一ノ瀬さんのぱんつは真っ黒ヒモパン  
 
 
 やはり時山ビームの効果は絶大だ。名前を出してちょこっと脅せば簡単に色々な物が手に入ってしまう。ふっふっふ、味を占めた僕がこれから何をやらかすか、皆の衆は恐れ、震え、そして僕の前に平伏すのだ! はーっはっはっ!!  
「違うな……」  
 家の窓から顔を出して叫んでみたはいいものの、徹底的に僕のキャラじゃなかった。そこは大いに反省し、今後に役立てることにしよう。何に役立てるのかは知らないけど。……それと、明日ご近所さんにどうやって挨拶しようか。  
 いや、いくら演劇部の公演を頼まれたから厨二っぽい科白を練習代わりに叫んだわけじゃない。そんなアツいことするなんてまっぴらゴメンだ。僕はあくまでクールでミステリアスな女の子なのさ。ふふん。  
 僕は自分自身を落ち着けるために叫んだのだ。ほら、よく言うじゃん? 「ファイトーっ! イッパーツ!」ってさ。うん、今気付いたけど落ち着けるような科白じゃないね。  
 でも自分自身を落ち着けようと言うことは、いくら人生そのものが全て嘘の僕だって嘘を言ってはない。その原因になったブツは、社会課資料室で運良く、偶然に、たまたま拾って持ち帰ってきたブツは、まだ僕のスカートのポケットの中にある。  
 
「うへぇ……」  
 それを取り出してもう一度眺めるが、やはり同じ感想しか湧いてこない。黒色で、ひも状で、自分の陰部を隠すためのモノ。すなわちぱんつだ。それも真っ黒でヒモで“せくしー”なやつ。  
 びよーんと引っ張ってみると、やはり伸びる。びよーん。  
「しかもまだ温かいし」  
 本体を握って気が付いたのだが、まだそれには温もりが残っていた。それはまだ脱ぎたてであることを意味しており、やはりこれは、ああするしかないだろう。  
 いや、でもいいのか? 僕には深春という可愛い彼女が居る。彼女に操を立てる意味でも、そしてこれ以上自分が堕ちないためにもここは踏みとどまるべきなんじゃないか?  
 僕は考えた。死ぬほど考えた。今まで人生生きてきた中で一番熟考した。―――三秒ほど。  
「我慢は体に良くないよねー」  
 うふふふふ。普段はこんな女っぽい声は出さないし出したくもないけど、こんなものが目の前に有れば、必然的にどうするかは決まっているだろう。これはしょうがないことなんだ。僕のせいじゃない。あんなものが転がってるのが悪いんだ。そうそう、僕は悪くない。  
「んふっ……」  
 顔にまだ暖かいぱんつを押し当てる。すうっ、と鼻から息を吸い込むと、粘膜を焼き切ってしまうと思われるほどに官能的な匂いが僕の鼻孔を包み込む。一ノ瀬さんに鼻を犯されているようだ。  
 「そんなに私の股間を嗅ぎたいのか? まったく、しょうがない豚だな」と、目を閉じていると想像してしまう。SでもありMでもある僕は、まだ自分のモノを触ってもいないのに達してしまいそうになる。  
 いくら達してしまいそうだとはいえ、やはりこれでは物足りない。迷うことなく僕は自分の下着の中に手を突っ込む。  
 触ってすらいないにもかかわらず僕のそこは既に準備万端で、ねちょ、という水気がそこに触れただけで僕の指に絡みつく。  
 
「んああっ!」  
 つい大きな声が出てしまった。この前致していたときには僕のほんの僅かな喘ぎ声をたまたま聞いた地獄耳の深春に特攻されている。いくら深春とはいえオナニーは見つかりたくない。  
 声を抑えるため僕はシャツの裾を口にくわえた。こうすることで羞恥心まで刺激することが出来る。考えた人は天才だね!  
 むむぅ、やはり生は違うな。前にイリスのぱんつで試したときもそうだったけど(勿論許可は取った。でもその後顔を真っ赤にしたくおんにボコボコにされた)、使用済みとはいえ洗濯してしまった後のぱんつと、  
脱ぎ立てほかほかのぱんつでは感じ方が違う。  
 ブルセラショップなんてのがちょっと前に流行ったけど、女子高生のぱんつを買いに足繁く通うオヤジの気持ちが痛いほど分かる。僕だってそんな夢のようなものが金で手にはいるのなら、通いたくもなるというものだ。  
 ん、ちょっと待てよ? そうなると女子高生なのに女子高生のぱんつを買いにブルセラショップに行くのか。「お嬢ちゃん可愛いねー、おじちゃんといいことしないかい?」とか言われそうだ。  
 その後僕は空きビルの一室に連れ込まれて、待ち受けていたオヤジの仲間にそりゃあもう酷いことをされて……。  
「んぁっ……」  
 ……想像したら更に濡れてきた。ああ、そのオヤジどもの中にペニバンを装着したボンテージの一ノ瀬さんが見えるよ……。  
 
