キーンコーンカーンコーン
昼休み―それは食欲や睡眠を満たし、友人との会話で盛り上がる至福のひととき。
しかし皆がこれを享受できるわけではない。屋上を見渡せばそんな幸薄き少年がひとり。
下から聞こえる談笑に耳を傾けるわけでもなく、彼はただただ虚ろに空を眺めていた。
「みんな…楽しそうだな…」
ポロリと漏らした本音は風に乗って遥か彼方へ消えていった。
望んでいないわけではない。彼の家庭が境遇が、それを許さないだけなのだ。
キーンコーンカーンコーン
昼休み―それは食欲や睡眠を満たし、友人との会話で盛り上がる至福のひととき。
しかし皆がこれを享受するわけではない。屋上から視線をおろすと、階段に恋に恋する乙女がひとり。
友人の茶々にも耳を貸さず、彼女はただただ屋上の彼を見つめていた。
「あ…あ…綾崎く…」
言葉にならないその声は教室のざわめきに埋もれて消えていった。
望んでいないわけではない。彼女の気質が性格が、それを許さないだけなのだ。
キーンコーンカーンコーン
予鈴―それは至福に浸る生徒達に終焉を告げる絶望のメロディー。
各々が教室へ移動する中、彼女は友人とちょっと遅い談笑を。
「いつになったら綾崎君のところへたどり着けるのかしらねぇ」
「あ、明日よ!明日こそ綾崎君に…」
「そのセリフ、何回目だと思ってる?」
「だっ…大丈夫よ!今日だって昨日より5段進んだわ!」
「……」
そして彼女は自分の鞄に頭を下げる。
(ゴメンね。明日は必ず食べるから許してね)
そこには二人分の弁当箱が。
その頃彼もちょっと遅めのおしゃべりを。
「綾崎ー、今日も昼抜きか?」
「あははは…まぁそんなところさ」
「まぁ奴が助けてくれるさ。きっと'明日こそ'はさ!」
(うーん、誰が助けてくれるんだろ…そう言ってる君は助けてくれないし…)
向かい側でアタフタしている彼女のことを、彼が気づくには鈍感すぎた。