隅に染みの浮かんだ天井板。かすかに明滅している蛍光灯。飾り気なく仕切るカーテン。消毒液の匂い
の立ち込めた空気。その空気を生地に吸い込んだ枕。
見慣れている景色、見慣れていることがうとましい景色。槙が目醒めたのは、変わりのない医務室のベ
ッドの上だった。
頭痛にも似た不穏な曇りが脳内をかすめて、てのひらをこめかみに当てる。そのつもりが、動かない。左
右に視線を走らせると、両の手首には厚い革が巻かれ、それは短い鎖に繋がれてベッドの支柱に固定さ
れていた。
自身のみにしか聞こえぬほどの舌打ちを発する。どうしてこうされているのかが判らぬほどの莫迦でも
ない。妥当な歓迎というべきか。しかし、何故、穴ぐらではない場所での拘束なのか。
「拷問でもするなら、悲鳴の響かない所がいいだろうにさ…」
自嘲気味にそう独りごつのを、耳を研ぎ澄ましていたかのように敏く、くぐもった声が応えてきた。
『気がついたようだね』
当然の如く、周囲に人影はない。
『準備が整うまで寝ていてもらうつもりだったのだが、少々薬が効き過ぎたようだ』
意識の飛んでいた間に、見も知らぬ人間たちに自身がどう扱われたのか、どう弄られたのか。眉間にし
わが寄るのが、鏡を見ずとも判る。
『氷夏桐子』
「…」
『彼女から何を聞かされたかね』
槙は思う。これは回答を必要としている質問だろうか、と。不正解こそが用意されていないのは、こん
な処遇を受けていては阿呆でも悟れるというものだ。
それに、あの酷く余裕に満ちた口調はどうだろうか。彼女も逃げ切れず、同様に捕縛されていると見て
間違いないだろう。
『黙秘権の行使かね。要らん智恵を身につけたものだ』
何をどういい繕ったところで、逃亡を試みたことは事実であり、罰の軽減なぞ一顧だにされまい。それ
ならばこそ、何故、ここに身を置かれたかが一層槙には気にかかった。
この身が新薬の開発実験に使われている、いわばモルモットと同価値に過ぎぬとなれば、部分的に記憶
を操作し消去することさえ、ためらわれるものではあるまい。少々SFめいた話ではあるが、元々絵空事を
可能にするのが業務の彼らにそれが不可能だとあなどれはできぬだろう。
『さて、君にそこにいてもらったのは他でもない。我々の実験にご協力頂きたくてね』
お出でなすった、と目をつぶり腹を括る。
『何、君に痛い思いをさせることはない。少々時間を割いて、実験に参加してくれればいいだけの話だ。
参加を、ね』
匂ういい回し、匂わせるいい回しだった。そうして対象が困惑しているのを陰からほくそ笑んでいるか
のように。さしずめ、試験紙のような役回りか。しかし、それが、穴ぐらに長期間放り込まれるのと同
程度の罰だとでもいうのか。
『ご了承してもらえるかね』
「…選択肢があるのかよ」
『ご理解頂けたようだ。感謝する。園倉くん、入るがいい』
脳内に明瞭に?の文字が浮かぶのと同時に、足の先のカーテンが揺れるのを槙は見た。
「…茗」
向こうから姿を現した少女は、しかし、いつもの様子ではないようだった。少なくとも、そういう空気
を漂わせていた。
槙が色盲でなかったなら、一目して気づいただろう。いつになく上気し紅潮しているその頬と耳朶。昂奮
で赤みを加えて紫がかっているその左目。気づいたとして、少しばかり絶望へ到る時間が遠のいたに過
ぎぬのだが。
「どうした。…何かされたのか?」
しかし、その呼びかけが応えられることはなく、茗はゆっくりと横たわる槙の傍らに回ると、靴を脱い
でベッドに上がり込んできた。
「…おい、何だよ」
