秋の京。再び梶原邸に戻ってきた。でも春と違うことがひとつある。夜、私は一人で外に出る。
私は朔を起こさないようにそっと体を起こした。下着を着けないで薄い着物一枚で足音を偲ばせる。心の中で謝りながら。
部屋から外に出ると、彼が待っている。いつもと違って頭巾を外した素顔の彼。長い髪が揺らめいていつもと違う印象になる。
煌々と光る月の下で彼は手招きをする。きらきらと光る茶色の毛。
「朔は眠ったようですね。待ちくたびれましたよ。望美さん。こちらに参りましょう」
いつもの怜悧な表情が和らいで見えるのは私が惚れてしまった性なのか。月光のせいなのか。
弁慶さんに言われるまま、館の離れにいく。歩く間にも体の距離は近づいて、ほとんど耳元で囁かれてる状態になる。
「秋の風は冷たいけど、直に暖かくなりますよ」
「やんっ…くすぐったい」
歩く速度が遅くなる。弁慶さんに後ろから抱きすくめられて、動けなくなる。
「どれだけ君が欲しかったか…分かりますね」
腰の辺りの感触に顔が強張る。服の上からも硬くなってるのが分かる。まだ慣れない。どきどきが止まらなくなる。
分かっててこんなに体をくっつけてくる。こんなに積極的に行動に出るなんて。頭脳派だとばかり想っていたのに。
もう引き返せない。
「呼吸が速いですよ?そんなに気になります?」
「まだ…日が浅いからっ…意識しちゃうよ…それっ」
「ほんとに可愛いですね。ますます、手放せなくなりますよ」
いつの間にか胸の辺りまで手が伸びていた。後ろから抱きしめてくる。外にいるのに少しも冷気が感じられない。
「あっ…あ…弁慶さん…」
「今日も気が気ではありませんでしたよ。怨霊や平家の者に君が傷ついたらどうしようか…そればかり考える」
弁慶さんの声が麻薬のように動きを止めてしまう。ずるい。私を縛っていく。
「ヒノエや譲君が触れられないように、手を切り落としてやりたい…」
「嘘でしょ?ねえ?だって仲間なんだからっ」
焦って思わず、声を上げてしまう。その瞬間、口をふさがれる。ううん、首を捻じ曲げられてキスされた。息が止まる。
唇を触れ合わせ、舐めるだけで済まず、口の中まで開いていく。これだけで感じるなんて、変だ。
溶けそうだよ。体の力が抜けそうで思わず体を硬くする。
開放されると、すっかり弁慶さんに寄りかかってしまう。息が荒い。涙が出る。鼓動がやけにおおきくきこえるよ。
「本気ですよ。望美さんに近寄る者は許さない。たとえ仲間でもね」
「だめえ…ああ…弁慶さあん」
ゆるゆると両手で胸をもまれる。また溶けそうになる。外なのにこんなことしたら声が出ちゃうよ。唇を食いしばる。
「本当に君は感じやすい…こんなところではしませんよ。君の姿を独り占めしたくてここまで来たんですから」
ふわりと体を抱き上げられた。お姫様抱っこって…うわああ。顔が赤くなる。見かけより力がある。
視点が変わる。満天の星空が、満月が見える。一瞬現在の状況を忘れてしまった。
でもほんの一瞬で終る。弁慶さんの顔が迫ってきて、もう一度唇を重ねる。髪の毛がかかる。吐息まで憩えるよ。
「んんっ…」
「駄目です。僕だけ見てください」
「はあっ…」
「そうですよ。上手になりましたね」
くちゃくちゃと音がする。自分から舌を絡めて行くなんて。そこだけ別の動物みたい。どんどん私が変わっていく。
キスするのに夢中で部屋に入ったのも気づかない。かすかな火の光にやっと気づいた。床に黒い布が広がっている。
唇を離すと、そっと体を横たえられた。黒い布だ。いつも被ってる頭巾。
「これいいの?汚れちゃうよ」
「戦で着替えないことも多いですから、誰も気にしません。本当に君はいろんなことを気にするんですね」
どんどん弁慶さんが脱いでいく。体中に傷がある。軍師の前は山法師で、九郎さんと徒党を組んで暴れて。他にも経験があるはず。
だからあれほど、的確な判断が出来る。時には冷酷な判断をしても九郎さんを勝たせる。
キスの余韻にぼうっとした頭で弁慶さんが脱ぐのをみていた。