『せっかく私好みに調教してやろうと思ったのに、素のままでも淫乱だったんだな。なあ色情魔で淫乱の久遠くん?』  
『ふぐぅ……』  
 一ノ瀬さんに耳元に囁かれて言葉で虐められる妄想の中の僕は、蒸れ蒸れの一ノ瀬さんのぱんつを猿ぐつわ代わりに口の中に噛まされ、後ろ手に縛られM字に縛られ、あられもない姿を一ノ瀬さんに晒している。  
 開かされた股にはバイブが両方の穴でういんういんといやらしい音を立てており、更に両方の乳首にはローターが貼り付けられている。与えられる快感がゴリゴリと正気を奪っていく。  
 しかし、快感だけを与えておいて絶頂には導いてくれないんだ。いつもイク寸前でバイブを止められ、僕の体には火照った情欲の固まりがごっそりと残る。それを何度も繰り返され、意識は朦朧として正常な思考が出来ない。  
 もういっそ堕ちてしまったらどうか。元々僕は嘘つきで、卑怯で、何からも逃げ出す最低な人間だ。  
 ああ、ゾクゾクしてきた。そうだ、このまま最低な人間に堕ちたって、僕は僕のままだ。久遠悠紀という最低な人間であることには変わりないんだ。  
 興奮と快感で僕の息は上がる。口の中に布が押し込められているのだから尚更だ。はぁはぁ、と肩で息をしている。ひゅー、ひゅーと  
『いい加減認めたらどうだ? 自分はマゾのメス豚だってな』  
『……はいぃ、み、認めます。ぼ、僕はあぅっ、ま、マゾのメス豚ですぅっ』  
『それで、そのメス豚久遠は私にどうして欲しいんだ?』  
「……はい、可夜子さまのぉっ、そ、その固くて黒いおち○ぽで、ぼ、僕のいやらしいアソコを貫いてくださいぃ……っ!」  
 膣内に突っ込んでいた中指をくいっ、と折り曲げ、女の子の弱点を攻め立てる。すると、声にならない叫びと共に僕の体が弛緩する。く、くるぅっ! 僕の体を雷が貫き、絶頂へと押し上げていく。あともう少し、もう少しで、あっ、ダメ、イ――  
 
「悠紀ぃ? 誰をオカズにしてオナニーしてるのかなぁ?」  
 ――けなかった……。ゴーストである深春は壁をすり抜けて、オナニー中にもかかわらず僕の部屋に突入してくる。これじゃあプライバシーのへったくれもない。  
 でも待てよ、僕はこういった事態を避けるためにシャツの裾をくわえていたはずだ。しかし、裾は普通にへその辺りにあるし、今は自由に声が出せる状態だ。……本当にご近所さんとどうやって顔を合わせたら良いんだろ。  
「寸止めだったんでしょ。 どう? 火照った躰をもてあます気分は。辛いでしょ?」  
「……実は僕って放置プレイが一番感じるんだ」  
「そこでぇ、ボクにとっておきの秘策があるんだけどぉ」  
 深春が僕のことはお構いなしに言葉を続ける。結構頑張った科白だったんだけどなあ。こうなったら僕は深春に振り回されるしかない。そしていつものように墓穴を掘るのだ。ああ、僕って可哀想な娘。アーメン。  
「演劇やる上では物を掴めないのって何かと不便なんだよね。ただでさえ人が少ないから、セットの模様替えっていうの? それとかやるときにボクは参加できないじゃん。どうにかならないかなーって思ってさ」  
「思って?」  
「師匠に相談したの」  
 おおう!? 深春が師匠と呼ぶ“ブーメランばばあ”こと未至磨ツネヨの名前が一番出てきて欲しくないところで出てきたぞ!?  
 !?なんて使いまくるくらいに悪い予感しかしない。自分の人生の中でも一番の失敗がこのブーメランばばあに出会ってしまったことであると本気で思っているくらいに、僕にとっては名前も聞きたくないくらいの存在だ。  
 なおも深春は、僕に言い聞かせるように言葉を続ける。  
 
「それで、ちょっとした練習をやったら、なんと体を実体化することに成功したんだよ!」  
「……へー」  
 さすが師匠だね! と、鳥肌が立つようなことを仰る深春さんに、僕は気のない返事で返す。ブーメランばばあならなんでもありかよ!  
 ここで喪神のようなゴースト研究家ならまだしも、ゴーストですらない僕にはそれの何にそんなに興奮できるのかが理解できない。  
 女風呂を覗くんだったらゴーストのままであった方が都合が良いし、女子更衣室を覗くのだって女子トイレを覗くのだってそれは変わらない。そうだ僕はレズビアンだ何が悪い。  
 僕が首を傾げていると、深春が得意そうな表情で言った。  
「ボク、えっちできるんだよ! 初めては悠紀とするって昔から決めてたんだ♪」  
「あ……」  
 そこで最初の“とっておきの秘策”と繋がるのか。ブーメランばばあの名前が出てきたんで、これからどんなに厄介なことになるんだろうと身構えていたので忘れていた。しかしたまには、ブーメランばばあも粋なことをするじゃないか。  
 深春も嬉しそうだ。何だかんだ言って僕と肌を重ねられないことを寂しく思っていたようだし。いや、肌を重ねるって手を繋ぐとか腕を組むとかそういうことだよ?  
「というわけで」  
「ふべっ。え? あ、あれ?」  
 気付いたときには、僕は畳の床に押し倒されていた。それも手首を完全にホールドされており、いくら力を入れても全く起きあがれない。  
 そして深春の顔が僕の視界いっぱいに広がって、重なった。優しいフレンチキス。しかし、これは始まりの合図なだけではないのだろうか。  
 これは、もしかして、もしかしなくても、さっそく犯される?  
 
「や、やさしくしてね?」  
「イヤだっ!」  
 太陽のような笑顔で深春に即答されてしまった。むむぅ。  
「せっかくこうやって悠紀とえっちできるんだから、優しくなんてするわけないじゃん」  
「するわけないじゃん、って……」  
「うふふ、今日は激しくするんだから。寝かせないぞっ☆」  
 語尾に☆マークがはっきり見えた。吹き出しなんて見えないはずなのに、ウインクした目元で☆が飛んだ。うん、可愛いけどさ。ポップな感じにしても、いろんな意味で僕がピンチなのは変わらないけどね。まあ、その科白自体は嬉しいものではあるけれど。  
「照れちゃってー。ゆーきったら可愛いんだからぁもぅ」  
「……うるさい」  
「いやー、カヨちゃんと紺遠くんが猿みたいに盛っちゃっててさ。ボクも自家発電だけじゃそろそろ限界なんだよねー」  
 やっぱり知ってたか。しかし今はそんな場合ではない。フランクな口調で話してはいるが、先程から押さえつけられている両手首をぐいぐいと動かそうとしても、元から馬力のある深春相手にどうすることもできないのだ。これは、覚悟を決めるべきなのだろうなのだろうか。  
「それじゃあ、いただきまーす」  
 うっ、と呻いた瞬間に僕の唇は深春のそれによって塞がれていた。先程のようなフレンチキスとは違い、深いディープキス。段々と息苦しくなり、頬も熱を帯びてくる。  
 