槙の側頭部に沿うように両手を突き、腹に沿うように両膝を突く四つん這いの格好。わずかに開いた唇
から、形のよい前歯をすり抜けて荒い息が顔面に吹きかけられてくる。獲物を前にした猫科の獣は、こ
のような姿勢をとるのではないか。
『さて、高野くんに質問だ。人間の肉体は、その感情に支配されているものだろうか。或いは、感情が
肉体に支配されているのだろうか』
「んなこと判んねぇよ! おまえら、茗に何した!?」
『園倉くんの感情のたがを緩めてあげただけだ。そう、少しばかりね。回答は、彼女に出してもらうと
いい。否、出させてもらうといい、かな。ククッ』
再度詰問しようとする槙の開きかかった口を、茗の口が塞いでいた。予想だにしなかった行動に硬直す
る槙を尻目に、少女の柔らかく温かく瑞々しい唇が、槙の唇といわず歯といわず、全体の輪郭と構造を
確かめるかのようになぞり上げてくる。
「ン、ングッ」
両者の口の端から零れる吐息。茗が槙の口腔に舌まで伸ばしてきたのだ。唾液を絡ませた粘膜質が触れ
合った部分から融け出していくような初めての感覚は、槙の意識から抵抗する理性を奪っていった。
それは十秒にも満たぬ間だったようでもあり、数時間に渡って続けられたようでもあった。忘我の境地と
はこのような状態を指すのだろうか。
ようやく茗の唇が糸を引きながら離れていくことで、槙の意識は瞬く間に大きな後悔と、少しの名残り
惜しさに染め上げられた。
「茗、…何てこと…」
「へへっ、奪われちゃった。あたしのファーストキス」
屈託もなく笑顔を向ける少女の視線がわずかに定まらぬように見えるのは、投与されたのだろう薬のせ
いだろうか。恍惚の余韻に浸っているせいだろうか。
ファーストキスの言葉に過ちを犯したという罪悪感が湧き上がる槙は、しかし、茗に両手の固定を解い
てもらうことを考えることすらできなかった。脳髄を痺れさせる妖しい官能が否応なく白蟻の群がりの
ように理性を蝕み、意識下に葬ろうとしているのだから。現に、下半身の一点に血液が拒否する術もな
く集中し続けている。
「…槙」
唇が再び重ね合わされる。同時に、茗が四肢を曲げて覆い被さってくる。制服越しにも感じ取れる、少
女の鮮やかで軽やかな肉体。お椀ほどに膨らむ乳房を、形よくくびれる腰を、胸と腹で受け止める。
両手を繋ぎ止める鎖が間断なく軋んでいるのは、惜しげもなく身を擦りつけてくる茗を押し留めようと
したいからか、抱きすくめようとしたいからか、当人にも量りかねるところだった。
「もう、駄目だ、茗…」
口を横にずらして避けながら発した悲鳴は、槙の槙たらしめるものの断末魔ともいえた。
「…桐子さんの方が上手かった?」
金槌で殴られるような衝撃。この無垢な少女は、投薬と同時に何を吹き込まれたのだろうか。幼さを残
す端整な顔が、あられもない嫉妬で美しく歪んでいる。可憐な少女と痴女の同居する矛盾が眼前に顕現
していた。肌がわずかに粟立つ。
「そうなんでしょ、槙」
「違う! そんなんじゃないんだ。だから、もう…」
「…違うの? こんなになってるのに」
気がついた時には、槙の下半身の隆起は、スラックス越しに茗の掌に収められていた。細く小さい五指
が絡みつくように、充血の具合を確かめるようになぞり上げていく。
「うっ、くっ」
初めて他人の手に触れられるという羞恥が、自身でする際とはまた異なる趣きの快楽をもたらしていた。
「かわいい声。桐子さんにも同じようにされた?」
「莫迦、彼女とは何にもないんだって。くっ、つっ」
「嘘」
