どうしてこんなことに……。ハヤテは崖の下で身動きできずに空を仰いでいた。憎らしいほど美しい夕焼けと橙に染まる雲が人様の事情を省みる訳もなく、刻々と夜へと移り変わる真っ最中、ナギのクッションになったハヤテは痛みを堪えていた。  
 ナギが花を摘んだ瞬間に崖が崩れ、ハヤテは逃げる間もなく地面に叩きつけられた。直後、ナギを全身で受け止めて。偶然は偶然だった。  
足元が浮くと同時にナギが自分を見下ろし――ほんの少し遅れて彼女が飛び込んで来る姿が見えた。背中から五臓六腑、ついで四肢に加わった衝撃にハヤテの視界は暗くなった。  
息が止まり、体がバラバラになるほどだった。  
 追い討ちをかけるように少女のボディプレスが見舞われ、重なり合って二人は動かなくなった。濁る視界の中、バンザイをして飛び込む姿が強烈な印象を残して。  
 そう長いことではなかったが気を失い、ハヤテは気を取り戻した。起き上がろうとすると全身に激痛が走り、同時に重みで思うようには動かなかった。  
彼は慌てて首を曲げて様子を見ようとしたものの、また鋭い痛みに後頭部を地面につけることとなった。  
そこで現状が少し把握でき、とりあえず彼は寝そべったまま分かる限りのことを理解しようと努めた。先ず、僕は崖から落ちた。次にお嬢様が飛び降りた。  
無茶苦茶だ! それで、僕が地面に落ちて、すぐにお嬢様が僕の上に落ちてきた。とりえず痛みで僕は動けない、お嬢様も気を失っている。うん、こんなところかな。  
 そこまで頭の中を整理し、彼は心臓が強く脈を打ち始めたことに気付いた。頭で理解してもどうにもならないもの、即ちナギがありえないくらい密着していることへの体の反応だった。  
彼とほぼ同じように折り重なる彼女の体は小さく、柔らかく、なによりいい香りがした。彼女の両腕が肩を抱き、痛いくらい強く掴まっていた。  
短く細い指先は、そんなに力を込めるには不釣合いな可憐さでもって生地の上から彼の肌を捉えていた。ハヤテは少し嬉しい気持ちになった。執事として頼りにされた気がした。  
こんな状況で勘違いをするのも馬鹿らしい、それだけで片付けられない気がしていた。そっと少しだけ顔の向きを変え、胸の上に乗っかっているナギの顔を見た。  
自分よりもずっと幼い女の子、あまりにも無邪気な寝顔が目の前にあった。頬を軽く染め、浅い吐息がピンクの可愛らしい唇から漏れていた。  
 
 彼はまだ感じたことの無い感情に鼓動が速くなるのを感じた。執事の正装越しとはいえ、ナギのささやかなふくらみが確かに感じられ、以前の光景が思い出された。ナギを起こしに行った時、まだ寝巻きのままの彼女が顔を赤らめて肌を隠そうとした朝のことを。  
大きく開かれた背中と、ただでさえ薄い生地の上から見える体のラインをしっかりと見ていたことも。そしてそれを慌てて隠そうとする仕草と、後じさりする際の恥かしそうな表情が徐々に浮かび、一瞬しか見ていないはずのショーツまでも鮮明に思い出されてきた。  
まだ未成熟な太股の合間に除いた無防備な個所。その時に見えた色もはっきりと断言でき、そうした所まで無意識の内にみつめていた自分にハヤテは軽くは無いショックを受けた。  
 いけない、そう考えてはいても彼は下半身が熱くなるのを押さえられなかった。イメージは薄れるどころか、彼女を直接感じているために一層鮮明になっていった。  
 ダメだダメだ、僕にそんな趣味は無い! どうせならマリアさんの方が、って違ーうっ!  
 初めて逢った時以来なかったシチュエーションに戸惑いつつも、彼の熱いモノは確実に大きくなって行き、立ち上がろうとナギの腰の下を押し上げようとしていた。最低だ、こんなこと気付かれたら僕は――どうなるんだろう?  
 ダメだハヤテ、お前はロリ趣味で命の恩人に仇で返す最低男の烙印を押されるんだぞ!  
 どこかでそう叫ぶ声が聞こえた気がした。しかしそれはか細く、彼の感情にも体にも響くところは全くなかった。  
 無意識の内に彼の右腕はナギの顔へと伸びた。痛みはまだ消えてはいなかったが、今や大量の血が二つの心を熱して感覚を麻痺させていた。そっと指で頬に触れる。  
直に触れると想像とは別次元の感触があり、ハヤテは思わず息を止めた。掌で優しく擦ると微妙な熱が感じられ、瑞々しい肌が吸い付くようだった。  
「ん〜」  
 息を飲み込んだ。そのまま吐き出せないかと思うほど深く。寝起きの声、あのあられもない姿を見た朝に聞いた声に似ていた。ハヤテは心臓の鼓動が深くなると同時に体の奥は急激に冷え込み、曰く言いがたい状態になっていた。  
思考がまた少し混乱の度を含め、彼は子供にするように髪に指を入れていった。四本を埋めると軽く指を曲げて絡ませる。  
 
