しくなだめてくれた。
その言葉はとてもありふれた、不変な物だったけど、何より私の心には響いていた。
嬉しくて、切なくて、自然と涙が頬を濡らす。
彼は最初、慌てうろたえていたが、すぐに私の真意を感じ取ってくれた。
まだ流れていた涙を掬い取ってくれた。
彼との絆を身体に刻み付ける。
物凄く痛かったが、二人の為にと、我慢をした。
物凄く恥ずかしかったが、二人の為にと、我慢をした。
物凄く嬉しかったが―――――言葉に出すのは、我慢した。
今、この瞬間を、心に刻み付ける為に。
そんな夢を見た。
―4―
私が目覚めた時、ベッドにはぬくもりがあった。
時計を見ると、まだ少し早い。
私はもう一度瞼を閉じようとして、ふと、気付く。
涙の痕。
何故なのかは分からない、多分、悲しい夢でも見たのだろう。
そう思ってから、また意識をすぅっと薄くさせる。
今度見る夢は楽しいのが良い、彼との楽しい思い出。
二人で過ごしてきた沢山の時間の内の一つ、そんなのが見れたら良い。
それで起きたら彼の作った朝食を食べる。
独りで食事を取る事が多いけど、今日は久しぶりに彼と一緒に食べよう。
そして楽しい夢の話をしよう。
幸いな事に、さっき見た悲しい夢の事は覚えていない。
なら楽しい事だけ語り合おう。
二人きりでゆっくりと贅沢に時間を使おう。
彼と私で過ごす時間。
それが私の全て。
そんな事を考えながら――――眠る。
―エピローグ―
「…お……様……お嬢様…………」
「…………ぅん……」
「お嬢様、お目覚めですか?」
「――――」
「お嬢様?」
「…また……その呼び方……」
「え?……あ、はは…まぁ僕にとっては、いつまでもお嬢様ですから」
「……ふん、ハヤテなんて…………嫌い」
「…困りましたね…………じゃあ……これで機嫌を直してくれますか?」
そう言って、彼はキスをしてくれた。
今までに、何度も繰り返してきた子供がするような軽いキス。
今では少し物足りなくなってしまった物だけど、それでも嬉しいのは幸せな証拠。
ならこの幸せが永遠に続きますようにと、もう一度おねだりする。
「……もっと」
彼は笑ってくれた。
そのあたたかい眼差しは、確かに私にだけ向けられている。
そして笑顔でもう一度。
子供がするような軽いキス。
唇に感じた体温は、夢か現か幻か。
それは私にだけ、分かる事。
(了)