指の腹に力が加えられ、痛いほどに張ったペニスを、猫が鼠を弄ぶようにわずかに締め上げられる。
何を弁解したところで無駄だろうと槙は思った。思い込もうとした。或いは、槙にも何らかの薬が投与
されていたのかも知れぬが、そうでなかったとしても、異性との初めての交接が、まだ若い少年には抗
し難い麻薬そのものではないか。
「男の人のって、こんなに固くなっちゃうんだね…」
玩具を扱うかのような、後ろめたさのない興味そのものの感嘆が茗の口を吐いて出る。頬と耳朶が赤く
なるのが判る。親しい友人同士でさえ、そんな色事めいたことは話題にも上らなかった。
「…おい、茗!」
身を起こした茗は、馬乗りになったままで首をうつむかせ、熱い隆起に添えていた手をスラックスの
ジッパーにかけた。獲物を狙い定めたかのように、前髪の向こうの瞳が輝いている。
「止めろ、止めろって」
「へへっ、見ちゃうもんね。槙の大事なところ」
ジッパーが下げられる音は、槙にとってはまさにギロチンの刃の滑る音か。思わず目をつぶる。
露出したトランクスのホックを外された途端、さなぎの殻を割る蝶のようにペニスが弾けて出てそそり
立つ。青筋を這わせたそれは、外気が冷たく感じるほど熱く固く張っていた。
組み敷いた少女と組み敷かれた少年は、片や、教科書の断面図での知識しかなかった異形の肉塊をまざ
まざと見せつけられ、片や、自身の象徴を見せつけた倒錯的な快楽と屈辱の綯い交ぜに悶え、しばし無
言を保たざるを得なかった。
しかし、それも長くは続かない。沈黙は、茗が指を脈打つペニスに添え、槙が驚愕の声を上げることで
破られた。
「止めてくれ、お願いだから」
思わず腰を引き気味にしてみたところで、ベッドの上に寝かされていては効果がある筈もない。
ゆっくりと茗の両手はペニスに触れ、這い、柔らかく包み上げる。しっとりとした少女の皮膚が男の肉
体で最も敏感な部分に巻きつく感触は、全く未経験の快楽を脳髄に響かせた。
「こうするといいんでしょ、槙?」
掌で筒の形を作り、上下に擦り上げる。どこで得た知識だろうか。阿呆な男や耳年増な女から下の話で
も聞かされていたのか。或いは、元来持つ本能なのか。
「こう、こうかな」
「うっ、痛いよ、茗。だから…」
「…痛いの。じゃあ…」
小さな頭がペニスに近づく。わずかに荒くなった鼻息が亀頭をくすぐる。
「あうっ」
すぼめた少女の口から、生暖かい唾液が肉塊に向かって垂れ落とされた。それを潤滑油のように表面に
指の腹で塗り込み、慣れたのか大胆に、先刻よりもやや激しく上下にしごき立てる。ぎこちなさは初々
しさと重なり、快楽に溺れる槙は抵抗の言葉を失っていった。
「先から何か出てきた…。何だろ、これ…」
「茗、茗、もう、俺…」
陰嚢が緊縮するのを感じ、今の槙にはそれを堪える理由さえ見つからなかった。マスターベーションと
同じく手を使いはするものの、他人の奉仕によって迎える絶頂は甘美の次元が違った。
「…もう、どうしたの。きゃっ」
おびただしい量の精液が宙に吹き上がった。
「…ああっ、茗…」
幾らかの飛沫が少女の柔らかい頬にかかったが、意に介されることはなく、初めて見る生理現象を最後
まで記録に努めるかのように、指を白く染められながら上下運動が続けられていった。
射精による解放感は、シーツに制服に、茗の手に放たれた精液が冷めていくに従って、屈辱を帯びた罪
悪感にすり替わっていった。仮にも学舎の中で、あまつさえ、妹にも等しい少女の淫らな行為に、わず
かの間とはいえども耽ってしまったのだから。
「…手、洗えよ」
