2.  
 
どうしてこんなことになっているのか・・・  
彼女は自分の現在の境遇について、考える。  
まず・・・そう、姉だ。  
あの人の大失態を詫びるために自分はここへやってきたのだ。  
そして、彼。  
現実を受け入れられなかったからか、皆に会わせる顔が無かったからか・・・  
言葉も無く、姿を消してしまった。  
気持ちは分からないでもないし、それは身内の責任でもある。  
だが、こっちとしてはそんな風にいなくなられては心配でたまらない。  
だからすぐにでも捜しに行きたかったが・・・何せ場所が場所である。  
冗談みたいに広大な三千院家の敷地をこんな夜中にさ迷うなど、二重遭難するのが目に見えている。  
だからこそ、この屋敷に精通している彼女に彼のことを託し、  
自分は夜一人で眠れないというこの子と眠ることになったのだ。  
 
そこまで思い返して、彼女の思考は停滞する。  
そう、そこまでなら辻褄は合っているのだ。  
事の発端になった姉には多少の制裁を加えたいし、心配をかけさせられた彼には皮肉の一つも言ってやりたいが、  
彼や彼女の行動は、まだ理解の範疇の行動だ。  
だが・・・今の自分の状況は・・・  
 
「っ・・・ふ・・・い、いい加減に・・・」  
 
とにかく、この状況を脱け出さねばならない。  
これは、あまりにも・・・・・・異常すぎる。  
 
「あ! っく・・・止めなさいっ! あ、こ、こら! そんな・・・とこっ!」  
 
これまで体験したことのない感覚に身体を苛まれながら、それを生み出す元凶を制止しようと声を上げる。  
だが、そんな彼女の様子が気に入ったのか、  
同じベッドに横たわるもう一人の小柄な少女は楽しそうに唇を綻ばせ、  
目の前で剥き出しになっている薄い胸の先端にその唇を寄せる。  
 
「っ・・・や、やめ! やめなさいっ! ほ、ホントにっ、怒るわよ!」  
 
懸命に凄んで見せるものの、それが大して意味を為さないことは彼女自身、よく分かっていた。  
 
「ふっふ、いくらそんなことを言っても、どうせ手出し出来ないのだ、怖くもなんともないぞ?」  
 
そう言って余裕の笑みを浮かべながら、小柄な少女は指と舌で目の前の突起を弄り回す。  
 
「あ・・・ふ! くぅ、や・・・め! あ・・・っ!」  
 
小さな少女に敏感なところを撫でられて舐められて、  
身体の奥に響いてくるようなゾクゾクとする感触に思わず声を上げる。  
その刺激に対して反射的に身体をよじる度に、  
万歳するように伸ばされた彼女の腕のあたりからガチャガチャと無機質な音が響く。  
普通の状態なら二人の体力差は明らかで、小柄の少女のこのような横暴など許されるはずもなく、  
押さえつけられるなり羽交い絞めにされるなり竹刀で打ちのめされるなりが順当な結果のはずである。  
だが、二人で同じベッドに入った時は当然ながらこんな状況に陥ろうなどと考えるはずもなく、  
気が付いたらピンク色の髪の少女は、その両手をベッドの縁に繋がれてしまっていたのだ。  
―――冷たい感触でその手を戒める、金属の手錠によって。  
 
「っは・・・あ! や、め・・・っ、ナ・・・っ! いい加減に、しないと―――っくぅ!?」  
「いい加減にしないと、どうするのだ? ん?」  
「あ・・・! っく! ん! や・・・っあぁあ!」  
 
拘束された腕では抗うことも出来ず、  
彼女はただ、為すすべもなくその身体を弄ばれる。  
薄い胸の先端を這う舌で飴玉でも舐めるようにその突起を舐め転がされ、  
舐め溶かされたかのようにぬらぬらに濡れた乳首を一転、鋭い刺激が襲う。  
 
「い・・・っ! ひぁあ!? いた、ぁ、歯ぁ・・・たてる、なんて・・・あなた、本当に・・・!」  
「いつもと随分違う声だなー、いいのか? 生徒会長ともあろう者がこんなことされて感じてしまって?」  
「か・・・感じてなんかっ、いる、わ、あぁあ! いるわけ、ないっ!」  
 
言いたいことを言うと、相手の反論など完全に無視して、  
舌で、唇で、歯で、指で・・・彼女の胸を舐め、吸い、噛み、転がし、擦り、つねる。  
 
「あぐ・・・っ、ひぅ! やめ、あんっ! くすぐった・・・っあ! いた、あ!  
 やめ・・・本当に、や! ナギっ! もう、やめなさっ、あく! いたぁ・・・!」  
 
弱音などとは無縁なイメージしかなかった彼女が洩らす声は、今や強気を装おうとして装いきれず、  
必死の命令口調は泣き声のように弱々しく響く。  
いつも凛々しさと自信に溢れていた美貌も、  
今は羞恥や苦痛、悔しさといった表情に覆われて歪んで見える。  
そんな彼女を指と舌で弄り続けながら、ナギと呼ばれた少女は嗜虐的な笑みを浮かべて・・・  
 
「ダメだな〜♪ いつも私の手の届かない高いところにいるヒナギクが今はこうして目の前で転がっているのだ、  
 簡単には逃さないぞ?」  
 
心底楽しそうに、勝ち誇るかのように言い放つ。  
同学年でこそあるが、自分より年齢も体格も体力も劣る少女に組み敷かれていいように弄ばれる現状に、  
ヒナギクはただ歯噛みするしかなかった。  
 
