(落ち着け綾崎ハヤテ。これはきっと何かの罠だ……)
そう何度言い聞かせた事だろう。奇遇にも先ほどヒナギクから出された問の中の
選択肢の二人が同じ湯舟に浸かっている。左にはヒナギク、右には歩が。
「……………」
「……………」
「……………」
(う……間がもたんというか何も発する事が出来ない。左右に視線をそらす事もできない。
ただただ前面のみを見る)
「このままずっと浸かっていてものぼせて倒れちゃいそうですね」
愛想笑いを浮かべつついっても視線は前方なのでまるで独り言の様であった。
「……だったらまず綾崎君から体洗ったら?」
「えっとそのこっちみないでくださいよ?」
「見るわけないじゃない!」
「私はそのごにょごにょ(ぶくぶく」
語尾は湯舟の中で聞こえなかった。
とりあえず針のむしろのようなこんな風呂はとっととあがらなければと体を洗う事にする。
ザバッ
(う……このちらちらと感じる視線は気のせいに違いない……)
そう思いながらも椅子に座って蛇口をひねる。
「あ、あの…!」
「え?」
歩が意を決したように声を掛けた。
「このままだと別々に入ればいいじゃんってなりませんか?」
「え? ……それはまぁ……」
そもそもこの成り行き自体どうなんだろうと思えなくもない。
別々に入るべきだったんじゃないかと思っていたりもする。
「だから……ハヤテ君の背中が流します!」
「ええ!?」
ハヤテとヒナギクが同時に驚く。
(言っちゃった……)
歩の頭の中がぼっぼっと熱く混乱してるのはお風呂のせいだけではなかった。
「そ、そんないいですよ……」
「いえ流します! あ、ううううう、うしろ見ないでくださいね……」
スポンジにボディソープを付けて背中をこすり始める。その弱い力に改めて歩に背中を
洗われてるという実感がわく。
(うしろで西沢さん裸なのか……)
そう思ってしまうとドキドキしてしまう。歩は歩で。
(ハヤテ君の背中……やっぱり男のって感じ………あ…)
下の方にまで目をやると尻まで目に入ってしまう。
(あわわわわわ……ハヤテ君のお尻……生でみちゃった……)
タダでさえのぼせ気味の顔がさらに赤くなる。
「それじゃお湯流しますね……」
「あ……はい」
「………」
「…………」
「……………」
(クッソー!! なんだその新婚ラブラブカップルみたいな光景はー!!)
[手近に皆様の声を代弁するツッコミがいましたので桂ヒナギク(生徒会長・15歳)に
ツッコンでもらいました]
「綾崎君おわった? それじゃ今度は私の番ね。綾崎君に背中流してもらおうかな」
「えぇぇぇぇっ? ヒナギクさん?」
「なによ? 西澤さんに背中流しておいてもらって自分はなにもしない気?」
「それはそのえっと……」
(え、えらいことになったなぁ……)
そう思わずにはいられないハヤテであった。