高く低く波と風の音が子守唄になる。海が荒れるのも凪ぐのも仏の御心次第。  
ヒノエは見覚えのある山や岩の形を探す。でもまだ見当たらない。港まで数日。  
心だけがはやる。男たちは賭け事や異国の噂に興じている。ヒノエも参加していたが半分は上の空。  
「少し部屋に戻るぜ」  
思い出すのは最高の姫君の柔らかな肢体。泊まり先でも独りで宿に泊まった。  
もう望美以外の女には目が止まらない。長い髪を見るたび、桃色の衣を見るたび望美に想いを送る。少しは俺がいなくて寂しがってるか…他の男に手を出されてないか…以前なら考えもしない嫉妬に悩まされていた。  
「姫君に少し無理してもらうしかねえなあ」  
ヒノエは懐の土産を触りながら、早くも不埒な方向に考えを走らせた。  
 
港に船が着くと、あちこちで歓声が起こる。家族の再会に浮き立っている。望美も下船する人々の中にヒノエを見つけて駆け寄った。  
「お帰り。ヒノエ。数日でも長かったよっ」  
声だけでは足らなくて思わず抱きついてしまう。  
「嬉しいね。そんなに俺がいなくて寂しかったかい?」  
「当たり前じゃない。色々忙しいけど、ヒノエくんのこと心配で心配で、本宮に通っちゃった。まだまだ奥方らしくないね」  
頭に手をやる様もかわいらしい。でも今は再会を喜ぶ余裕はない。  
 
「良かったね、頭領。奥方は必死で着物を縫ってなさるよ。でも衣より指に針を刺す回数が多くてねえ」  
「余計なこと言わないで…心配させちゃうから」  
望美の言葉より早くヒノエが望美の手をとった。確かに指全部に布が巻かれている。  
よほど不器用なのか、こんなに派手な様は珍しい。  
「すまないね。こんなに無理させて」  
ヒノエは望美の指に軽く唇を寄せる。それだけで望美はどきんとした。痛い。  
指先以上に心が痛い。寂しかった心が痛い。  
「おいで、望美。少し静かなとこにいこう」  
ヒノエに言われるまま望美は港を出た。  
 
港は人家も多い。それでも里山に一足入ると人通りは減る。雑木林の中は人里の中にあるとは思えないほど静か。  
竹林の中に入ると二人は地面に座った。春には此処で竹の子を掘った。その場で蒸し焼きにして分けて食べた。  
「此処でみんなで竹の子を食べたね」  
「まだまだ望美に見せたいところが沢山あるよ。又連れて行ってやる。できれば二人きりがいいんだけどな…」  
「たまにこうして二人でいるだけでいいよ」  
にっこり笑う姿だけで欲情した。これ以上はもたない。  
「可愛すぎるよ。お前…」  
まずは可愛らしい唇。次は耳元。次はどこにしようか。ヒノエはしっかり望美の体を抱きこんで脇に倒れこんだ。  
落ち葉の感触が暖かい。床には十分。あらかじめ本宮の連中には連絡してある。少しだけ、二人の時をむさぼろう。  
 
望美の衣を半分脱がせた。中途半端に曝け出された胸に、首筋に襲い掛かる。  
「こんなとこでするのっ…」  
抗議の声はすぐ嬌声に変わる。数日の間、ほっておかれた体はヒノエの愛撫を望んでいた。白い肌に赤い印とともに熱が与えられ、望美の息が荒くなる。  
「ああっ…ヒノエくんっ…」  
「欲しかったよ、望美…港についたときから…触れたかった」  
胸の膨らみを強弱をつけて愛撫するとすぐ先端が硬くとがった。  
 
「ほんと?私がいなくて寂しかった?」  
「寂しいなんてもんじゃない…触れてみろよ」  
上ずった声と共に望美の手が導かれる。普段は触れさせない硬い感触。その動きと熱さに望美が固まる。  
「こんなに望美を欲しがってるだろ?」  
ヒノエはすぐに望美の手を外す。  
「すぐにはしないよ。姫君にむりはさせないから」  
望美への愛撫を再開する。胸は念入りに。  
「あんんっ…そんなに噛んだらだめえ」  
「いつもより反応が早いよ…姫君…そんなに俺が欲しかった?」  
「意地悪…いやああ……」  
 
ヒノエのやり方に慣れたのか、野外でも望美はいやがらない。長い髪が何度もヒノエの顔を叩く。久しぶりの望美自身の香りがヒノエを興奮させる。  
指で秘所に触れると指が入りそうなほど潤っていた。はなびらをなぞり、軽く触れるだけで望美は仰け反る。  
 
「ひああっ……あああ」  
「嬉しいね…ちゃんと俺を覚えてたんだ…こんなに濡れて」  
「おかしくなっちゃう…ヒノエくん…」  
涙目で言われても返ってヒノエを煽るだけ。  
「いやと言わない分、慣れてくれたのかな?姫君」  
「知らないっ…意地悪しないで」  
「姫君の仰せのままに…」  
 
一度に三本の指が望美を抉る。胸は唇と指で動きを早めて望美を追い上げる。  
悲鳴を上げて望美はがくがくと体を振るわせた。震えが止むと胎内からさらに蜜が多く流れ出た。  
手についた蜜を舐めとり、両足を肩にかけると、ヒノエは一気に望美の中に入り込んだ。  
 
「ああん…ああっ…あーっ」  
「のぞみっ…きつ……」  
「もっときてえっ…ひのえっ」  
「その言葉…聞きたかった…のぞみ」  
 
唇を重ねて、背中に手を回して、二人は一気に頂点に駆け上っていく。  
潮風が吹く林の中、そこだけが熱を高めていった。  
やがて動きが止まると、二人はしばらく抱き合って鼓動が静まるのを待った。  
 
「好き…ヒノエくん…うん」  
「のぞみっ…はあっ…のぞみ…」  
軽いキスを繰り返しながら二人は抱き合う。今だけ熊野の頭領と奥方と言う名前を外して、ただの男と女に戻らせて。いいよね?  
 

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