「まぁそんな顔をするな、今からもっと気持ちよくさせてやるからな♪」  
「な・・・き、気持ちよくなんてないわよっ! い、痛くて、くすぐったいだけじゃない!」  
「ふっ、そんなことを言いながら、ここはちゃーんと・・・」  
「な・・・こ、こら! やめ! そこは、ホントに! やめ・・・!」  
 
ヒナギクの必死の反論にも制止にも全く耳を貸さず、ナギは組み敷いた彼女の白い肌に指を滑らせ、  
パジャマのズボンとショーツに隠された、秘めたる場所へと手を這わす。  
 
「ひ・・・! そ、そこはっ! や、やめなさいっ! こら! ナギのばかっ! ヘンタイ!」  
「ふ・・・口ではどれだけ強がっても、ココをこんなに・・・あれ?」  
 
ひく、と。  
それまで絶対の優位と主導権を握っていた小さな少女はかすかに眉をひそめる。  
 
「ヒナギク・・・なんで濡れてないのだ?」  
「濡れるわけないじゃない!」  
「むぅ、あれだけ感じていたというのに・・・ひょっとして、不感症というやつか?」  
「そもそも感じてなんかないっ! さっきからくすぐったいだけ、痛いだけって、言ってるじゃない!」  
「ば、バカなことを言うな! 私があれだけ手を尽くして、気持ちよくならないハズがないだろう!」  
「だからヘタなのよっ!」  
 
ガーン、と。  
そんな音が聞こえてきそうなくらいのナギのショックっぷりに、  
やられっぱなしだったヒナギクは少しだけ溜飲を降ろす。  
だが、負けず嫌いでは当のヒナギクにも決してひけを取らないナギのこと。  
ヒナギクの発言としてやったり、という表情は彼女の心の炎に油を注ぎ込み・・・  
 
「う、うるさいっ! まだまだこれからだぞ! い、いくらヒナギクだって、ここをこう責められたら・・・!」  
「え・・・あ! っく、や! ちょ、やめ・・・あぅ! 痛っ! いたいってばぁ!」  
 
ジャラジャラと鎖の踊る音が一層大きくなる。  
ナギの指がヒナギクの胸や秘所を責め立てるのだが、  
怒りと焦りとで力加減は滅茶苦茶、濡れてもいない裂け目にぐりぐりと指を押し付けられたり、  
乳首をつねるように摘まれたり噛まれたりするものだから、  
ヒナギクとしては本当に痛くてたまらず、先ほど以上の激しさで身を捩じらせて悲鳴に近い声を上げる。  
 
「むーっ、なら、これなら・・・」  
「あぐ・・・! い、た・・・っ! ちょ、ナギ、そんな、痛い、本当に痛いわよっ!」  
「む・・・」  
 
―――むぅ、何故だ・・・  
ヒナギクのあまりの痛がり様に、さすがにナギも指を止める。  
自分がいつも床を共にする彼女にされていること・・・  
いつもやられっぱなしで悔しかったので、  
それをそのまま何も知らないであろう少女にしてやろうと思ったのだが、  
自分のように簡単に乱れてくれないヒナギクに初めは苛立ち、今は困惑していた。  
だが、それも当然。  
ナギがやっていることは、ただ自分がいつもされていることを見た目だけ、手つきだけ真似ているに過ぎない。  
指先と目と耳で相手の反応を感じ取り、弱いところ、感じやすいところを看破して、  
指や舌の動きに微細な補正を加えつつ初見の相手だろうと身体を強制的に悦ばせるようなテクニックは、  
人に仕えることのプロフェッショナル、超一流のメイドでもない限り真似の出来るものではないのだ。  
 
そして超一流のお嬢様には当然ながら人の反応の機微など読み取れるハズもなく、  
かといってこのまま手を引いてしまっては負けを認めるようなもの。  
それに正直、ヒナギクの仕返しも怖い。  
ならば今出来ることは、と考え・・・  
 
「う・・・んっ! く・・・」  
 
一向に湿ってこないヒナギクの秘所から手を離すと、  
ふたたび彼女の胸に優しく、柔らかく舌を這わせてみる。  
双丘のふもとから動き出したナギの舌と唇は、なだらかな斜面を涎を擦り込むようにじりじりと這い登り、  
頂きの小さな突起をぺろり、と舐め上げる。  
 
「ひく・・・や、め・・・くすぐ・・・ったいって、ば・・・!」  
 
結局、相手が痛がって仕方無いのだから、痛くないように優しくする・・・  
くらいのことしかナギには取るべき手段は無く、  
要するに単なる消去法の結果とも言える消極的な一手だった。  
だが、力加減のまるで無い責めのせいでヒリヒリと痛む敏感な場所に、一転して優しい愛撫を重ねられ・・・  
ヒナギクの身体はこれまでと違った反応をする。  
 
「ひ・・・っふ・・・う、ぁ・・・・・・ん・・・っ」  
「む? ヒナギク、お前・・・心なしか・・・」  
「な、何よっ!? べ、別に、なにもないわよっ! 別に・・・っ、ふ・・・ぅ」  
 
ナギの優しいが拙く、弱すぎる舌使いが痛みで敏感になってしまったソコに染みる。  
さっきまではくすぐったくて不快なだけの感触だったハズなのに、  
それとは全く種類の異なる感覚が、じんわりと身体の中に染み入ってくる。  
 