白魚のような指にまとわりついた白濁を、茗は煌めく宝石に魅せられたかのように眺めていた。男性の
絶頂を示すそれは、性的昂揚の続く少女にとっては誇らしい勲章といえた。
「嬉しい。あたしで気持ちよくなってくれたんだ」
小さな舌がそこに伸ばされ、すくい取られる。
「うぇっ、苦い」
「莫迦…」
いっそ、悪夢ならば、という槙のささやかな願望も、笑いながら顔をしかめる茗の羞恥をかなぐり捨て
たかのような痴態を目の前にしては、木っ端微塵に打ち砕かれる。悪徳とも思しき欲望が体に充実して
いくのを抑えることができない。
認め難い少年の、自身の弱さ、脆さだった。そして、しかし、そうと諦めることで楽になれることは、
再び茗が掌で弄り始め、再び硬度を取り戻しつつあるペニスが否応なく脳髄に鋭く伝えている。
「直ぐには元通りにならないんだね、男の人のって」
「当たり前だろ」
「…どうしたら、また固くなる?」
円らな瞳を輝かせて無邪気に訊いてくる。小悪魔と化した少女の問いかけに、魔法に囚われたかのよう
に槙の視線が目の前の細く小さな体を這った。文字通りに急所を握られ、抗う術なぞない、と体のいい言
い訳をとっさに考える。
「へへっ、判っちゃった」
膝をついたまま腰を上げた茗は、両の指でスカートの裾を摘み、ゆっくりと引き上げていく。普段は厚
い生地に隠された、陶磁器のようになめらかな太腿の輪郭が悩ましい。
「だぁめ」
官能に蝕まれつつある少年のぎらついた視線を遮り、鼠蹊が覗こうという瞬間、スカートが下ろされる。
「そんなに見たい?」
「…」
男の性を焦らして手玉に取ることに、ゲーム感覚にも似た愉悦を感じているのだろう。暗黙の裡に了解
している筈の回答を、是非とも口から言葉にして出させたいらしい。
鎖に縛られて抵抗できぬとはいえ、筋力で勝る少年を眼下に組み敷いているという優越感が、茗をあさ
ましく倒錯させているのか。
そして、その淫らな要求に堪え切れるほど、槙は老成してはいなかった。
「…見せろよ」
「え、何? 聞こえないよ」
「…見せて…ください」
自ら隷属を望む、絶望的な呟きだった。
「あはっ、槙のエッチ。もっと可愛いの履いてくるんだったっけ」
茗は媚びるようにスカートをめくり上げる。露になった、局部を包む飾り気のないショーツは、はした
ない行状の少女が履くものとしては対照的であり、それが逆に槙の脳髄を煽情する。視線が釘づけにな
って止まない。
「茗…」
凝視すると、クロッチ部分に楕円形の染みがにじんでいるのが見える。それが下に秘められている何の
形を如実に浮かび上がらせ、その潤みは何を意味しているのかも判らぬほど槙は物を知らぬ訳ではない。
年端も行かぬ少女であっても、その体は異性を愛撫することにより、また、この先に待っているであろ
う行為を予見し、受け入れる為の愛液を分泌しているのだ。そのいじらしさに感化され、槙のペニスは
充血を加速させていく。
「あはっ、また大きくなってきた」
茗の揶揄は、しかし、少年の肉体を誇示させてくれているかのように聞こえもする。
「茗、もっと見たい」
緊張で喉と唇が渇き、小刻みに震えていくのを、自身も大胆に振る舞うことで打ち消そうとする。
「…もっと?」
「あぁ」
「ふぅん」
わずかにためらいがちな表情を作ってから、茗はスカートを摘んでいた指を放し、その下に進めていく。
そして、槙がじっと見守る中、厚い生地の下から丸まったショーツを太腿に沿わせて滑り落とした。
「よっ、と」
