今日もいつも通り部活の時間が巡る。この前の旅で、勢いのまま告白をし、連城に追いつくと言った僕は、考えた末に美術部へ入部した。  
別に絵で連城を越えようと思っているわけではない。それは、流石の僕でも無謀だと思い知っている。  
僕はただ、少しでも千倉さんと一緒にいる時間が欲しかったのだ。そして、彼女が言っていた僕の秀でたものを見つけるためにも、なにかしら懸命に打ち込むんでみようと思ったのだ。  
こうして考えてみると、なにかに一生懸命取り組むのは、もしかしたら初めてかもしれなかった。  
今までは自分を平凡さに飽々して、自信がある振りをしていたけれど、それは浅はかな虚勢だと明瞭とした。けれど、彼女に恋しぐれてからは、僕は決死なのはけっしてカッコ悪くはないと思うようにすら変わった。  
なにより、少し前に進めた気さえもする。今は以前のような上っ面ではなく、手応えのあるものが少し湧いてきてもいるのだ。  
 
僕は、服を汚さないようエプロンをつけて自分のキャンパスの前に立つ。  
三年から入った僕は他の部員からもかなり遅れをとっている。だから、一年と混ざって基礎からやっているのだ。  
そして、木曜日の部活が休みの日には千倉さんがマンツーマンで教えてくれる日もある。そのおかげで僕のデッサンも上達した。  
だだし、上達したといっても連城はおろか、他の美術部の人に比べてもまだまだだ。  
 
今日活動内容は着色で、僕は絵の具を混ぜて色をつくる。キャンパスに描かれているのは初めて千倉さんと下校した時、彼女が綺麗といった夕焼けだ。  
けれど、何を混ぜればあの色になるかよくわからない。僕は千倉さんにアドバイスを貰おうと彼女を呼ぶ。  
 
「あの、千倉さん」  
「……」  
彼女はキャンパスの前に立ったままで、なにもせずにぼけっとしている。  
どうしたのだろうと思い、軽く肩を叩いて読んでみる。  
「千倉さん?」  
「いやっ!」  
彼女は突然、僕の手を払って身を縮ませてしまう。そして、なにかに怯えるみたいに身を震わしている。  
僕はどうしていいのかわからずあたふたするだけだ。  
「あ、あの……千倉さんどうかしたの?」  
必死に声を絞り尋ねる。  
すると、力のない声で千倉さんが答える。  
「なんでもないの。大丈夫……」  
そして、ゆっくり立ち上がって僕のほうを向く。  
「曽我部くん……変に驚いたりして、ごめなさい」  
いつもの様に目を見て話す千倉さんの顔は何だか暗く感じた。  
「本当に大丈夫?元気ないみたいだけど」  
「ありがとう。でも、本当に大丈夫だよ。でも、ちょっと頭が痛いから家に帰って休むことにするね」  
やっぱり、体調が悪いのか。なら、送っていったほうがいいよなと思い口を開く。  
「じゃ、じゃあ、僕が…」  
送って行こうかと言う前に、彼女は走ってきた財津に抱えられてしまう。  
「体調が悪いの?僕が家まで送ってくよ!」  
「あ、あの…」  
「大丈夫!僕はレスキューの心得があるんだ!!」  
 
と言って千倉さんが返事をする前に走りだしてしまう。  
「お、おい!財津」  
僕は慌てて声をかけたが今の財津には聞こえるわけもなく行ってしまう。  
ぶつけようのない悔しさだけが残った。  
結局、僕は安藤さんにアドバイスをもらって夕焼けを塗ってみたが、それはあの日の様に甘酸っぱく、胸が満たされる様な色ではなかった。  
 
*********  
 
今日は、部活の途中で帰って来てしまった。とにかく、暗くなる前に帰りたかったのだ。部活中、話しかけてきた曽我部くんにも失礼なことをしてしまった。私には、いつの間にか限界が来ていたようだ。  
最初は些細な違和感だった。下校の時に誰かにつけられているような気がしたり、誰か見てる気がしたりするのだ。  
それは、属にいうストーカーというものだった。それからは暗くなってから帰るのが怖くなっていた。だから、帰りは誰かと一緒に帰るようにもした。  
誰に相談していいかわからず、涙がでるだけで寝れない日も続いた。  
今日は財津くんに送ってもらったからよかったが、明日もというのは申し訳ない。なんとかしなきゃとプレッシャーだけが重くのしかかる。  
お兄ちゃんや曽我部くんに相談するのも気がひける。なにせ、ストーカーをこの目で見たわけではないのだ。間違いだったら恥ずかしいという、恥じらいとプライドが邪魔をする。  
散々悩んだ結果、明日にでも慧ちゃん相談してみようという結論に至った。同性の友達なら変なプライドも感じないからだ。  
すべきことが決まると、少し落ち着いて眠気がやってきた。  
なんとなく先輩の顔が浮かんで呼吸が一定になる。先輩がいればすぐに相談するのに……そうしたら、すぐ力になってくれるだろうなぁなんて考えながら眠りについた。  
 
