恋情ー黒龍×朔(黒龍サイド)  
 
初めはただの音だった。遠くから打ち寄せる波。高く、低く、響いてくる音。  
 
時間も空間もない。私という形もない。  
 
押し寄せる音は、波動は、やがて一つの言葉になった。  
 
いとしい・・愛しい・・あなたが愛しい  
 
一つ一つ言葉が生まれて、感情になり、思いになり、。空間になり、時間の流れが始まる。たくさんの記憶は集まり、再び私という形が生まれた。  
 
この愛らしい声は、ああ、朔、あなたの声だ。私の神子。私が愛した唯一の人。私を最後まで護ろうとしてくれた人。  
 
私は黒龍と呼ばれる存在だった。そして神子に貴女を選んだ。龍の形を失い、人の形をとっても貴女は変わらず私の神子で居てくれた。それ以上だった。  
私に人のはかなさといとおしさを教えてくれた。人ではなかったが、本当にあなたの側に居たいと思った。消滅すると分かっていても抱きたいと思った。  
 
あのようなものをあなたの中に入れるのはかわいそうだと思った。でもそんな想いは一度で消し飛んでしまった。あなたは私が触れると、苦しそうに、身をよじり、泣いたりする。私が手を止めると、あなたは「続けていいのよ。私の体が喜んでるから」と続きをせがんだ。  
初めて一つに溶けたとき、私は人の身の幸せの一部を知った気がした。そして一層朔が好きになった。  
 
この感情は龍の身から、人の身になって初めて得たもの。それが再び私を目覚めさせるとは思わなかった。  
 
あなたの声はますます大きく聴こえてくるよ。朔。ああ、私の対が神子を選び、戻ってきたのがわかる。どんどんその存在が大きくなる。  
白龍の力は進む力。変える力。神子とともに在るべき形に戻ろうとする思いが伝わってくる。  
よかった。朔。あなたは一人ではなくなったのだね。  
 
ああ、清盛の呪縛が私を縛る。龍の身でも人の身でもいい。今すぐこの厳島を飛び出してあなたの元にいきたい。私の神子。あなたが戦っているのに、私はあなたの身を癒すことも庇うこともできないのが悔しい。龍の形を失ったことよりもずっとずっとつらい。  
 
この呪縛が解ければ再生への路を辿らなくてはいけない。そう分かっていても、もう一度あなたに会いたい。私の神子。朔。愛しい人。  
 
「なんだ?完全に封じたはずなのに逆鱗が騒いでいる」  
 
朔・・朔・・逢いたい・・あなたに逢いたい・・朔・・朔・・・  
 
「そうか・・神子たちが来たのだな。探せっ。黒龍の神子だけは生かして連れてくるのだぞ」  
 
この想いだけは消せぬ・・朔・・たとえひと時でも合間見えたい・・朔  
 
 

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