ねえ、オレは言ったよね?
オレは弱くてズルイ奴なんだよ、って。
君はオレに近づいちゃいけなかった。
君はあまりに綺麗で、眩しくて……
オレは、羽虫のようにふらふらと引き寄せられてしまう。
近付いて、焦がされて、触れられないのに欲しくて、ほしくて。
オレはズルくて汚いから、諦めるなんてできなかった。
どんな形でも、君が欲しくて。
だから、君はオレなんかに近づいちゃいけなかったのに……
とても簡単なことだよ?
幻影の君をさまよわせ、その隙に君をかどわかす。
後は幻影を海にでも飛び込ませればいい。
それだけで君という存在は、いないものになってしまう。
いないはずの君を閉じ込めて、オレだけのものにするのはもっと簡単だ。
結界を張った小さな社を幻影で隠して、その中に繋いでしまえばどうだい?
君は結界を越えられず、声も届かない。
いないはずの君を助けにくる者なんていない。
社が見えることもないから、偶然近付く者すらいない。
君はオレだけのものになるんだ。
なんて素敵なんだろう?
大丈夫、大切にするよ。オレは痛いのは嫌いだから。
大切に、大切に……
オレの、オレだけの、愛しい……
籠の鳥。
「何の冗談ですか……景時さん」
気の強い瞳。そんなところもいいね。
水晶をスミレで染めたみたいな澄んだ瞳がまっすぐにオレを見る。
射抜かれそうで、たまらない。
「冗談だと思うのかい?」
「冗談としか、思えません」
きっぱり言い切る君だけど、瞳は唇より正直で雄弁だね、ちょっと視線が揺らいでる。
思えない、じゃなくて思いたくない、だろう?
「オレってそんなに無害な奴に見えるのかい? だとすると嬉しいけど……買い被りだね」
意識して、困ったような笑顔を作る。
わかりやすく震えた君の身体に手を伸ばすと、身をよじって避けられた。
ダメだよ、そんなに頑張ったって無駄だ。
後ろ手に拘束され、立ち上がることもままならないのに逃げられると思うかい?
一歩間合いを詰めて、襟首を掴んで引き寄せる。
強引なその手に、脅えたように身を竦めた、そんな表情は初めてだね。
「怖がらなくても平気だよ、望美ちゃん。何も痛いことする訳じゃないから」
ニッコリ笑って言いながら、陣羽織の前紐を解く。
「や、景時さんっ……」
逃れようと身じろいでも、そんなの抵抗のうちにも入らない。
細い帯紐もしゅるりと引き抜くと、緩んだ袷から胸の谷間が覗く。
「可愛いよ、望美ちゃん……大丈夫」
ゆっくりと、板張りの床に押し倒す。
暗い色の上にふわりと広がった、君の菖蒲色の長い髪。
「綺麗だ……すごく綺麗だよ、望美ちゃん。大丈夫だから……じっとしていて」
額に、目尻に、頬に、口づけを降らせながら着物の袷を大きく開く。
「や! やめてっ……景時さん!」
身体を捻って逃れようとするけれど、腿辺りに跨がったオレをはねのけるなんて無理。
白いスカートがひらひらと舞って、むしろ誘っているみたいだ。
「やめないよ……だからじっとして。痛いのは嫌いなんだ、オレ」
視線を合わせて言うと、君の表情は辛そうに歪んだ。
おかしいよ……景時さん、こんなのダメだよ……
小さく呟いた君だけど、それは違う。
オレはもともとこんなことが出来る奴だったから、
オレに近づいちゃいけないって言ったんだし、こうすることはダメじゃないよ。
オレが、君を失わないには、これしかなかった。
君を殺すって命令に反することは出来なかったし、君に惹かれてたのはオレだけじゃない。
死なせずに、君をオレの、オレだけのものにしたかった。
そのためには、オレにはこれしか思い付かなかったんだ。
だけど、それは言わない。
欲しいのは同情でも、引け目を感じるが故の諦めでもないから。
オレはただ君が愛しくて愛しくて、こうしてしまったんだと思われていたほうがいい。
「望美ちゃん……」
深く、ゆっくりとくちづける。戸惑う唇の隙間から舌を差し込んで、搦め捕る。
