これは、夢だ。あのときの夢。  
 
早く目を覚まさなくては。  
 
望美はそう思ったが身体が固く縛られているようで思うように動かない。  
 
頭の中で夢だとは解かっているがそれ以外は意識に霞が掛かっているようで朦朧としていた。  
 
 
 
見上げれば剥き出しの岩肌がある。  
 
矢が掠めた右腕の傷が燃えるように熱い。そこを中心にして体中が発熱しているようだ。  
 
「お、ようやくお目覚めのようだぜ」  
 
「何も起きるまで待ってやらなきゃないこともなかったんじゃないか」  
 
「気を失っている女なんざ抱いても何にもおもしろくねぇよ。 お前、わかっちゃいないな」  
 
   
 
声の主が近づいてきたかと思うと顎を強制的に掴まれて何かを口の中に突っ込まれた。  
 
そのまま水を含まされる。  
 
「飲めよ。俺たちは雅も知らない源氏者とは違うからな。  
 
 敵方の女でも、しっかり啼かせてやらねぇと気がすまないのさ」  
 
吐き出すことを許されずに水と異物が望美の喉を通過した。  
 
「う…ぁ…な、に…」  
 
「気持ちよくなれる薬さ」  
 
「挿れる頃には男が欲しくてたまらなくなるってことだ」  
 
男たちの下卑た笑いに吐き気にも似た嫌悪感が走る。  
 
「なぁ、源氏の神子ってのは平家の怨霊たちをお優しくも鎮めて封印してくださるんだろう?  
 
 なら生きている俺たちもそのご慈悲で極楽にイカせてくれよ」  
 
そう言って羽織に手を掛けられた。  
 
払いのけようとした瞬間に右腕の傷が酷く痛んでそれすらも叶わない。  
 
簡単にはだけられた着物の中から白い肌が露になる。  
 
胸を下から包まれて、その頂きに向かって舌を這わされた。  
 
「やだっ!!きもちわるいっ…!!」  
 
粘着質なその動きと、それが通った後に触れる空気がえも言わせぬ不快感を与える。  
 
その反応に男達が喜色を浮かべた。  
 
「おい、ひょっとしてこいつ、生娘か?」  
 
「きめ細かい肌じゃねぇか、たまんねぇな」  
 
「宿場の女どもの肌は他の男の臭いがするからな、こいつはとんだ上玉だ」  
 
「さわら、ないでっ…!」  
 
嫌悪感を露にして男達を睨みつけてもそれは相手の加虐心を煽りこそすれ、自らを助ける手段にはならない。  
 
そう頭では理解していても、抵抗らしい抵抗という術を持たない望美には  
 
屈しないという意思をその視線に織り交ぜて男達にぶつけることしかできなかった。  
 
「怖い怖い。龍神の神子殿はご機嫌が斜めとお見受けする」  
 
バカしきった声でおどける男の目は、獲物を完全に自分の領域の中に取り込んだ肉食獣のそれだ。  
 
逃げることを許さず、じっくりと弄ることを明らかに楽しんでいる。  
 
「強がっていられるのも今のうちだ。そのうち涙を流して自分から足を開くぜ。  
 
 お願いします、挿れてください、ってな。あれはそういう薬だ。  
 
 いつまで清らかな神子様の矜持を保っていられるか、楽しませてもらおうじゃないか」  
 
男達が面白がっていることはわかる。敢えて望美から距離をとったことにそれでも安堵を覚えながら  
 
痛む右腕を押さえて逃げることを画策する。  
 
何とかして洞穴の出口に近づこうと岩肌に預けた背を使って立ち上がり、身を捩った瞬間に目の前が暗くなるのを感じた。  
 
鼓動が異様に早くなり、体の芯が融けていきそうなほど熱を持っている気がする。  
 
こんな感覚は、知らない。  
 
自分の吐息でさえ第三者の意思を持っているのではないかというほどままならない熱さを持っている。  
 
「おお、そろそろ効いてきたんじゃないか?」  
 
男の一人がニタニタと下品な笑いを浮かべて、それでも望美には近づかない。  
 
どうせ逃げることなど叶わないことが判っているが故に、あがく望美を見て楽しんでいる様がよくわかる。  
 
今まで誰にも触れさせた事のない奥からトロトロと何かがあふれてくる感覚は不快感とも、甘い快楽ともとれた。  
 
自分の奥が誰かに触れてほしくて疼いているのがわかる。  
 
「どうだ、神子殿。俺達が欲しくなっただろう?」  
 
「…だ、れが…!!」  
 
湧き上がる熱をもてあましても屈することだけはしたくない。  
 
浮かび上がる目尻の涙を拭いもせず、今頼れるのは自分のプライドだけなのだと悟った。  
 
「俺達に触れられるのが嫌なら、自分の手でしたらどうだ?  
 