「・・・あ・・・っく・・・ん、ぁ・・・ぅう・・・」  
 
先程の悲鳴じみた声とは違う、もっと身体の奥から滲み出すような響き。  
ナギもなんとなくそれに気付いてはいるのだが、何せたった今根拠の無い自信を喪失しかけたばかり、  
しばらくは優しく、弱く・・・と心がけながら消極的な愛撫を続け、ヒナギクの様子を見る。  
対して、ヒナギクとしてはこの行為が如何に無駄であるかをナギに思い知らせて、  
一刻も早くこの状況を終了させたくて堪らない。  
それは勿論、手錠で拘束されて同性の少女から性的な行為を強要されているという、  
あまりにも突き抜けて異常な状況から逃れたいことは勿論なのだが・・・  
今は、もう一つの懸念が生じている。  
胸に染み込むナギの舌の感触が、少しずつ、だが確実に・・・彼女の身体におかしな感覚を植え付けているのだ。  
その、何か妖しげな・・・少なくとも15歳の少女が知ってはいけないような、  
廃退的で自堕落で、蕩けるように甘い感覚が何であるか・・・  
ヒナギクはそれを知らなかったが、状況から想像することは容易だった。  
 
―――性的興奮。  
それは、生徒会長らしく教科書的に健全な頭の固さを持つヒナギクにとって、決して受け入れられないもの。  
百歩譲って興味が全くのゼロとは言わないとしても・・・少なくとも、今の状況では絶対に認められないもの。  
だから、この感覚は何が何でも絶対に否定しなければならない。  
ならないのに・・・どうしても・・・  
 
「っ・・・あ・・・ぁ・・・っ、ん・・・ふ・・・ぁ」  
「やっぱり・・・ふふふ、ヒナギク、息が乱れてきているぞ・・・?」  
「あ・・・ん・・・そ、そんな! くすぐったくて、ちょっと、呼吸が荒くなっただけよっ!」  
「ふぅ・・・ん? これくらいで呼吸を乱すなど、白皇の生徒会長として恥ずかしくないのか?」  
「な・・・! それと、これとは・・・! っ・・・や、め、ナギ・・・っく」  
 
ヒナギクを挑発しておいて、彼女の胸の先端を口に含むと小粒の果実を丹念に舐め転がす。  
キャンディーをしゃぶるように舌の腹で擦り、舌先で突付き、唇でちゅうっ、と吸い上げる。  
執拗にそこだけを責める小さな少女の愛撫に、白皇の生徒会長の声は僅かに上擦ってくる。  
 
「あん・・・くぅ、んく! ・・・っ、ナギ・・・こんな、もう・・・やめなさいっ!」  
「ちゅ・・・ぷ、んちゅ・・・ふふ、だんだん声に余裕が無くなってきてるぞ? やっと感じ始めたようだな!」  
「な・・・! そんな・・・訳、ない、っく・・・、で、しょおっ!」  
 
負けず嫌いのサガか、挑発されると言い返さずに居られないのだが、  
その度に息の乱れは激しくなり、己の醜態を隠すことができなくなってしまう。  
 
「全く、呆れるくらいに負けず嫌いだな・・・だが、ふふふ・・・身体の方は正直みたいだぞ?」  
「え、あ・・・く! は・・・っ、ちょ、いや! やだ、や、やめ・・・そこ・・・んぁあ!」  
 
じゃら、と鎖を鳴らしてヒナギクの身体が跳ねる。  
執拗に舐めしゃぶられる胸に“耐えよう”とする意識を集中していたヒナギクは、  
一度責められて解放されたもう一つの急所への刺激に対し、余りにも無防備になっていた。  
 
「な、な、ナギっ!? また、そこっ! 触って・・・何をかんが・・・っ、え、あ! っふ・・・!」  
「ふふん、どうしたヒナギク? 随分頼り無い声を出して、ますますおまえらしくなくなってるぞ?」  
「だか・・・らっ! そこ、さわる・・・の、やめ、なさいっ!」  
「ふ〜ん? では聞くがヒナギク、そこっていうのは、何処のことなのだ?」  
「え・・・な!? だ、だからっ! そこは、その・・・な、ナギが触ってる、あ、あそこに決まってるでしょ!」  
「曖昧な答だな〜、もっとはっきり何処のことか具体的に言ってくれないと、止める事はできないなっ♪」  
「――――――っ!」  
 
ナギの指に弄られながらヒナギクが口にするのを憚る“そこ”とは、言うまでもなく彼女の陰部。  
再びショーツの下に潜り込んで来た責め手の指は、先程の強引な愛撫に対するヒナギクの反応を踏まえてからか、  
優しく、ほとんど圧力を感じさせない強さで彼女の秘裂に触れ、撫で、摩る。  
未だに濡れてはいないが、それでもぴっちりと閉じた割れ目に指を這わせ、その筋や秘唇をさわさわと撫でると、  
ヒナギクの身体は手錠の鎖を鳴らしてびくんと震え、上擦った声が洩れる。  
 
「ひ・・・っ、んく・・・ぅ! ナギ・・・やめ・・・っ、いい加減に・・・いっ!」  
「なんだヒナギク? さっきだって同じところを触ってやってたのに・・・さっきみたいに嫌がらないんだな〜♪」  
「あ・・・ふ! い、嫌がってるわよっ!」  
 
ぴちゃぴちゃとわざとらしく卑猥な音を立ててヒナギクの乳房を舐めしゃぶり、  
思い立ったように唇を離しては彼女を言葉で責める。  
反論するヒナギクの声には普段の彼女らしい凛とした響きは無く、  
か細く上擦り震える声はナギの嗜虐欲を満たしてくれる。  
 