「ん………………」  
 心なしか熱い吐息と共に漏れた声は甘く、頬の赤みも若干濃くなっていた。胸の鼓動と熱いモノが彼女に悟られる心配も、ナギの顔が間近にある状況ではそう大したことにはなりえなかった。  
 ふと、目に入るものがあった。左腕に彼女の右足が膝を曲げた形で乗っかっており、ハヤテは今まで感覚が麻痺していたことにようやく気がついた。  
まずいまずいまずい、なにがまずいのかを考えず、彼は左腕を動かし始めた。  
痺れが解ける際の痛痒感が一先ず他の感情を押さえ、あのどうにもむず痒い感覚を耐えることに集中出来るようになったものの、徐々に脚の温かみが伝わり始めると共に、彼の下半身はどうしても反応を始めた。  
硬くなるにつれてナギの柔らかさがより感じられるようになり、止めていた右手を再び動かし始めた。  
耳を指先でつつくと弾力があり、思わず耳たぶを優しくつねった。他とは違って冷たい感触が心地よかった。耳の裏と奥へと同時に指を這わせ、撫で回す。  
「んんっ…………うん」  
 可愛らしく零れる声に彼の左手が耐え切れなかった。ふくらはぎに触れるとすべすべで、いかに女装が似合うとはいえ、自分とは次元の違う感触に彼は今更ながら驚いた。  
力が入らないこともあって、軽く撫でるように手を伸ばしていった。太股に触れると一層柔らかな感触があり、男としての本能が妄想を掻き立てていった。  
ワンピースの中に入れた手が這い上がり、熱くなり始めたアソコをショーツの上から弄る感触、そして濡れる愛液が指先に絡みつく様を。  
「んっ、ふうぅ……」  
 お嬢様、それは反則です。そんなのに耐えられる訳ないじゃないですか! 心臓は跳ね回って彼を突き動かした。  
 右手は耳から首筋へと下がり、うなじへ伸びた。熱っぽい首筋をくすぐるように指を動かし、左手は裾を指でまくりあげつつ太股を撫で擦っていた。  
またナギの顔が熱くなり、赤くなって濡れた唇からから押し殺した声が漏れた。  
「あ……んん、ふぅ、んっ…………はぁっ」  
 鈍いハヤテにもはっきりと艶っぽい喘ぎが耳に残り、すっかり硬くなったモノを押し付けたい衝動すら沸いてきた。  
既にナギの右脚はすっかり露になり、ショーツの端が覗いていた。黒い生地との対比でより映える白い肌に、今ではほんのりと赤みが差していた。  
 
 こんな年下の子の恥かしい様子を見てしまった背徳的な感情が、却って彼の情動を焚きつける。  
もっと見たい、聞きたい、感じたい。  
 お嬢様、ごめんなさい。  
 彼はその一言を声に出さずに呟くと内腿へと手を滑り込ませた。  
 直後、乾いた音と共に土塊がハヤテの額に命中した。  
彼は全身の力を失い、我に返る。。薄れ行く意識の中で辛うじて両手を地面に放りだした。  
 
「いつまで寝ている、起きろ」  
 ナギは地面に寝っ転がっているハヤテを見下ろし、命令した。  
「うーん、体中が痛いんで――お嬢様!」ハヤテの目が開いた。慌てて上体を起こし、動揺を隠せない様子だった。そんな執事に、ナギは叱るというよりは哀れみをもって両手を組み胸を張った。  
「お前はそんなにやわだったのか、ハヤテ。執事失格だな」後の一言に反応したのか、彼は飛び退いて背筋を伸ばして畏まった。  
「いえいえいえ、大丈夫です! もう痛くなんてありません!」  
 やはりハヤテのわけは無い、そう結論付けてナギは踵を返して歩き出した。  
「もう泣き言を言うな、さっさと帰るぞ」  
 足音がついてきて、すぐにハヤテが隣に並んだ。「お嬢様、どこもお怪我はありませんか?」  
「服が汚れた。まあ怪我は無い……クッションになってくれたみたいだからな」  
 ナギは泥だらけのハヤテを見上げて言った。  
「いいか、元はといえばお前がヘマをするからこんなことになったではないか」  
「申し訳ありません」  
「まあよい、これからは気をつけることだ。お前が伸びていたら私を守る者がいなくなるではないか」  
その瞬間にハヤテの表情が凍りついたことに、ナギは気がつかなかった。  
 やはりあれは夢だったのかと、あまり納得がいかないままにナギはハヤテと共に帰路に着いた。  
 

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