「んむっ、んんっ」  
 声にならないくぐもった音とが二人の口の間から漏れ出る。それは僕の精一杯の抵抗の音だ。今この瞬間も、僕の口内を犯そうと、必死に防御している僕の歯を深春の舌が歯茎をなぞるようにして攻め立てている。  
 不規則なリズムで一回、二回と、舐め回すように僕の歯茎をなぞる。自分以外の人間の舌に舐められるのがこんなにも気持ちいいとは、これで口内にまで舌が侵入してしまったら僕はどうなってしまうのだろう。  
「んふふー」  
「んんむ……っ!」  
 その心配は現実のものとなった。深春の攻めで緩んでいた顎が三春の侵入を許し、行為のせいで粘液で満たされた口内まで入ってくる。  
 僕は深春の舌を追い返そうと、はい回る蛇のように動き回る深春の舌を押し出すようにして、僕の口内から追い出そうとする。  
 深春も黙っていてはくれないらしく、必死に逃げ回るようにしながらも着実に僕の口内の粘膜を舌で舐め取り、更には僕の舌を捕らえ、ざらついた深春のそれを舐め回すように押しつける。それと共に、甘い痺れが僕の脳を溶かし始めた。  
 危機感を感じた僕は何とかして口内から深春の舌を追い出す。必然的に深春の舌には触れなければならないので、更なる甘い痺れ僕の中の何かを削りつつ、懸命に追いだした。  
 しかし、追い出したはいいが、口は完全に合わさっているのでその先にあるのは深春の口内だ。やばい、と思ったときにはもう遅かった。僕の手首を押さえていた深春の手はいつの間にか僕の顔に添えられ、完全に顔を固定された。  
 そして僕の舌が入った状態のまま唇をすぼめ、更に深春は、口の中に入っている僕の舌に吸い付いた。僕の舌を意地でも逃さないつもりらしい。その間も僕の舌は舐め回され、吸い付かれたままだ。  
 舌が犯されているような状態に僕の体からは完全に力が抜け、もう深春にされるがままになっている。  
 
 じゅぼ、じゅぼ、という淫靡な音が部屋の中で反響する。かろうじて見える深春の頬も赤いが、僕の頬はもっと赤いのだろう。手はだらんと垂れ下がり、完全に深春のオモチャだ。僕は深春から与えられる快楽をただ教授することしかできなくなっていた。  
「……ァ、はぁ、はぁ」  
「はぁ、はぁ、……んくん。うん、悠紀の涎はやっぱり美味しいや」  
 ぷはぁ、という声と共に深春と僕の唇は離された。深春はまだ喋る余裕があるのだが、僕は完全に正気がない。  
 今鏡を見れば、いわゆるレイプ目というやつになっているのだろう。意識は朦朧とし、目の前にあるはずの深春の顔もぼやけて見づらい。  
 しかし、犯されたはずなのにもかかわらず全く嫌悪感が湧いてこないんだ。それどころか、もっとこの快楽の中に身を任せたいと思ってしまっている。  
 完全に脳が焼かれてしまった証拠なのかも知れない。僕はもう壊されかかっているのだろうか。  
 何も言えない僕に、深春は囁きかけるように耳元で言う。  
「ボクってゴーストだからさ、服とか体とかを自由に変えられるのは知ってるよね?」  
 それは深春だけでなく、世のゴーストの全てが持っている特性だ。深春に限った話をすれば、ショーウインドウで見た服を自分に着せたり、強盗と相対した事件(と呼ぶには馬鹿馬鹿しすぎる  
事件だった)では犯人の持っていたネットアイドルの少女の写真を見て少女に変身したりもしていた。  
 対象を見なければならないのはイメージがしやすいらしい。深春は不便だと言っていたけど、充分に便利だと思う。そして、何をするのか深春の手元には一枚の写真があった。  
「これなーんだ」  
「……ま、まさか……!」  
 
 僕がそれを引ったくって見る。そこには、男の象徴、いやイチモツ、いや男根…………ともかく僕ら女の子にはないモノのドアップの写真だった。流石の僕も思わず赤面してしまう。  
 ということは、あれか? 日本の素晴らしき発想力が生み出した奇跡の体、すなわちふたなりか!? と、言っている側から深春の股間には既に凛々しいモノが備わっている。  
 思わず凝視してしまった。いくらレズビアンの僕でも、こういったことに興味はある。「きゃあ、悠紀ったら変態さんなんだからー」という深春のきゃぴきゃぴした声がうるさい。  
「エロマンガとかエロ雑誌とかで探しても、みんな修正掛かっちゃってて意味ないんだよねー」  
 修正が掛かっていないと出版物にならないんだぞ。エロ書きの人も色々と大変なんだ。渾身のち○こを書いてもモザイクをかけられて涙目って話もあるくらいだ。  
 それを自分の利益にならないからといって「はぁ、最近のエロ業界はだめだねー」とこき下ろす女子高生というのもいかがなものだろうか。  
「それでさ、しょうがないから現地調達するっきゃないってことになってさ」  
「……は?」  
 疑問の声を上げる僕の言葉を遮るように、深春は一枚の写真を差し出した。……うへぇ、生々しい。そこには一ノ瀬さんと紺藤が一糸まとわぬ姿で腰を打ち付け合っている写真が……。  
 しかしクラスメイトの淫行場面を写真とはいえ見ることになるとは、あまり気分の良い物でない。もう一度その写真を見てみる。うへぇ……。も、もう一度……。  
「何してんの?」  
「て、手で顔を隠していても指の隙間からガン見してるむっつりすけべ女の子ごっこ」  
「ふーん」  
「な、なんだよその目は」  
「別にぃ」  
 