「そんな声で“嫌がっている”と言われてもなー? そういう声は普通、“悦んでいる”と言うのだぞ?」  
「な! ち、ちが・・・あぅ! 悦んで、なんか・・・いな、いないわよっ!」  
 
どこまでも優しい舌使いと、じらすように微妙な触れかたしかしない指使いに、  
ヒナギクの身体はいつの間にか彼女自身の意思に反してモゾモゾと切なげにくねるように蠢きだす。  
 
「ふふ、身体の動きもいやらしくなってきたぞ〜? こんな優しくされないと感じられないなんて、  
 白皇の生徒会長の身体はお子様並だな〜」  
「な・・・感じてなんか・・・な、ん、ぅく・・・!」  
 
震える声で懸命に否定しながらも・・・ヒナギクの身体のことは、誰よりもヒナギク自身が一番わかっている。  
ナギの指と舌が這い回る感触は、身体の奥からじんじんと響いてくるような甘ったるい疼き湧き立たせる。  
上擦った恥ずかしい声や情けない身体の震えが、自分の意志で抑えられなくなりつつある。  
だが、それを認めてしまうのは彼女の矜持が許さない。  
そもそもこの行為自体に納得が行かなかったし、何より彼女は負けず嫌いである。  
ここで露骨に“感じて”しまったらさぞかしナギが勝ち誇るだろうと思うと、絶対にそんな醜態は晒せなかった。  
 
「さっきから・・・んく、くすぐったい、だけ、だって・・・言ってるで・・・しょおっ!」  
 
だが、ナギから見ても明らかに感じ始めているのにそれを決して認めようとしないヒナギクの必死な姿は、  
責め手としての嗜虐欲をくすぐるだけ。  
いつも格好よく、ある意味憧れてすらいた彼女が今・・・  
自分の愛撫によって恥ずかしい声をあげ情けない姿を晒している。  
そんなゾクゾクするような感覚が、抵抗できないこの少女をもっと責めろ、悶えさせろと急き立てる。  
そんな心の声に導かれるがままに・・・  
 
「なあヒナギク、もっと気持ちよくしてやろうか・・・?」  
「き・・・っ、気持ちよくなんか、ないって・・・!」  
「乳首をこんなに尖らせてるのに、か?」  
「―――――――――っ!」  
 
ナギに執拗にしゃぶられ続け涎でとろとろに濡れている先端の小粒の果実は、  
ふやけるどころか逆に固く尖ってしまっていた。  
 
「そ、それは、ちが――――――っくひぁあ!?」  
 
必死で反論しようとするヒナギクだったが、赤い果実を指先で軽く“ぴんっ!”と弾かれただけで、  
一際高い声を上げて自らの言葉をかき消してしまう。  
そこは舌と唇の粘膜で優しく執拗に弄られ続けるうちにナギが考えている以上に過敏な器官へと変貌し、  
ただ触れるのとそう変わらないはずの刺激を、身体中を震わせる程の電流に変えてしまう。  
ガクガクと震える身体を懸命に抑えながらヒナギクは次にくる刺激に耐えようと身を固めるが、  
 
「ふふふ、ヒナギクとは思えないくらい艶っぽい声になってきたではないか♪  
 ムネでそんなになってしまうのだから、こっちも弄ってやればさぞかしいい声を出してくれそうだな〜」  
「え・・・あ、や! ちょ、ナギ! だめ! 脱がしちゃ、やめ・・・そんなとこっ! 舐めちゃ・・・ぁあっ!」  
 
ヒナギクが身体を硬くしている間にナギは彼女のパジャマとショーツを足首まで引き下ろし、  
膝を立てさせて太腿を左右に割り開くと、そこに身体を割り込ませて脚を閉じられないようにする。  
あとは覆い隠すもののなくなったヒナギクの秘所へと、その舌を這わせ・・・  
 
「ちゅ・・・ぴちゅ・・・む、まだ濡れてないのか、強情なヤツめ・・・ぷちゅ・・・ちゅる・・・」  
「んく・・・んな、何を・・・っ! そんな、濡れる、わけ・・・ぇ! な、あ、ぅあ! や、め・・・ぇ!」  
「ちゅぷ、ちゅ・・・んっ、まあいい、お前の好きな優しいやり方で、徹底的に舐め尽くしてやるからな・・・」  
「そんな・・・ん! ひぁ、やぁ・・・ そんなの、好きじゃ、な・・・んぅ! あ、ひぁ! っふ・・・んぅ!」  
 
足首を自分のパジャマとショーツで縛められ、ヒナギクは抵抗することも出来ず秘所をナギの舌に蹂躙される。  
それでもヒナギクは小さな凌辱者に懸命に抗がおうとするが、  
手も足も拘束された彼女に出来ることはただ身体をよじらせて声を上げるだけ。  
そんな動作は、ナギから見れば・・・  
 
「なんだ、そんなに身悶えして・・・やっぱりヒナギクはここを舐められるのがよっぽど好きなんだな」  
「ち、違うっ! もう、やめ・・・ひぁ!」  
 
ナギの舌は指での愛撫より少しだけ強く、ヒナギクの秘裂を繰り返し舐めあげる。  
ぴたりと閉じたままのそこを少しずつ解すように、  
たっぷりと唾液をまぶしつけてぴちゃぴちゃと音を立てて、  
そこに甘味でも感じるかのように丹念に丹念に舐り続ける。  
 
