月夜の晩  
悲劇は前ぶれもなく始まった  
 
コンコン コンコン  
 
ハヤテ「(何だ?誰かが扉を叩いてる?SPの人達かな?)」  
 
ナギ「ハヤテどうかしたか?」  
ハヤテ「あ、お嬢様、いえ誰かが屋敷の扉を叩いてるみたいなんですよ」  
 
ナギ「扉を?」  
 
コンコン コンコン  
ナギ「ほ、本当だ…」  
 
小さいが確実に誰かが屋敷の扉を叩いてる音がする  
ハヤテ「僕が確認して来ますから、お嬢様はココにいて下さい」  
ナギ「わ、わかった」  
 
声を上げて呼ぶわけでもなく、ベルを鳴らすわけでもなく、ただ静かに扉を叩く音にナギは恐怖を覚えた  
 
コンコン コンコン  
音は依然止まない  
ハヤテにはこの音が人を呼ぶものではなく、扉を叩くことを目的としたものではないのかとさえ思えた  
 
コンコン コンコン  
 
音は一定のリズムを崩さずに静かに続く  
そして  
ハヤテ「ど、どなたですか?」  
コンコン コン  
 
扉越しに話し掛けると音は止まり、音の主が口を聞く  
「……ハヤテ君…」  
ハヤテ「は?え?」  
聞き慣れた声にハヤテは扉を開く  
 
ハヤテ「西沢さ…」  
扉を開けたハヤテは、その異常な光景に言葉を失ってしまう  
 
ハヤテ「西沢さん!血だらけじゃないですか!!は、早く救急車を!!」  
そこには制服を血に染めた歩が立っていたのだ  
ナギ「おい!どうし…!!」  
ハヤテの声を聞きナギが駆け付けるがハヤテと同様に言葉を失ってしまう  
歩「…大丈夫だよ二人共」  
歩は静かに言う  
 
ナギ「大丈夫なものか!」  
ハヤテ「そうですよ!」  
歩「だってこの血は私のものじゃないんだから……」  
うつ向きながらただ静かに言う  
 
ハヤテ「(何だ?西沢さん何かおかしいぞ?)」  
ハヤテは根拠のない不安と恐怖を感じた、気付くとハヤテはナギを自分の後ろにして歩から距離をとっていた  
 
歩「…ハヤテ君……?」  
ナギ「ハ、ハヤテ?何しているのだ!?あいつケガしてるのかもしれないのだぞ!?」  
ハヤテの奇妙な行動にナギは困惑する  
ハヤテ「(な、何だ?何なんだこの感じ、何で僕は西沢さんから離れているんだ?西沢さんはケガしてるのかもしれないのに)」  
額にも汗が滲む  
歩「……どうしたのハヤテ君?何でさけるのかな?」  
ナギ「どけハヤテ!」  
ナギはハヤテを押し退け歩が本当にケガをしてないか確認するために近づこうとする  
 
ハヤテ「お嬢様ァッ!!」  
ナギ「ッ!」  
突然のハヤテの言葉にナギは立ち止まってしまう  
 
ハヤテ「お嬢様それ以上西沢さんに近付いては駄目です…」  
ナギ「な、何を言ってるのだ!!あいつはケガをしてるのかもしれないんだぞ!さっきからお前おかしいぞ!」 
ハヤテ「(分かってる、自分がおかしいな事を言ってるのは分かってる…でも…)」  
歩「…アタシね……ハヤテ君のことがね…大好きなの…ハヤテ君になら何をされてもいいかなって…」  
静かに歩は話し始める  
歩「ずっと好きなの……誰よりも前から……誰よりも深く…ハヤテ君を愛してるの…」  
ナギ「お、お前何言って……」  
歩「でもね…ハヤテ君の周りにはね……アタシなんかよりずっとずっと魅力的な女の子がいつもいるの……」  
歩はゆっくり顔を上げる、その眼は光を失いただ涙が流れている、にもかかわらず歩は弱々しく微笑んでいた  
 