足の自由を制限されたまま、茗は膝をぎこちなく前後に動かして近づいてくる。未だ見たことのない女
の陰部が迫ってくるのに応じ、目を瞬きもせずに開いている少年の情欲に満ちた顔を、興味深く眺めて
いるのが判る。
側頭部まで茗が膝をついた時、槙の昂奮は最大限に達した。
「ほら、見える?」
「…」
感嘆の声も出せなかった。スカートをわずかに透けて届く光にけぶる少女の性器は、ペニスからは決し
てうかがい知れぬ複雑な形状の襞を、蘭のように繊細に咲かせていた。
わずかに花弁が輝いているのは、蜜に濡れているからだろう。甘ったるく漂う少女の体臭とは別に、酸
っぱい香りが鼻腔をくすぐる。それらが、蜂を、蝶を魅惑するように、経験のない少年の本能を鷲掴み
にする。
「綺麗だ、茗」
「桐子さんより?」
「あぁ、綺麗だ」
嫉妬を助長させる言葉を吐く。槙もまたこの異常な状況を、大胆な性行為に没頭させる為のスパイスと
して働かせることを選んでいた。
「もうちょっとスカート上げて」
槙の視線が自身の局部に注がれていることに、自身の局部が槙の官能を捉えて放さぬことに、茗は勝利
にも似た満足感、達成感を得ているのだろう。誇らしげな笑みを口元に湛えてスカートを摘む指を持ち
上げる。
人為を超えた自然の造形美が目の前に広がっていく。やや肉づきの足りぬ太腿と緩やかにくびれつつあ
る腰、それらに相反するかのように性器の上を薄く覆う陰毛。少女と女の境界線上にある肉体は、如何
なる彫刻家の技量を以てしても表現し果せぬ輝きを放っていた。
白磁そのものの肌が、なかんずく、鼠蹊に密やかに咲く花が紅潮していることが見えなくとも、茗が官
能の虜になっていることは空気で窺い知れる。
拘束具が鈍く軋む。腕が自由に使えたならば、槙は即座にそこへ伸ばしていただろうことは間違いなか
った。欲望の赴くままに指で、掌で形を確かめ、弄っていただろう。
「へへっ」
それを察してか、茗は尻餅を突く格好で徐々に腰を落とし、槙の顔面に近づけていく。
「もっと、見て。ちゃんと」
「…茗」
昂揚する少女の発する体温を鼻先でむず痒く感じ取れるほどになった瞬間、臨界寸前までに高まった少
年の本能が舌を伸ばしていた。
「ひゃっ!」
襞を這わせ、膣口からしとどと滴る少女の愛液を舐め取る。
「あっ、はあっ」
決して甘くはないが、その柔らかな感触、穏やかな温もりは直截に脳髄を甘美で麻痺させる。痙攣でも
起こしたかのように、槙の舌先は鋭く烈しく動き、味わっていく。
「あん、あっ、槙」
「茗、茗」
余計な言葉は要らなかった。茗もまた槙の貪欲な行動から逃れることなく、刺戟を朦朧と陶酔の渾然と
した表情を浮かべながら受け入れていく。
二人は無形の手をきつく組み合わせ、獣への道を踏み出していた。
「あ、はんっ、…そこ、そこは」
襞の上部を暴き、瑞々しくぬめる真珠を剥き出す。少女の肉体の中でも最も敏感な箇所を舌先で突つき、
転がす。
「あん、や、いやぁ」
嫌と口走ったものの、茗は腰を媚びるように悩ましくくねらせながら迫らせ、震える太腿で槙の頭をし
っかりと挟み込む。
そのはしたない催促に応え、開拓者に然るべく与えられた権限を行使し、茗を快楽の渦に引き込んでい
く。性器全体を溶かすように唇で嬲り、舌でしゃぶり、可憐な少女を性感の衝動で悶えさせる。
「ああん、槙、はっ、駄目、だめぇ」
小さな膣口に舌を尖らせてあてがうと、茗がその顔に初めて隠し切れぬ困惑を表しているのが上目遣い
で覗ける。未だ異物を侵入させたことはないのだろう。
しかし、本気で抵抗するつもりでないのは、両手で槙を押し留めることはなく、目を閉じ、持ち上げたス
