「白衣が似合いすぎです。弁慶さん」  
「ありがとうございます。この髪の毛も気に入ってますよ」  
ばっさり切られて短い髪。それもよく似合う。熊野の血は美形らしい。  
「ハーフという設定にされるとは思いませんでしたが、楽ですよ。下手に過去を突っ込まれなくて済みます」  
黒と白。あちらの世界とは逆の姿だ。でも妙に似て見えるのは同じ色で統一されているせいか。  
「ああ、ここでは先生と呼んで下さいね?」  
「あ、忘れてた…」  
「まあ、あちらではリズヴァーンさんが先生でしたから、暫くは時間が掛かるでしょうが…慣れてください」  
「はい。先生」  
「薬もある程度揃っているし、寝室の機能もあって、個室なのは助かります。僕にも望美さんにも好都合ですよ。  
白い服一枚で事足りるのも楽ですね」  
「はい?」  
なんだか今の言葉に含みがあるような気がするんだけど。突っ込むのが怖い。この人は二面性を含んでいる。  
藪を探って蛇を出すのはやめとこう。こんなときの予感は当たるんだよね。あたらないといいけど。  
 
「そこに座ってください」  
いわれるまま教諭の机の側の三脚に座った。二人で向き合う姿勢になる。  
「お茶でも飲みますか?ペットボトルのお茶ですが…ああ、僕のお金で買ったものだから」  
「やけに細かいですね」  
「備品で飲み物が準備できないのは意外でした。こうやって話をするときは飲み物があると和むんですよ」  
淡々とした表情でお茶を飲む。  
「不満そうですね。先生」  
「ええ、あまりおいしくないんです。でも高価なものは生徒にいい影響を与えないといわれて…困りますね」  
少し不機嫌な顔。あまり突っ込まないほうがいいのかな?お茶を飲みつつ次の言葉を待つ。  
「ああ、愚痴をこぼしてしまいましたね。あなたが来る時間は私には代え難い貴重なものなのに…すみません」  
「いえ、あの…」  
地であんな台詞をはく人が、本気になったらどうなるか想像しなかった。危険だ。ヒノエくんの上をいってるよ。  
 
「先生。今鍵かけませんでした?」  
天使の笑みを見せつつドアに手をかけた先生ー弁慶。  
「そうですよ。よくわかりましたね。ああ、二人きりの時は弁慶と呼んで下さい。あちらのように…ね」  
甘い囁きに望美は固まる。  
「可愛いですね。そんなに固まって。どうやら男性経験がないようだ」  
「はい…」  
そのとおりです。幼馴染は居たけど、付き合いはありません…もう言葉に出す気になれないよ。  
あれだけ長く一緒にいたら私の表情は全部読まれてる。  
「安心しました。あの二人が側に居たから、経験があるかと心配しました。どうやら僕は幸運に恵まれたらしい」  
「あの、弁慶さん…その笑み、あの時と同じです」  
「いつですか?思い当たることがありすぎて…」  
この場に及んでしらばっくれてる…私に言わせる気ですか?  
「源氏を裏切るって打ち明けたときの顔そっくり…」  
 
弁慶さんがゆっくりと顔を近づける。  
「そうですよ。君がいとおしくて、欲しくて、壊したくなる」  
いきなり唇をふさがれた。背中を引き寄せられて、動けない。唇だけで許してくれない。無理やり入り込んだ舌が動き回る。  
恐ろしくて、でも気持ちよくて、されるがままに身を任せた。  
「ああ…ああん」  
唇を離すと、つっと唾液が流れる。思考が上手くまとまらない。体の力が抜けて、弁慶さんに寄りかかる。  
顔を持ち上げられる。上から見下ろされる。あのときよりー裏切るって言ったときよりもっと怖い顔。  
「これだけ感じやすかったら…僕も助かります」  
「ええ?」  
「僕だけのモノになってください。望美」  
弁慶は脱力した体を持ち上げてベットにのせる。  
「正直限界なんですよ。ここは男子生徒もたくさん居る。あのときのほうが楽だった。あなたを一日中見ていられた。  
約束をしてください。僕以外に触れないと…」  
「前、卒業するまで待つって言ってくれたじゃない?弁慶さん」  
 
泣き笑いの顔をして弁慶さんが覆いかぶさった。  
「すみません。待てないんですよ。もう…」  
再び口をふさがれて、反論は封じられた。再び甘い感覚に酔う。媚薬が仕掛けてあるのかと疑いたくなる。  
体中力が抜けて服を脱がす手を止められない。ばたばたと動く手は弁慶の腕まで伸ばしたところで叩き落とされた。  
制服の前だけはだけて、ブラジャーは上にずらされた。胸だけ露わにすると、やっと唇を離した。望美が一気に現実に帰る。  
「やああんっ!」  
頭がごちゃごちゃになる。先に飛び出したのは悲鳴。ぽろぽろ涙が零れて落ちる。  
「どうか拒まないで…お願いです…どうか…」  
切羽詰った声とともにキスの雨が降る。  
「君がすきなんです」  
その声に涙が止まる。泣きそうな顔。  
「あなたを誰にも抱かせたくないんです」  
「どしてそんな心配するの?弁慶さんしか見えないのに?」  
「言葉だけじゃ不安なんです…事実が欲しい…」  
そんな弱弱しい言葉を口に出すなんて思わなかった。胸がきゅんとする。やっと言葉がまとまった。  
 