歩「でね…アタシ思ったの……みんないなくなればいいんだって…」  
 
ハヤテ「お嬢様、僕の後ろに…」  
この時ハヤテは自分の不安は間違いではなかったと確信し、再びナギを自分の背後に隠す  
 
歩「ハヤテ君は優しいからこんなアタシでも優しくしてくれる……」  
歩から表情が消える  
 
歩「でも足りないの…全然足りない……アタシは誰よりも…何よりも…ハヤテ君を愛してるの……なのにハヤテ君にとってアタシは一番じゃない………そんなの我慢出来ない…出来るわけない……」  
ハヤテとナギは歩の異様な迫力に息を飲み彼女の言葉を聞くことしか出来なかった  
歩「寂しくて寂しくて寂しくて、思いだけが積もっていって、我慢出来なくなって…………殺しちゃったよ……ヒナさん…」  
そう言って歩は再び涙を流し微笑む  
ハヤテ「ッ!!」  
ナギ「な、何だと…」 
歩「…痛そうだったな……包丁でね…首を切ってね、次にお腹刺しちゃったの……」  
ナギ「……ウソだ」  
歩「いっぱい血が出てね……ヒナさん最初は何が起きたのかわからないって感じだったよ?…でね最期に『どうして?』って言ったんだよ……」  
ナギ「……ウソだ」  
歩「どうしてだろうね?アタシ馬鹿だからこんな方法しか思い付かなかったよ…」  
ナギ「ウソだ!ヒナギクが死ぬわけない!ヒナギクはお前なんかよりずっと強いんだ!」しかし、歩の纏う制服に染み付いた  
歩「あはは……だから不意打ちに包丁を使ったんじゃないかな?」  
ナギ「ッ!……何で…何でさっきからお前は笑っているのだ!悲しくないのか!友達だったんじゃないのか!!  
歩「…悲しいよ?悲しくていっぱい泣いたよ?動かなくなったヒナギクさんを見て…ココに来るまで……いっぱいいっぱい泣いたよ?今だって…」  
ナギ「だったら…」  
歩「アタシに悲しむ資格なんて無い……わかってる…だから笑うの悲しくても……笑うの」  
歩は自虐するように泣きながら笑う  
 
歩「悲しくて寂しくて苦しくて辛くて、もう何がなんだか…何でかな?……『好き』っていう気持ちが何でこんな風になっちゃったのかな?」  
誰に問うわけでもない、歩は自分に問いかける  
 
歩「ハヤテ君のことが好きなだけなのに……どうしてこんなに辛いのかな?」  
ナギ「ウゥッ…ウェッ……ウッ…ヒナギクッ…」  
歩「辛いな…慰めてほしいなぁハヤテ君に『もう大丈夫ですよ、僕がついてますよ』って……あはは、まるで夢みたいかな」  
歩は天井を見上げる  
ハヤテ「(何で、何でこんな事に…ヒナギクさん…)」  
『何でこんな事に?』  
三人の思いは一致していた  
 
そして、歩の死人のような光のない眼がナギを射抜く  
歩「ハヤテ君に慰めてもらいたいけど……三千院ちゃんは邪魔かな…」  
ハヤテ「ッ!!」  
ナギ「ヒッ!」  
ナギはまるで金縛りにでもなったかのように動けなくなってしまう  
ハヤテ「西沢さんもうやめてください!そんな事して何の意味があるんですか!?もっと辛くなるだけですよ!!」  
歩「駄目だよ…アタシはヒナさんを殺しちゃったもん、ハヤテ君と結ばれるために殺しちゃったもん……だから最後までやるの…やらなきゃヒナさんに怒られちゃうよ」  
ハヤテ「間違ってる!そんなの間違ってますよッ!!」  
歩「そうかも…今よりもっと辛くなっちゃっうかもしれないね……そしたらハヤテ君アタシのこといっぱいいっぱい慰めてね?」  
ハヤテ「…西沢…さん」  
そして、歩はハヤテとナギの方へ一歩一歩歩き始めた  
 