歯列の裏側をなぞり、上あごをくすぐって、きつく吸い上げて……
ああ、君は優しいね。君が逃れる唯一の手段はここにしかないのに。
オレの命を楔として施した呪法が、この社を隠してる。
手を封じられた君が逃れようと思うなら、オレの舌を噛むしかないんだ。
さらわれて、縛られて、今まさに犯されようとしていても殺すまでの抵抗は出来ない、優しい君。
オレは君の優しさに付け込んで君を奪う。
くちづけたまま、掌を胸に触れさせる。
手の平にすっぽり収まる可愛い乳房、その頂きは柔らかく撫で、弄ぶうちに固く立ち上がり始める。
くちづけを離し、それに吸い付くと涙声がもれた。
「っや……景時さ……やめ、んっ」
浮かんだ涙を、君自身の声と身体が裏切る。
甘くとけた声、存在を主張する乳首は君が快感を得てしまった何よりの証拠。
まだ触れていない側の胸まで、触れられるのを待つようにぴんと張り詰めて震えている。
口に含んだそれを転がすのと同時に、
反対側も親指の腹で押し潰すようにすると、背筋が弓なりに反って、小さな悲鳴。
だけどその声は甘くて……
「可愛い……可愛いよ、望美ちゃん……」
囁いて、指を下に伸ばした。
短いスカートの中には隠微な熱が篭り、ぴたりと閉じられた腿が侵入を拒む。
だけど、跨がった腿から降りながら膝を持ち上げると、
たやすく上がった膝を割るのは児戯にも等しい。
「いや、やめて……」
開いた膝の間に身を置いて、
まさに触れようとしたオレに君はつぶやくけれど、ひとつ覚えておいた方がいいね。
甘い涙声は、制止よりも煽る方に働いてしまうってことを。
下着の薄い生地はすでに湧き出した蜜でしっとりと濡れて、
内側を微かに透けさせてしまっていた。
ほとんど役には立たなくなっているそれをゆっくりとずり下ろし、膝裏を押し上げて引き抜く。
「……や……もう、こんな……」
ぽろりと零れた君の涙が菖蒲色の髪に染みる。
だけどダメ、もうここまで来たら止まらないよ?
泉の入り口を指でなぞると、か細くも確かに甘い声が漏れる。
初めてじゃないね? それは妬ましいけど……今、痛みを感じさせずにすむのは良かった。
もうぬるぬるの入り口に中指を沈ませると、息を呑んだ君の熱い内壁にぎゅっと絞られる。
ゆっくりと掻き混ぜて、人差し指も添えて突き入れると甘い溜め息。
「望美ちゃん……気持ちいい?」
「かげ、ときさん……も、や……」
涙を浮かべた君の言葉の真意は止めて欲しい、だったのだろうけど、
オレはわざと続きをねだる台詞と曲解する。
「いいよ、オレも……君が欲しい」
覆いかぶさって囁くと、全身がびくりと強張った。
だけど納めたままの指をぐるりと回し、
芯芽に添えた親指でそれを押し潰すと喘ぎとともに力が抜ける。
その隙を逃さず、指を引き抜くと入れ違いに侵入する。
「っ、あぁ……!」
高く抜ける嬌声。
それに比べれば細い指にさえ絡み付いた内壁はねっとりと絡み、オレは息を呑んだ。
ただこうしているだけでも、達してしまいそうになる。
「すごいよ、望美ちゃん……」
囁く声が上ずる。そのままたまらずに突き上げた。
「っあ! あ!」
望美ちゃんも敏感に反応をくれる。
たまらない。
縛った腕が下にあるせいで、
突き出す姿勢になっている乳房に吸い付きながら、さらに突き上げた。
「ぁ、や、だめ、だめッ……ぁあ、あ!」
振り乱す君の髪が床でぱさぱさと音を立てる。
きつく、きつく絞り上げられるオレの限界も近付く。
「望美ちゃん……一緒に、ね……」
「っふ、あ、あ、や、やっ……ぁあっ!」
最奥の壁を突き上げると達した君に絞り取られるように、一番奥で弾けた。
どくどくと溢れる間、きつく君を抱きしめる。
好きだよ、オレは、君が好きだ。
誰にも渡さない、見せるのすら嫌なんだ。
愛しくてたまらない。
だから、だからずっと……
このまま、オレだけの君でいて。
オレの、愛しい……
籠の、鳥。