「いいよ。それで弁慶さんの不安や恐れがなくなるなら。好きにして」  
弁慶さんはとても複雑な顔をした。  
「いいんですか?君を壊してしまうかもしれませんよ?」  
「弁慶さんなら壊されても構わない」  
「本当に君は…いけない人ですね」  
耳元に唇が落ちた。  
「ここから先は止められません…すみません」  
首筋から、胸に、唇が、手が這い回る。それだけでぞくぞくして声が止められない。体が跳ね上がる。私が私でなくなる。  
「あああ…うああ」  
「のぞみっ…のぞみ」  
何度も弁慶さんは私の名を呼び、体に火をつけていく。唇を合わせたときよりもっと強い。胸がもまれ、形がなくなるほど捕まれる。  
「うああっ…やああ」  
「感じてるんですね…嬉しいですよ」  
胸から強い波が来る。目の前が白くなる。どんと頭の先まで波が来て、全てが弾けとんだ。  
 
波に流されて、意識は途切れ途切れ。私の奥までこじ開けようと指が動いてる。足は上に上がってる。  
上げられてるんだと気づくけどそれ以上頭が働かない。  
「ああん…もうっ…」  
「狭い…もう少し我慢して」  
体の奥が熱くなってる。水音と、指の冷たい感触。でも別なところを擦られて、痛みと快楽が交互に襲う。何も考えられない。  
神経が集中する。段々痛みが遠のいて、声が高くなる。先ほどの波が襲ってくる。  
弁慶さんが私の名前を呼んだ。  
「望美さん…もう僕が待てないんです」  
すみません、と小声で謝ると、いきなり衝撃が襲ってきた。  
 
悲鳴と水音が部屋中に響く。逃げる体を捕まえて激しく出し入れする。  
「ああっ…やああっ…ああっ」  
「のぞみっ…ああ」  
痛みに身をよじっても逃げ場がない。涙を流しても、叫んでも動きが止まらない。でも嫌いになれない。  
さっきの泣きそうな顔が目に浮かぶ。  
苦しい声を出さないようにしてあげたかったけど、出来ない。塊が奥まで入るたび、声がでる。  
「ああ…のぞみ…」  
「ひああっ…あああっ」  
痛みで気が遠くなる。弁慶さんの声も聞こえなくなった。  
 
「おきてください。もう少し寝かせてあげたいけど、教師も帰る時刻なんです」  
穏やかな声に起こされたら、窓の外は真っ暗。服は着せて合った。後始末もされたらしい。  
明りの中で悲しそうな顔をして座ってる。  
「無理をさせましたね。すみません。僕が焦ったんです。この世界で生きる場所はもらえても、君との距離は遠くなった…」  
「どうして?私は二度弁慶さんと死に別れて、三度目にやっと一緒になったのに」  
「君が全てになってしまったからですよ。思ったより僕は嫉妬深かったらしい。  
ここでは僕は一人です。両親も親戚もなく、君一人を支えにするしかない…」  
「私だってそうだよ。弁慶さんが居なかったら、逆鱗使わなかった。あの未来を選んだ…平家が勝ってみんな居なくなる未来を…」  
 
自然に手が動いた。腰が痛むのも構わずベットを降りる。  
「望美さん、無理はしないで」  
「私はこの未来を選んだの。こうして一緒にいる未来を…」  
座ってる弁慶さんの頭を抱いた。出せる限りの力で。女の子が変だなんていわれるかもしれない。でもこうしたかった。  
「だから謝らないで。私は弁慶さんのほんとの言葉が聴けて嬉しいから」  
弁慶さんの肩が震える。暫くの沈黙の後、弁慶さんが両手を掴んだ。  
「じゃあ、たまには僕が抱いてもいいですね?」  
「弁慶さんってば!」  
「今度はもう少し気持ちよくしてあげますよ」  
もしかして墓穴を掘ったのだろうか。普段の調子に戻った弁慶さんは窓を開けた。  
「ここから出ましょう。もうタイムカードは押してあるのでまずいんです」  
「ええ?」  
「僕がおんぶしてあげますから、出ましょう」  
確かに腰が痛くてきつかった。車で家の前まで送られるのは楽だった。  
 
「いい先生ねえ。あなたを心配して残ってくださるなんて」  
感嘆する両親を前に私は考え込む。今日の弁慶さんは何処から何処まで本気なのだろうか。それとも始めからお芝居だったのか。  
でもどっちでも私は抱かれるほうを選んだろう。ああ、面倒くさい人を好きになっちゃったよ…私。  
 
 

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