**********  
 
千倉さんは早退した翌日もその次の日も、相変わらず元気がなかった。睡眠不足なのだろうか、目の下にはクマが浮かんでいた。  
僕は心配になり何度も大丈夫かと尋ねたが、その度に平気と言ってぎこちなく笑うだけで、寝不足なのは今読んでる本が面白くてなかなか寝付けなかったというのだ。  
その表情がなんだかぎこちなく、僕はなんだか不安になってくる。千倉さんはなにか悩んでいるのではないか、そしてそれを隠しているのではないかと。  
僕はその気づかいという壁が、とにかく悔しかった。きっと、連城なら彼女の悩みを聞き出し、相談に乗れると思うからだ。僕はまだそれにふさわしくない。だから、彼女は僕を頼ってくれないのだ。その事実がただ悲しくて歯痒かった。  
彼女の違和感に気づいていながらも、傍観者の立場であることに拳を握って悔しさを押し潰した。  
 
********  
 
部会が終わるとすっかり暗くなっていた。  
一昨日に慧ちゃんたちにストーカーについて相談した。すると、私が部会などで遅くに一人になってしまう時は待って一緒に帰ってくれると言ってくれた。  
私は悪い気がしたけれど、みんなで話してれば時間なんて忘れてしまうというあゆみちゃんに押され、甘えさせて貰うことにしたのだ。  
 
急いで皆が待つ教室へ向う。  
「ごめん。少し長引いちゃった」  
胸の前で手を合わせ謝りながら言う。  
「そんなに、息きらして来なくてもよかったのに」  
慧ちゃんが優しく微笑んで許してくれる。  
その声にずっと緊張していた身体が緩むのを感じた。  
「みんな本当にありがとうね……」  
「気にしないでよー。私ら好きで待ってるんだから。慧ちゃんと楠田くんの話し聞いてたらあっと言う間だったよー」  
とあゆみちゃん  
「慧ちゃんのノロケばっかだったよねー。私もお兄ちゃんとチューしたいなぁ」  
「ちょっ!小宵、そんな大声で言わないでよ!」  
本当に相談してよかった。  
みんなの元気と優しさになにかが込み上げるを感じた。  
 
「とりあえず、帰るわよ」  
慧ちゃんに続いて昇降口に向う。  
学校をでて帰り道も賑やかだった。そして、あっという間に別れ道に着く。  
「じゃあ、みんな今日はありがとね」  
集団の先頭に踊り出て手を振りながら。  
「家の前までいこうか?」  
みんなが心配して言ってくれた。  
「ありがとう。でも、もうそこだし大丈夫」  
「そう。じゃあまた明日ね」  
と慧ちゃん。  
続いて、あゆみちゃんと小宵ちゃんもあいさつをしてくれる。  
私はもう一度お礼をいって、バイバイをする。  
振り返って家に向かって歩き出す。  
私はすっかり安心しきってストーカーのことなど忘れていた。だから、後ろから近づく足音に気が付かなかったのだろう。  
 
突然肩をたたかれ、私は水をかぶったみたいに血の気が引くのを感じた。  
振り返る前に、急いで走って逃げようとする。けれど、瞬間的にに手を引かれ、引き寄せられてしまう。  
私は必死に叫ぼうとしたが恐怖で声がでない。パクパク口をしている内に、振り向かされて手で塞がれてしまう。ストーカーはサングラスをかけていていた。そして、太い声で言う。  
「騒いだら痛い目にあうぞ」  
 
