「ヒナギクさん……」  
「ハヤテくん……」  
 生徒会室の応接室ソファでヒナギクがハヤテを見上げる。その胸ははだけ、  
薄い胸板の上にかわらしく息づくピンク色の乳首。  
 ずっと勘違いだと思っていた。その想い気付いたときには遅くもどれない感情  
となっていた。応援するという名目で近づきすぎたこともあってふとした他愛ない  
きっかけでその想いが溢れ二人は繋がった。  
 最初はただただ痛いだけだったその行為も今はこうやって胸を触られてるだけで  
期待して熱くなるのが分かる。  
「あ……」  
 ハヤテの顔が近づく。意識される唇。ゆっくりと目を閉じようとしたその時。  
ガタン  
 物音に驚いてそちらを向くと。歩むが涙目で立っていた。  
「あ、歩……」  
「……じゃないですか」  
「え?」  
「応援してくれるっていったじゃないですか!」  
 言い逃れない状況で放たれる歩の言葉が心に響く。  
「こ、これは……」  
 なんと言っても嘘になる裏切ったことに変わりはないのだから。  
 言いよどむヒナギクに背を向けて走りさる歩。  
「あ、歩! 待って!」  
 追いかけて捕まえたとして自分に何が言えるというのだろう。その想いを振り払って追いかける。  
「あれ? ってここ生徒会室じゃ……」  
 気がついたときには歩は空中へと走り去っていく。  
「え? な、なんでベランダがないのよっ?!」  
 あると思ったベランダがなく足を大きく踏み外してしまう。  
 生徒会長になってからも一切みようとしなかったベランダ下の光景が眼下に広がる。  
「っ!」  
 全身をつつむ浮揚感が即座に落下感に変わる。  
「きゃぁぁあぁぁぁあぁぁ!」  
パチ。  
 そこでいつも目が覚めた。  
「また……か」  
 
『不安な心理を表わしています。高いところから落ちる夢は、将来に対する不安、  
現実の人間関係あるいは社会的な不安、恋愛に対する不安、セックスに対する  
不安などへの不安を暗示しています』  
 
 図書館から借りてきた夢占いの本に書いてあることがそのものずばりで面白くなかった。  
 ハヤテと一つになってしまってから毎日のように見てしまう落ちる夢。  
 きっと罪悪感から見てしまうのだろう。未だ歩には言えないでいる。  
「はぁぁぁ……」  
 重い深いため息。と同時ににへらと笑うハヤテの顔が浮かぶ。  
「くぅ。軟弱に笑って……。こっちがこんなに苦しんでるのに」  
 思い浮かんだハヤテの顔に悪態をつく。  
「そもそも見つかったときになんで無言なのよ!」  
 夢の中のハヤテにまで文句を言い出す。それで解決するなどとは思ってはいないが  
言わずにはおれなかった。  
 今までの桂ヒナギクであれば友情・約束を優先して体を許すなどしなかったし、  
仮に間違いがあったとしてもそれを告白してハヤテとは別れてやっぱり歩を応援する  
はずであった。なのに今は出来ない。  
 自分が思う桂ヒナギク像と違うことに戸惑い何をすればよいか分からない状況に陥っていた。  
コンコン  
 ノックの音に慌てて夢占いの本を引き出しにしまい。体裁を整える。咳払いを一つして  
普段の生徒会長ヒナギクを演じる。  
「どうぞ」  
「失礼します〜」  
 そう言って入ってきたのはハヤテであった。その事に心のたがが外れそうになるのをこらえる。  
「……何か用かしら?」  
「えっとそのですね……最近元気がなさそうだなぁと」  
(ったく誰のせいだと思ってるのよ……)  
「で、ですね。マリアさんからハーブもらってきたのでハーブティーなんかどうかと」  
「そうなのありがと……」  
「それじゃお入れしますね……カップお借りしますね」  
 嬉しそうに笑って支度を始めるハヤテ。  
 先ほど悪態をついていた笑顔が現実に現れるとなんとも言えない心境になる。  
二人切りで背中をみせるハヤテについには衝動的に後ろから抱きついてしまう。  
「え? ひ、ヒナギクさん?」  
 顔をハヤテの背中に押しつける。見られたくないから。泣いてる自分が心底いやになる。  
こんなの桂ヒナギクじゃない。しかし、どうしていいかわからない自分がそこにいた。  
 
「ヒナギクさん……」  
 体を震わせているヒナギクに泣いてることをしりハヤテも動揺する。  
もはやハーブティーどころではなかった。  
「だ、大丈夫じゃないわよ……」  
 思ったより涙声の自分にさらに失望しつつ。  
「ヒナギクさん…」  
「?」  
チュ☆  
 振り向きざまハヤテがキスする。そしてまたあの微笑み。  
「どうですか? 元気でましたか? 僕は出ましたけど……」  
「……あんたが元気だしてどうするのよ」  
「ですよね……ハハハ……んっ」  
 今度はヒナギクの方からキス。先ほどよりも強く激しく。  
「ぷぁ……これくらいしなきゃ出ないんだから」  
「あ、あのそんなにされちゃうと僕の方がもっと元気に……」  
 もじもじとするハヤテ。  
「わかりやすいわね…いいわ……今なら誰もこないだろうし」  
「え?」  
ドサ  
「エッチなハヤテ君にオシオキしちゃう」  
 抱きついたままソファに押し倒す。忘れられるのはハヤテと体を重ねてるときだけ。  
少しでも現状を忘れられるならと再びキスをする。  
「ん……ちゅ……」  
 舌を絡めながら手をぎゅっと強く握る。ハヤテもそれにならって返してくる。  
 一人の時さらに苛まれることを知りながらなおもその鬱積から逃れたくてハヤテを  
求めてしまうヒナギクであった。  
 

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