「う・・・んく、ひぅ! あ、うぁ・・・! や、め・・・なさ・・・あぅう・・・っ」  
 
秘めたるところを舐め蕩かされ、甘美で退廃的な快感が身体の芯から背筋を通って脳髄まで至り、  
懸命に強気の態度を保っていたヒナギクの心を侵す。  
声からは意思の強さを示す張りのある響きが失われ、  
薄く開きっぱなしの唇からは力ない悩ましげな嬌声が漏れだしてくる。  
ヒナギクの反応の変化にやっと手応えを掴みながら、  
ナギは堕ちはじめた少女のぴちっと閉じた裂け目を舌でなぞり、  
左右の秘唇に唇を這わせ、  
やや膨らみかけた陰核を包皮の上から舌先でつつく。  
その度にヒナギクの身体はひくひくと震えびくんと跳ね、すすり泣くようにか細い声で切なげに喘ぐ。  
そうやって秘所全体を涎でびしょびしょにされていたせいか、  
ヒナギクの身体に生じた変化に先に気付いたのは、当人ではなくナギであった。  
 
「んちゅ・・・ちゅる・・・む・・・?  
 ふふ・・・ヒナギク、おまえのココ・・・やっと濡れてきたな」  
「は・・・ふ・・・、な! そんな、ちが・・・それ、ナギの、あぅ! よ、よだれ、でしょおっ!」  
「なんだ、誤魔化しか? それとも本気で自分の身体のこと、気付いてないのか?」  
「な、なによっ! そんな、あ、ひぁ! びしょびしょに、しといてっ! わかるワケ、ないじゃない・・・っ!」  
「じゃあ・・・何故、ここの味が急に変わるのだ?」  
「え・・・・・・・・・っ」  
 
少し遅れてその意味を理解して、思考が停滞しかけたその数瞬の間に・・・  
 
「・・・・・・っ!? んむ、む! んむ――――――っ!」  
 
ヒナギクの唇は、ナギの唇で塞がれる。  
唐突すぎる行為に一旦は完全に思考停止するが、何か・・・妙な感覚に、我に返る。  
唇を伝って何か―――おそらくナギの唾液だろう、を流し込まれる感覚、その侵入物に違和感を覚える。  
妙な味・・・酸味と、わずかな苦味と・・・そして、直感的に感じた、何かしら背徳的なもの。  
 
「ん! んんんっ! んむ―――! っくぁ、はぁっ! はあっ! な、なんてことするのよっ!」  
 
その味は認識してはいけないものだという直感に後押しされて、  
思い切り首を振ってナギの唇を振り解く。  
だが、ナギは別段それでむっとした風でもなく、  
むしろ酷く楽しそうに涎で濡れた唇を舌でぺろり、と舐めて・・・  
 
「なぁヒナギク、自分のの味は美味しかったか?」  
「・・・・・・え?」  
 
しばらく質問の意味がわからなかったが、意味ありげに微笑む彼女の顔を見ているうちにやがて思い当たり・・・  
 
「な・・・な・・・!」  
「どんな味だったか? 自分のえっちなお汁の味は?」  
「あ・・・・・・」  
 
違和感を覚えた、酸味が強くてちょっと苦い、あの味。  
それを注ぎ込んだナギが直前まで舐め、啜っていた場所・・・  
自分が何をされたか、何を味わったかを理解して、ヒナギクの心がぐらりと揺れる。  
濡れる、ということがどんなことかは知識としては知っていたが、  
自分がそういうことになるなど考えたこともなかった。  
 
ヒナギクには自慰経験が無い。  
友人たちがコソコソと、楽しそうに話すその手の話題を聞くとはなしに聞きながら得た知識から、  
それは酷く浅ましく、自堕落な行為に思えた。  
だから女性として魅力的になりたいという願望は普通にあっても、  
女性としての性に関する欲求はかなり薄い方だった。  
恋でもすればその認識も多少は変わるかもしれない、とは本人も思ったことはあるが、  
幸か不幸か彼女の周囲にそんな特別な異性は現れてはくれなかった。  
・・・ごく最近まで、は。  
 
「どうしたヒナギク、呆然として・・・そんなに自分のが美味しかったのか?」  
 
相変わらず楽しそうに話し掛けてくるナギの言葉に、  
言葉どおり呆然としていたヒナギクははっとして・・・その顔を、真っ赤に染める。  
自分には無縁なハズだった女性としての・・・浅ましい、卑猥な・・・淫らな反応。  
それをよりによって女性同士の、無理矢理な行為で・・・  
 
「ふふん、いい顔になってきたな〜♪ じゃあ、もっと可愛くしてやるぞ♪」  
「・・・え・・・あ、や! いやぁ!」  
 
ちゅるっ、ちゅるる・・・ぢゅるるっ!  
 
