―プロローグ―
「僕は…君が欲しいんだ」
彼は言った、確かにあの時、私が欲しいと言った。
たまに、あの言葉を思い出す時がある。
ただ、今となっては、あの当時の事は全部 夢 だったのではないかと――
ハヤテのごとく! IF 【 True Love Story 】
―1―
初めての出会いは強烈な衝撃で、あれほど情熱的な想いなど後にも先にもこれ一度きりだ。
まるで頭の先から電流を流されたみたいな感じだったのを良く覚えている。
特に目が印象的で―――ああ、この人は本気なのだな、と思った。
その日の内に彼は、私付きの専属執事となった。
そしてまた彼は言った。
「命をかけて…あなたをお守りいたします」
嬉しかった。少し恥ずかしかったが、純粋に嬉しかった。
この人の気持ちが理解できた様な気がして、私は嬉しかった。
とても寒い一日だった。その日はクリスマスの一日前。
私と…彼の、運命の歯車が命の息吹を与えられた日。
ゆっくりと、ゆっくりと、廻り始める筈だった日。
―2―
翌日に私は彼を屋敷から追い出してしまった。
なぜあんな事をしてしまったのかと、後悔するも遅し。
どうにも私は頭に血が上ると突飛な行動に出てしまう癖があるようだ。
彼を追い出さなければ、また違った結末になっていたかも知れない。
ただこれは結果論だ、もうどうにもならない事は理解している。
そうして彼の両親が残した借金は、晴れて彼自身の物となった。
本当は金なんてどうでも良かった。ただ彼の為にと思ってやった事だった。
それになんだか金で縛り付けているみたいで気分的にとても嫌だった。
ただこれも結果論。大丈夫、理解はしている。
―3―
それからしばらく、彼と私の関係は続いた。
一見すると執事と主だが、私の中では違う―――と思っていた。
だが、彼と過ごしてきた時間の中で、私は気付いてしまった。
彼は―――私の執事として―――だけ。
私の事なんて見ていない。
―――いや、見てはいてくれているし、とても大事にされていると実感している。
でも、それだけ。
思えば最初から何かしらの違和感があった筈だ。
本来の私ならば最初に気付くべきだった。
それが出来なかったという事は、やっぱり私にとって彼は―――
私が真実に至ったその日から、世界が反転した。
―4―
彼が借金を完済した。
それは彼が実力で勝ち取った報酬だから私は何も言わない。
―――何も言えない。
おそらく彼はこの屋敷を出て行くだろう。
私には彼を繋ぎ止める理由が無い。
―――何も無い。
私の事など気にしなくて良い、彼の人生だ。
此処で一生を過ごすなんて事は馬鹿げている―――そう思った。
―――何もかも幻。
ならばせめて最後くらいは笑顔で――――
―エピローグ―
私は本宅に戻った。
別にあの屋敷が彼との思い出が沢山だから、とか、そういう事では無い。
単に他の私専属執事を雇う気が無くなったからだ。
本宅で過ごすのも別宅で過ごすのも一緒だろうし、どうでも良くなった。
少し、疲れた。
だけどたまに、あの言葉を思い出す時がある。
「僕は…君が欲しいんだ」
彼は言った、確かにあの時、私が欲しいと言った。
私は今日も空を眺めている。
彼も見ているかもしれない―――この空を。