昨晩変な夢を見た。
「僕と…付き合ってくれないか?」
3ヶ月程前のあの日だ。
「僕は…君が欲しいんだ。」
夢でもやっぱり恥ずかしい…
ん?妙な文字が浮かんでるぞ?
(人質として)
…なんだこれ?
「…ょうさま!お嬢様!朝ですよ!起きてください!さ、早く学校に行きましょう!!」
いつもどおりハヤテの声で目が覚める。
「今日はやめとく。」
「何言ってるんですか!ほら、もう朝食は出来てるんですよ!」
寝汗で体が湿っている。あの夢のせいだろうか。
「はぁ、わかったよ!ただその前にシャワーを浴びさせてくれ。」
「もぉー、なるべくはやくしてくださいね?」
「シャァァァァァァ…」
なんか意味のわからない夢だったな…
でもなぜだか胸騒ぎがする。ちょっと首をかしげて、
「人質として…?」と声に出してみる。
マリアならなにか分かるかもな。後で聞いてみよう。
「ご馳走様。マリア、今日も美味かったぞ。」
「あら、ナギがそんなこと言うなんて、頼みでもあるんですか?」
「う…まぁ強いて言うならひとつな。ちょっと聞きたいことがあって。」
すると不意にハヤテの声がする。
「お嬢様、急がないと遅刻しちゃいますよ?」
「うわぁ!わ、わかった。今すぐ行く。」
マリアはその一瞬で気付いた。
(聞きたいことってハヤテ君のことかしら?まさか…)
今日はまともに授業を聞いてなかった…まぁ聞かなくても平方完成なんて簡単だが。
あの言葉が頭から離れないのだ。
しかし、1日中考えてると答えは見えてくるもの。
(私を…人質として…欲しい?)
そんなこと信じたくなかった。そしてすぐにその思いを断ち切り、
「どうせ夢だよ。」と自分に言い聞かせるのであった。
「なんか言いました?」ハヤテに顔を覗かれて驚く。
「ひゃあ!なんだ、いたのか…」
「いたのかってなんですか!?僕はいつだって隣にいますよ♪」
「は、恥ずかしいことをいうな!運転手に聞かれたらどうする…」と頬を赤らめて言う。
(聞かれちゃマズイこと言ったかな?)
と疑問に思いつつも、
「あ、はい、すいません…」
「ただいまぁ〜。ん?なんだ、マリアはいないのか?」あたりを見廻すが姿はない。
「あ、そういえばクラウスさんとデートだそうですよ。」
ブッ!っと飲んでいた牛乳を吹いてしまう。
「クラウスと!?デート!?嘘だろ…」
「あ、はい。嘘です。」とハヤテはにこやかに言った。
「買い物か何かじゃないですかね。」
「…そうか。じゃあ二人きりだな♪」
(あれ、なんで怒らないんだろ?) とハヤテは思ったが、
「あ、そうですね!でもタマがいますよ?」
「く…あれは檻にでも入れとけば良い。それよりハヤテ、なにかゲームでもしないか?」
「いいですよ!…あ、でも宿題が先です。」
はぁ、優等生はこれだから困る。
「それならもう学校でやってあるから!」
当然これは今思いついた嘘だ。
「お嬢様、今日一度もペン持ってないですよね?それでどうやって宿題したんですか?」
ハヤテはにこにこしながら言う。
う、バレてたか…
「わかったよ!そのかわり終わったらすぐ始めるからな!?」
「はい、もちろんです!じゃあ僕も今のうちにやっときますね。」
「私より遅かったら承知しないぞ!」
しかし1日授業を聞いてない人が容易に解ける問題ではなかった。
「あぁ、やっと終わった!まさか今日の授業がオイラーの定理についてだったとは…」
自分が1日何も聞いてなかったことを今更反省する。
「おいハヤテ、終わったぞ!」と彼の部屋に入っていくが誰もいない。
なんだよ、終わったらすぐ始めると言ったのに…
屋敷の中を探すが見当たらない。仕方ないから部屋の中で漫画を書き始めた。
すると、いつの間にかまたあの夢のことを思い出していた。
もし、もしあの夢が本当なら…
ハヤテは私に告白していたのではなくて…
人質としてさらおうとしていた…?
さすが名門校の飛び級生徒。素晴しい推理力だ。
ってことは…私を誘拐しようとしてたの…?
そんなことは絶対に信じたくなかった。
「だから、夢だと言ってるだろ。」自分を納得させるように、何度も繰り返す。
しかし、一度そう考えるとそっちの方が正しいと思ってしまうのが人間の心理。