起き上がると目の前は真っ暗だった。思わず隣をみる。自分よりたくましい肩がゆっくりと上下しているのを見て安心して息を吐く。  
 
運命は変えられたんだから。私はこの人と一緒に還ってきた。長い髪を切って彼は私の恋人になった。応龍のおかげで両親公認の婚約者。  
 
何もかも思い通りになったのに。記憶は残る。炎に消えたあなたも、処刑されたあなたも。  
あのときの絶望感と無力感は忘れたいのに。  
 
「また、あの夢を見たのか…」  
九郎さんがおきて、こっちを向いた。琥珀色の眼が優しい。「起こしちゃったの?ごめんなさい」  
くしゃと私の頭を撫でる。  
「いいんだ。俺のせいなんだから。お前は相当無理してくれたんだろ。本当にすまなかったな…気づいてやれなくて」  
「私が自分で決めた運命だから」  
 
胸が痛くなる。伝説の神子と頼り切っていた。神子は源氏のために働いて当たり前。刀を振るい、怨霊を封印していくことがどれほど大変なことか。 
まして、刀をあれほど使えた理由を知ろうともしなかった。  
 
「もっと俺たちのことを怒っても良かったんだぞ。いきなり故郷から知らないところに連れて行って、さあ神子として働けなんて無茶を言ったんだ」  
「初めはそうだった。でも戦ううちに変わったよ。みんなを…九郎さんを助けたかった。そのためなら運命を変えてもいいと思った。だから今は力をもてたことに感謝してる」  
「俺はお前に護られていたんだな…今ならわかる…鈍感で迷惑をかけたな」  
 
抱きしめてキスをして。唇で足りなくなったら、次は頬に。首に。肩に。  
 
「たくさん傷跡がついてるね…九郎さんの腕も、肩も」  
「いちいち覚えてないな。練習のときの傷、徒党を組んで暴れたときの傷、数え上げたらきりがない」  
「私のつけた傷も加えてくれる?」  
「俺の背中に傷をつけられるのはお前だけだ。望美」  
 
長い髪を翻らせてお前が踊る。突き上げるたびに、背中につめを立てて、名前を呼ぶ。  
それだけで煽られて、動きが激しくなる。絶え間ない水音と嬌声。  
 
「九郎さあん…いいよう…もっとっ」  
「望美…もう少し…いけるか?」  
「ああん…そんなにしたらだめえっ」  
 
思い切り深く突いて、揺さぶりをかけると、望美の中がぐうっと狭くなった。  
もうそろそろ限界だろうか。俺も望美も。  
「ひっ…あああ…あーーーっ」  
 
望美の声を合図に眠りの淵に落ちていく。無防備な眠りに。  
 
聞きなれない同じ調子の音。時計を止めると大きく伸びをした。どのくらい剣に触っていないだろう。  
剣を握ろうとした手を見つめて、九郎はふっと笑った。源氏の名に縛られない自分にまだなれない。  
 
側で眠っている望美の髪を撫でる。  
「また町に連れて行ってくれ。望美。もっとお前の生まれた世界のことが知りたいんだ。  
京では俺もお前も弟子だったが、今度はお前が先生で俺が弟子だな。よろしく頼むぞ」  
 

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