カートの裾を握り締めて堪えていることから察せられる。そのいじらしい仕種に激情を更に掻き立てら
れながら、突き入れる。
「や、や、はあん」
熱く潤む肉が弾いてくる。優しく外部に追い出すような圧迫感が、処女の切なさと儚さを物語っている
かのようだった。
泉のように蜜を滞りなく垂らす、このか弱い穴にペニスを入れたならばどうなってしまうのか。性欲を
昇華し切れぬ未経験の少年の青い妄想が現実の一歩手前まで近づいていることを感じ取り、槙はペニスを
宙にそそり立てながら茗の性器を貪り続けた。
「あ、槙、槙、あたし、おかしくなっちゃう」
太腿の力が強まり、少女の華奢な上半身が操り人形のようにひくついているのが判る。
自身がマスターベーションで達するのと同じく、茗もまた辿り着こうとしているのだろう。それを他なら
ぬ自身がもたらしていることに、感慨を覚えずにはいられない。先刻の奉仕を顧み、恩を返すように陰
唇を、クリトリスを攻め立てていく。
「あっ、や、あたし、はん、…だめぇっ!」
刹那、茗は四肢に繋がる糸を切られたかのようにのたうち、続けざまに全身を硬直させた。絶頂に浸る表
情が、小生意気にも女の性を醸し出している。
「茗、イッた?」
やがて、失神したかのようにぐったりと上半身を仰向けに槙の腹にしなやかに倒した。両手を左右に投
げ出しながら小さな胸を上下させ、荒い呼吸を繰り返している。
「…大丈夫か」
マスターベーション後のような気怠さを味わっているのだろう。しかし、異性との交わりで得られた快
感は、あの遣る瀬なき罪悪感までも残しはしないに違いない。男女がお互いの秘めた部分を見せ合って
与えられ、感じ合って受け止めたのだから。
槙は、今まで妹のように接してきた少女と、言葉の遣り取りを幾ら重ねても生まれぬ絆で結ばれたのを
感じていた。
「ふふっ」
「どうした」
「あぁあ。槙がこんなにエッチだなんて知らなかったな」
拗ねるような、なじるような口調で茗がからかってくる。心を隅まで開け放ったのだろう。大人しかった
少女が初めて見せる態度だった。
「茗だって」
「へへっ」
上半身をひねって起こした茗は、傍らで息づいている槙のペニスを指でそっと突つく。
「…凄かった、槙。あたし、初めてだから…」
感嘆を零して視線を合わせてくる。その潤む瞳が熱を帯びて何かを語りかけ、訴えているのが手に取る
ように判る。同じ病に感染してしまった二人なのだから。
それでも、敢えて訊かざるを得ない。
「痛いっていうぞ」
「大丈夫」
健気に強がって見せながら小首を傾げ、慈しむように亀頭に接吻する。
既にそこは、分裂した生き物のように槙の意識から放れ、少女との深い結合を期待して武者震いしてい
た。否、槙自身でさえ、交わされようとしている淫靡な行為に臨み、気が触れんばかりの昂奮に襲われ
ていた。
「…じゃあ」
茗は太腿に引っかかっていたショーツを足首から抜き取ると、膝をついたままで両足を広げ、槙の下半
身をまたいだ。
両手の使えぬ槙の意を汲み取ってか、片手でスカートを捲り上げながら片手で充血したペニスを摘む。
棹のように強張ったそれの延長線には、初めて受け入れる異物の為に愛液に濡れそぼる茗の性器がある。
俯いてピントを絞るように狙いを定めながらゆっくりと腰を下ろしていく。慎重に慎重を重ねる余りに
額に汗を吹く少女の姿は、経験者からすれば滑稽以外の何物でもないだろう。
「あっ」
「んっ」
他人の粘膜の熱さを粘膜で感じ取る刹那、脊髄を電撃が貫く。瞠目せざるを得ぬ槙の視線の先には、い