 もう相当限界が来てるだろう?辛いのを我慢してたってこれからどんどん苦しくなるだけだ」  
 
我慢できるなら死ぬまで我慢していたって構わないけどな、という言葉すら洞穴の壁に共鳴して望美の思考に痺れをもたらし始めた。  
 
つらい。目の前が赤く点滅しながら全てのものの輪郭すら歪んで見える。  
 
普段は肌の下に通っている神経が今はすべて表面に浮き出てしまっているのではないかと思えるほど少しの振動ですらも敏感に感じてしまう。  
 
気がつけば、望美の指は自分の下肢の間を這っていた。  
 
つ、と薄布一枚で隔たれた蜜壷に手が伸びる。  
 
息を詰まらせ、震える指を差し入れるとそこは温かいというよりは熱い蜜が絡まった。。  
 
悔しさに、こらえていた涙があふれる。だがこの熱をやり過ごさなければ、本当に気が狂ってしまいそうだった。  
 
ゆっくりと中をかき回すと、柔肉が奥へ奥へと誘うようにうごめくのが解かる。  
 
自らの指が与える刺激が、甘い痺れになって望美の脳を支配した。  
 
もっと、もっと、と無意識に腰を捩る。気がつけばいつの間にか指を三本に増やしていた。  
 
ある一点を中指の先がはじいたことで、大きな波が襲ってきた。  
 
「ぁあ…あ…っ」  
 
思わず漏れた声に男達が色めきたった。  
 
「おい、とうとう龍神の神子様が淫らにも御自分の指で達されたぜ?」  
 
「こんな淫乱な神子様に加護を受ける源氏の奴らも程度が知れるな」  
 
「能無しの総大将に、臆病者の戦奉行。鞍馬の鬼に平家を裏切った公達、使えない奴らばかりだな!」  
 
全くだ、と笑い声が響いた次の瞬間、望美の左手が男の頬を打った。  
 
「げ…んじの、皆を、バカにしないでっ…!!」  
 
八葉の面々がどこまで平家に顔が知れているのかはわからないが、大切な仲間達をその口で汚すことはどうしても聞き捨てならないことだ。  
 
達したばかりの朦朧とする頭で必死に男達をにらむ。  
 
打たれた男はあっけに取られた顔をしていたが、すぐに不敵な笑いを口元に浮かべた。  
 
「やっぱりお優しいな、龍神の神子殿は。仲間への愛情は人一倍、か。  
 
 おもしろい、もう二度とその大切な仲間の下に帰れなくしてやるよ」  
 
右腕の傷の部分を掴まれ、思い切り引き寄せられる。  
 
あ、と思った瞬間にはくるりと身を反転させられ、男の熱い息の向こう側に目覚めたときと同じ岩肌の天井があった。  
 
「や、やだ、やめて」  
 
思い切り声を出して助けを呼びたいが、やっとのことで絞り出した声は哀しいくらいに掠れていた。  
 
「おいおい、さっきまでの威勢はどうした?あの勢いで俺達も楽しませてくれよ?」  
 
「おい、お前が先にやるのかよ」  
 
不機嫌そうなもう一人の男の声に  
 
「何言ってんだ、龍神の神子を戦場から奪ってきたのはこの俺だぞ?  
 
 安心しろ、時間はたっぷりあるんだ。お前にも後で十分楽しませてやる」  
 
そう応えて自分の帯を解き、熱く猛ったものを取り出した。  
 
ぐ、と足を開かされ下着は力任せに剥ぎ取られた。  
 
誰か、と思った。誰か、助けて欲しい。  
 
「やっ…やだっ!!嫌!!弁慶さん!!弁慶さん!!!弁慶さん助けて!!」  
 
思わず叫んだその声に、それまで楽しげだった男の眉間が潜められる。  
 
「弁慶…って、あの源九郎義経の参謀、武蔵坊弁慶のことか…?」  
 
「こいつ、武蔵坊弁慶の女か…」  
 
「あの男の策略に、俺達平氏がどれだけ煮え湯を飲まされたか…!!  
 
 あいつさえ、あの男さえいなければ、俺の親友は死なずに済んだんだ…!!」  
 
足を開かせていた男の指に力が籠められる。だがそれ以上にその目に宿った狂気が望美の背筋を震わせた。  
 
「気が変わった。せいぜい楽しませてもらうつもりだったが、そんなもんじゃ足りねぇ。  
 
 あの男が気狂いしそうなくらい、お前を痛めつけてやる」  
 
そういって男の先端が望美の蜜壷にあてがわれる。  
 
薬の効果であさましいまでの雫を滴らせるそこは、思った以上に簡単に怒張を飲み込んでしまった。  
 
恐れていた破瓜の痛みは、なかった。  
 
高校生になって友達は次々と彼氏を作り、授業中の手紙、お弁当の時間、放課後の喫茶店で  
 
それぞれが嬉しげに、その恋の模様をを皆に聞かせていた。  
 
そしてみな口をそろえて言っていたのだ。  
 
初めての時は体が引き裂かれるほどの痛みを伴ったが、好きな人と一つになれたことの充足感がそれを上回るのだ、と。  
 
望美には、引き裂かれるような体の痛みはない。  
 
あっさりと好きでもない男を受け入れ、物欲しげにそこをひくつかせる下半身があるだけだ。  
 
涙が一筋だけ流れた。  
 
それが望美の破瓜の痛みだった。  
 
 
 
あれからどれほどの時間が経ったかはわからない。  
 
随分と喘がされて、のどが渇いて仕方がない。  
 
その感覚だけが今望美が感じることが出来る全てだった。  
 
自分の上に跨る男が突然動きを止めたが、そんなことはどうでも良かった。  
 
何か鈍い叫び声とゴトリという音がした気がして、望美の鼻先を柔らかな香が掠めた。  
 
「…べ…けぃ…さ…?」  
 
微かに動く乾いた唇で、想い人の名を紡ぐ。  
 
確かに知っているはずの甘い香りと、頬に添えられた手の温もりに、望美は口元に笑みを浮かべた。  
 
 

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