ナギは再びヒナギクの脚の間に顔を埋めると、  
少しずつ愛液を滴らせ始め、うっすらと綻んできた彼女の秘裂に舌先を沈み込ませ、  
彼女の蜜を一滴も洩らすまいとするかのような執拗さでソコを舐めとって、啜り込む。  
 
「ひぅ・・・っ、あ、んぁ! ぁあ、ぅあ! や・・・め、なさ、あぁあ!」  
 
ナギの舌使いは依然柔らかいままだが、ヒナギクのソコが綻んだ分だけその舌先は奥に届く。  
身体の奥の、甘く疼くところにまで届いてしまいそうな刺激に、  
ヒナギクは乱れる意識を抑え込むことができなくなっていた。  
 
「あ・・・っ、ひぅ・・・ぅ、ん! やめ、ナギぃ・・・だめ、あぁあ!」  
 
自分の身体がこんな行為で、反応してしまったこと、  
それを意思の力で抑えられなかったこと、  
相手に気取られてしまったこと。  
自分自身への失望と、無駄に終ってしまった抵抗のリバウンドからか・・・  
ナギの愛撫が身体に塗りこんでくる官能という甘美な毒に、彼女の心身は呆気ないほど簡単に蝕まれてゆく。  
どれだけ表情を歪めても決して強い光を失わなかった瞳は羞恥と屈辱、そして悦楽で濁り、  
口をつく拒絶の言葉はもはや抵抗の意味を持たない、単なるあえぎ声でしかなかった。  
 
―――堕とせる。  
ナギは自分の愛撫によってヒナギクが確実に蕩け、昂ぶっているとの手応えを感じ、満足そうにほくそ笑む。  
これまで聞いたこともないようなヒナギクの弱々しく悶えさえずる声は、  
これまで毎晩、こういうことを一方的に“される”側だったナギの心を愉しませてくれる。  
あとはもう、痛がらせないように優しく苛め続けてやれば、ヒナギクが登り詰めてしまうのは時間の問題だろう。  
完全な優位を確信しているナギに、焦りはない。  
ゆっくりとじっくりと丁寧に舌を操り、  
ヒナギクの秘裂から溢れる蜜を一滴残らず掻き取ってやろうと愛撫を続ける。  
真っ暗な部屋には、ぴちゃ、ちゅぱ・・・と、子猫がミルクを舐めるような音と、  
 
「んぁ・・・あぁ! あく・・・ぅう・・・んっ! ひ、ぁ・・・あぅう・・・、ん、んぅう!」  
 
切なげに潤んだ少女の呻き声が響く。  
責め手の少女は、その声の主が“達しまい”と懸命に耐えながらも快楽に押し流されて紡ぐ、  
抑えきれない喜悦の喘ぎと受け止めていた。  
そして、受け手の少女は確かに耐えていた。  
だが、快楽を抑えようとしていたのは最初だけ。  
今の彼女―――ヒナギクは、もっと深刻に辛い局面に陥っていた。  
 
「ひぁ・・・あ、あぁ・・・! も、あ・・・ぅく・・・んっ! あ、あふ・・・うぁ、あ・・・ぁ」  
 
ナギは気付いていない。  
ヒナギクの声から、“やめて”“とめて”という拒絶の言葉が消えていることに。  
優しすぎる愛撫はヒナギクの官能に火を点けこそしたが、決してそれが燃え上がることは無く、  
舌使いに相応の弱い快感がただじりじりと身体を燻らせるだけ。  
火の点いた身体は―――本人の意思によらず、もっと強い刺激を、快楽を求めているのに。  
 
初めは、“感じている”こと自体を懸命に否定していた。  
声や身体の震えで否定しきれなくなっても、この未知の快楽に呑まれないように必死に抵抗した。  
ぞくぞくするような快感がそれ以上膨らまなくなって、ぐらついていた意識が少しずつ立ち直って、  
自分はちゃんと己を律している、耐えていると思えた。  
だが・・・初めての体験に混乱していた心身が状況に、刺激に慣れてきた時、ヒナギクの心に浮かんだのは―――  
“足りない”という感覚。  
燻りだした身体は少しずつ、だがはっきりと刺激を欲し始めていた。  
その感覚は初め、ヒナギクを物足りなさでソワソワと落ち着かなくさせ、  
次いで物欲しさで身体をウズウズと疼かせ、  
それは徐々にジリジリと身体の奥を焦がすような、悦楽に対する切実な渇きとなった。  
 
「ん・・・あぅう、ふ・・・あ、ぁあ、も・・・っ、んく・・・ぅ」  
 
もっと強く押し付けてほしい・・・もっと深くえぐってほしい・・・もっと激しく擦りつけてほしい・・・!  
必死に否定していたハズの浅ましく淫らな欲求は、いまやヒナギクの心を覆い尽すほどに膨らんでいた。  
そのことをただの一言でもナギに伝えれば、  
彼女は喜んで舌と指を駆使してヒナギクの望んでいるものを与えてくれるだろう。  
微弱な愛撫で燻る身体に刺激という新鮮な空気を送り込み、簡単に燃え上がらせてくれるだろう。  
 
だが、たったの一言・・・“欲しい”、という言葉が出ない。  
何度も喉元まで出かかったが、決して口にすることはない。  
そのような浅ましい言葉を口にすることをヒナギクのプライドが許さないのだ。  
言ってしまえば楽になれる、気持ちよくなれるとわかっているのに、  
彼女の肉体はそれを求めてやまないというのに、  
それでも・・・自分から求めること・・・屈することだけは、出来ない。  
 
「ぴちゅ・・・ちゅ・・・どうだヒナギク、すっかりえっちな声になって・・・  
 そろそろイきそうなんじゃないのか? 我慢しなくていいんだぞ〜♪」  
「あく・・・っ、ふ・・・ば、バカな、こと・・・言わないでっ! ・・・これくらいで、イくワケないでしょっ!」  
「ふぅ〜ん? じゃあいいけど・・・いつまで、強がっていられるかな〜?」  
 
