「若……」  
「ん? なんだよ?」  
「……いえ、何でもありません」  
「なんだよ。あ、そうだ。今度入れるDVDは明日届くからな」  
「はい、分かりました……」  
 
 
メイド、サキとのゆるやかで、穏やかな日々。  
いつもと変わらない日常はその日に終わりを告げることになる。  
いや、むしろワタルは気付けなかった。その毎日の中の僅かな異変に。  
後悔は無意味であり、起きてしまったことは変えられない。  
あの日常を取り戻すことなど二度とできない。  
彼女の笑顔を、ワタルはもう見ることはできないのだ。  
 
 
 
ワタルは最初何が起こったのか理解できなかった。  
ビデオショップの自動扉が開いた瞬間にまるで風のように目の前を黒い何かが超高速で走りぬけた、と思った時には視界が暗転していた。  
ただ、最後に見た光景の中で、サキが悲しげな表情をしているように見えた。  
 
 
 
「――――――――――――っ……」  
……ってぇ……。  
意識を取り戻し始めたワタルは最初誰かの声が聞こえた気がした。  
けれど、ワタルは後頭部の痛みのせいで何を言っているのか分からなかった。  
「……あっ――――」  
なんなんだよ……。  
いってーし……。  
次第に視界も確かなものになっていく。  
「ん――――」  
声も鮮明に聞こえてくる。  
一体何が――  
 
ワタルは分からなかった。  
むしろ、理解の外、その状況を掴みきれない、信じたくない――光景だった。  
 
「あっ……入ってくる……おくっ、おくにぃっ! ああっ……!」  
いつも隣にいて微笑みかけてくれたメイドは今まで見せたことのないいやらしい表情で悶えていた。  
「サ……キ?」  
「ワタル君、起きましたか?」  
後ろからサキを犯している男は――  
「借金執事……てめぇ、何してる!?」」  
「何って……それはワタル君、性行為ってやつですよ。いわゆる人間の繁殖活動でとても快楽の伴うことなんですよ〜」  
「そんなことをきいてるんじゃねーよ!」  
場所を確かめる、そこはレンタルショップの奥にある畳のある部屋だった。  
「え……えーと、畳の上ですからきちんと靴は脱いでますよ?」  
「てめぇっ!」  
サキをハヤテから遠ざけようと飛び出そうとしたが、後ろの柱に手を縛られていて動けない。  
「くっ――――」  
「ああ」ハヤテは納得したように頷くと「これのことで怒ってるんですね」とサキに目を向けた。  
そのサキはというと、完全にワタルになど目も向けず、ただハヤテの動く腰の虜になっている。  
「んぅ! ハヤテ様、もっと……もっと動いてください……」  
「……」  
その言葉にワタルは絶句する。  
「もうこれはただの牝にすぎませんよ、ワタル君、ほら」  
 
おもむろに大きく腰をグラインドさせるハヤテ。それがとても良いのか、サキは艶かしい声をあげる。  
「あはっ! もっと、強くぅ……」  
「うるさいですよ、サキ。そんなに欲しいなら自分で動いてください」  
「は、はいぃっ!」  
途端、じゅぷじゅぷと激しく腰を動かし始めるサキ。  
「嘘……だろ……?」  
「サキが一番時間がかかりましたね、ここまでするのには」  
「なん――だと?」  
「お嬢様が一番早かったんですよ。次にマリア、ヒナギク。だいたいそんな感じですね」  
この男――。  
「何で――」  
「気持ちがいいからに決まってるじゃないですか、ワタル君。ワタル君は童貞ですよね? なら、分からないかもしれませんが」  
だからって、と叫ぶワタル。  
「本当はSEXは愛があってとか世間は言いますけど。そんなの面倒くさいじゃないですか。ただ単に色んな人を犯したい。僕はそう思ったんですよ」  
クスリ、と不敵な笑みを浮かべるハヤテ。  
「だからまわりの女はみんな僕の望みに沿うようにちょっとずつ調教してきたんですよ。それで、もう僕のペニス無しでは生きていけないぐらいに調教しました。もちろん、この女もね」  
ずん、と強く突くハヤテ。  
「んんっ! ら、らめ……よすぎますぅ……はぁ!」  
荒い呼吸で自分の胸を揉みしだくサキ。最早彼女をサキとは認めたくなかった。  
「このクソ借金執事が……そんなことしていいとでも思ってんのかよ!?」  
「知りませんよ、そんなこと。それより見てください、ワタル君」  
よいしょ、と体を反らすハヤテ。  
自然とサキの体も反り、結合部分がまる見えの状態になる。  
「サキも最初は嫌がってましたが、だんだんと快感を覚え始めまして、今ではこのように僕のを咥え込んで離しません。中ではヌルヌルと絡み付いてきますし」  
愛液でどろどろのそこはヒクヒクと蠢き、嬉しそうにハヤテのそれを迎え入れていた。  
ぐちゅぐちゅと淫猥な水音が響き、きゅう、と締め付けてるのが視認できる。  
「くっ、」  
見てはいけない。  
もうこいつはサキじゃねー……。  
「ほらほら、サキ。主人が見てるんですからもっと乱れたらどうですか?」  
「は、はいっ! あ、んんぅ! あふぅ!」  
 