「君は脱がなくていいんですよ。僕の楽しみの一つですから」
「ええ?」
さらっとすごい事を言われる。
すっかり上半身を脱いでしまった。見るだけでまた鼓動が上がる。いつもの弁慶さんとも違う。獲物を狙う肉食獣の目。
「まだ全部は脱ぎませんよ。君が慣れないようだから」
「!!」
ゆっくりと弁慶さんが覆いかぶさってきた。長い髪が垂れて、私の肩にもかかる。
「今だけは僕のものでいてください…望美」
「弁慶さん…いつも心は弁慶さんで一杯だよ」
「本当に君は僕が想った以上のことを口にしてくれますね」
「弁慶さん?」
「好きですよ。望美…」
何だか弁慶さんが泣きそうに見えた。耳たぶを噛まれて、両胸をもまれて、悲鳴を上げた。先ほどと違う激しい動きに声が抑えられない。
「もっと、もっと僕を呼んで下さい…」
「ひゃああっ…あああ」
耳元から、首筋に唇が移動してちりっと痛む。
「見えるところにはつけませんから…」
「ううっ…ああ」
形をなくすほどもまれ、先端をすられて、嬌声が上がる。
「感じてください。そのまま逆らわないで…」
「おかしくなるっ…あああ…こえがあ」
これが正常だとわかっても波に飲まれまいと、気を保とうとする。声が止まらない。ばたばたと暴れる手を胸にやる。
それでも弁慶さんの手に触れる程度。引き剥がせない。強く弾かれる。
「うあーーっ」
目の前が一瞬白くなった。いつもの私が溶ける。弁慶さんの言うとおりになる。何もかも。
途切れ途切れに意識がはっきりする。始め、胸を触れていた手は私の一番奥に触れる。唇で、指で、私の一番奥まで道を作る。
何度も達するけど手を止めない。汚いという言葉も声に出ない。
ぴちゃぴちゃと舐めている顔はとても楽しそうで。髪の毛まで私の体液で濡れてる。ぼんやりと私の中がこじ開けられる様を見てる。
「出来るだけ痛みを与えたくないんです。あなたには薬を使いたくないから」
彼のものを入れる前のほうがいいっていったらどんな顔をするんだろう。でもまだ慣れない。始めよりは痛くなくなった。
両足がつかまれ高くあがる。もう我慢できなくなったのか。さっき服越しに触れたモノが直接あたる。
「いきますよ…出来るだけ優しくしますから」
ああ、この瞬間だけは慣れない。強い衝撃と一緒に悲鳴が上がる。奥まで痛みが走る。早く出て行って欲しいと願う。
何度か往復した頃、ようやく、溶けるような感じが生まれる。
「ううん…ああん…」
「少し良くなったんですね…どうです」
始めより動きを早くして、望美の表情を確かめると、弁慶の動きが一気に早まった。奥まで突いて、更にかき回す。
奥がじわじわと熱くなって、蜜が流れ出し、弁慶の動きを助ける。うねる壁に弁慶の顔が歪む。
「もう少し…中にっ」
「ああっ…いいよお…いいのっ」
繋がってるところが熱い。どんどん強い波が来る。ドクンと突かれて、一気に目の前が弾けた。、
だいぶ月が傾いた頃、離れから、いつもの姿の弁慶が出てきた。腕に望美を抱えている。服はきちんと着せて。
比叡、熊野の経験、血筋、色々な条件が有利に作用して、望美をそっと朔の側に置いて出ることが出来た。
「随分、僕は君を利用している」
弁慶の顔が歪む。
「これから僕がしようとしてることを知ったらどういうんでしょうね?」
譲が前に言った言葉が胸をさす。
ー先輩はあなたの、源氏の駒じゃない。それでも人間なんですか?神子なんてならないほうがよかったー
「これが戦なんです。源氏が勝たなくては平家の怨霊が地に満ちる。これ以上無辜の命を失うわけに行かないんです。
君たちに、謝って済むならそれで済ませたい。でも、他に道がないんです」
弁慶が月光の中に立ち尽くす。
「僕は何処まで罪を重ねるんでしょう。駒として使うだけでなく、本当に愛するなんて…」
黒い頭巾を深く被り、仲間たちのいる部屋に戻っていく。
「今だけは、許してください。せめて、僕が動き出すまで…愛することを許してください」