余裕綽々、といった風で声をかけておいて、ナギは再びぴちゃぴちゃと舌を鳴らし、  
ヒナギクの秘所を舐めまわす。  
辛そうなヒナギクの声や態度が、イきそうなのを必死に堪えている姿だと信じて疑わないナギは、  
ただ淡々と舌を動かすだけで、それ以上の責めを加えようという素振も見せない。  
自分から求めることが出来ないヒナギクが“これくらいで”と密かな期待を込めて挑発してみても、  
既に彼女を堕としたと思い込んでいるナギにはそんな言葉の裏を読む気すらない。  
ナギの舌使いはどこまでも緩慢で、  
ヒナギクの身体を官能の昂ぶりで悦ばせるにも、心を性の悦楽で堕とすにも、刺激が不十分過ぎた。  
 
「っ、うぅう・・・! あ、ふぁ・・・ん! い、ひゃ・・・も、うぁ・・・あく・・・こんな・・・ぁ」  
「ちゅ・・・るっ、ふふ・・・なんだかもう限界間近って感じだな、我慢しないで、イっていいんだぞ〜?」  
「・・・っく、イ、く・・・わけ、ない・・・で、しょおっ!」  
 
切なげな声もびくびくと震え身悶えする身体も、ヒナギクの精一杯のアピールだったが、  
ナギは決して気付いてくれない。  
勘違いも甚だしい発言に怒りすら覚えるが、それでも・・・浅ましい欲求が消えてくれることはない。  
ぴちゃぴちゃと秘唇を撫でる舌はいつまでも軽い音しか立てず、  
秘裂のごく浅いところまでしか入ってきてくれない。  
陰核に触れる唇や舌先も、あくまで包皮の上から軽く触るだけで、押しも摘みもしない。  
初めはあれだけヒナギクを乱し昂らせたナギの一人よがりの愛撫も、  
今や決して達することの出来ない半端な快楽しか与えてくれず、  
拷問のような責め苦としか感じられなくなっていた。  
 
「あふ・・・くぁ、あ・・・ひう・・・もう・・・っ、も・・・お・・・っ」  
「ん・・・っぷ、ぁ・・・ん? もう、なんだ? イきそうなのか?」  
「ち・・・っ、が・・・っ、イか、ないっ! イけない・・・わよ・・・ぉ、こんな・・・あ、くぅ・・・!」  
 
―――もっと、もっと強くして・・・もっと激しくしてぇ・・・  
 
決して満たされることのない身体と心は快楽に飢え、  
気持よくなりたいという本能から湧き出る欲望は、  
ついにヒナギクの最後のプライドすらも侵しはじめる。  
 
―――もっと乱暴にして・・・もっと、めちゃくちゃにしてえ!  
 
言いたい。  
言ってしまいたい。  
負けでも何でもいいから、  
もう、今気持よくなれるのなら、それでいいから―――!  
 
 
 
「もうナギったら・・・お客様をそんな声で鳴かせたらダメじゃないですか」  
 
今まさに、ナギへの屈服宣言とも言える言葉を口にしようとしたヒナギクの耳に届いたのは・・・  
 
「まったく、ナギは責めが下手なんですから、あれほどおとなしくしてて下さいね、って言ったのに・・・」  
「な、い、いつ帰ってきた!?」  
 
主の問いに答えず、サイドテーブルの読書灯を点し浮かび上がったのは・・・  
いつの間にか外出から戻っていたマリアの姿だった。  
彼女の突然の出現にヒナギクは驚き、出かかっていた言葉を呑むが、ナギの動揺はそれ以上だった。  
 
「ま、マリア、これは、その・・・だ、だけど! お前も聞いていたならわかるだろう!?  
 ちゃんとヒナギクを感じさせて、もう少しで・・・」  
「そんなやり方では気持ちよくさせるどころか、もう少しでヒナギクさん、壊れちゃうところですよ・・・」  
「んな・・・!」  
 
さらりと否定されて絶句してしまうナギに構うことなく、  
マリアはサイドテーブルに投げ出されていた鍵を目ざとく見つけると、拘束されていたヒナギクの腕を解放する。  
 
「ごめんなさいね、ヒナギクさん・・・手錠の跡、こんな赤くなっちゃって・・・」  
 
そう言ってヒナギクの手を取ると、手錠と擦れて赤くなってしまった手首にとても自然な動作で唇を寄せて・・・  
 
「・・・ひぅっ!?」  
 
ぺろり、と舌を這わせる。  
かすかにしみる痛みと、ぞくりとするような柔らかく温かい感触に、思わずヒナギクの上擦った声が洩れる。  
 
「でもよかったですわ、傷にならなくて・・・  
 こんなキレイな肌を傷つけては、ヒナギクさんのご家族になんと説明すればよいのやら」  
 
そう言いながら、じとり、と、ナギを見据える。  
マリアが現れてからのナギは、先程までヒナギクに対してとっていた尊大な態度は見る影も無く、  
子猫のごとくベッドの片隅で怯えながら、使用人であるマリアと目を合わせないようにしている。  
そんな主の姿を見てニヤリと意味ありげな笑みを浮かべてから再びヒナギクに視線を戻し、  
 
「それに、辛かったでしょう?  
 あの声の感じですと、もっと気持ちよくして欲しいのを必死に我慢していたみたいですし」  
「・・・え」  
 
笑みを浮かべたまま、ヒナギクに問い掛ける。  
だがそれは、ヒナギクをそんな状態にした当人ですら全く気付かなかったこと。  
 
「なのにナギったら、きっと延々と優しくしかしてくれなくって、  
 ヒナギクさん、もう身体が疼いて疼いて、もっと強くして欲しくて仕方なかったんじゃないかしら?」  
 
かぁ、とヒナギクの顔が真っ赤に染まる。  
例え心が折れかけて、衝動的にプライドを捨ててまでナギに情けを乞おうとしたとしても、  
結果的に隠し通せたハズの内心を呆気なく見抜かれた恥ずかしさに、一度は安堵した心が激しく揺れる。  
 