 そ、そんなことよりもだ、先程僕に見せた男性器のドアップは紺藤のものなのか。って、ちょっと待て、これから僕があんな事やこんな事をされるのって、間接的に紺藤とヤってることになるの? ……やばい、吐き気がしてきた。  
「いやあ、カヨと紺藤くんに『こーんな写真を学校の全員の下駄箱に放り込もうと思ってるんだけどー』って言ったら、快く応じてくれたよ」  
「鬼め……」  
「うんうん、持つべき物は友達だね」  
「……アーメン」  
 おそらく今後もあの写真をちらつかせられて、様々なことをやらされるのだろう。僕は二人の今後の行く末を思って祈らずにはいられなかった。  
「ああ、紺藤くんのおち○ちんと同じ形だからイヤだとか思ってるんだろうけど、ちゃんと形は変えてあるから大丈夫だよ」  
「……まあ、最低限それなら……」  
「おっきくしたけど」  
「おい!」  
 いやまて、単に紺藤のが小さかっただけかも知れない。あの紺藤のことだ。中国製のバイアグラなんかに手を出して借金背負って国外逃亡なんて姿が目に浮かぶ。  
一ノ瀬さんは付き合いきれなくて日本に留まりそうだ。「あなたにはもうついて行けないわ!」……うん、ただの妄想なんだ。すまない。  
 紺藤のモノが小さいのかそれとも極めて小さいのかなんてのは全くどうでもいい。大事なのは、深春のそれが大きいのかそれとも巨大なのかと言うことだ。この場面で悪ふざけはいらないからね。  
「んしょ、ちょっと待っててね」  
 字面だけを見ればゴムを装着しているようにも見えるが、深春はイチモツを装着している。……ちょっと意味分からないな。  
 
「よし、出来た」  
 深春が振り返る瞬間、僕は思わず顔を覆っていた。男のイチモツなんて見たくもない。だけど、それが大好きな深春からぶら下がってるのだと思うと、何故だか顔が熱くなり、ちょっとだけなら見ても良いような気がしてきたのだ。  
 指の隙間からそーっと見てみる。すると、意外や意外。馬並みなデカマラでもぶら下げてくるのかと思いきや、見た目だけは写真で見た紺藤のものとあまり大差ない。僕は我を忘れ、思わずそれを隙間から凝視してしまった。  
「むふふー、えっちなんだからぁ」  
「……うるさい。ちなみに、どれくらい大きくしたの?」  
「うーん、大体五センチくらい大きいのかな」  
 五センチなら、まあ許容範囲かな。  
「あ、ちなみにどっかの雑誌に書いてあったんだけど、二センチ大きいだけで全然違うらしいよ」  
「……ということは?」  
「ヨガり狂っちゃうかも?」  
「逃げていいよね?」  
「だめー☆」  
 
 僕の満面の笑みも深春の満面の笑みに返され、更に僕に抱きついてきた。この笑顔を見せられたら僕はどうすることも出来ないだろう。それに、オナニーを寸止めされてさらにディープキスをかました後だ。いい加減僕の体の方もしんどい。  
 体がしんどいのは、おそらく深春が僕に抱きついたまま、太股や背筋などをいやらしい手つきで舐め回すように撫でているせいもあるだろう。  
 僕の情欲の炎をいたぶるように、ゆっくりと油を注いでは止め、それを繰り返すような動きだ。はぁはぁ、と自分でも運動した後みたいに息が上がっているのが分かる。  
「あれ? 悠紀ったら、運動もしないのに息が上がってるよ?」  
 ……こいつ。  
「……分かってるくせに」  
「へへーん。ボクね、捻くれて捻くれてねじ曲がった悠紀からおねだりされたいって結構前から思ってたんだー」  
 妄想の中では一ノ瀬さんに媚びていた僕だけど、それはあくまで妄想の中の話だ。  
 世間体やプライド、特に深春を前にするとそれこそ産まれたそのときから一緒くらいに古い付き合いなので、普段の自分でない自分を見せるというのは、精神的な面で容易なことじゃない。  
 腹をくくれと言うことなのだろう。こうなった深春はてこでも動かないのはよく分かっている。どのみち僕もそろそろ限界だ。どうせ恥を掻くのら、少しくらい早くなったっていいじゃないか。  
 僕はそう思うことにした。そう思いこむことにした。  
「……お願い」  
「それじゃだめー。何を、どこに、どうして欲しいのか。ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないなー」  
「……深春は鬼じゃないな。鬼畜外道だな」  
「何とでも言えば? ほーれほーれ」  
 深春は僕の目の前でブツをぶらぶらとさせている。明らかな挑発だ。  
 くそっ。そっちがそういうつもりなら、僕は演技をするまでだ。そして骨抜きにしてやる。嘘を付くのは昔から得意だ。  
 
「……深春の、その、大きなおち○ちんを、ぼ、僕の、お、おま、おま○こに、い、入れて、欲しいです……」  
「うぉう、言わせたのはボクだけど、なんかゾクゾクきたよ」  
「……演技だよ?」  
「そんなわけないじゃん。ほら」  
 そう言って、深春は僕の股間にいきなり指を差し込んだ。くちゅり、という湿り気のある音が何の音もしない部屋の中で唯一の音となった。僕もなんとか声を出すのをこらえたものの、体がぴくっ、と反応してしまうのは避けられない。  
 深春が満足そうな笑みを浮かべながら、もう一度指を動かし、くちゅり、くちゅりと、音を何回も連続させながら言う。  
「だいたい、ボクが悠紀の嘘を見抜けないはずがないじゃん。何年の付き合いだと思ってんの?」  
「ひぁっ……!」  
「むふ、濡れてきた濡れてきた」  
 やられっぱなしでは気にくわないとは思うものの、膣の天井を確実に刺激してくる深春の指使いに、僕は為す術無くされるがままだった。なおも深春の責めは続く。  
「な、なんかくるよ……っ!」  
「じゃあ、次はこっちね」  
 その声と共に深春の責めが止む。一息吐いていたが、いきなり僕の視界が真っ暗になった。目隠しでもされたかと思ったが、どうも違う。  
 いくら深春でもそこまで心配しないかと安心した途端、また下腹部への刺激が開始される。ざらざらとした何かを僕のクリトリスに押し当てられ、ぬめぬめとした液体をこすりつけるように……。  
 どうやら僕は深春に覆い被さられて、あそこを舐められているらしい。  
 その証拠に、僕の眼前には大きく晴れ上がった深春のモノがぶら下がっている。これは、銜えろと言う無言の要求なのだろう。ただでさえやられっぱなしなのだ。これ以上深春の好き勝手にされるわけにはいかない。  
 