円を描くように腰を打ちつけ、ハヤテに快感をもたらす。  
甘く、いやらしい牝の臭いをワタルは感じる。  
「あぐっ、ふぅ! いやぁ……すごっ、いっ、かんじ…! ますぅ、あひぃっ!」  
サキの中はもうハヤテの精を搾り出そうと小刻みに痙攣し、自身も絶頂へと近づいていた。  
ハヤテの射精款も高まっていく。  
絶頂は目前というところで……。  
「はぅ! ……んぅ……は、ハヤテ様……どうして動くのをやめちゃうんですか……」  
サキは貪欲に自分だけでも腰を動かしハヤテの肉棒から快感を貪っている。  
「動いてくださいよぅ……」  
甘い、男を誘う声でハヤテに懇願する。  
「せっかくあなたの御主人様が目の前にいるんです、奉仕したらどうですか?」  
「借金執事……っ!」  
ぎり、と奥歯を噛みしめるワタル。  
「サキ! そんなヤツの命令なんて無視しろ! オレは……オレは……」  
「分かりましたハヤテ様」  
――。  
ワタルの心は絶望に満ちた。  
「若――んっ、ちゅ……」  
サキは一旦ハヤテから離れ、這うようにワタルに近づき頬を舐め始めた。  
ワタルは動くことができず、ただその行為を受けるしかなかった。  
「やめ……ろ……」  
「んっ……れろ……ぅぷ……」  
熱い舌が頬を伝っていくのを感じる。  
「くぅ……」  
「大体ですね、ワタル君も分かってたんじゃないですか?」  
「んだと――?」  
「サキは毎日毎日僕が調教してました。だから急にこんな風になることなんてありえませんよね?」  
「それは……」  
「ワタル君は気付きませんでしたか? サキの異変に」  
黙るワタル。思い当たる節は、いくらでもあった。  
くくく、と可笑しそうに声を漏らすハヤテ。  
「サキ、ワタル君は落ち込んでるみたいですから、慰めてあげたらどうですか?」  
「ハヤテ様……」  
「僕が言ってるんです。何か不満があるんですか?」  
「いえ……やらさせていただきます。若……」  
ぐい、とズボンを下ろすサキ。  
「ぐ――」  
逆らおうとしたワタルだったがそのサキの潤んだ瞳にやる気を失った。  
「あれ? ワタル君のもう元気じゃないですか」  
「では――れろぅ……ちゅ……」  
「はっ……」  
電気が走るような感覚がワタルを襲った。  
竿、カリ、先端、と丁寧に順番に舐め上げていく。  
「チュ、チュ、らる……うぷ……れる……」  
血液が一気に集まっていくのが分かる。  
丹念に隅々までしゃぶられていく。  
 