私は恐怖でその場にへたり込んでしまう。すると、自分の下半身に違和感を覚える。  
太ももを暖かいものが伝っているのだ。それは足元に水溜まりをつくる。  
すぐに涙が溢れてきた。  
「あらら、おもらししちゃって汚い娘だねー」  
男は汚くに口を歪ます。  
きっと、目はギラギラしているのだろう。私は、さらに身を縮こます。  
それを見てか男は私を無理矢理立たせた。そして、男の手が胸をまさぐってくる。  
次にセーラーのボタンを引き千切り、ブラジャーをあらわにされる。恐怖で益々のどがつまる。  
男は慣れたように、それをずらし直に私の突起部を摘まむ。  
「ひゃっ……」  
と声にならないものを発してしまう。  
「かわいい声だしちゃって。胸は感じるようだね」  
そんなわけないと叫びたかったが、背中を伝う感覚にかんだかい吐息しか発せない。  
そして、男は片手で胸をいじったまま下半身へ手を伸ばす。  
私は必死に足をばたつかせて抵抗する。けれど、手は服の上から必要にお尻をなで回す。  
私は、恐怖と羞恥で頬は上気して思考が遠くなっていく。  
私は、先輩に心の中で何度も助けを叫んだ。男の手が徐々に前側に滑っていく。  
もうだめ!っと諦めかけたその時、遠くで誰かが叫ぶ声がした。  
すると、急に私を支えていたものが離れ、その場にへたり込んでしまう。  
そして、声の主は直ぐに駆け寄って来て抱え込まれる。今度は安堵で涙が溢れてきた。  
私は、助かったと思うと同時に、その顔が先輩じゃないのが少し悔しかった。  
 
*********  
 
僕の不安は的中した。千倉さんが学校を休んだのだ。先生は風邪と言っていたし、それだけでは心配する様なことではないのだが、中学の通学区など狭い世間で嫌な噂を耳にしたのだ。  
 
中学生がストーカーに痴漢された。  
噂はこういったものだった。千倉さんの最近の行動を思いだす度に嫌なことばかり考えついてしまう。  
僕は、不安を拭いたくて江ノ本さん達に尋ねて見ようと思いたった。しかし、そんな事するまでもないことに気づく。  
彼女たちが落ち込んでいるのがすぐにわかったのだ。  
一応、話を聴いてみると、ストーカーについて相談されたこと、自分たちが家の近くで別れた後のことだった事を話してくれた。そして、ちゃんと家の前まで送ってればと泣き出してしまった。  
すぐに、僕は自分に腹がたった。  
僕にもっと頼りがいがあれば……相談さえしてくれないなんて。  
最近感じていた確かな自身は、やっぱり偽物だったのかと泣きたくなった。僕はいつまでたっても連城には追い付けない。そして、その連城を追う千倉さんにも追い付けない。だから、こうして迷惑かけることを躊躇ってしまう様なただのクラスメートでしかないのだ。  
僕は教室を飛び出して屋上へ走った。一時間目の予鈴が鳴ったが無視し、ただただ泣き喚いた。自分のふがいなさに。好きな人との距離感に。  
気が付けば二時間目が始まっていた。しっかりと腫らした瞼を見られたくなくて、僕は荷物も持たないまま帰宅した。  
 
********  
 
一人でいるのが何となく不安だ。病気なわけではないので寝るのも限界がある。  
というか、昨日の夜からほとんど寝ていない。  
目をつぶると不安でしかたなくなってしまうからだ。しかたががないので、読書をして過ごしたが内容なんか頭に入らず、気を紛らわすためにページをめくっていた。  
ふと脇を見ると、メールが来ていることに気づく。慧ちゃん達からだった。  
狭い世間なので痴漢の噂を聞きつけたのだろう。どうやら、ちゃんと家まで送らなかった後悔しているようだ。  
私は、みんなに心配ないから気にしないでという内容のメールだけ送って携帯を閉じる。  
私が頼んだせいで、余計な迷惑をかけてしまったことが悲しいかった。生き苦しさで呼吸が荒くなる。疲労は限界までたまっていた。  
擦りきれそうな神経の中、私はとにかく先輩に会いと思った。  
先輩と一緒に絵を描けば、嫌なことなんて全部忘れられる気がしたからだ。  
絵のことを考えると曽我部くんの顔も浮かんだ。最近はよく曽我部くんと並んで絵を描いてるからだろうか。  
少し落ち着くと一気に眠気が襲いかかる。  
黒くなって行く視界が昨日を思いださせたが、次第に白濁していく意識に埋もれていった。そんな中、いい夢が見れますようにと私は願った。  
 
********  
 
僕は早退してから、一晩悩んだ末に一つの結論にいたった。  
それは、犯人をこの手で捕まえようという単純明快なものだ。  
しかし、一介の中学である僕には手がかりが全くなく、僕に出来るのは誰だか分からない犯人をひたすら探し回るという非効率、非現実的なことだけだ。  
けれど、僕にはこれしかなかった。ただのクラスメートである僕が千倉さんの為にできる唯一のことなのだ。  
 
翌日、僕は終令が終わると部活には出ずに真っ先に家に帰った。  
そして、ジャージに着替えて市内を捜査という名目で徘徊をする。  
狙い目は暗くなってから。痴漢するような変態は、日がある内はあまり出歩かないだろうと思ったからだ。  
けれど、結局それは幽霊を探すようなもので、手がかりの一つも見つからないまま三日が過ぎていっただけだった。  
 