ハヤテ「西沢さん、それ以上近付かないで下さい、でないと僕は西沢さんを……」  
歩はハヤテ達の2m程手前で止まると肩にかけていた学校の鞄からヒナギクの命を奪ったソレを取り出した  
歩「こんなに血がついてる…これ全部ヒナさんの血なんだよ?」  
ハヤテ「………」  
ナギ「ウッ」  
あまりの生々しさにナギは吐気をもよおす  
 
歩「ハヤテ君どいて?」  
ハヤテ「嫌です」  
歩「ハヤテ君のことは傷つけたくないよ」  
歩のその恣意的な言葉にハヤテは少しの怒りを覚えた  
ハヤテ「そんな物使っても西沢さんが僕をどうにかすることなんて出来ませんよ」  
歩「うん…ハヤテ君強いもんね……でもアタシは…三千院ちゃんを殺すよ……」  
ナギ「ヒゥッ」  
初めて自分に向けられた決定的な言葉にナギは恐怖し全身の震えが止まらなくなっていた  
ハヤテ「(どうする?気絶させるか?武器を奪って取り押さえるか?)」  
考えてる内に歩が動き出す  
歩「フフ……ちゃんと受け止めてね…?」  
そう言うと歩はハヤテに向かって包丁を投げつけた  
ハヤテ「なッ!?」  
歩の予想外の行動にハヤテは意表をつかれる  
極限にまで神経を研ぎ澄ましているせいかハヤテには飛んでくる包丁がスローに見えた  
ハヤテ「(避ける、駄目だ避けたらお嬢様に包丁が)」  
ハヤテは見事に包丁を掴んでいた、しかしすでに目の前には歩がいた  
歩「少し休んでてね」ハヤテ「(マズイ!)」  
 
バチィンッ!!!  
ナギ「ハヤテッ!」  
ハヤテ「ガッ!…ハッ……」  
ハヤテは凄まじい全身のしびれに倒れてしまう  
歩「ゴメンね、ハヤテ君……」  
歩の手にはスタンガンが握られていた  
 
 
ナギ「ハヤテッ!ハヤテッ!」  
ナギは倒れたハヤテにすがりつく  
ハヤテ「お嬢…様……早く…逃げ…」  
高圧の電流を受けたにもかかわらずハヤテは気を失ってはなかった、だが体はしびれて動くことが出来なかった  
歩「…三千院ちゃん」包丁を拾い歩はナギに向き直る、ナギはもう何も言うことが出来ない、ただ震えるばかりだった  
歩「三千院ちゃんはもう死んでもいいよね…?もう十分だよね?十分幸せだったよね?……だってこんなお金持ちに生まれて大きな御屋敷に住んでそんなに可愛くて……ハヤテ君を執事にして、ハヤテ君といつも一緒で………本当に神様って不公平だよね?…」  
ナギ「(ハヤテッ)」  
ハヤテ「(動けッ!何で動かないんだッ!今動かなくてどうするんだッ!!)」  
ナギを助けようとするがハヤテの体はまだ自由になるには程遠かった  
歩「終わりにしよっか…何かとっても疲れたゃったし」  
ヒナギクと同じくナギから命をうばおうと歩はナギに歩み寄った  
ナギは腰が抜けたのか立たずに尻をついたまま後退る  
歩「ゴメンね三千院ちゃん、せっかくだからヒナさんと同じ様に殺してあげる」  
歩は振り上げる  
ハヤテ「お嬢様ッ!!!」  
精神が肉体の限界を超越し動かないはずの筋肉を動かしハヤテは立ち上がった、がソレだけだった  
ハヤテ「(間に合わな…)」  
その時ハヤテは見た、誰かが自分の横を通りすぎたのだ  
歩「…あ……あぅ…」  
歩は何が起きたのかわらなかった、突然背中と胸に激痛が走り、見てみると胸から鋭利な包丁が突き出ている  
 