「ほら、早くくわえなよ」  
「……んっ!」  
 ……と、無視していたはいいものの、下腹部への刺激がかなりキツくなってきているのともう一つ。その、目の前でぶらぶらと揺れているモノが気になってしょうがないのだ。  
 僕は自他共に認めるレズビアンであり、男のモノに興奮するようなタチではなかったはずだ。いや、はずだった。しかし、深春のそれが脈打つたびに、銜えたくてしょうがない衝動に駆られるのだ。   
 何よりその圧迫感と、そして臭い。むせかえるような独特の異臭を放つのだが、何故だか嫌いになれない。それどころか、油断をしているとくわえたくなる衝動が抑えられなくなりそうだ。   
 深春の下腹部への責めは依然として僕の精神力をガリガリと削っていく。いや、何が何でも深春の責めに屈服するわけにはいかない。やっぱり僕のプライドが―――もういいや。  
「んむっ」  
「うくぅっ!」  
 勢いよく僕が深春のモノをくわえると、深春もいきなりのことでびっくりしたらしく、深春らしくない艶っぽい声を上げた。やっぱり気持ちいいのかな。それに、普段は聞けないような女の子らしい声を、もっと聞いてみたいと思った。  
 膝を立てた状態で僕に覆い被さっていた深春に、僕は首を上下に動かして深春のモノを口でしごいていく。  
「ひぁっ、ゆ、悠紀ぃ」  
「んちゅぁ、んちゅぅ」  
 僕の名前を呼ぶ声音が完全に変わった。それが僕は無性に嬉しくなり、深春のモノの根本に手を添えて口と共に上下に動かす。  
 深春も思い通りにさせたくないという対抗心からか、僕の股間をいっそういやらしく舐め回す。そして僕も、それに合わせて深春のモノをしごく。ただそれの繰り返しだ。  
 
 何度も繰り返していると、段々と深春のモノが僕の喉を突くようになった。あまりの圧迫感にえづいているが、深春にとってはそれすらも気持ちいいらしく、更に深くまでそれが入ってくる。  
 深春もそろそろ限界が近いらしく、肉棒本来の臭いだけでなく、何か別の、ねちょねちょとした液体が僕の口内の潤滑油として使われ始める。これがカウパーというものなのだろうか。喉だけでなく臭いでも犯され、僕の体はされに上り詰めていった。  
「ゆ、悠紀っ! そろそろイっちゃうよ! 口の中に出しちゃうからねっ!」  
「んむぁっ……! んじゅちゅ……!」  
 深春のモノが僕の口の中でむくむくと大きくなっていき、ぶるぶると躍動し始める。深春の腰は僕の口を犯すように上下されており、容赦なく僕の喉に肉棒が突き立てられる。  
 しかし、それが苦しいどころか、気持ちいいのだ。勿論舐められている股間からの快感もあるだろうが、口を性器のように使われて容赦なく突かれることも、僕にとっては快感を呼び起こさせる一要素でしかない。  
「そ、そろそろヤバいかも……」  
 何かを堪え忍ぶような声で深春が呟く。それと共に、先程から震えていた深春のモノがいっそう震動し始めた。これは、もう限界だと言うことなのだろう。  
「い、イくよっ!! い、いっくぅぅぅうっっッ!!」  
「むふちゅああぁんっっっッ!!」  
 ほぼ同時だ。僕の口内が白く犯されれ深春の顔が気色に染まるのと、僕の女の子の部分がきゅぅ、と締め付けるように躍動して、目の前が弾けたような快感をもたらしたのは。  
 快感に身を任せて僕が余韻に浸っている間にも、深春の肉棒からとめどなく白濁とした液体が僕の口内へと流し込まれ、ついには許容量をオーバーするまでにもなる。  
 
「ごほっ!」  
 僕が飲みきれなかった精液が口から零れ出す。それでもまだ相当量の精液が僕の口内の溜まっており、ねっとりと絡みついて飲みきることさえも叶わない。仕方なく僕は口を開け、中でころころと精液を転がす。  
 深春が息を呑んでいるが、おそらくこの光景が相当にエロかったんだろう。絶対に鏡を見たくない瞬間だ。  
「……ふぅ、悠紀のアソコ、もうこんなにお汁が溢れ出てきちゃったよ。ほらっ、このっ」  
「んふあっ!」  
 イかされてびしょびしょになっている僕のアソコがにちゃぁ、と開かされ、充血し勃起したクリトリスを露出させて、それをぴん、と弾かれた。強烈な一撃に僕の体はのけぞり、体の奥底で燻っていた炎に、また油が注入される。  
 あれだけ盛大にイったにも関わらず、まだ僕の奥底の女の子の部分はもっと欲しくてたまらないらしい。何もしていないというのにドロドロとした粘液が、僕のアソコから溢れ出ていくのが自分でも分かった。  
 まるでそれを見越したかのように深春の肉棒が僕の口から抜かれ、僕に覆い被さっていた深春の体はすぐにどけられる。  
「ふふふ、ついに悠紀の初めてをもらっちゃうんだあ……」  
 僕の濡れそぼったアソコを凝視しながら感慨深げに深春が勝手に言っているが、僕はそれを止めようにも止めることが出来ない。激しい快楽のせいで、手はだらりと地に付けられ、足は股を開いた状態のまま動かすことが出来ない。  
 そして、一旦は下火だった躰がまた火照りだしてきた。深春に見られているせいか、あるいはこれから行われる行為を躰が熱望しているのかも知れない。僕は途端に恥ずかしくなった。  
 
