少女は今夜も眠れぬ夜を過ごしていた。
もし私が綾崎君に好意を寄せていたんだったら、こんな悶々とせずに恋敵として
名乗り出るハズよ。こういうのは私らしくない。だからこれはこれは好意を寄せてない証拠だわ。
幾度となく繰り返されるロジック。自分は綾崎ハヤテに惚れてるハズがないと言う論拠は
いくつもあげることが出来た。しかし脳が理解をしめしても心を納得させる物は何一つな
かった。それこそが惚れている証左であることを恋愛経験がない故に認めることが出来なかった。
こうして今日も今日とて離れに泊まり込んでる人間に対しての思考側と心側の朝まで
生テレビ状態が続いている。
「はぁ〜〜〜」
少し歩けば会える距離に彼がいる。それがさらに気を重くさせていた。一度は聞いても
仕方ないと思った「付き合ってるの」とい言葉。それが二人でいる時に何度となく喉を出か
かる。これもまた友人であるなら容易に聞ける事であるとヒナギクには思い当たらない。
籠もる思考はより思いを強くする。人に出せない気持ちが徐々にヒナギクの心を占めて
いっていた。
「綾崎君……」
思わず言葉に出る。その事に自分が一番驚き取り消そうとする。
(今のは違うの! 今のナシ!)
顔が熱い。きっと赤くなってるだろう。誰に聞かれた訳でもないのに恥ずかしさがこみ上げる。
(違う! 違うんだってば!)
だってほら、「綾崎君」じゃない。マラソンの一件から“ハヤテ君”から“綾崎君”に何とは
なしに呼び方を変えていた。自分でも依怙地な気が気がしないでもなかった。バレンタイ
ンの件から完全に綾崎君で通していた。今更もどすのもなにやら負けたような気がして
ずっとその呼び方で通していた。今も言葉に出たのは”綾崎君”だった。これは切り替えが
出来ている証拠と自分を説得する。その説得力に虚しさを覚えながら。
「はぁ〜〜〜」
再びため息。こんなの自分が思い描く桂ヒナギク像からかけ離れていた。実際に胸が息
苦しく感じられてそっと手を当てる。伝わる鼓動は正常。息苦しさは相変わらずであった。
少しは良くなるかと撫でてみる。
「ん……」
パジャマの裏地が乳首に軽く擦れる。
(って違うくて! こんな事したい分けじゃ……)
だけども手は止まらなかった。
「ん……ぁ……」
固くなる乳首の感触が指の腹に伝わる。
(ダメ……ヒナ……こんな事しちゃ……)
数年前これが“自慰”という好意であることを知ってもうしないと決めていたのに。
手が止まらないまま快感をつたえてくる。
「んぁ……あっ…はっ……」
(せめて綾崎君じゃなくて……)
違う事を夢想しなくてはと思うのに脳裏に出てくるのはハヤテの屈託のない笑顔である。
「だめ……んっ……」
(こんなの私じゃない……)
必死で否定をする。それでもこみ上げる感情。それが堰を切ってあふれ出ようとする。
(一度だけ……)
顔を枕に埋める。顔を枕に押し当てながらぼそりとつぶやいた。
「あ、綾崎君……」
小さい声ながら今度は明確に意志をもった発言。言ってしまったという後悔の念とそこ
からくる高ぶりのような快感。
一度堰を切った思いは表に流れ出し始める。
「……綾崎君…綾崎君」
自分の胸をいじりながら何度もハヤテの名前をつぶやく。破廉恥な行為であると自覚す
ればするほど興奮した手がさらい刺激を与えてくるようだ。
「んっ……」
胸ばかりでは物足りなくなった手が秘部へといざなわれる。パジャマの上からでも熱く
感じられるそこをやさしくなではじめる。
「んあっ……あっ……あん!」
胸と比べ物にならない快感がヒナギクを襲う。何年前かの自慰の間隔が呼び覚まされる
あのときは無意識であったが今はそれと知りながら。一人の男性を思いながら。
「綾崎君………ハヤテ君…」
呼び方を戻してみる。今はもう逆に言いづらくなってしまった言葉。
「ハヤテ君……ハヤテ……んっあっ……」
手はいつしかパジャマの中に入り秘唇をちょくせつにさわっていた。にちにちと濡れた秘
裂が擦れる音が聞こえる。
「あ……あんっ……ふぁ……ハヤテ……」
固くなっているクリトリス。それをいじりながらハヤテの名を口にする後ろめたさ。
「あっ……あぁぁ! ……あっあっ」
以前にはなかった高ぶりが迫ってくる。少し恐怖感はあったが指を止めることができなかった。
「あ……だめ……こんなの……ああぁぁぁぁっ!」
今までにない快感とともに頭の中が真っ白になるような感覚と体がつっぱりそうな硬直に
襲われる。とても長い時間に思われた。
体が弛緩しようやく体の自由が戻る。
(あぁ! 私なんてことを……)
どうしようもないほどの罪悪感がヒナギクを襲う。
(よりによって私、綾崎君が家に泊まりに来てる時に……)
自己嫌悪に陥っていたちょうどその頃、姉はと言えばヒナギクとは逆にハヤテの事を
綾崎君からハヤテ君に呼び方を変えていたのは知るよしもなかった。
不器用で器用な姉と器用で不器用な妹であった。
──翌朝
「あ、ヒナギクさんおはようございます」
ハヤテが揺るんだ笑顔で挨拶をする。その笑顔が昨夜自分の脳裏で思い描いた笑顔と
被ってしまう。ともすれば昨夜の行為を思いだしてしまって赤面してしまいそうになる。
「お、おはよぅ」
最低限挨拶は交わすものの赤面してしまうのを防ぐためぷいとそっぽを向いてしまう。
「あれ?」
あきらかに昨日よりも悪化しているヒナギクの態度に訝しく思う。。
(こ、これはマズイ……本格的になんとか原因をつきとめないと……)
そう焦るハヤテであった。