********  
 
結局、次の日学校には行けなかった。  
そして、そのまま更に三日休んでしまった。  
警察の人がやって来て色々聞かれたからだ。  
私は思い出せる限りのことは全部伝えようと必死にあの日を思いだした。けれど、思い出す度に辛く、それから三日間熱を出して寝込んでしまったのだった。  
その間、私は看病をしてくれている、お母さんやお兄ちゃんの手をしっかりと握って眠っていた。でないと安心できなかったからだ。  
寝不足のせいで熱は下がっても、私はダルいままだった。  
 
結局、学校に行ったのは更に二日ずる休みをした後だった。  
 
********  
 
今日から千倉さんは学校に出てくるようになった。彼女が教室に入って来たとき、少し微妙な空気になったりもしたが、江ノ本さんが上手いことやってくれた。  
学校に来れるようになったのはうれしいことだったが、僕は犯人を捕まえることで頭がいっぱいで、僕は授業のほとんどを聞き流していた。  
そして、千倉さんともほとんど会話をしないままだった。  
僕は、とにかく終令がなるのをひたすら待っていた   
 
その夜、僕はいつも通りパトロールをしていた時のことだ。突然、後ろから声をかけられ黒い革の手帳を見せられた。  
毎日、千倉さんの家の回りを徘徊しているのを不信任思われたのだろう。  
「毎日ここらをうろちょろしているけど、どうしたんですか?」  
と年老い気味の警察が尋ねてきた。  
僕は犯人探しをしているなんて口が裂けても言えないので、散歩のコースなのだと適当な言い訳をするが、余計に不審かを抱かせだだけで睨まれる。  
すると横の若い警察が  
「まだ中学生くらいじゃないですか。それに証言にあった鼻の頭に黒子なんてないですし」  
と小さく言ったのを僕は聞き逃さなかった。  
 
僕は幸運にも、鼻の頭に黒子という犯人の手がかりを手に入れてしまった。  
嬉しさで顔がにやけてしまったのだろう。警察二人になんで笑ってるのかと聞かれてしまった。  
ますます疑われただろうな、と思ったがそれより嬉しさが勝って、どうやって言い訳したのかは覚えていない。  
なにはともあれ、これで幽霊探しから犯人探しをすることができる。僕はがってんやる気が出てきた。  
 
翌日の学校で財津に暫く部活に来ないことを問われたが、僕は曖昧にごまかした。それどころじゃないのだ。僕に絵なんか描いてる暇はなかった。  
 
*****  
 
教室に入ると空気が変わるのを感じた。みんな、私にどう接すればいいのが計りかねているのだろう。  
急にばつが悪くなって逃げ出したい気分に教われた。  
すると、慧ちゃん達がいつもの通りの感じで話しかけてきた。  
私は少しほっとして、なんとなくありがとうとお礼いう。  
けれど、慧ちゃんは何が?と言ってくだらない話をし始めたので、その心使いにまた嬉しくなり、私は心の中でもう一度お礼を言う。  
逃げ出したい感情は消えて、雑談の中へ加わった。  
 
放課後、お兄ちゃんが迎えに来て慧ちゃん達も交えて一緒帰った。  
家について自室ベッドに横になると、私は泣きはじめてしまった。  
結局、今日一日慧ちゃん達以外とは変な距離感間を感じて、話すことができなかったのだ。私はずっと疎外感を感じていた。  
曽我部くんもなんか変だった。いつもみたいに話しかけてみんなに欲しくて学校に行ったのに、部屋に居るのが寂しくて学校に行ったのにと悲しくなった。  
なんだか、また明日からの学校が億劫に思った。  
 
******  
 
数日後、登校するとショックなニュースが耳に入った。  
なんと、痴漢が捕まったらしいのだ。もちろん警察が。  
僕は悔しかった。犯人を捕まえられなかったことが、依然としてただのクラスメートのままのことが、とにかく悔しいくてしかたなった。  
このまま家に帰ろうかとさえ思ったが、千倉さんも学校に来るようになったからか思い留まった。  
しかし、教室に入るとまだ千倉さんは来ていないようだった。犯人が捕まったりしたので、なにか色々あるのだろうか。  
すると、江ノ本さんが話しかけてきた。  
 
 
 
僕はバカだった。こんなにも自分のバカさに腹がたったのも今日が初めてだろう。  
自分の勘違いが恥ずかしいかった。僕は手柄をとってスターを気取りたかっただけだったのだ。  
正しいのは、彼女にいつも通り話しかけて、悩んでいることに気づいてあげることだった。やっぱり僕に連城は越えられない。  
バカな僕はただ泣くことしかできなかった。  
 
 

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