「……悠紀、いいよね?」  
 首を傾げて、不安そうな表情で深春が問うてくる。僕は恥ずかしくて何も言うことが出来ない。代わりに、こくり、と頷いた。頬もこれ以上ないくらいに熱かったし、深春から見れば恥ずかしがっている可愛い女の子にしか見えなかったろう。  
 いや、ナルシストじゃないけどさ。ほら、深春真っ赤だし。恥ずかしいのは僕なんだからやめてほしいよ。  
「じ、じゃあ、いくよ」  
 顔を赤くした深春の声と共に、くち、という音が僕の股間からした。その股間には熱のかたまりのような感触がある。僕のアソコに、深春の肉棒が押しつけられているのだろう。  
 押しつけられ、そして入ってくる。ずぶずぶと深春の肉棒が未開の密林に無理矢理に侵入してくる。  
 入れたことがあるのは指くらいだった僕の膣が、初めての大きさに悲鳴を上げているのがよく分かる。もの凄い圧迫感と強引に押し広げる大きさに僕の躰が悲鳴を上げる。  
「んっ……」  
 どうにか汚いうめき声は出さずに済んだものの、やはり声は出てしまう。深春のあの表情を見ればガンガン突き入れたいに違いないのに、侵入は僕をいたわるようにゆっくりだ。  
 好きなようにして良いよ、とは言えない。言えないまでも、せめて挿入を躊躇してしまうようなことはやめようと、僕は無意識で思っていた。  
 やがて深春の侵入が停まる。どうやら僕の初めてがここで奪われてしまうようだ。  
 レズビアンを自負する僕は、一生破られることはないか、もしくは正規の性器で破られることはないと思っていたけれど、まさか本物で破られるとは思いもしなかった。……こんなこと言ってる余裕はない。  
 
 深春が視線で問いかけてくる。僕は迷うことなく頷いた。当たり前だ。何を躊躇う必要があるのか。……結局の所、こうして何も言わないことで強がっているだけだ。僕はそんなに出来た人間じゃない。  
 深春もそれを察してくれたのか、僕の頷きに黙って頷き返すと、狭い肉穴を押し広げることを再開した。  
 その瞬間、ぷちり、という音がした。  
「っつぅ……ッ!」  
 唇を噛んで声を殺す。痛い。痛いなんてもんじゃない。張り裂けそうだ。奥まで届いたそれが、文字通り僕を突き破ったのだ。涙が出そうになって腕で目を隠したけれど、充血した眼球は隠せても流れる涙は隠せなかった。  
「大丈夫っ!?」  
「へ、平気だから。そのまま、続けて……」  
 いくら本来の性別は女とはいえ、ほんの少し前まで世間的な性別は男だったのだ。ナカはまだひりひりする。おそらく血はだらだらと止めどなく流れているだろう。だけど、こんなことで深春の手を患わすわけにはいかない。  
 しかし、いくら待っても深春の腰は動かない。荒い息をする僕の耳を深春は甘く噛んだ。  
「ひゃんっ」  
「無理、しなくて良いんだよ」  
「っ……」  
 僕の目を覆っていた手がどかされ、深春の困ったような笑顔が眼前に晒された。そしてそのまま、深春の顔が近づいてくる。  
 
 唇が塞がれた。しかし、それは淫靡なそれではなく、あくまで僕を安心させようとするやさしいものだ。思わず涙がこぼれた。  
 溜まっていた雫が落ちたものだが、それがじくじくと残る痛みによるものか、それとも自然と出てきた涙なのかは分からない。  
 そんなことはもうどうでもいいのかもしれない。僕は深春の腕の中にいる。それだけで僕は嬉しくなった。痛いとかは関係ない。それだけで僕は嬉しくなれるのだ。  
「……深春」  
「ん、なに?」  
「……ありがと。もう、いいよ」  
「……うん」  
 僕の微笑みに、深春も微笑みで返してくれた。そのことに僕はますます嬉しくなり、今までは痛いという感情だけで精一杯だったけれど、今は深春を感じられる余裕もありそうだ。  
 やがて深春の「いくよ」という合図で、みちみち、という音を立てて破れた膜から更に僕の奥へと入ってくる。  
 正直言って、痛い。痛いけれど、それと共にまるで駆け上がってくるような感覚が僕の脳を刺激し始めたのに気付いた。  
「くぁんっ……」   
「んくっ、悠紀のナカ、ボクの精液を貪ろうとしてぐにゃぐにゃ蠢いてるよ……!」  
「はんぁっ、い、言わないでぇ……」  
 無意識で僕らしくも無い甘い声が漏れ出てしまう。この奥がきゅんきゅうとなっている様は、感じてきているということなのだろう。声も甘いが、体の中も何か甘いものが支配し始めてきているような気がする。  
 深春の一突きのたびにその度合いはどんどん増していき、上下運動の際に発せられるぐちゃぐちゃといういやらしい水音も、僕の奥の高鳴りと共により一層水気が増えていくばかりだ。  
 