たいけな膣口に先端を埋もれさせる亀頭があった。
もう後には退けない。快楽の袋小路に追い詰められた少年の本能は、もがくようにペニスを突き上げさ
せていた。
「うんっ、…ん、つうっ」
「大丈夫か」
破瓜の激痛が走ったのだろう。少女の肢体がわななき、眉が歪み、噛み締める歯の間から生々しい喘ぎ
が零れる。
処女を奪った征服感と苦しみを味わわせている罪悪感が槙の意識を両側面から挟みつけ、気遣いを口に
出しながらも腰を抜き下ろすことはできなかった。
後に退けないのは茗も同様だった。鋭いナイフでえぐるようにぬかるんだ膣路を進んでくるペニスを拒
むことなく、血の滲む性器を押しつけていった。
「茗、全部、入ったよ」
「入った? …うん。入ってる、槙の」
未知の熱さ、狭さ、蠢き。ぬめった掌で締めつけられているような、強烈な圧迫。
「一つになれたんだね、あたしたち」
前髪の向こうの少女の瞳が潤んでいるのが見てとれる。それは、堪え切れぬ処女膜の裂傷がもたらした
ものだろうか。愛しい異性との初体験の感激が誘ったものだろうか。
「茗、俺、俺」
「ん、何」
「ご免。…俺、優しくできない」
このままでも、然程の時間もかからずに絶頂に達するだろう。しかし、槙の猛り狂う本能は、貪欲に快
感を深めていくことを選んだ。へたり込む茗の全身ごと撥ね飛ばすかのような勢いで腰を振り上げる。
「ふあっ、くっ、くうっ」
膣全体がペニスに吸いつき、放さぬようにきつくくわえ込んでいるのが判る。それは、男という存在そ
のものが少女に包み込まれている錯覚に陥らせる。抱いているのではなく、抱かれているかのような。
「…茗、茗…」
「ひいっ、いっ」
ベッドの軋むリズムに共鳴した茗の呻きが、肉と肉を打ちつける音、陰毛と陰毛が絡む音と合わさって
医務室に響き渡る。いつしか、激痛に堪え兼ねる少女の両手が少年の胸に当てられ、爪を立ててシャツ
を掻きむしっていた。
それでも、甘美な粘膜の融合の愉悦に引きずり込まれる槙は、挿入の幅を抑えることなく、寧ろ、広げて
いく。荒波にたゆたう小舟のように、茗は悶える肢体を上下に弾まされるばかりだった。
「いっ、も、もう、だめぇ」
ついに細い顎を上げ、茗が吐息を漏らしながら限界を訴える。
「あ、ああ、…俺も、もう」
茗の苦痛と反比例し、槙の官能もまた限界に近づいていた。腰の裏にわだかまるものを感じながら、羽
目を外したようにペニスを膣路の奥に突き上げていく。
「俺も、出る、出す」
「あっ、う、うん、いいよ、出して」
「ああ、イク、イクよ、茗!」
淫らなねだりに脳内が真っ白に塗り潰された刹那、怒涛のような快楽が突き抜け、槙は会心の射精を遂
げた。熱い精液を少女の子宮口に浴びせかけていく。
「ん、んんっ」
胎内に迸りを感じて終焉を悟ったのか、茗は荒い呼吸を繰り返しながらゆっくりと槙にもたれかかる。
穏やかになっていく目元から一筋の涙が流れる。それは、女への脱皮を果たした少女のわずかな残滓か
も知れなかった。
射精の心地よい余韻と安らかな少女の体温が、槙をこの上なき満足に浸らせる。お互いの最も脆弱で敏
感な部分を擦り合わせるだけのことがここまで人を乱れさせる神秘に、呆然とするばかりだった。
「…ねぇ、槙」
媚びる視線が槙を刺す。
「ん、何だ」
「どこにも行かないで。ずっと、ここに居て。あたしと一緒に」
返事の必要はなかった。その代わりに、少年の旺盛な本能は、萎えた筈のペニスを茗の膣路の中で再び
漲らせていたのだから。
fin