「そ、そんな、こと・・・っや!? あ、ひぁああっ!」  
 
慌てて否定しようとした言葉は、またしてもヒナギク自身の声でかき消すハメになった。  
だが今度の声は・・・情けないくらいに甲高く、あられもない・・・雌の声だったのが、彼女自身にも自覚できた。  
ヒナギクにそんな声を上げさせた主は相変わらず艶に満ちた笑みを絶やすことなく・・・  
 
「ほら、わかるでしょう、ナギ? ヒナギクさんも最初は痛がっていらしたと思いますけど、  
 慣れてしまえばこれくらい・・・ちょっと痛いくらいにされた方が感じるって・・・  
 あなたの身体にしっかり教え込んだハズなんですけどね〜?」  
「あ・・・う、うん・・・で、でも! その・・・最初、凄く、痛がったから・・・」  
「ま、マリアさんっ! やめ・・・むね、あ、ひゃあ! だめ・・・んくっ! ひゃうっ!」  
 
異様な怯えを見せるナギに話し掛けながら、  
マリアの指はヒナギクの薄い胸の頂きに実る果実を、その弾力を確かめるようにきゅ、きゅっ、と摘まんでいる。  
その度に上がる女としての悦びを隠し切れない嬌声は、マリアを激しく“そそらせる”ものであったが、  
マリアは自分の為に、この声を聞きたいが為にヒナギクを責めているのではなく、  
むしろこの声を“聞かせる”為に行っている。  
そしてその対象は、ヒナギクでもナギでもなく―――  
 
「さて、それでは・・・わかってますわよね、ナギ・・・お客様に不快な思いをさせてしまった以上、  
 今夜はた――――――っぷり、お仕置きして差し上げる必要がありますね〜♪」  
「い、いい、いや、その・・・そ、そうだ、先に、ヒナギクを!  
 ほら、その、気持ちよくさせてあげないと、辛いんだろう!? だったら、まず客の方を・・・!」  
「ご心配には及びませんわ? ヒナギクさんには、もっと適当なお相手がいますから」  
 
艶やかに、楽しげに、妖しげに微笑んだまま振り返り、  
 
「―――ね、ハヤテくん?」  
 
びくん、と。  
その名前に二人の少女が反応して、マリアの背後の暗闇に目を向ける。  
そこから・・・彼女の声に応えるように、読書灯の照明範囲に歩み入って来たのは―――  
 
「は・・・ハヤテ・・・おま―――」  
「い――――――きゃぁぁああああああ!」  
 
ナギの声を掻き消すように、ヒナギクの声―――絶叫が、部屋に響く。  
声の主は酷く錯乱しながら、肌蹴た胸を手で、脱がされた下半身を両膝で覆い、  
彼の・・・異性の目から半裸の身体を懸命に覆い隠そうとする。  
 
「見ないでっ! 見ちゃダメぇえええ!」  
 
―――裸を見られた! 声も・・・さっきの恥ずかしい声も聞かれた・・・!  
 
ヒナギクの顔は湯気が出るんじゃないかと思うほどに真っ赤に染めながら、  
どうしようもなく混乱し震える手で懸命に着衣を整えようとしている。  
着ているものは簡単な構造のパジャマなので、それはどうということの無い単純作業のハズなのだが、  
ヒナギクはそんな作業さえ充分にこなせない程に混乱しきっていた。  
いや―――それだけではない。  
見ないようにしていても、わかってしまう。  
彼が・・・ハヤテが、自分の半裸体を食い入るように凝視しているのが。  
マリアの言ったことが、考えたくも無いのに勝手に頭の中でリピートされる。  
―――ヒナギクさんには、もっと適当なお相手がいますから。  
相手。 自分を、気持ちよくなりきれなくて苦しんでいた自分を気持ちよくさせるための、相手。  
それはつまり―――――――――  
 
「ではハヤテくん、私はここでナギに少々お仕置きをせねばなりませんので、  
 ハヤテくんはヒナギクさんを・・・そうですね、ハヤテくんのお部屋で結構ですので、  
 ちゃ―――んと、気持ちよくして差し上げてくださいね?」  
「はいっ! 三千院家の執事として、恥ずかしくない結果を出します!」  
「ちょ・・・は、ハヤテく・・・ん?」  
「うふふ、その意気ですよ? まぁ、ハヤテくんについてはそんなに心配していませんので、  
 ちゃんとヒナギクさんを満足させて・・・あとで私の部屋に連れてきて下さいな」  
「ま、ま・・・りあ、さん・・・?」  
 
ヒナギクの懸念も羞恥も怯えもお構いなしにハヤテとマリアは勝手なことを言って、  
 
「ではヒナギクさん、失礼しますね、これから別のお部屋へお連れ致しますので」  
「え・・・ちょ、まって・・・や、やめて、やめなさ・・・っぁあ!? や、やだ、やめ――――――!?」  
 
ハヤテは未だに着衣すら整えきれていなかったヒナギクを軽々と抱え上げると、  
 
「ではお嬢様、マリアさん、失礼致します。 また、後ほど」  
 
二人に軽く一礼して、ナギの部屋を後にした。  
 
 

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