「ひゃぁっ……! ぁ、はぁ……ッ!」  
「ぐ、くぅっ! し、締めすぎだって……っ!」  
「そ、そんなこと、い、いっらっれぇぇッ!」  
 僕のナカの襞がこすりあげている深春の棒が、徐々に堅さを増してきた。先程から何度か僕の一番奥にコリコリと当たっていたのだが、逸物が硬さを増したために一突きごとに  
僕の一番大事なところ、子宮の入り口を抉るようにゴリゴリとやってくる。こんなことをずっと続けられては、女の子はひとたまりもない。  
「い、いくぅっ!」  
 躰が軽く痙攣し、中もきゅっと締まったのが自分でも分かった。とてつもない快感が刺激となって脳へと送り込まれ、僕の目元では火花が散っている。  
 しかし、深春はまだ腰を振り続けて、イっている最中なのにもかかわらず子宮を虐め続けてくる。断続的な快感が強制的に続けられ、既に正気が保てなくなっている。  
「い、イっちゃうぅうっ! イくうぅううううぅあうああっ!!」  
 イきっぱなしの状況の中、深春の腰の上下運動が早くなった。逸物の硬さも更に増し、完全に僕の奥が犯されている。  
 僕らしくもないとかそんなこと言ってる場合じゃない。とにかく頭が弾けて、吹っ飛んで、どっかいっちゃいそうだ。  
「だ、出すよ! いいよね! っつうっッ!」  
「い、イくっ! イクくうぅぅううううッっっ!」  
 その瞬間、深春の肉棒が小刻みに震えたと思ったら、次の瞬間には全てがはじけ飛んでいた。ナカも、奥も、僕の頭でさえも。  
 どろりとした熱いモノが、まるで溶岩が斜面をすべり降りるように僕の奥をなだれ込んでくる。蹂躙するようにナカを浸していくそれに、僕は為す術もなくのたうち回ることしかできない。  
 
「うっくぁああ! と、止まんないぃ!!」  
「おくあついぃいいいい!! ま、またイっちゃぅうううううッッ!!」  
 どくどくと止まることを知らない白濁液が奥底にどんどん溜まっていく感覚がはっきりと知覚できる。行為の後だと言うこともあるけど、それ以上に僕のナカからじわじわと熱が体へ行き渡っていくのが分かる。  
 これは、クセになる。絶対にだ。現に僕の奥は今もきゅんきゅんと激しく鼓動し続けているし、熱さを伴った粘液が奥で蠢き続けているような気がする。所詮はコピーだから孕むことはないだろうが、それでも僕の子宮を直接犯されているような感覚がある。  
 深春が寝そべった僕の体に倒れ込むようにして密着し、僕の耳元に顔が置かれる。はぁはぁという荒い息がイったばかりの体を耳から虐める。  
「お、女の子のナカってこんなに気持ちいいんだ……」  
「……ぁ、はぁ、はぁ……」  
 本来なら何事か突っ込みを入れたいところなのだが、生憎息が切れてまともに言葉を発せるような状態じゃない。それほどまでに僕は深春に攻められ、屈服させられていたらしい。  
 と、体を起こせる程度には体力が回復したらしい深春が、起きあがって何をするのかと思えば、さっきまで自分の棍棒が犯していた僕の入り口をまじまじと見つめている。いくら僕でも恥ずかしいものは恥ずかしい。  
「うわー、エロいねー」  
「出したの自分だろうに……」  
 とろ、と白く濁った液体がだくだくと僕のナカから這いずるように出てきて、入り口から垂れる様はさながらレイプされた後のようだ。いや、確実にレイプ紛いのことをされたんだけれども。  
「ちなみに、この精子ってホンモノのモノホンだから、運が良かったらデキちゃうかも? きゃっ」  
「はぁ!?」  
 
 きゃっ、じゃない! どういうことだ、ホンモノって! 僕は耳を疑った。まさか、あれか、今まさに僕のお腹の中の卵が深春の精子に陵辱されているっていうのか!? ……いやぁ、それはそれで……じゃなくて!  
「おいおいおいおい! 父親がゴースト(女)で母親が元男装少女ってどういうご家庭だよ! 稲川淳二もびっくりだよ!」  
 まくしたてる僕に深春は「むふふふ」という気味の悪い笑いをあげて僕は完全に無視。深春のことだ。ウチの義母さんに満面の笑顔で挨拶に行く様子が容易に想像できる。そして義母さんはそれに対して全く動じずにむしろ笑顔で僕を家から追い出しそうだ。  
 「ちゃんと責任取って美治ちゃんちのお嫁さんになるのよ」と言いながら満面の笑みで僕を送り出す我が母の姿が目に浮かぶ。そして僕は一生深春の性の奴隷に…………やめよう、なんかテンションが変だ。  
「ふふ、出来てても出来てなくても、悠紀は深春のだよ」  
 ……僕の心の中を見透かしたような深春の科白。いや、そこは否定して欲しかったんですけど。  
「ちなみに、拒否権はないから」  
 そしてまた心を読まれる僕。そんなに顔に出ているのか、僕は。  
「顔に出やすい方じゃなかったはずなんだけどなあ、とか思ってるでしょ。他の人にはそう思われてても、ボクにはお見通しだよ。悠紀がボクにぞっこんラブだってことも、ね」  
 そう言って深春は僕に顔を近づけてくる。目を閉じて、ゆっくりと。それに拒否感を憶えず、それに応えようとする僕は、やっぱり深春の言うとおりなのだろう。  
 臍曲がりだから自分からは絶対言ってやらないけどね。せいぜい頑張って僕の口を割らせてみろってんだ。…………正直いつまで保つか自分でも自信ないけど。  
 そんなことを思いつつ、僕は自然に目を伏せていた。そして、陰は一つになって――――  
 
 
 ドンガラガッシャーンッ!!  
 