「まったくイケないコですねぇ、かわいいからって何でも許されると思ったら大きな間違いデスよ?」  
 
ハヤテ「マ…マリア……さん」  
歩「…ッハァ…(アタシ刺されちゃった……の…かな……?)」  
血を吐いて歩は倒れる、血は目の前にいたナギへと降り注ぐ  
ナギ「…ア…アァ……アアァァァアアアァァァッ!!!」  
ナギは浴びた血を見て絶叫し気絶した  
 
 
マリア「ふぅ、まさか西沢さんがこんな事するなんて夢にも思いませんでしたよ」  
ハヤテ「何で…何で刺したんですかッ!!」  
マリア「ん〜?ハヤテ君何を言ってるんですか?あの方は三千院の当主の孫娘を殺そうとしたんですよ?当然じゃないですか」  
人を殺したというのにマリアは動揺する様子もない  
ハヤテ「だ、だからって!」  
マリア「駆け付けたのが私じゃなくてSPだったとしても射殺してますよ」  
ハヤテ「…ウゥ…西沢さん……西沢さん…」  
ハヤテは残酷過ぎる現実に打ちのめされ膝をつきただひたすら泣く  
目の前の息絶えた歩の頬からも涙が流れていた、悲しみを共有するかのように…  
歩の亡骸を見下ろしマリアは小さく笑う  
マリア「ホントお馬鹿さんですねぇ、愛に飢えた人に愛を求めても意味などないというのに」  
マリアは歩の死を悲しむどころか喜んでいる様にさえ見える  
マリア「ンフフ、恋に思いを馳せた少女は愛を求めて狂気にとらわれ心が壊れて永遠の眠りにつきました……フフフこれもまたドラマですねぇ」  
ハヤテ「西沢さん…ウゥッ…ウゥ……」  
マリア「人の心なんてものは脆いものですね、すぐに壊れちゃう」  
マリアはしゃがみ両手でハヤテの頬を包む  
 
ハヤテ「マリアさん…」  
マリア「かわいそうなハヤテ君、お友達が二人もいなくなっちゃったんですものね」  
ハヤテ「…ウゥ…」  
マリア「ねぇハヤテ君、忘れましょう?」  
ハヤテ「わ…忘れ……る…?」  
マリア「そうです、西沢歩さん桂雛菊さんなんて最初からいなかった、出会っていなかった、それでいいじゃないですか?」  
ハヤテ「そんなこと…」  
マリア「出来ますよ、私が忘れさせてあげます、愛してあげます…」  
マリアはそっとハヤテを抱き締める  
ハヤテ「(…温かいな……)」  
このまま眠りにつけばこの悲劇は幕を閉じてまた日常に戻れるハヤテはそんな気がした  
口の端をつり上げ微笑するマリアに気付くことなくハヤテは眼を閉じた  
完  
 
 
 
ナギ「どうだハヤテこのシナリオは?最近の漫画界ではシリアス展開が  
《ビリリリリィィーーッ》  
ナァッ!?ちょッ!んナァーーーッ!!ハヤテ何で破くのだァ!?」  
ハヤテ「お嬢様?冗談でも二度とこんな縁起でもないもの書かないで下さいね?もしやったら僕本気で怒りますよ?」  
ナギ「ス、スマヌ!つい出来心で!だからそんなダークサイドのオーラを出さないでくれぇッ!」  
ハヤテ「分かってくれればいいです」  
ヒナ「それにしてもスゴいバットエンドね」  
ハム「あたしあんな残酷じゃないよぉ!」  
マリア「以外に有り得なくもなかったり…」  
ハム「ひ、ヒドイですぅ」  
ヒナ「そうねあたしも夜道は背中に気を付けてましょ」  
ハム「あう!ヒナさんまでッ」  
ナギ「まぁハムスターみたいに小心者お前にこんな事出来るはずないな」  
ハヤテ「ですねー♪」  
ハム「ウゥみんなしていじめる…ヒドイかな」  
マリア「というかナギあなたこのストーリーこの前の昼ドラのストーリー10割方パクりじゃないですか」  
ハヤテ「お嬢様盗作ですか!?」  
ナギ「スマン出来心だ」  
おしまい  
 
 
 

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