「んぷ……る……れる、ちゅぅ……」  
棒アイスを溶かすように舌を擦りつる。その行為に本当にペニスが溶けそうな快感をワタルは受け取っていた。  
「……ちゅ、ちゅ、ちゅ――」裏スジに三回口付けをし「――はむっ……」  
そのままペニスを口の中へ入れた。  
温かく、柔らかい粘膜の感触に思わず声が漏れる。  
「ふっ……」  
「わひゃ……んぅ、んんむ……ちゅぷ、んぶ……」  
適度な唇の締め付け、中では舌が這い回り、そのテクニックを体に伝えていく。  
そのテクニックが今日昨日で成せるものではないことはワタルにも理解できた。  
だからこそ、悲しかった。  
「さて、僕も愉しませてもらいますよ」  
「んぅ――――!!」  
屈んでワタルのペニスを咥えこんでいたサキを後ろから挿入する。  
「うん? さっきより濡れてるじゃないですか、サキ。まぁ、理由は分かりますけど」  
「ぁぁ――ん、んぶぅ、はふ、ん」  
躊躇いもなく始めから激しくピストンを繰り返すハヤテ。  
じゅぷじゅぷと淫靡な音が響き、サキはさらに興奮し口腔内のペニスを激しくしゃぶる。  
「んぶぶっはじゅっ、んぷぅ、ふぅ、じゅずず!」  
――グチュ、ズチュ! ブチュゥ、ギユチュチュ…!  
「んちゅ、チュウ、……チュ、れる、んぅぅ!」  
激しく突かれ、揺れるサキ。そのせいで咥えられているワタルのペニスは不規則に舌や歯、歯茎や粘膜に当たり、今までとは違った快感を生み出していた。  
「うぁ……」  
「んぅ! はじゅじゅ、ぷふ、んぐ!」  
それでもサキは淫らに腰をうねり、より深い結合を求めた。  
「ぁぷ! んちゅ……ちゅぶ、ぐふ……ぇる」  
「ぁく……」  
性交経験もなく、自慰もしたことがないワタルにとっては過多な快悦だった。  
「ワタル君? 涎垂れてますよ?」  
ニヤニヤと嘲笑うように言うと、さらに腰の動きを早めた。  
ワタルはハヤテが何を言っているのか聞こえなかった。  
がくがくと腰を震わせ、快感にもはや自我を保つことすらもできなかった。  
ただ一心にここで射精してはいけない、と自分の優しさを貫こうとしていた。  
「ン、ングッ! んろ、ちゅぷ、はむむ、んぅぅ!」  
その意思とは裏腹にサキは容赦なくワタルのペニスを刺激し続ける。  
「んぶぅっ、あんぅ、は、んぷぷ!」  
同じく容赦なくハヤテはサキの最奥を幾度となく突き、自らの技でサキへと甘い快楽をもたらす。  
「はぅぅ、んぶ、……んちゅちゅ、はぶっ」  
サキも腰を揺すり、ハヤテに応じる。  
「はぁむ、んちゅ! ぷぷ、んぶぅ、はぅ!」  
「そろそろワタル君を悦ばせてくださいよ、サキ。少し苦しそうですし」  
「は、こ、……の」  
「はふぃ、んちゅ、んぅぅ! ぢゅ、ぢゅぷぷ!」  
頬を窪ませバキュームフェラを始める。  
「ぢゅるるるる! ぢゅぷ! ぢゅぷぷ!」  
頭を激しく前後に揺すり、女性器以上の快楽をペニスに与える。  
「ぢゅるるるるるるるる!」  
 
「かはぁ――――!」  
ワタルが雄叫びを上げる。  
その一拍後、びくん、とワタルの体全体が跳ねると同時にありえない量の精液が迸る。  
「んぅ――――!!」  
さらにサキもそれを感じ取り絶頂を迎える。  
「んぶ! んぐぅ! げふ……はぢゅ……れる」  
間欠泉のように噴き出てくる精液に口内はプールのように精液に溢れ、さらにサキの顔を汚していく。  
「はぁ……」  
自然とワタルの口から溜息が漏れた。  
そして何度もしゃくりあげたペニスはやっと痙攣をやめた。  
「れるる……」  
サキはペニスに付いた精液を舐めていた。  
その顔は牛乳を顔に零したかのように真っ白だった。  
「さて――!」  
ギチギチと締め付けられていたハヤテのペニスも限界を迎えそうだった。  
「膣内がいいですか? それとも外が?」  
「は、はふぃ! な、なかでだしてくださぃ!」  
「サ……キ……」  
顔を上げ、そのサキの表情を見る。ワタルの精液で顔を汚され、なおその顔はいやらしく、そして淫らな声を出し、膣内射精を求めている。  
「まぁ言われなくてもそうしますが、ね!」  
ドクン、と膣内でハヤテのペニスが今まで我慢していたものを解き放つ。  
「ぁ、ああ――! 出てるぅ……膣内で……どぷどぷって、いっぱいぃ……」  
体を痙攣させ、悦ぶ。  
「……ふぅ」  
ハヤテがペニスを抜く。  
サキはそのまま倒れ、秘部からはごぽっ、と気泡と共に愛液と精液の合わさった液体が溢れ出た。  
「……ぁふ……ん……よかったぁ……」  
だらしなく口を開け、なお体を震わせ、サキは起きない。  
「たまにはこういうのも悪くないですね。それじゃあ……」  
「待てよ……借金執事……」  
疲労しているワタルは何とか声を出し、ハヤテを止めた。  
「何です? ああ、もしかしてワタル君伊澄さんとやりたいんですか?」  
「ちげーよ……」  
サキとはもう二度とやるな、と言いたかった。  
「じゃあサキと交換しません? サキの膣内って中々名器なんですよ」  
勝手に話を進めるハヤテ。  
その姿に改めて苛立ちを覚える。  
「でも残念です。伊澄さんももうただの僕の性欲処理ですから」  
「は――」  
……セイヨクショリ?  
性欲……処理。  
「あ……」  
「それじゃあワタル君、また来ますよ。伊澄さんを連れてね」  
去る背中に何も言うことはできなかった。  
ただ、ハヤテの笑い声と、サキの悶える声だけがして。  
ワタルは頬を流れる水をただただ感じていた。  
 
終  
 

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