 一つになる直前、もの凄い音を立ててドアが外れ、こちら側へと倒れ込んできた。幸いにして下敷きにはならなかったものの……どうするんだ、これ。  
 それに、原因と思われる二人は倒れたドアに乗っかったまま喧嘩してるし。  
「あ、あれほど体重を掛けるなと言ったではありませんか!」  
「わたしのせいではなく、単にくおんが重いのでは?」  
「な、何を根拠にそんな」  
「駅前のケーキバイキング」  
「うっ」  
「お姉様と大食い勝負」  
「ううっ」  
「その後眠くなって畳で昼寝」  
「……」  
 
 濁った目になってしまったくおんを見て、イリスはどこか恍惚とした表情をしている。……お姉ちゃんは本気で将来が心配です。  
「……あー、くおん、どうした?」  
 微妙に気まずい雰囲気になっていたので僕はあえて沈黙を破ってみることにした。深春は深春で楽しそうな笑みを浮かべたまま何もしようとしないし、イリスも同様だ。  
「あ、お、大義姉上っ! じ、実はですね、実はその……」  
 くおんは必死に何か言葉を探している。まあ、僕と深春の情事をのぞき見していて、寄り掛かっていたドアが二人分の重みに耐えきれなかったのだろう。  
 見るに蝶番が外れただけっぽいので別に騒ぎ立てることでもない。僕は穏便に事を済ませようとした。  
「あー、くおん、別に怒ってるわけじゃ」  
「お、大義姉上っ! わ、わわ私の脱ぎたてぱんつをう、ううう受け取ってくださいっ!!」  
 いきなりぱんつを脱ぎだして何をするかと思えば、何だかよく分からない。そんな、僕が脱ぎ立てぱんつを貰って喜ぶような奴だと思ってるのか。  
 ……くおんよ、赤くなった顔も可愛いと思うんだが、そういうものじゃないと思うんだ。渡してくるのがチョコレートとかだったら様になってたんだけどなあ。と言いつつくおんのぱんつは既にポケットの中へ。  
「あー、くおん。気持ちは嬉しいし是非とも今晩使いたい……げふんげふん、ちゃんと履こうと思うんだが、どうしてぱんつを僕に?」  
 至極真っ当な僕の疑問に「へ?」とくおんは固まったように動かない。何か一大決心をしたのに肩すかしを食らったような顔をしている。  
 そこへイリスが何やら耳打ちをしている。それを聞いてくおんは、顔を真っ赤にしたと思ったら真っ青に、目はくるくる回ったと思ったら憤怒の睨みに。表情がころころ変わってとても可愛らしいと思うのは僕だけだろうか。  
 
「では、脱ぎたてのぱんつを好きな人にあげると願いが叶う、というのは……」  
「叶うかもしれない。性的な意味で」  
 ひくっ、とくおんのこめかみが引きつった。  
「自分の国にはそういう風習があると言ったのは……」  
「私は産まれたときから放浪していた。祖国なんて無い」  
 ……ああ、くおんは可愛いなあ。心の底からそう思うよ。  
「……小義姉上。やり合ってもやり合っても付かなかった決着、どうやら今日付くようですね」  
「その時立っているのは、私」  
 ガキン! という金属のぶつかる鈍い音が狭い部屋に響き渡り、鍔迫り合いをしたまま二人は廊下を出て行ってしまった。  
 階下には我らが母君もいるというのに。一応祈っておこう。アーメン。  
 と、二人が去ったことによって嵐が過ぎ去った後のように部屋が静かになり、僕と深春だけが取り残される状況となった。  
 相変わらず彼女は面白そうに笑っている。せっかくのいい雰囲気が壊されたのに、まったく気にしていないという体だ。  
 
「……なんかごめん」  
 そんな彼女に僕は素直に頭を下げた。いくら僕だって、こんなところを邪魔されたのなら謝らなければいけないだろう。それくらいのデリカシーはある。笑うところじゃないからな。  
 しかし、深春はまだ笑っていた。くそう、ネタで頭下げたわけじゃなかったのに。いや、単に笑っているというよりも苦笑の色が濃い笑みだった。  
「えー、あの悠紀が謝ってくれるのー? 明日は雹だね」  
「……うるさい」  
 深春はからかっているが、僕は本気だ。僕だって事後のゆっくりとした時間を楽しみたかったのに、今回ばかりはとんだ邪魔が入ったという気持ちでいる。くおんは可愛かったけどさ。  
 深春は僕が謝っているのがそんなに面白かったのか、顔を近づけてにししと笑った。その憎たらしい笑いに、僕は表面だけ苛立ちの表情を作ったが、こういったやり取りをすごく楽しんでいるのは、もう深春にはバレているだろう。  
「ま、謝ることはないって。それに、ボクららしいじゃない、こういうのって」  
 彼女はくりくりの大きな瞳を僕のそれに大きく写し、そして朗らかに笑った。  
「……不本意だけど、その通りだね」  
 僕も笑った。僕は苦笑だったけれども。  
 そんな僕に、深春は近づけたままの顔を更に近づけて、僕の頬に唇をちゅっ、と当てた。  
 
 
 
おまけ  
 
「そういえば、何でくおんは真に受けたんだ? いくらなんでもそこまでバカじゃないだろ。」  
「……それは遠回しに私がバカだと仰っているのでしょうか」  
「い、いや、そんなわけじゃないけど」  
 今のくおんの鬼のような表情からして、明らかにアホの子キャラだということを指摘したら、僕の胴体と首は離ればなれになるだろう。結構気にしているらしい。  
 ここは話を逸らすのが賢明だと判断した。言わないけど、明らかにくおんはアホの子だから……。  
「で、でもさ、やっぱり気になるじゃないか。何だってそんなこと」  
 そう聞いてみたところ、いつもはきはきとした喋り方をするくおんが何かをブツブツと呟いている。こんなくおんを見るのは珍しい。  
「くおん?」  
「……お、大姉上が黒いぱんつを嗅いでいたところをのぞき見して、それがどういう意味か小姉上に訪ねたら『脱ぎたてのぱんつを好きな人にあげると願いが叶う』とか言われて、そんな馬鹿馬鹿しいことを私がするとお思いですか!?」  
「…………」  
「べ、別に大姉上とそうなりたいとか、そう言う意味ではなくてですね! あ、あくまで親愛の形として私の脱ぎたてぱんつをですねッ!!」  
 顔を真っ赤にしながら手をじたばたさせて、弁解らしきことを仰っておられるくおん。  
「……お、大姉上のバカ」  
 結論、くおんは可愛い。  
 
 
 

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