逆鱗を何度も何度も使って二人はついにハッピーエンドを迎えた。現代に帰った二人は結婚。  
龍神のご加護により、学生をしながら、主婦という二重生活を送る。  
先生は翻訳の仕事をしてる。在宅で出来るし、顔を見せずに済むから将来は小説家もいいかもしれない。  
先生はこの世界にも慣れたが、まだまだ覚えることは多い。新妻望美ちゃんを驚かせることも多い。  
 
「これなんですか?」  
夕方、食卓の真ん中を大きな花束が占領している。赤で纏められた綺麗な花束。バラに、カーネーションに、ガーベラなどなど。  
「その…母の日というのは花を贈ると聞いたのだ」  
そんな花束、卒業か退社祝いでしか作れない大きさだ。ちょっと待て。その花代はどうしたの?  
確か早めに戻るっていうんで五千円渡して、野菜と果物買ってとお願いしたのに…花束一つって何?  
いやな予感が走る。  
 
「それ、只の宣伝ですよ。商品を売るためにいろんな理屈をつけて、みんなが買うように仕向けるんです」  
「必ず贈るのではないのか?」  
「それは、それぞれのお金の予算に応じて、決めるんです」  
「そうなのか…知らなかった。予算というのをいえばよかったのか…」  
「まさか今日の渡したお金を…」  
「ああ、使った」  
 
望美はがっくりと肩を落とす。先生、変なところで浮世場慣れしてます。五千円一度に花束で使いますか?  
でも望美は嬉しくなった。向こうの世界では先生に教えられていたから、自分が教えられるのって嬉しい。  
やっと向こうで花断ちを教わったお礼ができる。  
「そういえば、これ…母の日って」  
「私に近しい者はお前しかいない…いけなかったのか?」  
そんな哀しそうな顔で見ないで下さい。先生。まるで○○フルのチワワです。マスクとあの衣装で寡黙なキャラ、何処においたんです?  
マスクなしで、こんなに表情が変わるなんて。  
 
「いえ、嬉しいです。また一つ思い出が増えたなって…」  
女の子、やはり花束を贈られるのは嬉しい。しかも情熱の赤とは。恋人の雰囲気が盛り上がる。  
「そうか。望美、喜んでくれるのか」  
やっと先生は明るくなった。ほんとにアイ○○のチワワだ。うるうる目で見つめてくると叶わない。  
「今度、買い物行きましょう。花束はほんとにたまでいいですから」  
(RPG風)ぱんぱかぱーん♪望美の課題が1増えた!先生の知識が1上がった!先生は買い物の知識を手に入れた!  
あ、先生、デパートと商店街の区別はついたっけ?コンビニはあちこちあるから侮れない。つい手がでちゃうんだよ…  
♪かぜのなかのすーばるー すなのなかのぎーんがー みんなどこにいったー♪  
頭に何故かこんな曲がながれてくる。せめて「時代」のほうがいい。これでは本当に母親気分だ。  
 
違うってば!恋人同士よ!ほんとなんだから!妙にずれているが恋人だよ!頭を振ってみせる。  
「どうかしたのか?望美」  
「ううん、なんでもない」  
「顔色が良くないぞ、風邪でも引いたらよくない」  
いきなり寝室へ連れて行く。  
「大丈夫です。風邪も引いてないし、セキも引いたし」  
「お前は時々我慢をしすぎる。私が確かめる」  
「はい」  
こんなところでは向こうと同じ対応をしてしまう。今は夫婦だというのをころっと忘れてる。  
 
「熱はないようだな。喉も、鼻も異常ないようだ」  
「心配しすぎです。ほんと、元気ですから」  
「そうか、では大丈夫だな」  
先生がにっこり笑う。こういうときは素敵。絶対マスクがないほうがいい。火傷の痕はすぐになれちゃったし。望美はうっとりする。  
「では、今夜はよいな?」  
「はい?」  
くるりと視点が変わる。気がつくと、ベッドの上だ。ばさりと金色の髪がかかる。私の上には先生がいるって…ええ?  
 
「いつ見ても良い香りだ。今日は花の香りをつけているのか?」  
「ちょっと、先生、これって」  
「お前に良く似合う」  
髪を掻き分け、甘い声で、首筋に唇を寄せてくる。事態に気づくのが遅すぎ。自己嫌悪に陥る。  
「ああん」  
かすかな痛みが走る。本気だ。赤い印がついてく。一つ、二つ。  
「明日は休みだ。今日は少し激しくしてもいいな?」  
言葉の意味に気づいて青くなる。  
「ちょっと優しくして下さいっ」「勿論だ」  
服の上から胸を揉んでくる。駄目だ。もう逃げられない。諦めて望美は瞳を閉じた  
 
 
昼前だ。目覚まし時計を見ながら望美はのそのそと動き出す。  
先生…大柄なんだから、もう少し力加減してください。可愛がるって意味が違う気がするよ…(疲れ)  
「先生のエッチ!何度したと思ってるんです?」  
「二回から後は数えていない。お前は数えられたのか?」  
「出来ません!」  
めちゃくちゃに責められて、泣かされて、体が痛い。声が嗄れてる。セキの原因はこれだ。  
「私とそれだけ出来たのだから健康だ。何故怒る?」  
浮世場慣れしてる分、どんな風に攻め込むのか予測がつかない。  
おまけにマスクを外した先生は私しか知らない。これから私の体で、先生のことを覚えるしかない。か、体ってー?うあああ!  
エッチな発想に思わず頭を抱え込む。ああ、再びあの曲が流れてくる。(以下同文)  
諦め顔で望美はパジャマを着ると、台所に走った。今日はカップめんで決まりだ…まーいいや、手がかからない。  
 

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